第175話 旧知ト転移ノ波紋
ノモナーガ王国での異変の中、場面は、ルティーナとウェンディが手合わせを始める少し前へと戻る。
――突然、出現する転移空間。
その禍々しさに、ウェンディは攻撃態勢に入るが、ルティーナは必死に止める。
「駄目ェ~っ、それは違うんですぅ!」
ルティーナはサーミャが転移してきたと思い込み、迎撃しようとしたウェンディを制止する。
しかし、その空間から現れたのは――。
ハーレイと十人近い疲弊した師団達であった。
「!」
ハーレイはノモナーガ城から脱出するため、サーミャから教わった『ディメンジョン・テレポート――転移――』を発動させたのだ。
ウェンディはハーレイを見て、一瞬、硬直する。
「すまねぇウェンディ! 話は後だ――ってルナリカちゃん?」
「なんでここに? ロザリナちゃんまで……俺はツイてる!」
ルティーナは、現れたのがサーミャではなくハーレイだったことに驚き、さらに転移魔法を使えた事実にも目を丸くした。
「なんで……ハーレイ様が――」
ハーレイは、懐からサーミャの『ヒーリング・ストーン』を取り出しルティーナに見せる。
「――そんなことより、ノキア王が人質にされたっ!」
「すぐに充電してくれ!」
突然、現れたハーレイ達に、その場に居た全員が驚愕する。
すると、モルディナ王がハーレイに声をかける。
「誰かと思えば……十五年以上、ご無沙汰で挨拶もないとは」
「あ~……その話は後だ王様っ、今は、それどころじゃねぇんだ!」
「一刻も早く――」
そしてハーレイは、今、起こっていることを全員に簡単に説明した。
「(ギルド長が謀叛を起こしたの? やっぱり絡んで……)」
(しかも、ノキア王の首に厄介なカース・ストーンを付けられてるとは――)
「はぁ、はぁ、はぁ――」
ルティーナは、あきらかに様子がおかしいウェンディに気付く。
「? う、ウェンディ様? 体調でも――」
「は、ハーレイ様~っ、我慢できませんっ」
いきなり、ウェンディはハーレイに飛び掛かり、押し倒し抱きしめ悶えるのであった。
「う、ウェンディさん?」
「私に逢いたくて、飛んできてくれたのですね」
「御会いしたくて、いつもいつもいつも淋しい毎日をすごしてましたのよ~」
「再婚が叶わないのなら、愛人でも構いませんから――」
(なんなんだ、この展開……ついて行けない……)
「(愛人?)」
「や、やめろウェンディちゃんっ(だから、会いたくなかったんだ)」
「緊急事態なんだって!」
その様子に、全員、呆然とし言葉を失ってしまう。
「ハーレイ様ぁ~ハーレイ様ぁ――」
ウェンディは最愛のハーレイに会ったことで我を失っていた。
「助けてくれぇ、ルナリカちゃん~」
「そんなに嫌なら、なんで、ウェンディさんを転移先にしたんですかぁ!」
「しかたねぇだろ……」
ハーレイは、転移魔法は『ヒーリング・ストーン』に魔力充電ができなければ一度しか使えない。
氷が迫る中、ノキア王救出を最優先にすべきか葛藤した末――。
「消去法で、こいつのとこに飛ぶしかなかったんだよ~」
サーミャの元へ転移すれば、王宮内であるためそのままノキア王の元へ駆けつけられるが、現状で疲弊してる兵力では返りうちに遭ってしまう。
「そうよ! ミヤはどうしたのですか?」
「サーミャちゃんは、今、黒魔法の瞑想中で動けないんだ!」
「!」
ハーレイは、頼りになる戦力を連れて戻って来る選択肢しかなかった。
「ルナリカちゃんにしようかと思ったんだ……だが」
仮にルティーナの元へ転移しても、もしロザリナが一緒にいなければ転移するチャージができずに戻れなくなる。
逆もしかり、ロザリナの元へ転移しても、単独行動していないとも限らないのであった。
その話を聞いているうちに、ウェンディは満面の笑みになる。
「やっぱり、私が必要だったんですね?」
「……」
ハーレイの選択肢はウェンディしかなかった。
確実に転移のチャージも出来、兵士の治療だけでなく強力な戦力になる。
背に腹は代えられず、ハーレイはウェンディへの転移を決断した。
「いいか? ウェンディ」
「はい」
