第191話 村ノ惨劇
謎の男から注射された薬でデルグーイ――鷹の魔物――と化したギレイラ。
ルティーナは飛翔しているものの武器は無く、小さくしたシャルレシカを懐に入れているため思い切った動きが出来ず、攻撃をかわすのが精一杯であった。
「死ね死ね死ねぇ~っ」
「きゃーっ」
馬琴は思考を必死に巡らせていたが、気づけばルティーナが回避不可能な状況に追い込まれる。
――ブォーーンッ!
ルティーナの目の前に黒い空間が発生し、ギレイラは空中で立ち止まる。
「なっ! なんだこの攻撃は――」
(助かった……)
すると、空間から飛び出したサーミャの足が、偶然ギレイラを蹴り飛ばした。
「ギャースッ!」
ギレイラは不意打ちをくらい、地面すれすれまで落下する。
しかしサーミャも、何が起こったのか理解できないまま落下を始める。
「何っ! なんで、あたいが落下してんだ~」
「ルナっ、空飛んでたのかよっ」
ルティーナは、すかさず落下を始めたサーミャに触れ、【軽】を描いてその体を包み込み、空中で捕まえた。
そして、安全な場所へ着陸するのであった。
「ミヤ? なんでここにっ!」
(転移魔法は飛んでる時は使わせないようにしないとな)
サーミャは、ルティーナに状況を確認しようと、ウェンディに渡されていた小鳥を使って通話していた。
「なんで、おばさんが出るんだよ! ってびっくりしたのはこっちだぜ」
サーミャはウェンディから事情を聞き、例の魔法を試したくて転移魔法で参戦してきたのであった。
「本当に助かったわ……」
「早速で申し訳ないんだけど、あのデルグーイを確保できる?」
空には、二人を睨みつけ見下ろすギレイラが羽ばたいていた。
「確保でいいんだな?」
「うん、私とシャルはもう一人の男を捕まえるからっ」
そして、サーミャはギレイラに向かって雄たけびを上げる。
「さぁ、鳥野郎っ! かかってきな」
「あぁぁん? 突然、空から降ってきやがって!」
「今度は油断しねぇぜ」
「あらそ――油断しなくてもいいわよ」
「?」
ギレイラは地上のサーミャに襲いかかろうとする。
「十秒間……大人しくしてなっ」
サーミャは『エクソシズム・ケーン』を使って『クロノ・モラトリス――時間停止――』を詠唱することで、ギレイラの動きは完全に止まり、そのまま落下し地面に叩きつけられる。
そしてギレイラは、動かずに転がる――。
「あはは、一対一ならこの魔法は最強だな」
その様子を見つめる、謎の男。
「――あ、あのバカ何を遊んでやがる!」
しかし、ルティーナは姿を消した状態で近づいていた。
「あら? 他人の事を気にしている暇があるの?」
「な、どこだ! ――いつの間に」
ルティーナは姿を消したまま、言葉で男を牽制する。
「こ、こうなったら俺も――」
男は注射器を取り出し、自分の首元へ刺そうとする。
「させないわ!」
ルティーナは地面に【凍】を描き広げ、男の足元を氷漬けにした。
「何っ!」
さらに手のひらに【凍】を描き、注射器をもつ手首を叩き転写する。
そして、腕を凍らせるのであった。
「くそっ! なんだこりゃっ」
ルティーナは透明化を解除し、姿をあらわにする。
「さてさて――」
ルティーナは、男がまとっていたローブを剥がす。
すると、こめかみにある痣に気付く、
「ナガアキの部下……なの?」
「ルナぁ、男の記憶を探りますかぁ?」
「駄目よ! また、ナガアキに爆発させられるわ」
その男は、ルティーナ達の会話に動揺する。
「爆発だと? 何を――――ぐっ」
その男の目が突然、白目になり、口が不自然に動き喋り始める。
「そう、やすやすと情報はくれてやらんぞ」
(口の動きと台詞があってない!?)
(しかも、この声……)
急に男の声が老人の声に変わり、喋り始めた。
(まさか、この声――ナガアキっ)
「初めましてルナリカ、私は長明……散々、邪魔をしてくれたな」
「邪魔されるような事してるんじゃないわよ!」
長明は、ルティーナに問いかける。
「ふふふ」
「ところで、春斗は元気かな?」
(ハルト? まさか、他の勇者の名前?)
(なぜルナに聞く? それとも俺に聞いているのか?)
