第192話 策ト裏切
ロザリナが長明に再び誘拐された。
ルティーナ達は、大急ぎでアジャンレ村に戻るが、そこには平穏だった村の面影は一切残っていなかった。
シャルレシカは必死に、怪我人を索敵で探す。
「向こうの木々の向こうに――二人……」
「セフルちゃん、頼めるか?」
「うん」
その間に、他の場所へ避難していた子供達も集まる。
「お姉ちゃん、俺達も手伝うぜ」
そしてシャルレシカは次々に怪我人を探し、子供達に薬草を持たせ治療に向かわせる。
「シャル、あたいらも行くよ」
「は~い」
しばらくして、元気をなくしたルティーナとアンナも合流する。
ルティーナの目は酷く腫れていた。
その姿を見たサーミャは、何も声をかけられなかった。
「サーミャさん、怪我人は他に居ますか?」
「シャルと子供達のおかげで、なんとかなりそうです」
「――それより……バルストさんは大丈夫なのか?」
「はい、今、ぐっすり眠ってます」
「この杖のおかげで……すごい魔道具ですね」
「でも、少しだけ再生魔法が使えた気分になりました」
「……?」
「まぁ、役立ってよかったぜ」
そしてアンナは村人を見て回ると、その場を離れる。
残されたルティーナは無理に笑顔を作ろうと必死だった。
「なぁルナ、本当に大丈夫か?」
「……ご、ごめん。結構、きついかも」
「辛い所すまない」
「リーナの事だが――」
サーミャは、セフルから聞いたロザリナの事をルティーナに話す。
「そうなんだ……子供達を守ったんだね」
「一人にしなければ……こんなことに――」
ルティーナは泣き崩れる。
サーミャとシャルレシカは必死に、ルティーナのせいではないと声をかけるのであった。
――話は、ルティーナ達がエリアルからブルディーノ王国で起きた暴動の話を知らされた時に遡る。
「同盟を結んじゃったからウェンディさんは巻き込まれて――」
「そっか、だからシャルを連れて帰ってこれないってことか?」
「なら早速、『サモン・オーバーコール――対人召喚――』で連れ戻そうぜ」
早速、サーミャは詠唱でシャルレシカをこの場に召喚しようとした。
しかし――何も起こらなかった。
「ミヤ……これって」
「あぁ、『ヒーリング・ストーン』の魔力は残ったままだ……」
(まさか、『マジックシール・ストーン』の効果下にシャル達は居るのか?)
「だから、おばさんは転移できねえって事か?」
「もしそうなら、ただのデモじゃなさそうね」
そして馬琴は作戦を考える。
「(その作戦でいいんじゃない?)」
「(グラデスさんを連れてきたのに放置できないし……さすがに、この村ならリーナを一人残しても大丈夫だよね)」
そしてルティーナから作戦が伝えられる。
「リーナごめんっ、ここでお父さんたちとグラデスさんの護衛をしていてくれない?」
「いいけど、ミヤはブルディーノ王国の人と面識がないでしょ?」
「まぁおばさんの顔は十年前からかわってなきゃ、飛べなくもねぇがな」
「どっちにしても魔法が妨害されてるなら……意味がねぇ」
だが馬琴は、今の現状で最短でブルデーノへ向かう方法があった。
「とりあえずミヤは私を連れて、拠点に転移してもらえる?」
「ノモナーガに戻ってどうすんだ? ここよりは近いが……」
作戦には続きがあった。
「サーミャはそのままエリアルと残ってて」
「私は、一人で飛翔してブルデーノへ移動するわ」
「いいけどさ、あっちに戻ったら、念のためシェシカのところで石を充電してもらっとくぜ」
「それがいいわ」
「あと、通信用の小鳥を連れて行くわ」
「?」
飛翔してブルデーノ城付近に近づいた時、サーミャとの通話が途絶する場所を探すために――。
「そっか、通話ができなくなれば『マジック・シールストーン』が近くにあることが分かるってことね」
「今回の魔法阻害はおそらく城全体を包み込んでる」
「状況からすれば城の内部からはあり得ない――」
「そうだよね、城の中からならすぐに破壊できるもんね」
馬琴は、現地で魔法阻害にあっているウェンディと同じく、四方に大きな『マジック・シールストーン』が配置されていると睨んでいた。
