第182話 鑑定ノ取得ト現実
シャルレシカとエリアルは、後天的に鑑定士になったファイデンという男性を探すため、ブルデーノ王国にある鑑定士の店に向かった。
その途中、一人の男性に声をかけられた。
「驚かせてしまって、申し訳ない」
「どうしても、お礼を言いたくって」
「お礼ぃ? ですかぁ」
ファイデンは、自分の店があるバレンツ侯爵領の領地運営に不信感を抱いていた。
何も変わらないようであれば、店をたたみ別の国に引っ越すことを検討していたという。
「だけど、昨日の君たちの騒ぎで、まさか領主が逮捕されるなんて」
「スッキリしたよ」
「ところで、君は誰なんだい?」
「あ、自己紹介していなかったね」
「私は、この街で鑑定士をしているファイデンというものです」
「「!」」
シャルレシカは、人目を気にせずにファイデンに抱き着く。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか?」
「やっと、遇えましたぁ~」
「?」
「突然で、すまない」
「彼女の名前はシャルレシカと言って、君を探しにここへ来たんだ」
ファイデンは唐突な出会いに呆然としていた。
抱き着いて離れようとしないシャルレシカの歓喜ぶりから、何か事情があるのだと察する。
彼は二人を自分の店まで案内することにした。
「すみません、これから開店ですよね?」
「いいや、かまわないよ」
「そもそもそんなにお客が来る店でもないからさ」
そしてファイデンは店の中に二人を入れ、休業中の看板を立てる。
「で、私に何を鑑定してほしいんだい?」
「はぃ~」
「じぃじの紹介でぇ――」
「いや、だから何を鑑定し――って、じ、じぃじ……?」
興奮気味のシャルレシカの口ぶりに困惑するファイデン。
エリアルは代わりに説明を始める。
「じぃじっていうのは、ノモナーガ王国の鑑定士オリハーデさんの事なんですよ」
するとファイデンは、オリハーデは自分が尊敬する人物だと語った。
そのオリハーデを『じぃじ』と呼ぶシャルレシカを見て、二人が自分の店を尋ねてきた理由が、単なる鑑定依頼ではないことを察する。
「すぅ~っ」
そしてシャルレシカは大きく息を吸って、一旦、落ち着く。
「鑑定士になるにはぁ、どうしたらいいんですかぁ~」
「……と、唐突だね」
「そういうことか……私の能力が後天性だって噂を聞いたんだね」
シャルレシカは小さくうなづく。
しかし、ファイデンは首を縦に振らなかった。
「でも、その話なら役に立てないかもしれない……」
むしろ、鑑定士になりたいというシャルレシカに興味を持ったファイデンから、鑑定をさせてほしいと頼まれた。
「えぇ……いいですよぉ」
ファイデンはシャルレシカのおでこに左手を触れ、右手に鑑定用の水晶を持つ。
すると、水晶は白く神々しく輝きだした。
「(じぃじに初めて職業鑑定してもらった時と同じですぅ)」
「なっ (なんなんだ! この魔力量は)」
「み、見た事がない……」
シャルレシカは胸を揺らしながら、自慢げな顔をする。
「むふんっ」
「しかし……無属性魔法以外は使えない?」
「はぁ~い」
「だけどぉ、ミヤの杖があればぁ~無敵ですぅ」
「(ミヤ?)」
ファイデンは彼女の魔力量というより、無属性魔法の素質が高いことを見抜く。
「君の潜在能力なら、普通に鑑定士になれるんじゃないか?」
しかし、シャルレシカは必死に食い付く。
「じぃじが、遺伝しか無理だってぇー」
「なのでぇ~、どうやって使えるようになったかだけでも聞かせて欲しいですぅ」
「わかった、わかった」
ファイデンはシャルレシカの熱意に負け、自分が身に着けた方法は危険だったと念を押してから、昔話を始めた。
「私が鑑定士になったのは、五年前のことだ」
彼は二十五年前、『索敵』と『雷』魔法を使う父親と、『光』と『風』魔法を使う母親の間に生まれた。
「じゃあ、ファイデンさんもぉ魔法使いの遺伝がぁ?」
ファイデンは首を横にふりながら話を続ける。
「五歳になった時、親父は俺を冒険者の跡継ぎにさせようと、職業鑑定を受けさせたんだ」
「――だが、魔力量は、シャルレシカさんみたいに並外れていたんだけど……」