「だ、誰よ、そいつ!」
「まぁいい挨拶代わりだ」
「よろしく伝えておいてくれ……」
そして、長明から衝撃の言葉を聞かされる。
「そうそう、ロザリナを一人にしてくれて感謝するよ」
「まさか――」
――ドゴーンッ!
返事を返す間もなく、男はいきなり粉微塵に消し飛ぶのであった。
「粉々じゃぁ、いくらシャルでも……探れないわ」
(ナガアキの言葉を鵜呑みにもできないが、確認するしかないな)
(誘拐したと揺さぶりをかけて、リーナの居場所に案内させる気かもしれない)
「……でも、ミヤの転移にはついてこれないわよ」
ロザリナの身を案じながら、ルティーナ達はサーミャの元へ向かう。
「ミヤっ――」
「ルナ、拘束したぜ! どうすんだコイツ? ――」
「それよりリーナが! ナガアキにしてやられたかもしれないの」
「なんだって!」
「くそっ、『ヒーリング・ストーン』が……」
サーミャは転移と時間停止で、光魔法を二回使い切ってしまっていた。
「こいつを小さくして運ぶしかないわね」
ルティーナはギレイラを漢字の力で小さく、軽くし、ブルデーノ城へ運ぶ。
その後、ウェンディに合流し、『ヒーリング・ストーン』の充電をしてもらうことにした。
その間に、拘束したギレイラに痣が無いことを確認したうえで、シャルレシカはモルデリド王国の事情を読み取る。
「――以上です。ウェンディ様」
「そんな……でも、ありがとシャルレシカちゃん」
「これは、とても有力な情報だわ」
そしてウェンディは、ルティーナ達にこれまで見せたことのない笑顔でサーミャに詰め寄る。
「そうそうサーミャちゃん、十年も会わないうちに、めちゃくちゃ綺麗になったじゃない」
「あ……お久しぶりです」
サーミャのいつもの堂々とした態度ではなく、何故か緊張していた。
「今日は急ぎみたいだから引き留めはしないけどぉ~、今度ゆっくりお話ししましょうね」
「……あははは」
「で、充電は出来ましたか?」
「もちろん、お母さんの愛情で充電はバッチリよ!」
「お、お母さん?」
「(ルナ、何言ってんだこの人)」
「(あはは)」
「で、では私たちは、時間がありませんので」
「このまま失礼させていただきます」
「あとは任せて!」
「ロザリナちゃんを必ず助けるのよ!」
そしてサーミャは、バルストを目印に『ディメンジョン・テレポート――転移――』を発動するのであった。
だが、その転移先でルティーナが目にしたのは、血まみれで倒れているバルストを介護するアンナの姿であった。
「――お、お父さんっ!」
「あぁ……ルティ――」
「あなたっ、喋らないでっ」
「お、お父さんっ! 嫌ぁぁ~っ!」
バルストの姿に取り乱すルティーナ。
アンナは治療に集中していたが、サーミャは『エクソシズム・ケーン』を差し出す。
「それとアンナさんっ、この杖使ってくれ! これを使えば効果が五倍になるっ」
「本当に……助かるわ」
「ルナ……あたいはシャルと外の様子を見てくっから、バルストさんについててやれっ」
「う、うんっ……ごめん」
サーミャとシャルレシカは孤児院の外へ出る。
扉の向こう側――村の変わりように呆然とするのであった。
「な、なんなんだっこりゃ! 村がめちゃくちゃじゃねぇかっ!」
「誰かぁ居ねぇのかっ」
「ミヤぁ~、あっちのほうにも微かにぃ反応――ん?」
「うわ~んっ、シャルお姉ちゃんっ、ミヤお姉ちゃんっ」
そこへ村の孤児院の少女セフルが駆け寄って来る。
彼女は、ロザリナが孤児院の子ども達を1人で守ってくれたと伝え、途中で言葉を失い泣き崩れる。
「セフル、あたいらが来たからもう大丈夫だからな」
「(リーナを一人にしたことが仇になるなんて……)」
「ミヤぁ~、あれを見てください~っ」
「どうしたシャルっ」
「なんだと思いますぅ?」
シャルレシカは黒く長細い塊を森の入口で見つけ、確認に触れようとしていた。
しかし、サーミャは馬琴の判断を聞いてからだと制止する。
「それは後だ! 今、やるべきことは――」
サーミャは村人の安否が先だと、弱っている人がいる場所をシャルレシカに索敵させることにした。




