第173話 私怨ノ強襲ト危機
時間はルティーナ達がモルディナに到着していた頃へと遡る。
その頃、ノモナーガ城では――。
「ブランデァ様、お待たせいたしました」
「ノキア王の許可をいただきましたので、どうぞこちらへ」
そこには、ノキア王との謁見を待つブランデァの姿があった。
そして何の疑いも持たれることなく、執事のデーハイグに応接間へ案内されていく。
「どうしたのだブランデァよ」
「このような時間に?」
「はっノキア王っ、まずはこちらの物をご確認くださいっ」
ブランデァは懐から小さな箱を取り出し、ノキア王に差し出した。
「なんだこれは? 開けて良いのか?」
「どうぞっ」
そして、ノキア王が箱を開けた瞬間、箱の中から眩ゆい光が発生し、思わず目を閉じてしまう。
その様子を見たブランデァはノキア王の後ろに回り込み、首元へ『カース・ストーン』をはめるのであった。
「な、何の真似だ! ブランデァ!」
「(くくっく、ギルドの封印庫に、こんなものがあるから悪いんだ……何が条件かは知らないがな)」
「さぁ~て、めんどくさい口調も終わりだ」
「おいダブリスっ、どうせその辺にいるんだろ? 隙なんか狙ってねぇで出て来いよ」
屋根裏から飛び出してきたダブリスが、ブランデァの前へ立ちはだかる。
「き、貴様っ、ノキアに何をしたっ!」
「(なぜこいつが、俺の存在を知っている…………いや、ありえんっ)」
「おいおい、物騒なものはしまっておけよ、ノキアがどうなってもいいのか?」
「そ、その首輪は……まさか」
「やっぱり知ってる顔だな」
「(こいつ、どんな条件を付与したんだ?)」
ギルドの倉庫に保管されていた『カース・ストーン』は、以前ドグルスがサーミャに装着していたものだ。
ルティーナが取り外した後、鑑定士オリハーデに相談し、ギルドへ預けていたものであった。
当時は、『サーミャが魔法を使えば自らの首が締まる』とドグルスに脅されていたが、『カース・ストーン』には誰がという条件は付与できないことに騙されていた。
「さぁて、俺のいう事に従ってもらうぜダブリス」
「くくくくっ、王の命がかかってるぜぇ~慎重に考えるんだなっ」
今、付与されている条件は、『装着者が魔法を使うと首が締まる』というものだ。
ノキア王はもともと魔法が使えないため、実害はなかった。
だが、ブランデァはその経緯を知らず、脅しとして利用するには十分だった。
「貴様っ」
ダブリスは、ノキア王を人質にされ抵抗を諦めた。
「そうだなぁ~、ダブリス……床に這いつくばれっ!」
ブランデァはダブリスから武器を取り上げ、応接室の床へうつ伏せにさせると、鎖で張り付けにした。
さらに、自決用の薬を奥歯から抜き取り、睡眠薬を飲ませて沈黙させる。
「だ、ダブリス……」
「さぁて、残った邪魔者は……ハーレイと師団だな」
「貴様ぁ~っ!」
「そうだ! いい方法を思いついたぜ」
ノキア王は何事もなかったようにデーハイグを呼び出し、ブランデァから言われた通りの指示を伝える。
「――かしこまりました」
そして異変に気付くことなく、デーハイグはその場を後にする。
「こ、これでよいのか?」
「あぁ上出来だ」
「さぁて、ハーレイにも、たっぷり礼をさせてもらわねぇとな」
――コンコン。
ハーレイの部屋に魔法師団の副長シーゲルが訪問してくる。
「ハーレイ様、いらっしゃいますか?」
「ん? こんな時間に何だ? 入っていいぞ」
「ハーレイ様、失礼いたします」
「王からの指示で今から大広間に集まるようにと――」
ハーレイは頭を掻きながら、サーミャが眠る部屋を見つめる。
「こんな時間にか?」
「(今日は、サーミャちゃんに魔力を補充の日だっていうのに)」
「俺達だけか?」
「ヘイガル様は別任務にお出かけされておりますが、師団の部隊長以上全員に声がかけられているようで……」
「緊急の案件があるとのことです」
「(緊急……?) わかった、すぐ行くと伝えてくれ」
