第184話 転移ノ使者ト探人
モルディナ王は、ウェンディが転移魔法を覚えたことで、今後の国交を考え、使者になってもらおうと提案する。
「ハーレイ様ぁ、どうすれば?」
しかしブルデーノに知り合いの居ないウェンディ。
一見すると便利そうな転移魔法――しかし転移先は場所ではなく、対象となる人物を目印にするという欠点があった。
「その点はご安心ください」
だが馬琴は、問題ないとルティーナに伝える。
「私は、今、ブルデーノで別任務をしている仲間の元へ、ハーレイ様の転移魔法で移動します」
するとウェンディはその意味を理解する。
「わぉっルナリカちゃん! 気が利くわね! その作戦、乗ったわ!」
「いいですよね? お父様」
「人前では『王』と呼べっ! 全くお前は……わかったわかった」
内容は単純明快。
ハーレイをブルデーノの城へ移動させ、陽が沈む頃に合わせて、ハウルセン王たちを連れたウェンディが転移する作戦だった。
「さすがルナリカ殿、その作戦なら問題ないですな」
「ウェンディや、しばらくの間ブルデーノに滞在し、要人たちと交流を深めてくるのだ」
「はぁ~い」
(ウェンディ様……ちょろいな)
「(あはは)」
そして、ハウルセン王とモルディナ王は『婚姻の儀』へと出向いていった。
その間、ウェンディは城内の知り合いを思い浮かべながら、転移の練習を始める。
転移後に起こる問題などを実際に体験しながら、理解を深めていく。
その様子を二人は呆然と見守る。
「ハーレイ様……なんか、城のあちらこちらから悲鳴が聞こえますね」
「あいつ、転移先の空間のこと……理解してないよな?」
「くすっ」
十回ほど転移を繰り返したウェンディが、ハーレイの目の前に転移してくる。
「はぁはぁ……そろそろ魔力がやばいですねぇ」
(それでも、こんなに自由に転移できるんだ)
「(凄いよね)」
「どうだった? 転移先にはちゃんと注意したか?」
「(悲鳴がしてたからな……してねぇだろうけど)」
「うーん、二、三回攻撃されちゃいました」
「(やっぱりな……俺みたいに殺されかけないだけましか)」
ウェンディは息を乱しながらも、転移魔法を使えるようになった興奮が収まらなかった。
「まぁ、今夜は宴会だろうし、魔力を回復させて明日の昼に移動だな」
「ハーレイ様、今晩は飲みまくりますよ!」
「げっ……ルナリカちゃん、俺たちは今夜、移動しねぇか?」
「え~、せっかくおいしいお料理が食べれるのにぃ、嫌ですよ」
「……」
「そ、そういえば『婚姻の儀』は無事に進んでるかなぁ?」
ウェンディの目が輝く。
「さぁ、次は私たちの番ですよハーレイ様」
「サーミャちゃんも娘としてちゃんと可愛がりますから――ぶはっ」
ハーレイはウェンディの口にハンカチを詰め込む。
(扱い雑だなぁ、ハーレイ様……)
「――だ~っ! お前はガキの時から変わんねぇな」
「もぐもぐもぐーっ (はぁ~い、変わってないですよ! ず~っとハーレイ様一筋ですよ)」
「は、話が進まん」
「助けてくれルナリカちゃん」
(この人、シャルのお姉さんじゃないかと思い始めてきた……)
(ぷっ)
しばらくの間、ルティーナと馬琴はウェンディとハーレイのイチャイチャにあてられていた。
その後、『婚姻の儀』は無事に終わり、三人も宴会へと呼ばれるのであった。
そして翌日の昼。
ハーレイとルティーナは、ブルデーノにいるヘイガルを目印に転移を始める。
「それじゃあ夕方な、ウェンディちゃん」
「はぁ~い、あなた」
「『あなた』って言うなっ! (ノモナーガに帰りてぇ~)」
「ハーレイや」
「はい?」
「そのまま、娘とよろしくやってくれ!」
「国王まで、勘弁してくださいよ~」
「私は今まで通り、国は別々でもかまいませんよ」
「だってぇ、私が毎晩、あなたの部屋に転移すればいいんですからぁ~」
(ぶはっ……転移魔法の使い方を間違ってる……)
(ハーレイ様が苦手なわけだ)
「(ところで、なんで毎晩なの? マコト)」
(……)
笑いがこぼれる中、ハーレイは『ディメンジョン・テレポート』の詠唱を終え、逃げるように転移して行った。
そして――ブルデーノ城。
お茶を飲みながらヘイガルは寛いでいた。
「そろそろ昼だな……アイツが転移するって言ったら俺のとこだよな――」
予想通り転移空間がヘイガルの目の前に発生する。
「出やがったな黒い空間っ」
「(これは、まじで心臓に悪いな!)」
そしてハーレイとルティーナが飛び出してきた。
「よっと」
「ヘイガルっ、さすがに2回目だと攻撃はしてこねぇな」
「違げーよ、シャルレシカが、ルナリカ達が合流するって予知夢で言ってたんだよ」
「さすがシャル、わかってるぅ」
「こっちだって色々あったんだよっ」
「ここは、大使館か?」
「いいや、城の中さ」
そしてヘイガルは無事に謀反者の炙り出し作戦が成功し、今、城内は大騒ぎだと説明をする。
「良かった」
「で、エリアル達はどこへ?」
「あぁ、あいつらは今、出かけてる」
「もうじき帰ってくると思うが……」
「?」
(ブルデーノなんて来たことないだろ?)
