第183話 帰還ト魔法ノ開示
シャルレシカはファイデンが鑑定士になれた時の出来事を聞いて、自分にも可能性があると現実味を感じる。
「ファイデンさん……シャルは思いついたら止まりませんよ」
「えぇ~、そんな自殺行為を平気な表情で」
エリアルは冷静にシャルレシカに助言する。
「ねぇシャル、『自然の落雷』と『魔法の雷撃』とでは、威力や原理自体が全く異なることには注意すべきだ」
「うぐっ」
「それに、ファイデンさんがどのような状況で遭遇したのか、詳しいこともわからないんだよ」
しかし、その言葉に反応し、シャルレシカはファイデンの前に自分の占い用の水晶を差し出す。
「そうですよぉ~ファイデンさん」
「五年前の記憶をぉ見させてくださいぃ」
「って! まだ、わかってもら――ん?」
「そ、そんな事ができるんですか?」
「(なんなんだ、この娘は……だけど、俺もあの日に何があったかを知りたい)」
エリアルはシャルレシカの過去視の事を理解していたが、話に出さなかった理由があった。
――ファイデンは落雷を受け気絶していた。
「ねぇシャル、気絶していたら記憶がないよね?」
「落雷だって不意打ちだし、そもそも、誰が助けてくれたかなんてわかるわけが……」
「う~ん」
「でもぉ、その日の状況ぐらいわかるかもですぅ」
シャルレシカは、自分の水晶玉にファイデンを触れさせて当時の記憶を読み取らせてもらうことにした。
数分後、五年前、ファイデンが落雷に襲われる前の記憶に辿り着く。
そしてその時の様子が水晶へ映し出される。
しかし、その光景に変わったところは特になかった。
雷雲から逃げ、落雷に直撃したファイデンが話した通りだった。
「やはり、直撃している……何故、俺は無事だったんだ?」
すると、水晶は再び真っ暗に染まってしまう。
「……やはりね」
「記憶がなければ、何も映らないんだね――」
しかしエリアルの懸念をよそに、水晶玉に再びぼんやりとだが気を失った後の様子が映り始める。
「「「!」」」
そこには豪雨、ローブを纏う女性らしき人影が必死にファイデンに魔法をかけている様子であった。
「(体型はシャル? っぽいな……年齢は二十代中盤ぐらいか?)」
「――この魔法、リーナの『シャイン・レストレーション――再生――』だよね?」
「俺は、そのシャインなんとかって魔法で助けてもらったのか?」
「その中で、一瞬だけおぼろげに意識が戻って……でも、あの人は誰だったんだろう?」
だが、その映像は一瞬……そして再び水晶は暗くなり何も映らなくなった。
しかしファイデンは、映像をもう一度見られないかとシャルレシカに頼む。
「やっぱり、ローブに描かれている紋章……昔のグランデ王国!?」
「そうですよぉ~、今のモルディナの紋章と一緒ですぅ」
「私を助けてくれたのは……モルディナの回復師の方だったんですね」
「(でも何故、私をあのまま放置して去っていったんだろう?)」
「今、僕達の仲間がモルディナに居るので、連絡できる機会があれば聞いておきます」
「ありがとう、エリアルさん」
「そして、シャルレシカさん」
「いいぇ」
「これでぇ『雷』の問題だけぇ解決できればぁいいってことですねぇ」
「……(前言撤回かな)」
ファイデンを救った魔法なら、ロザリナが居れば同じように使えると確信したシャルレシカ。
彼女は楽観的に自己満足していた。
しかしエリアルもファイデンと同じく、不安しかなかった。
「(この前、ヘルセラさんが言っていた詳細索敵……考えようでは、対象が人でなく――物なら?)」
「(それに……ファイデンさんも潜在能力があればと言っていたし)」
「シャルの夢は当たるから、そんなに焦らなくても……」
「だけど無茶をするなら、必ずルナに相談してからにしてくださいね」
「えっ、エリアルさん! 彼女を止めてくださいよ」
二人に呆れるファイデンであった。
「ファイデンさん、いろいろとありがとうございましたぁ」
「さっきのぉ女性、必ずぅ連れて来ますねぇ~」
「あぁ、よろしく頼む」
「でも無茶して、本当に命を落とさないでくれよな」
「はぁ~い」
そして、二人は鑑定屋を後にする。
――話は、シャルレシカ達が謀反者を暴くため、ブルデーノの近衛師団長フェリクスと作戦を展開していた頃に戻る。
ルティーナはハーレイの転移魔法でモルディナ王国に居るウェンディの元へ『ディメンジョン・テレポート――転移――』していた。
「ハーレイ様~っ」
ウェンディは転移空間から出現したハーレイに飛びついたつもりだった。
「ぐぐぅ……い、息ができません……」
「ぐるじい――」
(いや、うらやましいんだが……)
「(はぁ?)」
そこには先に飛び出していたルティーナが、ウェンディの胸の間に挟まれ窒息仕掛けていた。
続けてハーレイが頭を掻きながら登場する。
「(やっぱり狙ってやがったか……)」
「お前なぁ~いきなり人前で飛び付くなっつうの!」
ウェンディはぐったりしたルティーナの両肩をつかみ、必死に前後へ揺らす。
「ルナリカちゃーんっ、ごめんなさーい」
(やっぱり、シャルそのものじゃないか!)