「俺の為なら、今、負傷してる師団達を看ろっ!」
すると、ウェンディははしゃぐようにハーレイから離れ、早速、治療を始める。
「ハーレイ様の言うことなら喜んでっ」
(え……扱い雑……というか、ウェンディ様、軽っ)
「ハーレイ様、とりあえず状況は理解しました」
「作戦を考えますので、少しだけ時間をいただけませんか?」
「おう、解った……すまねぇな」
「ハーレイ様、『ヒーリング・ストーン』の充電しましたよ」
「ありがとロザリナちゃん……って、なんか、目、怖くない?」
ロザリナは、ハーレイのことを一時は尊敬していたが、やっぱり軽い男だと軽蔑をしていたのだった。
「ハーレイ様、私もウェンディ様のお手伝いしてきます」
「ねぇ、ルナリカちゃん……俺? 何か悪いことした?」
「さぁ~」
そして、ルティーナと馬琴が作戦を考えてる間に、疲弊した兵士の治療が行われる。
「ねぇ、ロザリナちゃん!」
「はい?」
「ハーレイ様の二番目の妻は私ですからね!」
「若い子が相手だろうと、これだけは譲りませんよ!」
「ないないないですよぉ~絶対に、あんな軽い――(ひぃぃ~目が怖いんですけどぉ)」
「軽い? ハーレイ様に魅力がないと!?」
「違いますってぇ~(助けてぇ~)」
ルティーナは、遠目でその様子を見守る。
「(なんだろう? これって修羅場ってやつ?)」
(どうでもいい……頼むから五分だけでも静かにしてくれぇ)
「ところでハーレイ様ぁ、転移魔法……その石に秘密がありそうですねぇ?」
「この件が終わったらゆっくり、私の部屋で将来も踏まえてお話しましょうねっ」
この世界の秩序を乱しかねない転移魔法の存在に興味を持ってしまったことを、馬琴は不安を感じる。
「ハーレイ様っ、転移魔法をバラしちゃってどうするんですかぁ!」
「秘密にしてたのにぃ~っ」
「そうしねぇと全滅だったんだ……許してくれよぉ」
――
ルティーナはハウレセン王には一旦任務を離れる事を説明していた。
だが、モルディナ王は複雑そうな顔でハーレイを見つめていた。
ルティーナは、その様子に気づく。
「あのぉ、モルディナ王……どうかなされたのですか?」
「うむ……あやつ、変わらぬな」
今から約三十年前、ハーレイが二十歳だった頃。
モルディナ王国がグランデ王国だった頃、魔法師団に所属していた。
彼の六属性の魔法特性を買われ、当時五歳になるウェンディの魔法の家庭教師も兼任させられていた。
「そういう関係だったんですね……」
(ってことは……あの容姿で三十五? 若っ! ハーレイ様は五十? 見えねぇ~)
「(お、お父さんと同い年……なんかミヤがうらやましい)」
(バルストさん泣くぞ?)
それから七年後、同盟を結んでいたノモナーガ王国へ出向することになった際、同じ魔法師団に所属していたサフィーヌと結婚し、共に去っていったのであった。
「それがサーミャのお母さん?」
その翌年にサーミャが生まれ、時々モルディナ王国へ顔を出していた。
しかしサフィーヌが死去して以来、音沙汰がなくなったという。
「そうなんですね」
「あやつ……余に挨拶がないのはいつものことだから許してやるが――」
「?」
「ウェンディの気持ちを分かってやれんものかなぁ」
(え? モルディナ王もそっち側?)
「余が何を言いたいかわかっておるだろうな? ハーレイ!」
モルディナ王の声を聞いたハーレイは、言葉に悩む。
「(こうなるから、避けてたんだよっ!)」
「とにかく今はやめてもらえませんか?……この件が落ち着いたら――」
「そうか、わかっているならよい」
その頃、ウェンディとロザリナは傷ついた師団達の治療を終えていた。
そして、馬琴の中でも作戦が決まる。
ハウルセン王に、今回の件が終わるまで、予定通りモルディナで交渉を進めてほしいと説明する。
「ノキア王の件が無事に終わりしたら、戻って参ります」
「その後、転移魔法を使い安全にブルデーノまで送らせていただきます」
「うむ、わかった」
そして、ノキア王の救出作戦の説明が始まる。
「ハーレイ様、ミヤは城にいるってことでいいんですよね?」
「あぁ、誰も知らないはずだ」