「――だから、城の周りに配置されていて、さらに埋められていないと思うの」
「そっか、大きいと隠すほうが大変だもんね」
馬琴は、『マジック・シールストーン』はむき出しで配置され、誰かが守っている可能性があると考えていた。
「つまり、途絶する場所さえわかれば、見つけやすく破壊しやすいはずよ」
そしてルティーナはサーミャに連れられ、エリアルの元へ転移することになる。
「――ルナ、ちょっとだけいい?」
「例の件でだけど――」
ロザリナは腰の鞄に手を当てる。
「……気にしすぎかな」
少しだけ視線を逸らしたロザリナは、ぽつりと呟いた。
「……でも万が一の時は、よろしくねルナ」
「縁起でもない事を言わないでよ」
「……私達はさっきまでノモナーガに居たんだからバレてないわよ」
ロザリナは不安げに少し目を逸らす。
「そうだよね」
「早く帰って来てね」
「うん」
「例の作戦には穴もあるんだから、過信しないでよね」
「ぱっぱと終わらせて、みんなでナガアキの謎を暴きましょ!」
そしてルティーナ達が転移して数時間後……異変が起こる。
――魔物の襲撃が始まったのだ。
村の入口に異変を感じたヘルセラは、バルストにその事を伝える。
それを聞いたバルストは孤児院の外へ飛び出し、ロザリナも後を追う。
最初は、バルストとロザリナの活躍で大半の魔物を簡単に撃退していた。
しかし、子供達とグラデスを避難させているアンナに、魔物達の目が向いていることにロザリナは気付く。
「バルストさん、ここはお任せしていいですか?」
「あぁ、アンナ達を頼む」
しかし奮闘も虚しく、ロザリナは魔物達に連れ去られてしまったのだ。
幸か不幸か?
それを機に、魔物達は村の襲撃をやめ撤退していったのであった――。
(ルナ、君のせいじゃない)
(俺の判断が甘かったんだ……すまない)
「(ううん、マコトのせいじゃないわよ)」
「る、ルナ」
泣き崩れているルティーナの周りに孤児院の子供達が集まり、心配そうな顔で覗き込む。
「みんな……」
「ルナ、お姉ちゃん……元気だしてよ」
「大丈夫だよ」
「ごめんね、みんなを危険な目に遭わせて」
するとフラザンが重要な事を言い出す。
「ルナお姉ちゃん……アレクサがっ、あいつが裏切ったんだ!」
「アレクサぁ? ってあのアレクサさんがぁ?」
「シャル、アレクサ……?って誰――」
シャルレシカは、行方不明だったサーミャを捜索していた時の話をする。
「――その人、モルデリド王国の亡命者だったの?」
「そういえばシャル、行ったこともないのに地理に詳しかったもんね」
「はぃ」
そして、フラザンは自分の目で見た出来事を話す。
ロザリナから物陰に隠れているように指示され、闘いを見守っていた。
その時、魔物に襲われそうになっているアレクサを助けようとして近づく。
だが、彼に粉みたいなものを浴びせられて、ロザリナは地面に倒れ込んでしまった。
そして彼は、そのままロザリナを縛り上げ、魔物達と一緒に去って行ったと。
(また……モルデリド関係者か)
(ナガアキはモルデリドと繋がっているのか?)
「(……だから、リーナが一人になったことを知ってたのね)」
(それなら、グラデスさんも……)
「ルナぁ、アレクサの顔はわかりますからぁ、追跡しますよぉ」
「そうか、今のシャルなら千里眼で――いや、駄目」
「「?」」
「探っていることを知られると……リーナの努力が無駄になっちゃう」
「リーナの努力?」
サーミャは意味がわからなかった。
「リーナが睡眠薬ごときで眠らされるわけがないじゃん」
「――!」
ルティーナはロザリナと、万が一に再び誘拐された時の話をしていた。
――次の満月までは儀式が出来ないことは分かっていた。
つまり、それまでロザリナの身に危険はないと。
「! リーナのやつ、村を守るためもあっただろうが……無茶しやがる」
「でも、時間が経ちすぎたわ……」
「だけどよぉ、アレクサがアジトに到着するまで、泳がすのか?」
馬琴は長明が、アレクサに転移して追跡することは理解していると警戒していた。
「とにかく、次の満月までにナガアキのアジトを強襲するわよ!」




