第165話 少女ト老婆ノ予言
サーミャはハーレイに闇魔法を使えるようにするため修行を申し出ていた。
しかし、ハーレイはどうしても昨日はぐらかされたあの話が気になってしょうがなかった。
「何だよ? とっとと始めようぜ」
「いやいや、お前が黒魔法取得中の二週間の間、例の魔法を研究したいんだ」
「あ~あんたは、いっつもそうだよな」
「(やっぱ、こいつは魔法の研究しか頭にねぇんだよな……)」
サーミャは頭を掻きながらも、ハーレイに『ディメンジョン・テレポート――転移――』の詠唱方法を説明した。
「詠唱は分かった……しかし、光魔法を補填することで使えるというのは興味深いな」
サーミャは自分の持つ『ヒーリング・ストーン』を抱きしめる。
「これは、絶対やらねぇぞ」
しかしハーレイはサーミャ以外にも使える人間は居た方がいいと説得する。
「まぁ、この魔法の用途を考えると、言いたいことは分かるけどさ……」
「俺が研究して、その石でなくても転移できるかも――」
サーミャの目が急に輝く。
「ほ、ほんとうか?」
魔法を使いたいがために、思わず口走ったハーレイはたじろぐ。
「まぁ、時間はかかるかもしれねぇが、やらねぇよりましだろ?」
サーミャはハーレイの実力は知っている。
もしかしたら、転移回数を増やす可能性があるのであればルティーナの力になれると了承した。
そして『ヒーリング・ストーン』を使わせて試させるのであった。
「おぉ、サーミャちゃん、ありがとう」
「早速、試してもいいか?」
「いいけどさ、誰のとこに飛ぶんだ?」
「何度も言うけど、転移先の事は――」
ハーレイは頷きながらも、転移魔法が使えることで頭がいっぱいだった。
「よぉし! いくぜっ『ディメンジョン・テレポート』っ」
――バシュっ!
「おい、待って――」
「ま、転移魔法はうまくできたみたいだな……」
「ま、王宮だし回復師使い放題だから、後で『ヒーリング・ストーン』は充電してもらえばいいか」
「って、クソ親父……どこに飛んでったんだ? 帰ってくるんだろうな?」
――そして数分後、血まみれになったハーレイがヘイガルに担がれて部屋に戻ってくるのであった。
「おい、サーミャ!」
「はぁ、おっちゃん? って、なんで親父が……まさか、転移先って――」
「あははは、うまくいったんだが……こいつに迎撃されちまった」
サーミャはあきれ顔になる。
「(せめて……あたいを黒魔法使いにしてから死んでくれよ~)」
ヘイガルは必死に言いわけする。
「そりゃ、そうだろ!」
「あんな黒い空間が目の前に現れたら、誰だって攻撃するだろっ!」
「まさかあれが転移魔法だったなんてな……俺の目の前からお前が消えた時と全然ちがうじゃねぇか?」
ハーレイは同じ城内にいるヘイガルであれば大丈夫だと高を括っていた。
彼はそもそもサーミャが転移してきた時、一時的に失明していたため光景を知らなかったのだ。
「……この魔法は安易につかえないってことだな」
「サーミャちゃんが渋ってた理由が解ったよ」
ヘイガルはハーレイをベッドに寝かせ、サーミャは傷口の止血を黙々とやっていた。
「(なんだかんだ、優しいじゃねぇか)」
「俺は、回復師を呼んでくるから、ちょっと待ってろ!」
その後、ハーレイは回復師に治療されながら、サーミャに説教された。
そして、申し訳無さそうに『ヒーリング・ストーン』の充電もお願いするのであった。
「俺のせいで、肝心な事が遅くなっちまってすまなかったな」
「いいよ、さっさと始めろよ」
ハーレイは、別の部屋にサーミャを連れていき、その場にあるベッドに横になるように説明する。
「こ、これでいいのか?」
「あぁ、目をつぶってリラックスしてくれ」
そして、ハーレイは真剣な顔になり、詠唱を始めるのであった。
すると彼の両手から魔力の球が現れ、サーミャの体に触れると黒い闇が包み込み始めた。
そしてみるみるうちにサーミャの左肩のあざが体中に広がりだし、きれいな肌色の体が見る影もなく黒く染まっていく。
「ぐっ、な、なんだよ……これ……っ」
「お、親……父……」
