第170話 暗躍ノ主犯ト困惑
ルティーナはハウルセン王の馬車へ襲撃を駆けてくる盗賊に対して迎撃の準備を進める。
そんな中、参戦しようとしたシャルレシカを戦わせるべきでないとヘルセラに指摘される。
「でも、今までも十分、このやり方で……」
「馬鹿もんっ! 一国の王と姫の命がかかっとるんじゃ!」
「もっと場を見据えんかいっ!」
ルティーナはヘルセラの罵声に、真剣な眼差しになる。
ヘルセラは気づいていた。
シャルレシカの異常な広範囲索敵は、範囲を広げるほど敵の解析が粗くなる。
一族の索敵魔法なら、位置だけではなく相手の状態や動きまで把握できるはずだった。
「う~ん、広域索敵をする時ってぇ~薄~く魔力を広げるというかぁ……」
「ほれ見ろ。やはりそうじゃったか」
(そうか……更に、個人の細かい動きが分かれば……)
馬琴は対人戦であるため、シャルレシカに撹乱をしてもらいつつ、残りの三人で迎撃することを考えていた。
「要は能力の高い奴じゃなく、指示を出している奴を狙うんですね?」
「ふん、分かっておるではないか?」
「ありがとうございます」
(そいつは、確保しないといけないな)
「ルナリカや、さっきは怒鳴ってすまなかったな……」
「いいえ」
「一緒についてきてもらって、本当に力強いです!」
「んじゃ、シャル! よろしくね」
「はぁ~い」
そして、ルティーナはシャルレシカと手をつなぎ馬車から飛び出すのであった。
ルティーナ達四人は、後方の護衛をヘイガル達に任せ、馬車の前から先に進み前線で構える。
「もうすぐぅ、会敵しますぅ~」
「それじゃ僕、対空迎撃の準備をしとくね」
「『ソード・オブ・ウインドストーム』」
(【嵐】)
――その数秒後、馬琴の不安が的中するように、天空から数本の矢が降り注いできた。
「さすが、ルナ……いやマコトさんかな?」
エリアルは風をまとった大剣を、飛来する矢へ向かって大きく振り上げ、竜巻を飛ばす。
飛来する矢を容易に蹴散らしていく。
そして、矢の攻撃がしばらく続く間に、ルティーナはシャルレシカに敵の詳細を分析させる。
「ルナぁ、大体わかりましたぁ」
「さすがシャル」
シャルレシカが分析した結果――。
盗賊の先導部隊は左右に四人ずつに分かれて近づく。
そして中央から後続の三人が迫る。
その内の二人の能力が高く猛スピードで突進してくる。
後方には、一人だけ桁違いの悪意を放つ男がゆっくり迫っている。
「(凄い……今までのシャルだったら、悪意や移動速度の差まで見抜けなかったもんね)」
(あぁ……)
(どこの世界も一緒か……こっちにも後ろで構えてるのがラスボスだしな)
「(ぷっ)」
「へっっぷっしっ!」
「だ、大丈夫ですか? ヘイガル殿?」
「んん?」
「リーナ、エル――」
「左右からくる雑魚……四人ずつだけど任せていい?」
「「余裕っ!」」
「あとは私達に任せて、シャルは馬車に戻ってて!」
「いいのぉ?」
「これだけ分析してくれたら十分だよ」
ルティーナは両手に二メートル程の大きさの、【爆】と【雷】を描いた手裏剣を握りしめる。
そして、両脚に【速】を描き一気に奥に控える賊に向かって駆け抜ける。
一方、奥で構える男は索敵魔法を展開し、ルティーナ達の様子をうかがっていた。
「どういうことだ、こっちが仕掛ける前から分かっていたというのか?」
その男は、さらに動揺する。
「あのガキっ……俺に向かって躊躇もなく突っ込んで来るだと?」
「しかし、二人は容易ではないぞ」
そしてルティーナは、眼前から迫る二人の男と視線を交わす。
「おい、あのガキの速さは何だ?」
「どうでもいい、俺達にかなうわけがない」
二人の男は剣を構えルティーナに突進していく。
しかし、ルティーナは動揺もせず、両手に持つ手裏剣を一枚ずつ、二人に向かって投げ込む。
「なんだ、このしょぼい攻撃は……」
男の一人は剣で払いのけようとする。
(起動っ)
馬琴はタイミングを狙い、【雷】を発動させる。
男の体は電撃に包み込まれ、そのまま失神した。
「なっ!」
もう一人の男は、その状況に意識がそがれ、もう一枚の手裏剣の対応が遅れる。
(起動っ)
そして目の前で手裏剣が爆発し、その爆炎に飲み込まれ地面をなめるように倒れこむ。
そんな様子を奥で索敵していた男は、呆然としていた。
「な、あいつらが何も出来なかった……だと」
ルティーナの足が漢字で強化されていることで、想像以上の速さで接近されたことに焦り始める。
男は、弓矢で接近する前に攻撃を仕掛けるが、難なくかわされてしまう。
ルティーナはそのまま、男の位置を目視し近くの岩場へ身を隠す。
(ルナ、あいつは拘束するぞ)
「(うんっ)」
ルティーナは地面に手をつき、男の居た方向に向かって【凍】を描き広げる。
「これでっどう!」
しかし、男は広がる漢字に気づき、近くの岩場に飛び乗り避けるのであった。
「(マコトっ、この男っ)」
(知ってる……だと? 俺たちの攻撃を……どういうことだ?)
