第193話 魔ノ爆弾
長明が洗脳したアレクサは、数年前からアジャンレ村に息を潜めていたのだった。
ルティーナ達は、フラザンを通じてロザリナが誘拐された経緯を知った。
「アレクサさん……モルデリドから亡命してきたんですぅ」
「国に残してきたぁ家族のことを見てほしいってぇ相談されていたんですぅ」
「そうなんだ……でも、まさか……ナガアキと」
(おそらく、亡命する前にナガアキの洗脳魔法を仕掛けられてたのかもな)
「つまり、あたい達がこの村に来たことを知って? ナガアキに情報を送りやがったのか?」
「だから、ルナを引きはがす為にブルデーノで暴動を起こさせたってか?」
馬琴はサーミャの予想に眉をひそめる。
(――それはないな)
「マコトが、それだと時系列が合わないって」
「どういうことだ?」
馬琴は、ブルデーノの暴動で暗躍していたギレイラが、モルデリド王の指示で動いていたことをシャルレシカの記憶で見ていた。
しかし、その途中でギレイラに加担していた男は、長明からの使者であった。
その時には既に、ロザリナが誘拐されていた。
「じゃぁ、偶然ってか?」
「たぶん」
「だけど、ナガアキはブルデーノで暴動が起こることを知っていた……」
(まさか、モルデリド王を……)
「くそっ、悩んでもしかたねぇ」
「リーナの居場所を探す方法があるなら、それに賭けるさ」
「うん、今は村の救援と復旧が優先だね」
すると、サーミャは提案する。
「人手が欲しいな……そうだ、『碧き閃光』の皆を連れてくるのはどうだ?」
「手伝ってくれるかな?」
「あぁ、ルナと一緒に一回ノモナーガの拠点に戻っただろ?」
「そっか、そこでシェシカさんに充電を頼んだんだよね?」
サーミャは、その時に拠点へ戻っていた『碧き閃光』の皆が、ブルデーノの状況を聞いて集まっていたことを話す。
「じゃぁ、今、私達の拠点に皆いるんだ」
「それじゃお願いするわ」
サーミャは頷き、支援の準備を整えて夕方に戻ってくると、エリアルの元へ転移して行った。
残されたルティーナは、バルストの様子を見るために孤児院へ戻ろうとした。
――その時。
「ルナぁ」
「ん?」
シャルレシカは、森の入口で見つけた物体の件でルティーナに相談をする。
「何それ!?」
「着いてきてくださいぃ~」
そしてシャルレシカに案内されるまま、ルティーナはその場所へ連れて行かれるのであった。
「――これですぅ」
「これって……?」
ルティーナも初めて見る、長細く黒い物体。
しかし、馬琴はなんとなく思い当たる。
(ミサイル? まさかな……)
「(みさいる? また、わけわからない!)」
「(これって、マコトの世界にある物なの?)」
(いや、実物なんて見たこともないさ)
(雰囲気が似ているというか……)
ルティーナは馬琴のあやふやな回答にイライラしていた。
ただ、危険か危険でないか、はっきりしてほしかった。
(もしそうなら、衝撃を与えるとこの付近が跡形もなくなる――)
「(!)」
呆然とするルティーナにシャルレシカが顔をのぞき込む。
「ルナぁ? マコマコと何を話しているんですかぁ?」
しかしルティーナは微動だにしない。
(だが爆弾は衝撃を与えるとか、起爆させる要因がなければ――爆発することは……)
「(じゃぁ、なぜ放置されてるの?)」
「(魔物達も居なくなったし、衝撃を与えるなんて無理じゃ……)」
(まさか時限爆弾! ルナっ、耳を当ててみてくれっ)
「(えっ、嫌よっ)」
二人が揉めている間、シャルレシカは既に爆弾に手を触れ、何かを読み取ろうとしていた。
その姿に気づいたルティーナは慌てる。
「待って、シャルっ!」
「任せてくださいっ――」
相手にしてもらえなかったシャルレシカは、早速身につけた鑑定魔法を披露する。
鑑定魔法は、自分が見たことや持っている知識をもとに、対象物を判別することができるのだった。
「こ……これはぁ、イスガ王国で封印したカクヘイキの小型版のようですぅ」
「! それって……」
(核ミサイルなのか……もし、爆発したら、ここ一帯だけじゃすまない……)
「(そんなに凄い威力なの?)」
(――それだけじゃない、汚染されたら住めなくなるぞ!)
