第168話 疑惑ト王様ノ胸中
ブルデーノ王国のハウルセン王とセレーナ姫の護衛任務を受けることになったルティーナ達。
旅路で予想以上の襲撃や魔物の発生に護衛が負傷し、先日の昼過ぎに大使館があるノモナーガ王国に立ち寄り立て直しをしていたのであった。
「本来であれば、今朝までに本国から増援が来るはずだったんだ」
ハウルセン王は、このような状況に陥っているにもかかわらず、本国からの増援が足止めされていることを説明した。
(そうか増援が望めなくて、途中立ち寄ったノモナーガで補填を……)
エリアルは腕を組みながら目をしかめる。
「つまり、反対派による仕業ではないかと?」
「おそらくな、モルディナ国王と約束した日に訪問できなくする為だろう……」
ロザリナも心配そうに口を開く。
「それは、婚姻を破談させるためですか?」
「反対派はモルディナと国交を結ぶことで、国が崩壊するとデマを流しているのだ」
「あばよくば、余かセレーナを消そうとしているのかもしれぬな」
「お、お父様っ!」
「……」
「なぁハウルや、お前、まさか何か心当たりがあるのか?」
ハウルセン王は、過去にも何度か命を狙われた経験があり、今回も警戒するに越したことはないと語った。
「そして昨日の昼前に、ノキア王とギルドに増援依頼を出させてもらった次第だ」
すると護衛の一人が報告に部屋へ入ってくる。
「ハウルセン王、出発の準備ができました」
「一日、遅れをとってしまったが早速出発だ」
「よろしく頼むぞ」
そして、二台の馬車が外で待機していた。
馬車に向かう中、ルティーナは、何故か落ち着きのないシャルレシカの姿に気付く。
「どうしたの?」
「実はぁ~」
シャルレシカは、ハウルセン王が依頼を出したのが昼前と言っていたことに疑問を感じていた。
「私とぉお婆ぁ様で、昼過ぎまでぇノキア王と居たんですぅ」
「!」
「依頼の話は来ていなかったって事?」
「はいぃ~」
その話が聞こえたハーレイは眉を顰める。
「なんだと?」
「俺は別件で夕方に外出していたから依頼の経緯は知らなかったが、昨夜ギルドから伝令が来たって聞いたぞ!」
「それじゃ、ギルドで話が止まってたってこと?」
シャルレシカは、夕方前にレミーナから依頼を受けた時も、あたかも先ほど発生したような案件と言っていたことを思い出した。
「ということは、ギルドに連絡が来る前に止まっていたとしか……?」
「ちょっと待て! それじゃぁハウルセン王が出した使者が? まさか、例の反対派閥のスパイが居るのか?」
ハーレイとルティーナとシャルレシカは、一旦、この話はこの場だけすることにした。
馬琴は回し者が同行している可能性を考慮し、二台の馬車に乗るメンバーを意図的に分けた。
そしてルティーナはハウルセン王に提案し、護衛中に何かしらの動きを探ることにした。
「ハウルセン王とセレーナ姫は後方の馬車ですよね?」
「うむ、そうだな」
「その馬車に私達を同乗させてもらっていいですか?」
そしてルティーナはヘイガルとシャルレシカとヘルセラを先に搭乗させた。
「ねぇリーナとエル、ちょっといいかな?」
「「?」」
ルティーナはスパイの件を二人に伝え、怪しい行動がないかを見張るように指示する。
「わかったよ」
そして、先頭の馬車に執事と側近二人、そして護衛が二人とロザリナとエリアルが搭乗していく。
騎士が乗った馬が三頭が先導し大使館を出発するのであった。
―― 一方、ルティーナ達が大使館から出発する様子を、遠くの建物の影から見つめる男がいた。
「(まぁ出発を一日近く遅らせたなら上出来か……せいぜい、急いでいくんだなモルディナに)」
「(これで奴らは追い出せた)」
「(だが、サーミャはどこに行ったんだ? 後で合流すると言っていたが)」
「(それより厄介なのは、ハーレイとダブリスか……俺様をこんな目に合わせやがって……)」
さすがのシャルレシカでも、無索敵で悪意を察知できる範囲外であったため、男の気配に気付くことなくノスガルドの街を去っていくのであった。
出発してしばらくしてハウルセン王はルティーナに声をかける。
「ところでルナリカや、馬車の振り分けの理由を教えてもらえぬか?」
