第166話 依頼ト思惑ノ任務
シャルレシカとヘルセラは王宮での用事を済ませ、ギルドに到着する。
そんな中、シャルレシカは少し楽し気に鑑定室に足を弾ませていた。
「なんじゃ? 楽しそうじゃな? そんなに会いたい奴なのかい?」
シャルレシカは頷きながら答える。
「ここにぃ凄腕の鑑定士さんがいるのですぅ――」
「凄腕の鑑定士じゃと? まさか――」
そして扉が開かれると、そこにはのんびりと窓の外を眺めながらお茶を飲んでいるオリハーデがいた。
「――よおっ、シャルちゃんじゃないかぁ」
「じいぃじぃ~っ」
「今日はルナリカはおらんのか?」
オリハーデは目に見えて残念そうな顔をした。
「ルナはぁ~お留守番ですぅ」
「今日は私が用事があってきましたぁ~」
「なんじゃ、唐突に――」
その時、オリハーデはシャルレシカの後ろに居るヘルセラに気付く。
「おぉ、やはりオリハーデじゃないか?」
「お互い、老いたものだのぉ」
「――へ、ヘルセラ様……」
「ご、ご無沙汰しております」
「このようなところでお会いできるとは」
オリハーデはかなり動揺し、つい、お茶をこぼしてしまう。
「あれぇぇ? お婆ぁ様のお知り合いなのですかぁ?」
ヘルセラはオリハーデの父が冒険者をしていた頃、よく占いの相談を受けていた付き合いがあった。
そこで、若かった頃のオリハーデと面識があったのだ。
だが、オリハーデには、二人がなぜ一緒にいるのか分からなかった。
「こやつは、わしの姉の孫じゃて」
「……そ、そういうことだったのですか」
オリハーデは、初めてシャルレシカの職業鑑定をした際、水晶が異常な反応を示した理由に納得がいくのであった。
「ま、今日のところは、こいつの付き添いじゃ。勝手に進めてくれや」
そして、シャルレシカは口を開く。
「じいぃじぃ~鑑定士になる方法をぉ教えてくださいぃ」
二人はまさかの発言に言葉を見失う。
「いや、方法と言われてものぉ――」
オリハーデは、これは母親からの完全な遺伝であったため、身につくどうこういう類いではないことを説明した。
そして、鑑定用の水晶玉は占い用水晶玉と同じように、自分と相性の良い物を探す必要がある。
彼の水晶玉はヘルセラの占いで探してもらった経緯があり、その点については、シャルレシカなら造作もないことだろうと語る。
「うぅ~……遺伝ですかぁ~」
「(でもぉ夢でぇ……やっぱり無理でしたかぁ)」
シャルレシカは肩を落とす。
「……まぁまぁ、そんな悲しい顔をするでない」
「だが、わしの知る限りでは一人だけ後天性で鑑定士になったガキがおるのだ」
シャルレシカは顔を上げる。
「まぁ、聞けい! どうやってできるようになったか、本人も分からんらしいんだ」
それを聞いたシャルレシカは拳を握り、笑顔になる。
その人間に会えば、得意の過去視で理由が探れると。
「じいぃじぃ……その人はぁどこにいるんですかぁ?」
「そいつはブルデーノ王国で鑑定屋をやってる、ファイデンという二十代後半のガキさ」
「ブルデーノ王国ぅ?」
「ところで、あんたとは知り合いなのかい? そのガキは」
ファイデンとは三年ほど前に一度だけ仕事で会っただけだが、自分のことは知っていると言われたらしい。
「じぃじ~ありがとうぉ」
「じゃぁ婆ぁ様ぁ、帰りましょうぅ」
意外と、あっさりした待遇にオリハーデは寂しくなる。
「今度は、ルナリカを連れてきて欲しいなぁ~」
「この事をぉ、皆に内緒にしてくれたらぁ~ですよぉ」
「……ふむ?」
「……まぁ、よい。約束だぞぉ」
そして鑑定室を出た二人であったが、ヘルセラはなぜ鑑定の力を欲するのか疑問であった。
「ん~、婆ぁ様ならいいっかぁ~」
シャルレシカは戦闘では役に立たないが、最終的にルティーナのために必要になると言い切る。
「(こやつ、一体鑑定を何に使おうとしとるんじゃ?)」
シャルレシカは、皆に秘密にしていた理由を語り始めた。
それは、自分の今の予知夢の精度では、直近でも十日以内しか見えていなかった。
「初めてぇ……いつの未来かも分からない自分を見たんですぅ」
「なるほどの……それに不安を感じておったのか?」
シャルレシカは小さく頷く。
