第176話 老兵ノ登場ト反撃
ノモナーガ城での朝時の罠にはまってしまったハーレイであったが、サーミャに教わった転移魔法で危機を脱する。
そして、ノキア王を救うべく、合流したルティーナ達と作戦を立てていた。
「で、どうするんだい? ルナリカちゃん」
「大勢ではかえって目立ちます。少数精鋭で行きます」
「で、メンバーは?」
「ハーレイ様は当然来てもらいますよ」
「転移と城内の案内をお願いします」
「ルナリカちゃん、私も転移してみたぃ~」
「あぁ~っ! ウエンディちゃんは黙ってろ! 教えてる暇がねぇっつうの!」
「は~い。ハーレイ様の言われるがままに」
(……やっぱ、連れて行けねぇ)
「(あはは)」
現地に向かうのは、ハーレイ、ルティーナ、ロザリナ、そして索敵担当のヘルセラの四人。
「まずは、ミヤの眠っているという部屋まで案内してください」
「すぐに、ヘルセラ様に索敵で調査してもらいます」
「まぁ、任せな……城内ぐらいなら余裕で詳細索敵してやるわい」
「先日、ノキアに逢いに行って正解だったわい」
「確か執事もおるよな? 気配は覚えているから、ある程度は判断できる」
そんな様子を寂しそうに見つめるウェンディであった。
「ウェンディちゃん……」
「!」
「まだ、俺の師団員が万全になるまで面倒みてくれねぇか……お前しか頼めねぇんだ」
「わかりましたわ」
(さすがハーレイ様、扱いがうまいな)
「あなたのお帰りを……」
「ちゃんとお風呂に入って、いけない下着を着けてお待ちしていますね」
「(マコト……いけない下着? って何?)」
(ぶはっ……だめだこりゃ)
そしてハーレイはシーゲルに師団員の怪我が回復次第、自力でノモナーガまで帰国するように指示をする。
「それじゃ、いくぜ!」
ルティーナ達はハーレイにしがみつく。
「「「ご武運を」」」
全員に見守られながら、ノモナーガ城に居るサーミャの元へ転移するのであった。
ルティーナ達がノキア王救出の準備をしていた頃。
ノモナーガ城の特設墓地では朝時が目的の第一段階を終えていた。
「あとは、この水晶をダブリスの体にぶっ刺せば、洗脳しなくても支配し、完全に俺のものにできる!」
ノキア王はブランデァの姿で大笑いする朝時を睨みつける。
「貴様っ! 逃げられるとでも――」
しかし朝時は余裕の笑みを見せる。
「あたりまえだろ?」
「ダブリスの身体能力と俺様の闇魔法がありゃ、これ以上のものはないぜ!」
「……っ」
そして朝時は、ノキア王を連れ特設墓地を後にした。
――向かうはダブリスを拘束している応接間。
応接間ではダブリスが眠らされ、拘束されたままうなだれていた。
「ダブリス……お前が一度助けてくれたこの命に代えて――」
ノキア王はもう全てが終わってしまったと開き直り、朝時の行動を止めようとブランデァにしがみついた。
――たとえ首輪の『カース・ストーン』の条件が発動してしまって命を落とすと分かっていながらも。
「往生際が悪いぜ王様よぉ」
だが、ギルド長の名は伊達ではなく、体術であっさりとノキア王の脚を払いのけ床に叩きつける。
「ぐはっ」
「首輪が怖くねぇのか?」
「残念だったな。その首輪、何が条件か俺も知らねぇんだわ!」
「なんだと!」
「お前は床に這いつくばりながら、俺様が降臨する様をおがんでな!」
ブランデァは『サモナー・ストーン』を巻いている布を外し、彼に憑依している朝時自身を水晶へ移動させる。
『おっと、このまま刺したら、この身体じゃ身動きも取れねぇな』
そしてブランデァはダブリスの拘束を外し、『サモナー・ストーン』を突き刺そうとした瞬間――。
ダブリスは華麗に身をかわし、ノキア王の前に立つのであった。
「残念だったな! タイヘイっ!」
『な、何故だ! 貴様は眠らせていたはず――なぜ?』
物陰から一人の男が顔を出す。
「わたくしでございます」
ノキア王はその男を見て驚愕する。
『ど、どうして……』
「ノキア王申し訳ございません」
「こやつを油断させるため、一芝居打たせていただきました」