「(どうするの、この装備じゃ……)」
「そうか! あいつらが瞬殺されたのが理解できたぜ」
「おまえがルナリカっていう化け物かっ」
「酷ぉぉ~い、こんな可愛い女の子に向かってぇ~」
「(マコトぉぉぉ~)」
(はいはい、お嬢様)
(さくっと黙らせちゃいますかね)
ルティーナは、再び、地面に手をつき【輝】を男の方に向かって描き広げていた。
それに対して、男は広がる漢字を避けるように移動する。
(やはりな……漢字を理解しているわけじゃない)
「(じゃぁ、いつもの作戦だね)」
男は横の岩に駆け上がり、漢字から逃れようとした。
その瞬間にルティーナは目を閉じ、地面全体を光らせる。
「め、目がぁ~っ」
男は漢字に注意しすぎ凝視していた。
目がくらみ、登っていた岩場から転落して地面にたたきつけられた。
すかさずルティーナは【雷】を描いたクナイを男に投げ込み、電撃を食らわせ気絶させるのであった。
(ざっと、こんな感じで)
「さすが」
「でも、こいつ……なんで、カンジの事を知ってたのかしら?」
(そうだな……)
(でも漢字を警戒してくれるから、目くらまし攻撃が面白いほど決まるな)
ルティーナはその男を、漢字で小さく軽くし連れて戻ることにした。
「ねぇ、この二人どうするの?」
(強敵だろ? 一応……)
途中に転がる二人の男には、【硬】で体を包みこむように描き、硬化させ放置することにした。
ルティーナが馬車まで戻る頃、ロザリナとエリアルも賊を瞬殺し護衛と四人で縄で縛っていた。
するとハウルセン王の傍で索敵を続けていたシャルレシカが叫ぶ。
「ルナぁ、もう十キロ圏内にはぁ悪意はぁありません~」
「わかったぁ~!」
「いまから、拘束した親玉を連れてくね」
そして早速、ルティーナの捕まえた男の記憶をシャルレシカが読み取るのであった。
(まずは、誰の入れ知恵なのか?)
(そして、漢字の事を知ってた理由が気になる)
ルティーナは小さくした男を元の姿に戻し、【硬】で体を包み込み、続けて【痛】を描く。
(起動っ、起動っ)
すると男の体は硬直しつつも、激痛で意識を取り戻す。
「な、体が動かない……どういうことだ!」
「さぁて、私達の質問に答えてもらうわよ」
「――ふん、誰が喋るか」
(いつもの抵抗だな)
シャルレシカは眼の色を変えながら、薄っすらと笑みを浮かべ男の頭に手をかける。
「覚悟はぁいいですかぁ? 別にしゃべらなくてもぉ、頭に浮かぶでしょぅ?」
「ひっ……何、言ってんだこいつ」
シャルレシカは今回の首謀者について問いかけ、男が浮かべる記憶を読み取る。
そして、水晶に映し出された男の姿にハウルセン王が凍り付く。
セレーナ姫も口元を抑えながら信じられない目をする。
「パ、パトリッシュ……」
そこには、自殺したという一番信頼のおける外交の側近が映っていた。
「何故あやつが……」
(だが……自殺する理由がない)
そしてその場にはもう一人の男が居た。
今度はルティーナ達が驚愕する。
「!」
「――なぜギルド長が一緒に」




