第187話 闇ノ証人
長明は八年前、ノキア王が『勇者召喚』しようとした事を知る。
このままでは、自分にとって世界への復讐の鍵となる『厄災復活』に支障が出る。
そこで、暗殺部隊でかつ自分のしもべであるドグルスを利用し、儀式を失敗に終わらせた。
――これですべてがうまくいくと信じていた。
「あのルティーナという小娘―― 一体」
常に自分の計画の前に立ちふさがるルティーナの存在に、いらつきと焦りを感じていた。
そんな中、昔の仲間であった春斗の存在を疑い始めた。
春斗は、厄災との戦いで重傷を負い、火山爆発に巻き込まれて死んだと思っていた。
彼の持つ、魔法とは異なる異能力……刻印魔法。
念じるだけで漢字を発生させ関連現象を引き起こす『能力』――。
実際は見てはいないが、スレイナがルティーナとの戦いで得た情報。
春斗と同様の『能力』だという疑いが消えなかった。
「もしや、あいつの孫――」
彼は孤島に流れ着いてから、魔物に人間を誘拐させては、洗脳し、駒として扱った。
その中には、有能な冒険者や、魔法・体術に優れた者もいた。
優秀な駒は、部下として扱った。
しかし、無情にも時間は才能を劣化させ、使い物にならなくなれば処分された。
彼には、もう、今さら手間をかけて駒を増やしている時間はなかった。
「とにかく今はロザリナを……こうなれば、やつを操るしかないか」
「あの国王を――」
「厄災――黒竜――の復活、この先、六回目の満月の夜」
「それまでに、秘術で若返らなければ意味がない――」
長明が着々と次の行動を始める中――。
ルティーナ達はブルデーノの護衛案件を終えた後、謀反者の事情聴取で現地に残ったシャルレシカの帰還を待っていた。
「もう三日目かぁ……シャルは戻って来ませんね」
「いっそ、あたいの新魔法『サモン・オーバーコール――対人召喚――』で呼んじまうか?」
「あいつ、驚くぜ」
「――って! 今、尋問作業してたら、現地が大混乱になるわよ!」
「駄目かぁ……」
サーミャは魔法を使いたくてうずうずしていた。
そんな中、ヘルセラは自分の役目は終わったとアジャンレ村に帰ると言い出す。
「でも、シャルがまだ……」
「よいよい、あやつのやる気を優先させてやれ」
「そうですね」
「それに今生の別れでもあるまいし、あいつにはまた会えるさね」
当初の予定ではシャルレシカをウエンディが転移魔法で連れてくる予定になっていた。
「でも、ハーレイ様のところに戻ってくるんだよね?」
「そうね、『ハーレイ様じゃなきゃヤダヤダ』って、結構、駄々をこねられたわ」
「ってか、あのおばさん……十年以上も会わないうちに、そんなに悪化してんのか?」
「親父も厄介な奴に惚れられたもんだぜ」
呆れるサーミャにルティーナも半ば納得していた。
「自分のお父さんなのに、他人事ね」
「あいつは女ったらしだから、自業自得さ」
「でも、ミヤも会ったら、大変な目に遭いそうね」
(自分の娘にするって言ってた話は、やめておこう)
「(そうだね)」
「?」
「どうでもよいが、そろそろワシを送ってくれぬか? サーミャや」
すると、ロザリナはいつものようにサーミャの転移目印として留守番をすると言い出す。
「ルナとエルもバルストさん達に逢いたいでしょ?」
「皆で行ってきて――」
「駄目だよ! 今回は僕が残るよ」
エリアルは、ロザリナを一人残すのは、前回の誘拐事件の危険性があると。
「そうだね……あれから数日経過しているから、警戒は必要よね」
「でも、それじゃぁ」
「アンナさんが会いたがってたよ」
ロザリナはエリアルの気遣いが嬉しく、笑みがこぼれる。
「その代わり戻ってくるときは、僕がお風呂に入っていない時にしてくれよ」
「「「「あはは」」」」
「そうだエル、これを持っておいてくれよ」
闇魔法が使えるようになったサーミャは、ヘレンに教えてもらった『ダーク・マニピュレート――洗脳――』で小鳥を操り、通話の道具としてエリアルに預けるのであった。
「これがあると、何かあっても連絡がとれますね」
「ま……突然、使えなくなったら、こっちで何かあったと思ってくれ」
「君達が揃ってて、何かあるわけないだろ」
「そうだな」
その日の夕方、四人はアジャンレ村のバルストを目印に転移するのであった。
しかし、いつもなら喜んでルティーナに飛びつこうとするバルストであったが、真剣な顔つきで構えていた。
「ルティーナ……」
「ちょうどいい所へ戻って来てくれた」
「ど、どうしたの? お父さん――?」
(なんだ、いつもとノリが違わないか?)
