第189話 戦ノ渦中
ウェンディは意識の戻らないシャルレシカと共に、ブルデーノの民衆の暴動に巻き込まれる。
「ただの民間人を盾に、爆弾を使わせるなんて……」
「一体、何が狙いなんだ?」
「ハウルセン王、少し調べたいことがあるのですが、魔法師を二名ほど、貸していただけませんか?」
ウェンディは、魔法が使えない原因を確かめるため、魔法師二人に城の中心部と頂へ向かうよう指示をした。
「どうするのだ?」
「仮説は一つしかありません」
「巨大な『マジックシール・ストーン』が城の周辺に設置されているのではないかと」
ハウルセン王は目を細める。
「いや、そんなものを暴動の為に? 確かに致命的な状況になっているが」
「あの石は十センチのサイズで、それを中心として半径二十メートルほどの範囲の魔法が打ち消されてしまいます」
「この城の周り――仮に四方向に配置すると?」
「一メートル以上の石が配置されている可能性が……」
すると、魔法師が大慌てで戻ってくる。
「ウェンディ様っ」
「城の中心付近では魔法は使えませんでしたが、頂の展望階であれば使えたとのことです」
ウェンディは予想が当たっていたことに、少し安心した顔になる。
「やはりそうですか……」
「どこに配置されているか? 直接、叩き壊すしかないですね」
「もうよい、ウェンディ」
「?」
ハウルセン王はウェンディにシャルレシカを連れ、展望階から転移魔法で脱出するようにと言い出す。
しかしウェンディは能天気に見えても魔法師団長である。
「同盟国の危機は見捨てられません」
「原因は分かりました。 近衛兵をうまく城の外へ出し調査に向かわせてください」
「うむ……しかし」
「魔法は封じられて攻撃や防衛には参加できませんが、私の魔力なら直接触れることで治療はできます」
「なので、現場の負傷兵の治療にあたります!」
「治癒魔法が使える方は、方法を教えますのでついてきてください」
「すまない」
そして、ウェンディは城の入口付近まで移動していく。
「そもそも、あれほど大規模な『マジックシール・ストーン』を、たかが民間人が準備できるわけが……」
「ウェンディ様、こちらです」
現場に到着したウェンディは早速、魔法師に直接魔力を流す治療の方法を説明し始める。
そこへ、近衛師団長のフェリクスが声をかける。
「ウェンディ殿、お手数かけます」
「一つ、ご相談がありまして――」
フェリクスは、集団の中で指揮を執っている男を確認してほしいとウェンディに頼んだ。
ウェンディは首を傾げながら高台に連れて行かれる。
「あいつです……ローブをかぶっているのではっきりとはわからないのですが」
そこから見える男の顔が、時折ローブの隙間から覗いていた。
「ちょっと待ってください! ギレイラじゃないすか!」
ギレイラは、五年前までグランデ王国で近衛師団長をしていた。
国がモルディナとモルデリドに分裂した時にモルデリド王側に付き、ウェンディと袂を分かった。
「グランデ王国の時に、我が国で行われた共同演習で挨拶をしただけですが……やはりそうでしたか」
「すると『マジックシール・ストーン』はモルデリドから――」
その時、フェリクスは噂を思い出した。
「そういえば、ここ最近、モルデリド王国の鉱山で大量に発掘されたと聞いていますが」
「!」
「それなら、辻褄が合いそうですね」
「(――まさか、この民衆の暴動……叔父上が絡んでいるというの?)」
困惑する二人の元へ、近衛兵から報告が入る。
「城門が破壊され、民間人が城壁内になだれ込んで来ましたっ!」
ブルデーノ城は特殊な造りになっていた。
城壁の内側には深い堀が巡らされており、その先に城が建っている。
城門を突破した民間人が城へ入るには、堀に架けられた石橋を渡るしかない。
フェリクスは最後の手段として、民間人が石橋を渡り切る前に、橋を爆破する決断をした。
「くそ! すまない……フェイ、グレイス、アーク――」
城門側で民間人を抑えている近衛兵を残すことになる――苦渋の決断であった。
くやしさに目を伏せるフェリクスをウェンディは励まそうとする。
「彼らの顔を見てください!」