「(う、うん……天然だね?)」
「まったく、ルナリカちゃんだったからいいけど……」
「(この前みたいに多勢のときもあるんだからなっ)」
「はぁ~い! 確認してから飛びつくね」
(……)
「すまない……こいつ、こういうやつなんだ」
「あはは、慣れてますから――」
「(何に慣れているのかしら?)」
「そういえば、今日の午後から『婚姻の儀』が行われるんですよ」
その話を聞いたルティーナは、今のうちにノキア王の件を報告すべきだとハーレイに提案する。
「そうだな」
「ウェンディちゃん、案内してくれ」
「はぁーい」
「今、落ち着かない両親同士で王室に居るはずですよ」
そして二人はウェンディに連れられ、モルディナ王達の居る王室へ出向く。
「おぉ、無事に戻ってきたね」
「はっ、モルディナ王、ハウレセン王――」
「無事にノキア王を救出し、問題を解決してまいりました」
「そうか! あんな緊急な状況で――さすがだな」
「この度は、貴重な時間をノキア王の危機へご配慮頂き、大変申し訳ございませんでした」
「後日、詳細の報告と謝罪に来訪させてもらうと、ノキアから伝言を承っております」
「ノキアも気を使わずとも良いのに……」
「そうですな、同盟国としては困ったときはお互い様」
「しかし無事に解決して良かった」
「本当に昨夜だけで鎮圧させるとは……」
「「ルナリカよ」」
「「初めて会った時に疑ってしまったことを謝罪させてくれ」」
二人の王は改めて、最初は見下していたルティーナに頭を下げる。
「もったいなきお言葉」
その後、『婚姻の儀』が執り行われるまでの間、落ち着かないモルディナ王は話を切り替えた。
「そういえばハーレイ!」
「転移魔法の件を、詳しく聞かせてもらうぞ」
するとルティーナが割り込み、自分が説明すると言い出す。
(余計なことを言いそうだからな……)
「この転移魔法についてはハーレイ様の娘サーミャが発見した魔法なんです」
それをハーレイが教示してもらったことを前置きにし、ルティーナは馬琴から指示通り、イスガ砂漠での出来事をかいつまみながら語る。
そして隠さなければいけない事実は違う話に置き換えたり端折ったりしつつ、最終的につじつまが合うように淡々と説明した。
「(マコト……あきれるぐらい話の筋が通っててビックリだわ。さすが先生)」
(また、『男は嘘つきね』とか言われるかと思ったわ)
(あはは、今回は尊敬したわよ)
「フム、なるほどな。イスガにはそんな技術があったのか……しかし消滅してしまったのは残念だったな」
「しかも砂漠が消えた原因がお前たちだった事は失笑してしまったぞ」
「話を聞く限り、この魔法は、この世界の概念が崩れる恐れがあるな」
「お前たちが言うように、ここだけの話にしておく」
「はい」
「ご協力感謝いたします」
「それじゃ、ウェンディちゃん! 詠唱を教えてるからこっちに来な」
「やったぁ!」
そして、ハーレイはウェンディに教示を始める。
「これでウェンディが居れば、魔力が許す限り使用できるというわけだな」
「ウェンディ、これからの国交の事もある」
「?」
「お前が、ハウルセン王達を送ってあげなさい」
しかし、ウェンディは複雑な顔になる。
「ちょっと待って下さい……私、ブルデーノに知り合いはいませんよ?」




