第16話 仕事無シ
アジャンレ村を発ってから十日――。
ルティーナとシャルレシカは、少ない持ち金を切り詰めながら旅を続けていた。
当然、宿など泊まれるはずもない。
野宿。
硬い地面。
冷たい夜風。
それが、この十日間の日常だった。
だからこそ――。
カルラの宿で振る舞われた温かい食事は、二人にとって衝撃だった。
「めちゃくちゃ、おいしい……お母さん思い出しちゃうよ」
ルティーナは、涙目になりながらスープを口へ運ぶ。
「パンが……やわらかいですぅ……」
シャルレシカも感動していた。
そして。
食後、案内された部屋へ入った二人は――。
「すごぉい……これが宿……」
「ベッドが……ふかふかですぅ……」
そのまま倒れ込むようにベッドへ飛び込み――
数分後には、完全に熟睡していた。
翌朝――ギルド。
ルティーナ達は、朝一番でギルドへ向かっていた。
目的はもちろん――
冒険者としての、初依頼受注。
「よぉ~し! 今日から稼ぐわよぉ!」
気合は十分……だったのだが。
掲示板の前で、ルティーナは固まった。
「な……ない」
「全然ないですねぇ……」
貼り出されている依頼の大半は――
・戦士、求む
・魔法使い、求む
・銅以上の戦闘員、求む
そんな条件ばかり。
ルティーナは肩を落とし、掲示板から視線を外す。
「オリハーデさんの言った通りですねぇ……」
隣でシャルレシカも、しゅんとした様子で俯いていた。
(シャルは『銀』でも、『占い師』……つまり、非戦闘員)
(やっぱり『職業無し』はキツい)
(しかも白級だし――)
「(殴るわよ……マコト)」
「(なんとかしなさいよ!)」
(俺を『なんとかしろ枠』で扱うな)
そんなやり取りをしていると――
「どうしたの?」
声をかけてきたのは、受付嬢のレミーナだった。
「レミーナさん……!」
ルティーナは、半ば泣きつくように詰め寄る。
「私たちでも受けられる仕事、ありませんか?」
レミーナは困ったように眉を下げた。
「正直に言うわね」
「やっぱり職業がないと……特に戦闘向きじゃない場合、大きな案件の紹介は難しいのよ」
その言葉に、ルティーナの肩がさらに落ちる。
だがレミーナは続ける。
「だから、ルナちゃん達みたいな新人さんは――」
・軽作業をひたすらこなす
・職業を身につける研修に行く
・戦闘向きの冒険者とパーティを組む
「軽作業って、どのくらい稼げるんですか?」
「そうね……一日で銀貨五枚から十枚くらい」
「それを百件くらいこなし実績を積めば、白なら銅に昇格できると思うわ」
「(ひゃ……百件!?)」
(一日働いても、破格にしてもらった宿代でほぼ消えるじゃねぇか……)
「(手持ち、あと金貨四枚ちょっと……)」
「(シャルが居るから、食費……かかるしね)」
(ざっと、十日以内に何か仕事を受注しないと詰むな)
(う~ん……簡単な作業か)
しばらくの沈黙。
その後――馬琴が静かに口を開いた。
(あっ!)
「(また、悪い事を考えたでしょ)」
(まだ、何も言ってないし!)
だが、ルティーナはすぐに馬琴の意図を理解する。
「(……あっ、その手が!)」
そして二人は、即座に行動へ移した。
数時間後――。
二人は馬車に揺られていた。
向かう先は――アウリッヒ王国。
「ところでぇ~」
「なんで急にぃ、アウリッヒなんですかぁ?」
「言ってなかったっけ?」
「ドリネさんの薬局があるのよ」
つまり――
コネを使う作戦である。
夕暮れ。
二人は、目的地へと辿り着いた。
扉を叩く。
すると――
「えっ……ルナちゃん!? なの」
「シャルちゃんも……!」
飛び出してきたミリアが、驚きと喜びの入り混じった声を上げた。
「こんなに早く会えるなんて……!」
「無事でよかったわ……!」
「早く、中へ入って!」
居間へ通されると、そこにはドリネの姿もあった。
「お久しぶりです。ドリネさん」
「ルナちゃん! ミリアが騒いでいるから何事かと思ったぞ!」
再会を喜び合う。
「おかげで、お父さんの噂もちゃんと広まりました」
「本当にありがとうございました」
「ところでバルストさん達は……無事なの?」
そこでルティーナは、現在の状況を説明することにした。
――話は二週間前に遡る。
アジャンレ村へ辿り着いたバルスト夫妻は、その日から孤児院で働き始めていた。
村人達とも打ち解け、穏やかな日々。
だが、その裏で――。
「ルティーナ! 断じてならん! 冒険者になるなど!」
父の怒声が響く。
「大丈夫よ。私の『力』、見たでしょ?」
ルティーナは一歩も引かず、まっすぐ見据える。
「お父さんたちは有名だけど、私は違う」
「名前を変えれば、繋がりは隠せるわ!」
「それに――」
一瞬、言葉を止める。
「あの事件の真相に近づけるかもしれない」
アンナは悲しげに首を振った。
「どうしてルナが、そんな危険なことを……」
「もう、いじゃない……私たちは今の生活で満足よ」
「私は嫌っ!」
ルティーナは、強く言い切る。
「なんで私たちが、知らない誰かの陰謀で、こんな目に遭わなきゃいけないの!」
「絶対に許さない!」
「だから――私は行く」
その覚悟に、二人は反論できなかった。
「それで……二人は真実を調べるために旅にでたのか」
話を聞いたドリネは、静かに頷いた。
そして――。
「本来なら、これはバルストさんに渡すはずの報酬だ」
そういって、金貨二十五枚を差し出す。
「生活の足しにしなさい」
だがルティーナは、ゆっくりと首を横に振った。
「……ありがとうございます」
「でも、それは受け取れません」
喉から手が出るほどの大金であったが、馬琴は自粛させていたのだ。
「お父さんに、直接渡してください」
「本当に再会できた時に――」
ミリアの目に涙が浮かぶ。
「なんて健気な子なの……」
そして彼女は、優しく問いかけた。
「何か、私たちにできることはない?」
――相手から切り出させる。完璧なシナリオになった。
ここで本題を切り出す。
「――依頼を出してほしいんです」
「……依頼?」
「はい。私たちが受けられるような形で」
ドリネは少し考えた後、ふっと笑った。
「なるほど……そういうことか」
馬琴の作戦は単純だった。
依頼を出し、その場に『偶然』に居合わせた体で受注する。
――いわば『出来レース』。
「ふふ……面白いわね。協力しましょう」
こうして――
ルティーナ達、最初の『実績作り』が動き出したのであった。