「民間人に暴力をあびせられているにもかかわらず、反撃もせず……あの誇りに満ちた顔を!」
「もし彼らが無事でいてくれれば、私は必ず全力で治療してみせます」
「ありがとうウェンディ殿……」
「モルデリドめ! 許さんぞ!」
「…………」
「(魔法封印をなんとかしないと……)」
「――シャルレシカちゃんが目を覚ましてくれれば、何とかなるかもしれないのですが」
「確かにシャルレシカ嬢の索敵能力があれば『マジックシール・ストーン』の場所を探れるかもしれぬが……」
シャルレシカは先日の夜に落雷に遭い王宮に担いこまれた。
その際にウェンディの再生魔法で蘇生したはずにもかかわらず、意識が戻らないままだったのだ。
「しかし、あの日は雲一つない良い月夜だったのに――」
「そ、それは……」
――時は遡り、ブルデーノ滞在二日目。
シャルレシカは事情聴取の手伝いの役目を終え、夕方にウェンディを連れ鑑定士のファイデンの元へ行くのであった。
「シャルレシカちゃん、私に逢わせたい人って?」
「ファイデンさん~、連れてきましたよぉ~」
ファイデンは突然の来客に驚くが、自分が鑑定士に覚醒したきっかけであり、命の恩人であるウェンディに念願の対面を果たし感謝を伝えた。
「まさか、昨日の今日で……本当に出会えるなんて」
「君に出会えてよかったよ」
そして、ファイデンの店を二人は後にする。
「それで、この国に残ったのね……まさか、あの時の彼がここにいたなんてね」
「これで気が済んだかしら? シャルレシカちゃん」
ウェンディは一旦、ハウルセン王に挨拶をしてから今晩にでもハーレイの元へ転移しようとしていた。
しかしシャルレシカは、ウェンディが何か後ろめたい顔をしていることに気づく。
そして、前を歩くウェンディの後頭部にそっと触れて彼女の記憶を読み取る。
「(今のウェンディ様ならぁ、質問しなくても頭の中で何かを浮かべているはずですぅ)」
「なにか髪についてるの?」
「はいぃ、ちょっと動かないでくださいねぇ」
シャルレシカは記憶を読み取るために嘘をつく。
「(こ、これはぁ)」
ファイデンは自然の落雷に遭ったのではなかった。
当時、ウェンディが護衛任務中に遭遇した魔物と戦っていた。
悪天候の中での闘いで、偶然放った最大火力の雷魔法の流れ弾を誤って彼に落としていたのだった。
一般人が巻き込まれたと護衛兵から報告を受けたウェンディは、その時の上官の指示で蘇生を試み、彼を助けていたのであった。
「ゴミは取れたかしら――」
「ウェンディ様ぁ……あの落雷事故はあなただったんですねぇ」
ウェンディはシャルレシカに記憶を見られ焦る。
「私にも落雷を落としてくださいぃ」
「な……何を言ってるの?」
その話を聞いたフェリクスは呆然とする。
「――そうか、それで昨日の夜に……」
「しかし、何故、断らなかったのですか?」
「シャルレシカちゃんは、新しい能力を開花するために必要だから協力してほしいと……」
「真剣な目を見ちゃったら、邪険にできなくって」
「……」
「城に入る手段は今ありません」
「手が出せないでしょうからとりあえず私は、城内に担ぎ込まれた怪我人を治療してきます」
「あぁわかった!」
「俺はハウルセン王に状況を説明してくる」
――それから数時間が過ぎ、空が白み始めた頃。
堀の向こう側から火炎の筒を城に投げ込まれる。
「くそっ! 動き出したか」
「フェリクス様、大丈夫です時間はかかりましたが負傷兵は全員治癒できました」
「おぉ、さすがウェンディ殿っ!」
「(しかし魔法が自由に使えないのに、それでも全員治癒するとは、さすがだ)」
ウェンディは高台に登り、自分の姿をあらわにし叫んだ。
「ギレイラっ! そこに居るでしょっ!」
奥の方にまで声が届く程の大声で叫んだ瞬間、攻撃が止まった。
「まさか! ウェンディ……なぜここに居るっ!」
「(どういうことだ、連絡では三日前はまだ同盟が結ばれた時にモルディナに居たと聞いていたのに)」
「何が目的ですか?」
「ブルデーノと同盟を結んでいる以上、モルディナとの不可侵条約に抵触しますよっ!」
「ちっ!」