ルティーナは目を細める。
「……ハウルセン王には隠し事が出来ないようですね」
ルティーナは、任務の依頼が前日の午前中に各所に届いて居なかったことを説明した。
ハウルセン王も、昨日の夕方までにノモナーガ王国からの増援が決まっていれば、本国からの増援を待たず先に出発することも考えていた。
「そうか、今回の件は反対派の仕業だと考え、何かを探ろうと馬車を分けたのだな?」
「ご明察でございます」
(そうなると、どこで依頼が……)
「ところで、どなたを使者に?」
「……疑っておるのか? 一番の側近の執事のベイメールがそんなことを」
セレーナ姫も動揺が隠せない。
「そんな、ベイメールが……嘘ですよね?」
だが彼は、午前中には依頼をし終え戻って来ており、それから終日、ハウルセン王と一緒に居たため、夕方に依頼が届くことはありえないと擁護した。
「もしノキア王が早急に手配してくれれば、昨日の夕方にでも出発したかった」
「だが、それはこちらの都合――」
「もし、本国からの増援が来る話になれば、後から追ってくればよいと考えていたのだ」
つまり、仮に工作があったとしても影響はない。
――理由が見当たらなかった。
「なぁルナリカや……余は君を侮っていたようだ」
「なかなかな洞察力をもっておるようだな」
ハウルセン王は、話の流れでルティーナ達に最近起きた不穏な出来事を語り始める。
「今回のモルディナとの同盟の話が決定したのは二ヶ月前のことだ」
「だが、その一ヶ月後――余にとって最も信頼できる側近であり、良き理解者でもあった外務担当の者が……自ら命を絶ってしまった」
彼は、モルディナとの交渉を中心となって進めていた。
「余も、彼がいたからこそ、この話を進められると信じていた」
ハウルセン王は、静かに目を伏せる。
「彼を失ったことで交渉は一時、破綻しかけた」
「それでも残された者達が必死に引き継ぎ、何とか予定通り進めることはできたのだ」
しかし……以前と同じように戻ったわけではない。
影響は外交だけではなかった。
本国との連携や増援要請の手続きにも混乱が生じ、今回のように対応が遅れる結果へと繋がっていたのだ。
「それって自殺ではなく、反対派に消されたということですか?」
「……」
そこで、ルティーナは提案した。
「もし、この先で賊の襲撃が発生した場合は、容赦なく拘束します」
「拷問するのか?」
「いえ、シャルレシカの力があれば、相手の記憶を読み取ることができます」
「そうすれば、捕まえた奴らから情報を引き出せるかと」
「そ、そんなことが出来るのか?」
「凄いんだな君たちは……」
ハウルセン王の顔に少し笑顔が戻る。
「それならば反対派のしっぽを掴むことができるかもしれぬな」
ギギーッ! ヒヒーンッ!
順調に走行していたが、最初の峠の入口で急に馬車が止まるのであった。
「何事じゃ!」
シャルレシカはルティーナと目を合わせ、索敵魔法を展開する。
「――ええっとぉ、半径二キロ以内には悪意はぁないですぅ~」
「に、二キロ索敵だと? 凄腕の索敵師でも五百メートルが限界では――」
ハウルセン王はシャルレシカの索敵精度に驚愕する。
「どうじゃ? わしの又姪は大したもんじゃろ?」
「え……(全然、似てませんよ)」
すると、騎乗で先導していた護衛から、馬車に報告が入る。
「この先の峠が崖崩れで道が完全に塞がり、通過ができませんっ」
ハウルセン王から笑顔が消え、唇をかみしめる。
「くそっ! これも……」
「――ハウルセン王」
「ご安心ください。職業なしのルナリカが何とかいたします」
(まだ、根に持ってるな)
ルティーナは颯爽と馬車を降り、崖崩れの中心に触れ【溶】を四メートル程で描く。
溶かした岩が崩れ落ちぬよう両脇へ【堅】を描いて補強しながら、道を切り開いていくのであった。
「おぉ~、あれは魔法ではないのか?」
「魔法をこのような場所で使えば、二次災害が起こってしまうが……なんなのだ、あの力は」
「お父様、ルナリカさんて……一体?」
「あやつの力は、職業に分類できんのじゃよ」
「なるほど、これが職業が無いと言われる所以か……余は、失礼な事を言ってしまったな」