バルストはルティーナに連絡がとりたくて困っていたところに、偶然、現れたのであった。
「ヘルセラさん? 急に戻りたいって、もしかして――」
「はてさて? 偶然じゃろ」
「どうしても、会わせたい人物がいるんだ」
「って、あなた、焦らないの!」
「初めての方がいらっしゃるわよ? もしかして、ロザリナさんかしら?」
「は、はい……」
「初めまして、アンナさんとバルストさんですよね?」
アンナは、初めて来たロザリナを歓迎したいところであった。
だが、バルストは以前の村を襲撃した事件に関わることだと焦っていた。
「どういうこと? お父さん」
バルストは、村人たちと襲撃事件の後片付けをしていた頃の話をし始める。
その時、村人の一人の挙動が明らかにおかしいことに気付く。
「あいつは確か……」
その時は、この村のおきて『お互いの事に干渉することを禁止する』を守る為、気にかける程度に留めていた。
そして数日後、バルストに気にかけられていることに気づいたのか、その村人の方から助けて欲しいと相談を受け、対応に困っていた。
「話を聞くと、襲ってきた女幹部は自分の元仲間だと言っていた」
「スレイナの仲間? 私達がこの村に出入りする情報を伝えて……襲撃させたっていうの?」
バルストは腕を組み目を閉じる。
「いや、そうでもなさそうなんだ」
「?」
――その男性の名前は、グラデス。
スレイナが村を襲撃したのは自分のせいだと思っていた。
長明を裏切った自分がこの村に隠れていた事がバレたのだと――。
『また、襲撃されるかもしれない』
「他の村人達に知られたら、生きていけないと……」
「それで、村を救ったバルストさんに相談を?」
「おそらくな」
グラデスは数年前に長明に誘拐され洗脳魔法を仕込まれていた。
しかし、偶然、巡り合った光魔法使いの老婆に解呪してもらい、命からがらアジャンレ村に逃げ込んでいたのであった。
「ところでよ、バルストさん!」
「さっきから、ナガアキ、ナガアキって何なんだ?」
「それって……名前ですか? なら変わった――」
「(マコトさんみたいな感じが)」
(たぶん、俺達の前に召喚された勇者の名前だな)
「(! そっか、リーナを誘拐した主犯!)」
(ルナ、バルストさん達に勇者召喚の話だけでも説明したほうがいいかもしれない……)
ルティーナは、バルストとアンナに必要なことだけをかいつまんで説明する。
八十年前の勇者が三人召喚されて厄災を封印した事。
その一人が長明という人物。
曾孫にあたるロザリナを誘拐しようとした事。
「な、お前たちはさらにとんでもない事に巻き込まれているのか!?」
アンナは悲壮な顔になる。
「ルナ、あなた! また危ない事に首を突っ込んでるのっ!」
「もう、危険は無いって――」
しかしルティーナは、アンナに満面の笑顔を向ける。
「違うよ」
「この世界を私達で平和にするんだよ!」
「(そして、マコト達を元の世界に返してあげるんだ)」
(ルナ……)
「ごめんね」
「本当は、お父さんの為にノキア王の秘密を暴いたまでは良かった」
「でも、この世界の事が色々絡んでいることを知っちゃったの……」
しかしヘルセラが話に割り込む。
「のぉバルスト、アンナや」
「ルティーナなりにしっかりやっておる。すこしは自分の娘を信じな」
ヘルセラの説得に、二人は小さくうなづく。
「この事はノキア王に、関係者だけにしてくれと口止めされていたんです」
「ルナを責めてあげないでください……」
「ロザリナさん……わかってますよ」
「ありがとうね」
そして、バルストに連れられグラデスの家を訪ねることにした。