「か、体がぁ――く、苦しい」
「すまない……耐えてくれ」
「この状態が十日ほど続くんだ――」
「ま、マジか……よ……」
「修行じゃねぇじゃんかっ! 最初に……言えよっ(帰れない理由はそれだったのかよ)」
ハーレイは意識を失いかけているサーミャに声をかける。
「最初に言えば、絶対嫌がると思ってたさ」
「でも、これで必ず黒魔法が使えるようになる……信じてくれ」
しばらくするとサーミャは、全身が黒くなり激痛に耐えながらも、やがて意識を手放す。
「俺が二日に一回に魔力を供給すれば、寝ている間の激痛はある程度緩和される……」
「目が覚めない間は、俺が守ってやるからな」
しかし、サーミャの意識は微かに残っていた。
「(な、何……なんだよそれ……)」
「(そういう台詞は……普段から言いやがれ……)」
ハーレイはサーミャの寝顔を見つめながら、亡き妻の姿を重ねていた。
七歳の時に母サフィーヌを亡くし、魔法の研究しか頭になかったハーレイは、サーミャとの接し方がわからずぎこちない関係になっていた。
「サフィーヌの無属性魔法も受け継がなかった……」
しかし、ハーレイはサーミャの秘めた才能が、自分を超える可能性を持っていることを薄々感じていた。
「もし、お前が生きていたら、この子にも同じことをしていただろうか……」
ハーレイはサーミャの寝顔を見ているうちに、先ほどまでの罪悪感が癒されていた。
「しばらく見ない間にサフィーヌにそっくりの美人になったもんだ……」
「もう少し女の子らしく育ててやればな……すまんなサーミャちゃん」
「(くそ、まだ意識は……あるんだよ!)」
「(恥ずかしいことをペラペラと……)」
「(ふん……ばあさんの言ってた通りか……こいつも素直になれねぇだけじゃねぇか)」
「(この儀式が終わったら……一発はぶんなぐってやるからな……覚えてろよクソ親父)」
サーミャは激痛に耐えながらも、顔は笑っていた。
ハーレイは一瞬だけ首をかしげた。
「がんばれよ、サーミャちゃん」
――少し時間は遡る。
シャルレシカとヘルセラは兵士に案内され、ノキア王の部屋の前へとたどり着いていた。そこへ執事のデーハイグが現れ、ヘルセラは要件を伝えた。
「かしこまりました。少々お待ちを……」
しばらくするとデーハイグが王室から顔を出し、中へ二人を招き入れた。
「お主がヘルセラか、ヘルアドに妹がいたとは聞いて居なかったが……」
「彼女の件、本当に申し訳ないと思っておる」
「謝罪させ――」
「かまやせんさ、姉上もその時期に死ぬことは未来視をしておったから天命と思うとるじゃろ」
「そうか、そう言ってもらえると……」
しかしノキア王はヘルセラに、ヘルアドと同じく突然に訪問して来たことに不安を感じていた。
「その顔……わかっているようじゃな」
「……まさか、用件というのは厄災の魔物の封印の件ですか?」
「そうさの」
「み、見えたのですか?」
「あぁ、六回目の満月の夜に……解けるぞっ!」
「なっ! ヘルアドの予言だと、まだ一年以上あると」
「しかし、六回目の……前回の満月は数日前に終わっている」
「つまり、ほぼ半年後……」
「どこに封印されているか? わからぬのか? ヘルセラよ」
ヘルセラは、さすがに封印されている場所は解らないといい、事前に討伐することは難しいと伝える。
「(今、ダブリスが各国で勇者に関する情報を集めに回っているが、どれだけ集められるだろうか)」
「(ロザリナを誘拐しようとし組織……勇者なら封印した魔物の場所を知っているはず)」
「まぁわしは、この国が危機であることを伝えに来ただけじゃからの」
「時期がわかっただけでも、助かった」
「早急に国防を強化しなければならんな――」
それから一時間ほど、ノキア王とヘルセラはいろいろと話し込むのであった。
「(お婆ぁ様……私もこんな予言ができるようになれるのかなぁ)」
気が済んだヘルセラはノキア王に別れを告げ、王室を後にする。
「さぁてシャルレシカよ、今度はお前に付き合う番じゃ」
「うん」
そして、二人はギルドへ足を向けた。