「(!)」
「そ、それよりシャル、何でこれが解るの?」
「ふふふ、私の開花した新しい能力ですよぉ」
「続いてぇ――」
シャルレシカはいつものように爆弾に手を触れ、情報を探る。
そして、水晶にはここへ置かれた経緯が写し出される。
「夜中のうちに――この村を襲撃する前? 魔物が運んできたのね……」
「あ、誰か近づいて――」
「アレクサですぅ!」
「爆弾の中にぃ、何か石みたいなものを入れて蓋をしましたよぉ?」
「――さっきの石、どっかで見たことが……」
(そうだ! 武闘会でルナが戦った罠師が……)
「うん、『シャインボム・ストーン』だよね!」
『シャインボム・ストーン』――太陽光を十秒ほど吸収すると自然に爆発する石。
(その蓋を開けると、石が太陽光を吸収して起爆するんだ!)
「(そっか――これを見つけた人が、興味本位で蓋を開けちゃったら……)」
(開けるなよ! まだ日が落ちてない……)
長明は、ロザリナを誘拐した後、爆弾で村ごと消滅させようとしていた。
魔物とアレクサに爆弾を設置させたが、彼らに起動させるとロザリナを巻き込む可能性があった。
(たぶん、リーナを誘拐して時間が経ってから、村を消そうとしやがったんだ)
「(ねぇ、この爆弾は間違いなくイスガの技術だよね?)」
(あぁ……ナガアキは、どこでこんなものを)
馬琴の指示をルティーナからシャルレシカへ伝え、他に爆弾が無いかを探させようとした。
「ごめんさいぃ~、無機物は魔力がないからぁ探せないんですぅ」
「そ、そうだった……」
(さすがに今日のシャルの変貌っぷりには感心していたが、そこは今まで通りか……)
「(じゃぁ、薬草探しに使った手を使う?)」
(いや、あれは駄目だ……自分の手が触れる範囲しか探せない)
「(どうするの?)」
(魔力を探るか――そうだ!)
馬琴は気づく。
爆弾にアレクサが『シャインボム・ストーン』を入れていたことを。
「この爆弾にアレクサの魔力は残ってない?」
「んー」
シャルレシカは少し、頭を傾ける。
「アレクサの魔力かわかりませんがぁ、確かに残留魔力がありますぅ」
「なら、それを辿って!」
シャルレシカは小さくうなづき、目を閉じ沈黙する。
そして、そのまま一時間近く動かなかった。
「(……結構、大変そうだね)」
(さすがに、無理を言ってしまったか)
「――見つけましたよぉ!」
突然、シャルレシカは目を見開き、他に二か所、同じものがあるのも探り当てる。
「二か所……全部で三つね」
(よし、案内してもらおう)
(その前に……)
ルティーナは、爆弾の小窓を開き中から『シャインボム・ストーン』を全て抜き取る。
そして、太陽光を吸収しきる前に、遠くへ放り投げた。
――ドゴーンッ!
すると『シャインボム・ストーン』が爆発を起こす。
「よかった、これで安全ね」
(いや、大きな衝撃でも爆発する可能性はあるし、このまま放置もできない)
(今は、自動的に起爆する要因を取り除いただけだからな)
「(じゃあ、どうするのよ?)」
(任せろ)
ルティーナは馬琴の指示通り、爆弾に手を触れる。
【軟】
【軽】
【微】
三つの漢字を順番に描き、爆弾を包み込んだ。
「これって、柔らかくなった石コロみたいになったわね」
「ルナぁ、これで大丈夫なんですかぁ?」
「う~ん、マコト的には、これ以上の対処がひらめかないんだってさ」
「ここに置いておく訳にはいかないし……あまりしたくないんだけど」
「私が荷物として持ち歩くことにするわ」
「何かの役に立つかもしれないし」
そしてシャルレシカが索敵した残り二つの爆弾についても、同じような対処を行った。
「ふぅ、これでこの村が消滅する危険はないわね」
ルティーナは胸を撫でおろす。
しかし、孤児院へ戻ろうと振り返った時、何か草むらに不自然なものを見つける。
「足? ……誰か、倒れてるの?」
ルティーナは確認しようと近づく。
「ぐ、グラデスさん……」
そこには無残にも、グラデスの遺体が放置されていた。




