第169話 襲撃ト索敵ノ秘訣
ルティーナ達は想定外の落石事故で足止めをされる。
しかし、馬琴の機転で瓦礫を除去し、馬車の通る道を切り開いていった。
そんな中、シャルレシカが騒ぎ出す。
「ルナぁ~! 大変ですぅ!」
「――!」
シャルレシカは、二キロ先から、左右それぞれ十匹ずつの魔物が接近していると告げる。
ハウルセン王はその言葉に動揺を隠せない。
「次から次に、なんなのだ!」
(タイミングが出来すぎてるな……)
馬車の中で様子を窺っていたロザリナとエリアルも、すぐさま飛び出した。
「どうするの? ルナ」
「リーナとエルは右側の奴を抑えて」
「「わかった」」
「シャルっ! 杖もって、私と左側よ!」
「はぁ~い」
シャルレシカはサーミャから預かっていた『エクソシズム・ケーン』を手に、馬車から降りる。
その様子を見たセレーナ姫は目を丸くする。
「え、ロザリナさん、シャルレシカさんも戦うのですか?」
「戦闘的な職業ではないのに?」
そんな中、ヘイガルはのうのうと背伸びをしていた。
「あ~あいつらに任せとけば大丈夫ですよ。姫様」
「(えぇ~、ヘイガル様は何もされないのですか……)」
「ハウルっ、あやつらを刮目するのじゃ」
「(それよりシャルレシカ、お前が戦うなど聞いておらんぞ……)」
「(それで魔力不足になるのか――後で説教じゃな)」
「は、はいっ、ヘルセラ様」
「(お父様、ヘルセラ様には本当に頭が上がらないのですね)」
魔物は地上型のデーアベ――熊の魔物――とデアボ――猪の魔物――だけであった。
しかし、空中戦用の武器が修理中だったルティーナは安堵する。
「これなら、余裕だわ!」
「マコトっ、いつもの作戦でよろしくっ」
(わかった)
「シャルも、暴れちゃって!」
「はぁ~い」
ルティーナは手裏剣やクナイに次々と漢字を描いて投擲し、魔物を容赦なく吹き飛ばす。
シャルレシカも『エクソシズム・ケーン』を掲げ、威力こそ劣るものの次々と魔法を放つ。
火球や雷撃を乱れ撃ちし、魔物の群れを力任せに飲み込んでいく。
一方、エリアルは二刀流の魔法剣を振るい、魔物を翻弄しながら斬り伏せる。
そして、ロザリナも身体強化で格闘術を駆使し、目の前の敵を次々と粉砕していく。
「す、凄いです。お父様っ」
「あはは、うちの護衛が出る幕がないな」
「(こやつら……本物だ)」
「(魔法使いのサーミャという者がおったら、どうなるんだこのパーティーは)」
あまりの手際の良さにハウルセン王とセレーナ姫は、呆然としていた。
戦いが終わり、一行は移動を再開する。
そして日が暮れる頃、最初の中継地点であるアビリガ王国へと到着した。
そんな中、ハウルセン王は悩んでいた。
「もう少しでモルデリド王国には到着できるが……最短でも深夜、いや明け方になってしまうか」
(モルデリドって、行方不明だったミヤを探しに来て以来だな)
「(うん、あの国って確か、隣国のモルディナと不仲ってシャルが言ってたよね?)」
「やはり、時間をかけすぎた……モルデリドは通過だけで済ませたかったが」
ハウルセン王は苦渋の決断をしようとしたが、ヘルセラが頭を叩く。
「急きたい気持ちは分かるが、あの国に立ち寄りするのは危険じゃろ?」
「し、しかし――」
「しかしもへったくれもないわ! ここに来るまでにどれだけ痛い目をみておるんだ」
「王なら、安全策を考えなっ」
ハウルセン王としては、足止めされた分を取り返す為に先に進みたかったが、ヘルセラの言う通りにすることにした。
そして護衛の1人が、アビリガ王国の守衛に城での宿泊許可の手続きをしていた。
それを待つ中、ルティーナは不安そうなハウルセン王に声をかける。
「ハウルセン王、あれから考えていたのですが……」
「どうした?」
「あの崖崩れ、そして魔物の襲撃は仕組まれたものな気がします」
ハウルセン王もその疑いはあったが考えすぎではないかと否定する。
「そもそも、我々がノモナーガで増援を求めず、そのまま向かってても落石には巻き込まれていただろう?」
馬琴は、仮に落石が発生したとしても一日も放置されることはなく、大騒ぎになり撤去作業ぐらい始まっていてもおかしくないとルティーナに語らせた。