そこへ現れたのは、執事のデーハイグであった。
彼は、ブランデァが最初に城に来た時から邪悪な黒魔法のオーラを感じていた。
だが、ダブリスがなんとかするであろうと様子を見ていたのだ。
「想定外でございました」
「ノキア王が『カース・ストーン』を装着され、ダブリスが拘束されてしまうとは」
「デーハイグ殿、助かりました」
「いやいや……本当は表舞台に戻るつもりはなかったのですが……」
デーハイグは、ブランデァが部屋を出た後すぐにダブリスに気付け薬を飲ませていたのであった。
その後、二人を尾行し、何を企んでいるのかを理解した上で、ダブリスと反撃の機会を伺っていたのであった。
『おのれ~デーハイグ!』
『てめぇっ! ただの執事じゃ――』
ダブリスは水晶の朝時を睨みつける。
「俺も、さっき知らされたんだがな――」
「このお方は元暗殺部隊の二代目の長であらせられる」
『!』
「!」
――デーハイグ=グルシア。
彼は七十年前の十五歳の時に暗殺部隊に入る。
功績を積み上げていく中で、能力の高さと思慮深さを評価され若くして二代目の隊長となる。
そして二十年の月日が流れ三代目に隊長の座を引き継ぐ。
その後は、先代の王の執事として身の回りの世話をする役目を担う。
「今では現役の王を影から護衛する立場なのです」
「私は先代から何も伺っておりませんでした」
「私がそうしてくれと三代目に念を押しておきましたからな」
「それ以前に、暗殺部隊内はお互いの素性はできるだけ情報交換しない事を、今でも徹底しておられるはずですよね?」
「余ですら父上から何も……だが、お前が居てくれて心強い!」
しかしデーハイグの顔に陰りが落ちる。
「王を護衛する身でありながら、爆破事件に続いて……二度目の失態を」
「……本当に申し訳ございません」
しかし朝時は、そんな逆転ムードに怒りがあふれ出す。
『そんなことはどうでもいいっ!』
『もうろくじじぃがぁ、てめぇのせいで何もかも滅茶苦茶じゃねぇかっ』
ノキア王は、ハーレイ達を急いで救出するように二人に命令する。
しかしデーハイグは笑顔で、全員無事だと伝える。
大広間の罠は、そもそも賊が押し入った場合の備えという理由で、当時、朝時に体を乗っ取られていたノキア王の指示で仕掛けられたもの。
それを手配したのはドルグスであり、それは自分の息子であること知らされる。
『なに! ドグルスはてめぇの息子だと!』
『はい。罠を仕掛ける相談を受けていましたので、解除方法も存じておりました』
デーハイグは朝時が勝利を確信するギリギリまで、ハーレイの救出をする予定はなかった。
「すぐに救出いたしますと、そやつが何をするかわかりませんでしたからね」
「しかし、罠を解除した時には中には誰もおりませんでした」
「どういうことだ?」
「(そうか! ハーレイの奴、転移魔法を……サーミャの入れ知恵か)」
「ハーレイ様の事ですから、うまく脱出されたのかと」
「そ、そうか、それは何よりだ」
『ドグルス……』
『まさか、勇者召喚した時に使った水晶があれば誉美を吸い出せるって情報をふきこんだのも――』
デーハイグは薄っすら笑みを浮かべる。
「――左様で、ノキア王はあの爆破事件の後から、別人だと気付いておりました」
「そして、私なりに色々調べさせていたのです」
『く、くそっふざけるなっ!』
『(くそっ、暗殺部隊の二人を相手にするのは荷が重い……)』
『(水晶の中から一度、ブランデァに戻るか)』
――その頃ルティーナ達は、ハーレイに連れられサーミャが居る部屋に転移は完了していた。
ルティーナの目の前には、黒い肌に染まるサーミャが横たわり静かに眠っている姿に驚愕する。
「く、黒い? どういうことですかっ」
「まぁ詳しい話は後だ……簡単に言えば闇魔術が体に浸み込んでるって言った方がわかりやすいかな?」
「あと四、五日ぐらいは目が覚めねぇだろう」
馬琴は早速、ヘルアドに城の索敵をさせ取り巻く気配を探らせた。




