第190話 謎ノ増援
ウェンディは反乱の首謀者と思われる、同郷の男ギレイラに訴えかける。
「聞こえてますよね? ギレイラっ」
「これは、叔父上の指示ですか!」
ギレイラはウェンディの『モルディナとの不可侵条約に抵触する』との言葉に一瞬躊躇していた。
「ちっ!」
「何かヤバい事になってませんか? ギレイ――」
ギレイラは声をかけてきた仲間にキレ始める。
「うるせぇ! お前らは俺から雇われてんだっ!」
「雇い主にさからったら報酬はねぇぞ」
「わかりましたよ……どうされるのですか?」
「あいつは最強の魔法使いだが……今はただの女だ!」
「城を制圧するふりをしながら、気を逸らせて弓矢で狙撃でもなんでもやれっ!」
「そうだ、あの女を始末したら報酬は倍にしてやるっ」
「(万が一、俺が拘束されでもされたら…………)」
そしてギレイラは、そんな可能性から意識を背ける為に手を打つ。
石橋が破壊された時、城門側に取り残された近衛兵は人質にされていた。
「こいつらをデモ隊の前に突き出させ――」
「なるほど……」
そして、ギレイラは『一時間以内に石橋の代わりになる予備の橋を城から城門に立てかけろ』と要求した。
「――さもないと、この三人の命はないぜ」
正体がバレたギレイラは開き直り、ローブを脱ぎ捨て表舞台に立つ。
その卑劣な条件への対応に悩むフェリクス達であった。
結局一時間……何も対策を練ることもできずに――。
ハウルセン王の指示により、やむなく橋を立てかけることを決断する。
橋がかかるやいなや、デモ隊は一気に城へ駆けこもうとする。
「くそっ! もう橋を渡って……」
「う、ウェンディ殿は逃げてくださいっ!」
「駄目です!」
「私ならこの状態でも、相手に触れれば雷魔法で気絶させるぐらいでき――」
「てめぇの対策は聞いているぞ」
「触れなきゃいいんだろ? アマっ」
「!――」
そこには民間人に紛れギレイラの雇った盗賊が刃物を突き立てながら、ウェンディに襲いかかってきたのだ。
「ウェンディ殿ーっ!」
「くっ」
触れなければ攻撃ができないウェンディは、助からないと覚悟を決めた。
その瞬間――。
聞き覚えのある声が、城から響きわたる。
『――――魔法を撃ってぇ』
それを聞いたウェンディは襲い掛かってくる男に対して、速射できる『ライトニング・ニードル――雷針――』を撃ち込み迎撃する。
「つ、使えた? 魔法が使えるわ!」
「ならっ――」
デモ隊の行き先を塞ぐかのように『ロック・ウォール――岩壁――』を展開し城への侵入を妨害する。
続けて、橋の向こう側に居る人質達を包み込むように、岩壁で隔離する。
「た、助かった……」
「あの声がしなかったら――今頃」
「ウェンディさん~っ、もう暴れても大丈夫ですよぉ」
「シャルレシカちゃんっ!」
「意識が戻ったのね……よかった!」
ウェンディはシャルレシカの無事が確認でき、一安心する。
「でも……なんで魔法が?」
「ルナがぁ、ルナがぁ来てくれましたぁ~」
「――?」
ウェンディはシャルレシカの言っている意味がわからなかった。
「転移魔法で来れないのにどうやって? あの石を」
そんな中、上空からルティーナがウェンディのもとへ急降下してくる。
「ウェンディ様っご無事ですか?」
「城の周りの『マジックシール・ストーン』は全て破壊しましたっ!」
「えええぇ~っ、と、とと、飛んでるぅぅ~」
「ルナぁ~」
「シャルっ! 無事でよかったわ」
「早速ですがウェンディ様、状況を――」
ルティーナはウェンディに確認し、まずは近衛兵以外で暴れている民間人を黙らせることにする。
一方、フェリクス達は場内に侵入した一部の民間人を取り押さえに向う。
「(マコト、どうするの?)」
「(こんな乱闘状態の中でどうやって鎮圧するつもり?)」
そうだな、飛翔時間と移動を考えて、軽武装で来てしまったからな……)
(だが、この混乱は利用できる――)
「(?)」
ルティーナは飛翔しながら自分の胸に手を当てる。
【透】
体を包みこむ大きさまで描き姿を消し、兵士とデモ隊で混戦している中へ飛び込んだ。
(ルナ、兵士以外の頭に手を触れるだけでいい)
「(それでいいの?)」
ルティーナは上空から民間人の頭を狙い、手のひらに【眠】を描いて転写し、次々と繰り返していく。
(起動――起動――……)
漢字は触れ続けなければ効果を大きくできない。
だが、今回は手のひらの大きさの漢字を頭に直接転写するだけで、完全に寝眠らせることが出来なくても、襲い来る睡魔で戦意を喪失させることが出来た。
「(これだけ騒いでいると近づいても、全然、気づかれないわね)」
(よし……あと数人だ、がんばれ!)
