第174話 親心ト窮地ノ脱出
ブランデァはノキア王と共に平然と歩き、すれ違う兵士達に何事もなかったかのように挨拶をして通りすぎていく。
目指すは、城の保管庫。
「ノキア王、このような時間に?」
守衛に疑問視されてながらも、ノキア王は適当に言葉を交わし中へ入って行くのであった。
「それより、何故ハーレイ達は追ってこぬのだ?」
「あの仕掛けから脱出できるわけねぇだろ?」
「大広間に仕掛けだと? 知らんぞ! そんな話っ」
ブランデァは、ドグルスに何かに使えると仕掛けを作らせていたと語る。
ノキア王は、彼が暗殺部隊の面々を知り、さらには指示まで出していた事を聞き、頭の中ではありえないと否定しながらも一人の男が浮かぶのであった。
「! まさか……ありえんっ! 何故だ、何故なんだっ!」
「貴様ぁ、なぜ生きておるっ!」
「やっと気づいたのか? 遅ぇ~よ」
「お前が甘いんだよ……フェンガの遺体を火葬しなかったのが失敗なんだよ!」
「そうか……ブランデァは貴様が洗脳で操っているのか!」
死んだフェンガの中には、意識だけの状態で朝時は生き延びていた。
「あんたのことだ、フェンガは氷葬にしたんだろ?」
「そりゃ、あんたを救った英雄扱いだもんな……灰にはできねぇよな」
「(なんてことだ……)」
そして、保管庫の中でブランデァはノキア王に指示を出す。
「俺様があの時、興奮して粉々にしてしまったが、召喚された時の『サモナー・ストーン』には変わりねぇ、もう一度触れれば、きっと……」
「(それで倉庫に……)」
ノキア王は、ルティーナ達の中にいる馬琴や、エリアルの中にいる誉美を外に出せるヒントになるかもしれないと、ダブリスに指示し水晶を全て保管していた。
「伊達にあんたと八年近く意識を奪っていたわけじゃないぜ」
「なんでも取っておく癖が仇になったな、ノキアさんよぉ」
保管庫には、朝時が入っていた今では粉々になってしまった水晶で一番大きめの物を見つけ、自分の懐に入れた。
そしてノキア王と調べたい事は終わったと守衛に伝え、保管庫を後にする。
そのまま二人は、フェンガの眠る城内の地下にある特設墓地へ移動を始めた。
ノキア王はそのまま、この状況を必死に理解しようとしていた。
「しかし、ブランデァに洗脳魔法を仕込む機会なんて……」
「余も貴様の行動を、時折、意識の奥で見ていたんだぞ」
それを聞いたブランデァは少し微笑む。
「そうだったのか? だが、全部じゃねぇだろ?」
「こいつ、武闘会で大失態をしただろ? あの事件は想定外だったがな」
「……ウェハルンがシャルレシカを試合中に狙撃した事件か?」
「ほぉ、覚えてるだな?」
朝時は気づく。
「――はぁ~ん……そういうことか?」
「予定外の事で俺の意識が混乱した時、支配が弱まっていたんだな」
「……しかし、余は貴様が外交を盛んにしていたことも覚えているぞ!」
「あれな……ストレスばかりだった頃だな……」
「あいつら、人の素晴らしい提案を飲まねぇから憂さが溜まったもんだ」
そうして、外交中に弱みを握った他国の官僚達に『ダーク・マニピュレート――洗脳――』を仕込み有利に展開を進めていたのも事実。
――ブルデーノの幹部にも。
「まぁ、結果、いろいろと他国との同盟を結んでやったんだ。感謝しな」
「貴様はトモミという女性を探すためだろうがぁ!」
「うるせぇ」
「あげくの果てには、駒を増やすために外交に力をいれていたのか!」
「バーカ、ただで国を良くするわけねぇだろ?」
「すると! 今回のブルデーノからの急な護衛依頼は……」
「まさか、ノモナーガからルナリカ達を遠ざける為か!」
「くくくくっ、ご名答~」
ノキア王は最悪な結末を考え始める。
「(どうすればよいのだ、このままではタイヘイが復活してしまう……」
「また、余を乗っ取ろうとしているのか?)」
今、自分を守れる駒は誰も居ない。
「(デーハイグ……気づいたとしても――無理か)」