ギルドを出ようとした時、依頼書を手に受付から出てきたレミーナが、二人を見つける。
「あら? シャルちゃんじゃない? いいところに居たわ!」
「?」
「ルナちゃんは居ないの? もしかして、今日は一人?」
「いいえぇ、婆ぁ様と一緒ですぅ~」
「そ、そうなのね、(……この人よねぇ?) は、初めましてぇ」
レミーナは早速要件をシャルレシカに説明する。
「ふぇ~『零の運命』をぉ、ご指名の依頼ですかぁ?」
偶然、ブルデーノ王国の名を聞いた瞬間、シャルレシカの胸は高鳴った。
しかし、依頼内容を聞いた瞬間、その期待は一気に萎んでいった。
「でもぉ……行先はモルディナ王国ですかぁ?」
「とりあえず、依頼書を渡しておくわ」
「明日に返答して頂戴って、ルナちゃんによろしく伝えといてね」
レミーナは要件を伝えるとそそくさと、受付に戻っていった。
「なんじゃ、騒がしい娘よのぉ」
「まぁ、ブルデーノに行くわけではないが、縁は出来るじゃろうて」
「まかせておけい」
「?」
シャルレシカは少しだけ元気を取り戻し、ルティーナ達が待つ『零の運命』の拠点に帰るのであった。
「あ、シャルにヘルセラさん! おかえりなさい」
「ルナぁ~、レミーナさんからぁ、ご指名案件があるって依頼書もらってきましたぁ」
「え、王宮に行ってたんじゃないの?」
そして、シャルレシカは全員を集め、依頼書をそのまま見せる。
――任務の内容――
[ノモナーガ王国内、ブルデーノ王国大使館→ギルド]
・ノモナーガからモルディナ王国まで、ブルデーノ王国国王ハウルセン王と王女セレーナ姫の護衛。
・ブルデーノから本国へ移動中、護衛団の半数が魔物や盗賊との交戦により損失してしまったための護衛の補填。
・今後、盗賊や魔物に襲撃される可能性は払拭できないため、王都とギルドより信頼の置ける師団または冒険者を希望。
・日程は一泊二日での馬車にて野営、状況次第では途中通過のアビリガ王国にて宿泊を検討。
[報酬]
・人数問わず、総額金貨三百枚
「き、金貨三百って……それに国王と姫の護衛を僕達に指名されるなんて?」
「そうなんですぅ……返答はぁ、明日にほしいそうですぅ」
「どうしたのよ、エル?」
「まさか、冗談の姫でなく、本物の姫様の護衛って聞いて燃えちゃった?」
「もうリーナったら!」
その内容を聞いた馬琴は、国家間を揺るがす可能性のある大型案件が自分達に依頼が来た理由と、明日でいいという行動の遅さに違和感を感じていた。
ギルドからは信頼の置ける冒険者として序列一位の『碧き閃光』が矢面に立たないのか?
「(そうだよね、レミーナさん、またアンハルトさんと兄弟喧嘩して折り合いが悪かったのかな?)」
(いやいや、私情と仕事とは別だよ)
「(それとも偶然シャルに逢えたからとか?)」
(いや、師団とも書いてある)
(つまり、ハーレイさんかヘイガルさんの方が――)
「ねぇ、ルナ? またマコマコと内輪話?」
「……あ、ごめんごめん」
「いつものマコトの心配性が始まっただけよ」
(考え過ぎかな――)
そんなルティーナを見ていたシャルレシカは自分が安易に要件を受けてきたせいで、馬琴とルティーナが口論になっているのではないかと心配になり、悲しい顔になってしまった。
「ごめんごめん、受けたくないとかじゃないからぁ……泣かないでぇ」
そして馬琴はシャルレシカに心配させたくないと言いわけを考える。
「そ、そう、今、武器を修理にだしてるじゃない? どうやって護衛しようかなぁ~って」
「そ、そうなんですかぁ?」
「じゃぁ、依頼受けてくれるんですねぇ?」
(受けてくれる? シャル、何か変だな)
「(あはは、いつものことだよ)」
「さぁさぁ、今日もロザリナのスペシャル料理が完成したわよ!」
「夕食食べたいですぅ」
「(ほらね、いつものシャルだよ)」
「本当にいい仲間に巡り合えたんだな、シャルレシカや」
そんな光景を暖かい目で見守るヘルセラは、ある決意をする。
「なぁルナリカ、わしも護衛に連れて行け!」
「ど、どうしたんですか?」
「大使館にいる悪ガキに逢いとおなったわ」
「それに誰も居ない拠点で、留守番なぞしとうない!」
「そ、そうですね」
(大使館に悪ガキ? 誰か知り合いでもいるのかな?)