(起動っ!)
その後、ルティーナの活躍により民間人と盗賊は完全沈黙し、形勢が逆転した近衛兵達に取り押さえられ沈静化しつつあった。
ルティーナはその様子を見て地上に舞い降り、透明化を解除する。
数分後、ウェンディとフェリクスとシャルレシカが城門前のルティーナの元へ集う。
「ルナリカちゃんっ! 助かったわ!」
しかし、制圧したデモ隊の中にはギレイラの姿がなかった。
「くそっ、逃げたか!」
「このままだと、今回の件を立証できないわ……」
すると、突然シャルレシカがウェンディに、ギレイラの顔を思い浮かべるように指示した。
ウェンディはシャルレシカに触れられながら言われるままに、ギレイラの顔を思い浮かべる。
――するとシャルレシカの水晶にギレイラの顔が浮かび始めた。
「この男がギレイラ……?」
「あ、あれ? シャル、こんな術が使えたっけ?」
「ふふふっ! 眠っている間にぃ新しい術を体得しましたぁ~」
「お待たせしましたぁ、シャルは夢をかなえたんですぅ!」
「?」
シャルレシカは目的としていた鑑定士の力に開花しただけではなく、今持っている占いの力も向上していたのだった。
「ではぁ、この映っている男のぉ気配を索敵しますぅ」
「シャルレシカちゃん、お願いっ!」
しばらく、シャルレシカは沈黙する。
「――あの時計台の方に逃げてますぅ」
「それなら、私が飛翔した方が早いわねっ」
「シャルっ」
「はぁ~ぃ、久しぶりに一緒に行きますぅ~」
そしてルティーナは、サーミャが洗脳を施した通信用の小鳥をウェンディに預ける。
そして、シャルレシカをいつものように小さくして時計台に向かって羽ばたいていくのであった。
「ウェンディ様ぁ~、この城の周りで陣を張って『マジックシール・ストーン』を守ってた奴らも拘束しているんで、粉砕した石と一緒に処置お願いしますね~」
「ルナリカちゃん! 頼んだわよ~っ!」
一方、混乱に紛れギレイラは逃亡していた。
「くそっ」
「突然『マジックシール・ストーン』の効果が消えるなんて!」
ギレイラは城の方を振り返る。
「――な、なんだあの空から飛んでくるのは……子供?」
シャルレシカの案内に従い、ギレイラ確保に飛翔するルティーナ。
「ルナぁ~そのまま真っすぐ向かってください……」
「どうかしたのシャル?」
「――ん、あの男に別の悪意が近づいていますぅ」
「仲間に合流しようとしてるのかしら?」
的確に自分の逃げる場所を追跡され焦り始めるギレイラ。
そこへ見知らぬ男が接触してくる。
その男は名乗りもせず、自分はモルデリド王からの増援だと、手を貸すと言い出す。
「王からの指示か?」
「はい」
そして、懐から注射器を取り出しギレイラの首元へ突き刺すのであった。
「てめぇ~っ、何しやが――」
「……な、なんだぁ~っ? き、気持ちよくなってきたぞぉ~っ」
ギレイラはその男の行動に高揚しつつ、徐々に体中が羽で覆われ、背中に翼が生えデルグーイ――鷹の魔物――の姿になるのであった。
「な、なんだこれ? 最高じゃねえか」
「(これなら俺の正体はバレねぇ。これでウェンディを血祭りにあげてやるぜ)」
「喜んでいただけて光栄です」
「しかし、思ったより早いですね――先にあの小娘を始末してくれますか?」
「あぁ、任せろ」
そして上機嫌になったギレイラは羽ばたき、ルティーナの前に立ちふさがる。
「人型のデルグーイ!?」
「でもぉ、こいつがギレイラですよぉ」
「!」
「(あの薬を? ……まさかナガアキ)」
(よりによってデルグーイか……『デストラクション・シューター』を持ってきていない)
「(シャルを連れたままじゃ戦えないわよ……どうするのマコト)」