そして、シーゲルは部屋から立ち去った。
「――初めてじゃねぇか? 俺が導師団長になってから」
「まぁ、今までノキア王はタイヘイに操られていたからな……(だから、こんな招集はやらなかっただけなのか?)」
ハーレイは、そのままサーミャの眠る部屋に入り、魔力充電の儀式を始める。
――そして招集から二十分程遅れて、ハーレイは大広間に到着するのであった。
「お、遅かったのハーレイ」
「すいませんっ、やっぱ俺が最後っすか?」
「(ん? 王は寒いのか? 首に布を羽織ってやがる――)」
「(それになんでブランデァが王の横に居るんだ?)」
「ノキア王っ、近衛師団幹部、隊長以外の六名揃いました」
「魔導師団幹部、俺を含めて……(あれ?)四名……」
「申し訳ありません、魔導師団の医療班がまだ揃っておりません」
「いらねぇよって言うか、ここにいてもらっちゃぁ困るんだよ」
ハーレイの話に笑いながら、ブランデァが牙をむく。
「ブランデァ? 貴様――」
「『ライトニング・ニー――』」
ハーレイがブランデァに先制攻撃をしかけようとしたその時、ノキア王の首元を隠していた布を剥ぐ。
「そ、それは……『カース・ストーン』? じゃねぇか」
招集された全員は、その場を動かないように指示され、ブランデァはノキア王を引きずるように部屋の外へ連れ出すのであった。
「そこから動くなよ!」
「貴様らはここで大人しくしてもらうぜ」
そして、ブランデァが部屋の扉を閉めた瞬間――。
大広間の外壁から徐々に内側にむかって凍り始め、全員に迫ってくるのであった。
「ドグルスにこの部屋に罠を仕掛けておいたのが役にたったな」
「な、ドグルスだと! 貴様一体!」
「お~っと、口が滑っちまった……」
「そもそもダブリスの事も知ってるんだぜ、そろそろ気づけよ王様」
「!?」
一方、閉じ込められたハーレイ達は――。
「なっ、何だこりゃっ」
「(この部屋になんでこんな仕掛けが?)」
「(ブランデァの奴が? いやいや王宮内だぞっ!)」
シーゲルは冷静に行動を始める。
「床に風穴を空ければ! 『アースエンベッド――融解――』っ」
大広間は二階であったため一階に脱出できると想定していた。
しかし、床の下から怪しい煙が噴き出し始める。
「「「ぐ、ぐわーっ」」」
周りにいた数人の近衛兵が倒れ込む。
「なっ!」
「シーゲルっ! 迂闊すぎだぞ!」
ハーレイは現状を必死に分析しようとする。
「しかし、どうなってんだよっ!」
「(床から何っ――毒か? それで医療魔法が使える奴を招集しなかったのか!)」
「おまえら四方に分散しろっ」
ハーレイの的確な指示で、土魔法が使える者に床の隙間を塞がせた。
そして『ロック・ウォール――岩壁――』で壁を作らせ、氷の侵食の時間稼ぎをすることにした。
「バーダック! ハーレイの代わりにお前が仕切れ!」
「俺の周りにこの近衛兵をあつまらせろ! ここは俺達がなんとかするっ!」
そして、ハーレイは師団員に、火魔法で壁へ放射し、氷対策をするよう指示を出す。
「くっそ、サーミャちゃんに魔力を補充してなきゃ……アレが使えたのに」
「ハーレイ様、どうしますか? 氷の勢いが止まりません!」
「このままでは、全員魔力切れで……」
「うっせぇ! 黙って集中してろ、シーゲル!」
ハーレイは必死に残り時間の計算を始めた。
「持って、十分がいいとこか……」
そのうちに、予定外の状況が起こる。
氷を溶かした蒸気で周りは見えなくなりはじめたのだ。
「く、苦しいっ!」
「どうした?」
蒸気がまわりの冷気で結晶化し、それを吸い込んだ魔法師団の数人が体調不良を訴え始める。
「くそ、氷を防げば……裏目に出やがるっ」
「風魔法だ!」
「できるだけ凍りついた蒸気を近づけないように、こまめに風で循環させろっ!」
――その頃、ノキア王は。
「さぁてノキア、貴様には案内してもらわないと、いけない場所がある――」
「(場所だと?)」
「(もうすぐだ……俺様の復活もな)」