ノキア王は対処も何も打てずに特設墓地に到着する。
「特設墓地かぁ、てめぇの親の二十年回忌の墓参りをさせられた依頼だな」
そしてノキア王は守衛に必死に違和感を伝えようとしていたが、ブランデァの巧みな話術で邪魔され何も伝える事も出来ずに中に入っていく。
「お~寒っ」
「ったく、この国は、過去の国王とか英雄級の人物を氷葬するなんて――趣味が悪いぜ」
そしてブランデァは氷の棺の中をのぞき込む。
「フェンガ……いるじゃねぇか」
そして、ブランデァは火魔法を使い氷を溶かし始める。
ノキア王はその様子を黙って見守るしかなかった。
「(もう、奴は止められないのか……これでは振り出しに――)」
絶望の顔に染まるノキア王の顔に気付いた朝時。
「なぁノキア、お前……なんか勘違いしてねぇか?」
「!」
朝時は、フェンガから脱出できた後にノキア王に乗り移る気はなかった。
「てめぇ乗り移ったら最後、取れない首輪がついてるんだ、自殺行為だろ?」
「それに俺は、お前の地位には興味なんざねぇのさ!」
彼は、ダブリスが目的だと笑いながら語る。
「奴なら身体能力の高さと、俺様の得意の闇魔法を全開に引き出せる可能性がある」
ノキア王は、ダブリスだけを個別に拘束し、ハーレイ達と違う対応をしたのかを理解したのであった。
「俺はなぁ、里見……そう、ルナリカの器ごと復讐してやりてぇだけさ」
「そして――誉美を」
そうしているうちに、氷の一部が溶けダブリスの顔がむき出しになる。
朝時は、ブランデァの懐から水晶の破片を取り出す。
――すると、水晶が輝き始め、朝時の魂が吸い込まれる。
そして、そのまま手に持っているブランデァへ乗り移ったのだった。
「やはり移動ができた!」
「ブランデァが自分の体のように動かせるぞ! ぶはははっ!」
朝時は、水晶に戻らないようにすぐに布で包み直接接触しないようにするのであった。
「何という事だぁ」
ノキア王は目を閉じ肩を落とす。
その瞬間、朝時は勝利を確信した。
そして、ノキア王にブルデーノでの所業を自慢気に語り始める。
「俺様は、ハウルセン王の第一側近パトリッシュにしかけていた洗脳魔法を発現させたのさ」
「反対派閥にいらない情報を拡散させるためにな」
『ダーク・マニピュレート――洗脳――』。
この魔法は、仕込む人数に制限はないが、直接意識を操作する。
そのため一度に一人ずつしか操れない。
さらにはこの魔法は、解除すると自我を取り戻す欠点がある。
「解除すると自白されちまうからな……自殺させてやったよ」
「卑劣な……ブルデーノの情勢がおかしくなったは貴様の――」
そして反対派閥にきっかけをうながし、他の駒を洗脳で誘導することで、婚姻破綻をさせるために動かしたのだと。
「だが、こいつの役目も俺がダブリスに乗り移ったらお役御免さ」
その頃、大広間に閉じ込められたハーレイ達。
無常にも時間と共に、生存できる空間はどんどん狭まっていく。
「ハーレイ様っ、私が余計なことをしたばかりに」
「気にすんな(……とは、言うものの、どうしたものか)」
ハーレイの予想したタイムリミットが迫る頃、魔法師団達の魔力が底をついていた。
「(やはり外から解除してもらうしか手がないのか?)」
「(誰か……気づいてくれ――)」
ハーレイは部下達に強がってはいたが、さすがに諦めかけていた。
そんな中サーミャの顔が目に浮かぶ。
「(やべっ、俺が死んだら……サーミャちゃんに誰が魔力補充してやるんだ!)」
「(明後日もその先もやってやらねぇと……激痛に耐えられずに――)」
後悔の念が押し寄せる中、ハーレイの目に光が戻る。
「――まだ、手があるじゃねぇか!」
「どうかされましたか?」
「聞けぃっ!」
ハーレイは部屋の中心に走り、全員に氷壁に抵抗することをやめさせ、自分の周りにぴったり着くように集まれと声をかける。
「は、ハーレイ様っ? 抵抗をやめたら自殺行為では――」




