第17話 策動任ム
二人はドリネ薬局に泊めてもらい、翌朝――早速、行動に移す。
ドリネの馬車に乗り、ノスガルド近郊まで移動した。
ルティーナ達は途中で下車し、二手に分かれた。
「シャル、まずは鍛冶屋に寄ってから宿に戻るよ」
「はぁ~い」
歩きながら、シャルレシカがぽつりと呟く。
「ルナってぇ、すごく頭いいですよねぇ……」
「え? 急にどうしたの?」
「だってぇ……」
「昨日もぉ、ドリネさん達から、ちゃんと依頼を受けられるようにしたじゃないですかぁ」
その声音は、どこか感心したようでもあり――少しだけ寂しそうでもあった。
「……私ぃ、ちゃんと役に立ててますかぁ?」
「非戦闘員じゃぁ、仕事も――」
不安そうな声。
ルティーナは足を止めると、くるりと振り返った。
「何を言うのよ! 当たり前でしょ」
柔らかく笑う。
「シャルとの出会いは運命よ」
「私達は友達なんだから、これからも助けてね」
「……!、は~いぃ!」
勢いよく抱きついてくるシャルレシカ。
「ちょ、だから抱きつかないでよぉ――!」
(……ルナ、ほんと抱きつかれやすい体質だな)
「(うるさいっ)」
そんな騒がしいやり取りをしながらも、二人は約束の時間に合わせてギルドへ向かった。
そして――。
何食わぬ顔で、ルティーナはギルドの扉を開ける。
中では、ちょうどドリネが依頼の手続きをしている最中だった。
「依頼内容を確認しますね」
受付嬢レミーナが、書類を見ながら読み上げる。
「職業は不問……でよろしんですか?」
「ええ」
ドリネは静かに頷いた。
「『ガルゲルの森』なら、大型魔物の報告もありませんしな」
「護衛は保険程度で構いません」
掲示された依頼内容は、こうだった。
――――――――――
【依頼内容】
・解毒薬の材料となる薬草採取の補助
・アウリッヒ王国北部『ガルゲルの森』
・数日間の同行希望
・職業不問
【報酬】
・金貨 冒険者一人につき三枚
――――――――――
(よし、来た……!)
ルティーナはタイミングを見計らい、わざとらしく声を上げる。
「レミーナさーん! 何か新しい任務ありませんかー?」
「あら、ルナリカちゃん」
レミーナは一瞬だけルティーナ達を見て――すぐに状況を察した。
口元がわずかに緩む。
「ちょうどいい依頼があるわよ」
「えっ、本当ですか!?」
(棒読みだぞ)
「(う、うるさい!)」
「ドリネさん、こちらの子達でも問題ありませんか?」
ドリネは、いかにも『今気づいた』という顔で振り返った。
「おや、君達が? もちろん構いませんよ」
「よろしくお願いします、可愛い冒険者さん達」
こうして――。
ルティーナ達の『初任務』は、完璧な形で成立したのだった。
朝露に濡れた森は、幻想的な静けさに包まれている。
「シャル、索敵お願いね」
「はいぃ~」
シャルレシカは目を閉じ、小さく頷いた。
すると、不思議と周囲の気配を探るように、意識を澄ませ始める。
(……ほんと凄い能力よだな)
警戒はシャルレシカに任せ、ルティーナはミリアから受け取った薬草の見本を眺めて記憶する。
そして、両手に文字を浮かび上がらせる。
【索】
淡く光った文字が、ふわりと消える。
次の瞬間――。
ルティーナは迷いなく草むらへ、手を突っ込んだ。
「――ミリアおばさーん! この葉っぱですか?」
「えっ!? も、もう見つけたの!?」
ミリアが目を丸くする。
「本当に……?」
「そんなに簡単に見つかる薬草じゃないのよ?」
「これも、例の『力』なの?」
「えへへ~そうなんですよ」
その後も――。
「こっちにもありましたー!」
「また見つけたの!?」
採取は、異常な速度で進んでいった。
普通なら数日かかる量。
それを――。
ルティーナは、わずか一日足らずで集め切ってしまったのである。
「……いや、早すぎだ……」
帰り道。
ドリネが思わず呟いた。
隣ではミリアも苦笑している。
「効率ってレベルじゃないわよ、これ……」
「えへへ~」
(完全にチート扱いされてるな)
こうして一行は薬局へ戻り、翌日の昼。
依頼達成の報告のため、再びギルドを訪れることになった。
「え……?」
報告を受けたレミーナが固まる。
「ルナリカちゃん……もう終わっちゃったの?」
「はい!」
「いやいやいや……」
「この依頼内容なら、三日ぐらいはかかるでしょ?」
思わず素の声が漏れる。
するとドリネが肩をすくめながら苦笑した
「こちらも驚いていますよ」
「この二人のおかげで、予定より遥かに早く終わってしまいました」
「ほ、本当に……?」
レミーナは半信半疑のまま書類を確認する。
だが、不備はない。
依頼達成――正式完了。
「……ドリネさん支払いをお願いします」
ドリネは、二人の報酬と手数料を含めた金貨七枚をカウンターに置いた。
「それじゃあ、かわいい冒険者さんたち。次もぜに頼むよ」
軽く手を振り、ドリネ夫婦はその場を後にする。
レミーナは、改めてルティーナに向き直ると――
「はい、今回の報酬よ」
そう言って、レミーナは金貨六枚を差し出した。
「ありがとうございますっ!」
ルティーナは満面の笑みで受け取る。
(よし……!)
(これでしばらく生き延びられる……!)
内心でガッツポーズを決め、そのまま宿へ戻ろうとした――その時。
「……ねぇ、ルナリカちゃん」
「ありがとうございます!」
ルティーナは満面の笑みで受け取る。
(よし……これでしばらくは生き延びられる……!)
内心でガッツポーズを決め、そのまま宿へ戻ろうとした――その時だった。
「……ねぇ、ルナリカちゃん」
レミーナが、小声で呼び止める。
「今、少し時間ある?」
「? どうしたんですか、そんな小声で」
「ここじゃ話しづらいの」
「ちょっと来て」
通されたのは、ギルド奥の客室。
扉を閉める。
レミーナは腕を組み、じっとルティーナを見つめた。
「ねぇ……あなた、本当に『職業なし』なの?」
「えっ」
彼女には疑問が山積みだった。
宿屋の娘をデーアベから助ける。
肉の塊――ブロンダル級の冒険者を一撃で吹き飛す。
鍛冶屋では新武器の商談を成立。
さらに一歩、距離を詰める。
「その上、この依頼の成果」
鋭い視線。
「魔法使い?」
「格闘家?」
「商人?」
「薬師?」
「どれも可能性があるのに……」
「え、えっと……オリハーデさんが……」
「それはそうなんだけど……」
「(あの人が見落とすなんて……)」
小さく息を吐く。
「……まぁいいわ」
「秘密の一つや二つ、冒険者には付き物だものね」
そして、少しだけ真剣な表情になった。
「あなた達に、お願いしたいことがあるの」
新たなる冒険の予感――。




