第180話 裏切ト確執ノ王国
サーミャに施された闇魔法体得の儀式。
しかし、その儀式が本来のやり方とは異なっていたことが幸いし、偶然にもサーミャの眠れる『無属性魔法』を覚醒させていたのであった。
「それじゃ、魔法の詠唱がわかれば……」
「マコトが元いた場所に戻れるってことですよね?」
ヘルセラは目を逸らす。
「だから、言っておろう? その詠唱は知らんと――」
ロザリナはふと思いだす。
「そういえばミヤがイスガからもって帰ってきた文献の切れ端……」
「八属性の魔法使いができる詠唱魔法が書いてなかった?」
(拠点に戻れば……確認できるか)
ルティーナは、その話をヘルセラに伝える。
「それは本当か? それなら奇跡が起こせるかもしれぬ」
(血まみれで読めなかったような……)
「(読めても、こんなの使えないって、ミヤがあきれてたもんね)」
だが、馬琴には最後の懸念があった。
(俺の入っていた『サモナー・ストーン』かぁ……)
「(タイヘイが集めた破片の中には、マコトが入っていた水晶は無かったんだよね)」
(あぁ、それに誉美の石は、イスガの大地に埋もれて探しようがない……)
「(ここまで来たんだから、きっと何か方法が見つかるわよ)」
ヘルセラは放心状態のルティーナに声をかける。
「――リカ、ルナリカや? また、マコトとひそひそ話か?」
「あっ、すみません」
「ところでルナリカちゃん……やっぱり戻るのか? モルディナに?」
「?」
事件は解決したものの、気付けば時間は深夜をまわっていた。
(あはは、ハーレイ様がウェンディ様の餌食になってしまうな)
「(えじき?)」
馬琴はハーレイが怯える理由を察したこともあったが、サーミャの持ち帰った文献を調べるために、今夜はルティーナとロザリナとヘルセラで『零の運命』の拠点に戻ることにした。
そして翌朝、ルティーナはハーレイと二人で、改めてウエンディの元へ転移する。
一方、別行動でブルデーノ王国へ向かっていたエリアルとシャルレシカとヘイガルは、ハウルセン王の執事ベイメールと共に、夜明け前に城までたどり着いていた。
「陽が昇る前に到着できましたね」
「さぁて……これからどうするか?」
「ヘイガル様、あちらに回ってください」
「王城の裏門がございます」
ベイメールに案内されるまま、ヘイガルとエリアルは馬首を向ける。
「ここからなら、話が分かるものがおります」
「急いでください」
「助かる。アルデさん」
「シャルレシカっ! この城に居る謀反者の探索して――」
エリアルはヘイガルを止める。
「あ、あのヘイガル様」
「シャルは私達に迫る悪意は判別できるだけなんです」
つまり、この国に居る反逆者は、シャルレシカに対して敵意を抱いているわけではない。
「そ、そうなのか……確かに反逆者から見ればシャルレシカはただの娘……敵意は向かねぇな」
「――なのでルナは、シャルに悪意を向けさせれば良いって言ってたんですよ」
「それなら、良い方法がございます」
ベイメールは裏口から城に三人を連れて入る。
そして、ハウルセン王が一番信頼を置いている近衛兵隊長のフェリクスの部屋へ向かう。
「フェリクス様っ」
「誰だぁ? こんな朝早く? そ、その声は……ベイメール!」
「それに……お主、ノモナーガのヘイガルではないか? 何故ここに――」
「早朝に大変失礼いたします」
ベイメールはフェリクスに三人がこの場に居る理由を説明した。
「なに! まさか大手を振ってハウルセン王に反旗を……」
「そこでフェリクス様、国内の主要な領主達と、城内の主要な役職者を午前中に招集してもらいたいのですが」
「かまわない」
「一芝居を打つわけだな」
そして、二時間後――。
城内の大広間には、大勢の関係者が集められていた。
そしてフェリクスがその場を仕切り始める。
「あぁ~皆様、お忙しい中、緊急の集会にお集まりいただきありがとうございます」
「本日は――」
「フェリクス殿っ、これは何の騒ぎですか……」
「緊急とお伺いしましたが――」
「ハウルセン王が不在の中、何故、あなたがこの場を仕切っておられるのかな?」
領主たちから、不満の声が次々に上がる。