「(街でも散策したくなったんじゃない?)」
その後、シャルレシカとエリアルが戻って来た。
「本当だ、ハーレイ様だったんですね」
「ルナがここに居るってことは、無事に婚約は成立できたの?」
「うん、ばっちり」
「お互い、うまくいって良かったわ」
「それよりぃ、ミヤはどうしちゃったんですかぁ?」
「そっか、シャル達は知らないんだね」
ルティーナはサーミャの今の状況と、ハーレイが転移できた経緯を説明した。
「夕方にハウルセン王達を連れ、モルディナ王国のウェンディが転移してくるんだ」
「おい! ウェンディに話したのか?」
「っていうか、お前、あいつに会って来たのか!?」
ハーレイはしかめっ面になる。
「あ……成り行きなんだ」
「そもそも、タイヘイが反乱を起こさなきゃこんなことには――」
そうして夕方まで、五人はお互いの情報を交換しながら待つのであった。
「さぁて、そろそろ夕方だな」
「さっきベルメールさんに事情を話しておいたから、大広間に移動するぞ」
日が暮れると、約束通りにハーレイの目の前に黒い空間が発生した。
「来たな」
するとウェンディ、続いてハウルセン王とセレーナ姫が順番に飛び出してくるのであった。
「は、ハーレイ様ぁ~」
「おっ、これはこれは」
「きゃあ (ドスンっ)」
ハウルセン王はよろよろしながらも、なんとかその場に立つことはできた。
しかしセレーナ姫は着地に失敗し、尻もちをついてしまう。
「おぉぉっとっと……大丈夫かい? セレーナ?」
「大怪我にはならないだろうが、着地には注意しなければならんな」
セレーナ姫はお尻を撫でながら立ち上がる。
「でもお父様、普通に移動すれば三、四日かかることを考えれば」
「そうだな、若干の注意点を妥協しても、文句の言いようのない最高な移動手段だ」
「――って、聞いておるのか?」
ウェンディはハウルセン王たちの会話など気にも留めず、ハーレイにすりついていた。
「あっごめんなさい、ハーレイ様に夢中で――」
「つか、これ見よがしに抱きつきやがって!」
「人前はやめてくれって……」
「あははは~」
その光景に呆然とするエリアルとシャルレシカ。
「こ、この人がウェンディさん?」
「ん? あらあら、私としたことが……初めましてお二人さん」
ウェンディは初対面のシャルレシカとエリアルに挨拶をする。
「(ねぇシャル……この人、もしかして?)」
「(あっ……転移魔法を使えたってことは、ミヤが言っていた光魔法が使えるおばさんですぅ!)」
「(いや、それもそうなんだけど……そうじゃなくって……)」
エリアルは、鑑定士ファイデンの命を救った時の水晶の映像に写っていた女性がウェンディでないかと悟った。
水晶に映った映像では豪雨でローブは被っていたが、モルディナの魔法師であり、白い髪と体型がシャルレシカに似ており、見た目が若いことも全てが一致していた。
「(そっかぁ、この人かもしれませんねぇ?)」
「(ではでは早速ぅ、五年前の記憶を――)」
エリアルはシャルレシカとひそひそ話をしながらも、彼女の暴走を一旦止める。
「(僕に任せて)」
「色々ありましたが、これで全てが終わりましたね」
「君たちのお陰だ」
「後は、謀反を起こそうとした者達の対応だな……」
「こればかりは、この国の問題だから――」
「あの王様、ご相談が――」
エリアルはハウルセン王に提案を始める。