「確かに、そうすると直前に起こったと考えるべきか――」
つまり、刺客が自分たちより先回りし、監視していた可能性が高いと考えるのが自然であった。
「なら、あの落石を仕掛ける準備をするために、一日、ノモナーガに縛り付けたと?」
「そこまではわかりませんが……」
(いや、ありえる)
そして護衛が、手続きを終え戻ってくる。
「ハウルセン王、アビリガ城での本日の滞在許可が通りました」
「よし、行くぞ」
そしてアビリガ城内で食事を終えると、全員は用意された部屋で休むこととなった。
「では皆の者、明日は最後の大移動となる」
「早朝、陽が昇る前に出発することとする!」
「十分に休養をとるように」
「「「「「はっ」」」」」
ルティーナはシャルレシカとヘルセラの三人で同じ部屋で休むことにした。
「ねぇシャル? ちょっとお願いがあるの」
ルティーナはシャルレシカに、念の為に翌朝まで定期的に悪意の警戒を行うように指示を出した。
「それなら、シャルレシカや……あれを試せ」
「はぁ~い! がんばりますぅ」
「?」
――そして特に何事もなく翌朝を迎えるのであった。
ルティーナはシャルレシカが一切、騒がなかったことに安心していた。
「シャル? 昨日は大丈夫だったみたいね」
「ムニュっ? おはようございますぅ~」
「ね、寝てたのぉ~! シャルっ」
その様子にルティーナは慌てる。
(いや、シャルならもしハウルセン王を暗殺に来た奴が居ても、二十メートル以内なら無索敵で感知できたはずだから……大丈夫だよ)
「(でも……)」
だがシャルレシカは満面の笑みでルティーナを覗きこむ。
「はいぃ~、ぐっすりですぅ~」
「いやいや……」
「もしかして、昨日の戦闘で魔力使い過ぎちゃったの?」
「お婆ぁ様のぉ教えの通りですぅ」
そこへルティーナをなだめるようにヘルセラが声をかける。
シャルレシカは、そもそも起きてなくても詠唱を仕掛けておけば、寝ている間も自動的に広範囲索敵ができたことを説明する。
「この索敵は、細かい索敵はできぬが、殺意が丸出しの相手なら反応ができるのじゃ」
「えへへぇ~」
(それじゃ今まで、寝ずに索敵させてたのは無駄な能力の使い方をさせていたんだね……)
「(シャルの無属性魔法って、魔力制御ができれば何でも出来るんじゃないの?)」
(かもね)
そして、日が昇る前に一行はアビリガを発つのであった。
「ルナリカや、今日も昨日と同じ馬車分けにするぞ」
「わかりました」
「よしっ一気にモルデリドを通過し、夜にはモルディナに入国するぞ!」
だが、ヘイガルも馬琴と同じく今回の件に疑惑を持っていた。
「先で待ち構えている刺客には要注意だな……ルナリカ、策はあるのか?」
「うーん、出たとこ勝負ですね」
「でも、次は、働いてくださいね」
「俺は最後の砦だっつうの!」
「それじゃシャル、ちゃっかり寝てた分、全力で索敵よろしくね!」
(……最近は悪意を消す奴とかいるから気は抜けないけどな)
「(また、そういう不吉なことを言う)」
モルディナに向かうには、2つの大きな山脈を超える必要がある。
つまり、奇襲される可能性が高い場所でもあった。
「そろそろ峠だ、皆、警戒を怠るなよっ」
「……」
シャルレシカは出し惜しみせず、『エクソシズム・ケーン』で五倍の十キロ索敵を行う。
「居ますねぇ~」
四キロ先に三人、三キロ先に八人の悪意を察知していた。
ハウルセン王は彼女の報告に顔を歪めていた。
「ルナリカ……すまぬがよろしく頼む」
「わかりましたっ」
「お前ら、最前線はまかせたぞ」
「はいはい、わかりましたよっ」
「じゃぁ、弓矢とかの攻撃があったら、ミ――……ごめん、エルっ対空防御をお願いできる?」
「(あはは、そうだよね)任されてっ」
ルティーナは、シャルレシカも一緒に迎撃に連れて行こうとした。
しかし、ヘルセラがルティーナの手をつかみ留まらせる。
「なっ、どうしたんですか? ヘルセラ様」
「シャルレシカを、連れて行くなら戦闘ではなく索敵に集中させんかいっ!」
「!?」