「職業の素質はまったく見えなかったのさ」
エリアルは半ば納得できない様子で尋ねる。
「魔法使いとしても鑑定されなかったんですか?」
「(アンハルトさんみたいに魔力を内に秘めた剣士って話だって……ありえそうなのに)」
ファイデンは少し寂しそうに笑う。
「それでも両親は、潜在能力が高いことを喜んでくれたんだ」
「いつか凄い力が身に付く……って期待されていたんですね」
エリアルがそう尋ねると、ファイデンは小さく頷いた。
「ああ」
「だけど――十五年経っても何も起こらなかった」
「「……」」
「結局、私の開花を見ることもなく、両親は病気で亡くなってしまったんだ」
シャルレシカも、さすがに口を閉ざす。
「私には、両親の治療に使った薬代の多大な借金だけが残ってしまってね」
「一人でそれを返していかなければならなかったのさ」
ファイデンは少し涙目になる。
「そこから、多少の無理は覚悟して、重い荷物の運び屋の仕事を始めたんだ」
「それが五年前?」
「そう……仕事を始めて間もない頃、大事故に遭ったんだ」
ある日、一人で荷物を運んでいると、突然、豪雨に襲われた。
「その時、後ろから黒い雲が迫ってきていたんだ」
「雷雲ですか?」
「荷馬車には雨よけが付いていなかった」
「だから急いで、次の街へ向おうと必死だったんだ……」
ファイデンは天井を見上げる。
「でも、間に合わなかった――」
「まさかぁ!」
そして落雷は無常にも……ファイデンを爆音とともに飲み込んだ。
「「――!」」
「記憶はおぼろげなんだけど、土砂降りの雨に打たれながら、意識が朦朧としていく中で地面に倒れていたのは覚えてる」
ファイデンは静かに続ける。
「その時、これで『両親の元へ行ける』と思ったよ」
「「……」」
「でもぉ、生きてますよねぇ?」
「あぁ、それから数日後に近くの民家で目を覚ましたんだ」
しかし彼の荷馬車と荷物は黒焦げになってしまっていた。
当然、仕事も失い、荷物の弁償……借金が増える現実が待ち構えていた。
「これからどうやって生きていけばいいのかという苦悩に苛まれたよ」
「……いっそ死ねれば幸せだったのにって」
「そんな事が……」
「でも、そんな私に光が差し込んだんだ」
「?」
「枕元に、この水晶玉が転がっていたんだよ」
「偶然、それに触れた瞬間、これは『鑑定水晶』だって理解できたんだ」
ファイデン自身、その水晶が荷物の中に入っていた理由は分かっていない。
「ただ、村人の話では、私は黒焦げになった荷物の横で倒れていて、手にはその水晶玉を握っていたらしいんだ」
「運命的にぃファイデンさんの元へぇ?」
「……わからない」
「でも、確信したんだ! 自分の中に、鑑定の力が芽生えたことを」
「そうだったんですねぇ~」
「ああ」
「そして、鑑定士として働きながら、両親の借金もすべて返すことができたんだよ」
「すごいですぅ~!」
シャルレシカは嬉しそうに声を上げる。
「……ただ、どう考えても、きっかけはあの落雷だった」
「それ以外に理由が思い当たらない。偶然だったのかもしれない」
「…………」
ファイデンは、少しだけ表情を曇らせた。
「だから、最近治安が悪くなっていたこの街から去ってもいいかなと考えていたのさ」
その時、エリアルはノキア王が朝時だった頃に聞いた話を思い出す。
「(武闘会の会食の時に、落雷から無事に生還したものに不思議な力が宿った人間が稀に存在していると言っていたが……それがファイデンさんのことだったのか?)」
一方、シャルレシカはスッキリした顔になる。
「なるほどぉ、わかりましたぁ~!」
「わかってくれたかい?」
「つまりぃ~ミヤのぉ落雷に撃たれてぇ、リーナにぃ生き返らせてもらえばいいんですよねぇ?」
「おいっ! 話をちゃんと聞いてたかい?」
「エリアルさんは、理解してくれてますよね?」
ファイデンは話をしたことを後悔し始める。
「いやいや、俺はただ、偶然に鑑定士になった経緯を話しただけだぞ!」
「方法じゃないっ!」
シャルレシカのわくわくが止まらない程の笑顔になる。
「エリアルさん、この娘を止めてくれー」
「これじゃ私が殺人の容疑で捕まってしまう」