フェリクスは、ハウルセン王から「自分がモルディナに到着次第、この会議を開催するように」と指示されていると嘘をついた。
「ったく、私は昼から大事な用事があるのだよ!」
「(近衛隊長の分際で気に入られていると思いやがって……)」
「トレイユ伯爵~ぅ、ご協力をお願いいたしますよ」
ヘイガルは挑発気味にその場を煽り始める。
「なんなんだね君は、初対面で失礼じゃないかっ! (何故、俺の名前を)」
「バレンツ侯爵、私は時間がないのだ、そんな事はどうでもいい! フェリクス殿、さっさと始めてくださいよ」
しかし、煽られたトレイユ伯爵は気が済まない。
「そもそも、そこの三人組――部外者が……早くつまみ出せっ!」
ヘイガルの口角が自然と上がる。
「(おちょくるのは最高だな、謀反者ってわかってるから楽しいぜ)」
「(なるほどぉですねぇ~)」
「(みんなを集めてぇ私達を邪魔者と思わせちゃえばぁ~いいんですねぇ)」
「私達はぁ、あなた達の中からぁ~謀反しちゃいそうな人をあぶりだしちゃいますぅ」
「「「「「!」」」」」
ヘイガルは腹を抱えて笑う。
「シャルレシカ、ストレートだなお前……嫌いじゃないぜ」
「(お前に悪意をむき出しにする奴が居たら教えろよ)」
「(はぁ~い)」
そしてフェリクスは、この国に謀反を起こそうとしている者を調べるための場だと説明する。
困惑する参加者。
「これから一人一人、事情聴取させてもらい、状況次第では近衛兵団が確保させてもらう」
「な、何を言っているんですか? フェリクス殿?」
「まさか本当に、そんな小娘に……」
フェリクスは、シャルレシカは占いの能力で嘘と真実を見抜く事ができる冒険者だと、さらに脅しに拍車をかける。
「なななっ、たかが冒険者風情の分際で! ハッタリもいいところだっ!」
「そ、そうだ! ハウルセン王は気でも触れましたのか?」
一部から動揺が走るものの、謀反など考えていない者は、率先してシャルレシカの前に並んだ。
その様子に焦るトレイユ伯爵は、昼からの用事に間に合わなくなると場を乱し始める。
「私には時間が無いと言っている! 馬鹿馬鹿しい、帰らせていただくっ!」
ヘイガルは笑いが止まらない。
「ご心配いらないっすよ、トレイユ伯爵ぅ」
「この子が質問したら頭に浮かぶ記憶を読み取るだけだっつうの!」
「!」
トレイユ伯爵の顔が青ざめる。
「そうですよぉ~一分もかかりませんからぁ」
フェリクスは必死に笑いを堪えていた。
「お急ぎなのでしょ?」
「皆さん、トレイユ伯爵を先に譲って上げましょう」
「さぁさぁこちらに――」
「く、くそっ! ふざけるなっ!」
「それより、そこの髭野郎っ何を笑っているっ」
「あぁすまんね」
「あんたの事は既に裏切り者って知ってたからさ……イジられてるのみてたら、つい」
するとシャルレシカは反応をする。
「あのぉ、そこのハゲ頭の人から殺意を感じますう」
「は、ハゲ頭だとぉー!」
「衛兵っ、トレイユとバレンツを取り押さえろっ」
「あとぉ、そこの太って目つきが悪い人とぉ、横に居るガリガリの人からもぉ――」
それから数分で、十人近くの貴族と王国の役職者が確保される。
次々に向けられる悪意――シャルレシカは潜む謀反者を指摘して続ける。
そんな中、近衛兵がシャルレシカに後方から襲い掛かろうとしていた。
「闇魔法で気配を消せるようですね?」
「貴方は、最初からシャルが警戒していました」
エリアルはすかさず、その近衛兵の首元に剣を突き立て睨みつけた。
「剣を捨てて、大人しくしたまえ」
シャルレシカはこの部屋に集まった時点で、気配が全くしない近衛兵が二人居るとエリアルとヘイガルに事前に話をし、挙動を監視させていたのであった。
もう一人の近衛兵が動く――。
後方から、剣をシャルレシカに向かって投げつける。
その男を警戒していたヘイガルは高速の動きで、簡単に飛んでくる剣を払い落とし一瞬で懐まで接近し制圧した。
「お前、近衛兵のくせに『神速のヘイガル』を知らねぇな?」
「(途中まではカッコ良かったのに……痛いです……ヘイガル様)」
「エルぅ、ガル様ぁ、ありがとうですぅ」
「(が、ガル様? ……俺の事かぁ?)」




