第162話 拠点ト異郷へ報告
ルティーナ達は、ロザリナ誘拐に参加していたデブラク――蟹の魔物の姿になった元人間――を捕虜として捕まえていた。
そして今、シャルレシカの能力による尋問が始まろうとしている。
「さぁて、まずは誘拐したロザリナをどこに連れて行こうとしたのかしか?」
デブラグは黙秘を続けていたが、シャルレシカの術から逃れることはできなかった。
しばらくすると彼の頭に浮かんだものが、シャルレシカの水晶に写りはじめる。
「な、こいつ……俺の頭の中を……」
シャルレシカはいつになく、小悪魔のように微笑む。
「いくらぁ、黙っても考えは頭に浮かんじゃますからねぇ~」
(相変わらず、こういう時のシャルって……怖ぇ)
しかし水晶に映る光景を見て、全員は息をのむ。
「な、なんだ? これは……海なのか?」
アンハルトは当時を思い出す。
「あの時、川を下って海に逃げようとしていたからな」
「だが、やけに暗いな……海原?」
ロザリナは目を細める。
「ねぇ、何か見えてきたけど……あれって島かしら?」
水晶には不気味な島が見え始めていた。
「……あそこにリーナを連れていく気だったのかしら?」
(闇魔法の勇者が、そこに居るのか?)
「(生贄にする目的があったんだもんね)」
アンハルトは地理的に詳しいグルバスに確認をする。
「ところで、あの海岸の先に島があったか?」
「あの海付近で漁業を生業にしている知り合いは居るが……」
「そもそも、あの先に島や大陸なんて聞いたことねぇぞ」
(……誰も知らない大地があるのか?)
そもそもこの世界の大陸は全て繋がっており、周りは海で囲まれて、その先には何もないと誰もが知る共通認識であった。
海から数キロ離れた先であれば島は存在していたが、大陸から目視できる距離であった。
グルバスは話を続ける。
「海自体、陸地から遠くにいけば行くほど厄介な魔物が出る……」
「人間が戦うには地の利がなさすぎて、誰も調べようとしねぇんだ」
「何か……地図でもないのかしら」
「大陸の地図なら作戦室にあるが、付近の島までしか……」
「じゃぁ、次ね」
そしてルティーナは勇者の素性について情報を得ることにし、質問を投げかける。
すると水晶がどんどん闇で埋め尽くされ、ぼんやり老人らしき姿が写し出された。
「こいつが……勇者?」
すると、デブラクの体が急に小刻みに揺れ苦しみ始めた。
とっさにシャルレシカは危険を感じ触れている手を離そうとしたが瞬間――。
デブラクは爆散しシャルレシカは左手を怪我してしまった。
「きゃぁ!」
「シャルっ! 『シャイン・レストレーション――再生――』」
「リーナぁ、ありがとうぉ~」
「なっ! 何が起こった」
馬琴は、元勇者が操る洗脳魔法は対象者を処分できることを思い出す。
「くそっ、足取りが消えてしまった……のか?」
これは、召喚された勇者が持つ特殊な黒魔法……洗脳魔法の上位互換なのではないか。
ただ洗脳するだけではなく、黒幕である勇者のことを調べられそうになった時、対象者を自爆させる力が潜んでいると睨む。
「なるほど……ルナリカやエリアルの特殊な力を考えたら、勇者としてそういう力を与えられたと考えた方が自然か」
シャルレシカは以前、ドグルスに使った過去視のことを思い出す。
「そういえばぁ、ドグルスを調べていた時にぃ、シャルの水晶に映ってた一人目の男はノキア王……いぇタイヘイだったってのはわかりますぅ」
「でもぉ二人目の男がぁ元勇者ってことになりますよねぇ」
「そうね……」
「なら……なんでぇ、ドグルスは爆散しなかったんですかねぇ?」
エリアルは頷く。
「そうか、もしそいつの支配を受けているのなら……」
「同じように処分しようとしますよね? スレイナと同じように」
「確か、あの時って――」
馬琴は当時を思い出す。
シャルレシカは、ドグルスから情報を引き出す時、途中で、偶然に魔力切れを起こしたおかげで、黒幕を調べようとしなかったことで救われていたのだと納得していた。
「ということはぁ~」
「あの時ぃ、リーナは居なかったからぁ~私、死んでたじゃないですかぁ」
情報源は途絶えてしまったが、また一つ情報を得ることが出来た。
「だけど、もっと情報を集めないと……」
「そうですね、でもノキア王の方でも何かしら情報を集めてくれるみたいですから、そこからまた糸口が見つかるかもしれませんね」
「だといいね」
アンハルト達も力及ばずなのは承知の上で、今後、厄災関係で動きがあれば協力は惜しまないことを約束した。
「とりあえず、来週のノキア王と会談するんだろ?」
「また、何かあったら教えてくれ」
「わかりました」
「では、私たちは――」
「では、私たちは――」
帰ろうとしたルティーナ達をアンハルトは呼び止める。
「ああ、そうだ」
「話は変わるが、お前達の拠点の建設ってどうなったんだ?」
「ロザリナ誘拐以降、お互いバタバタだったからな……そろそろ完成してるんじゃないのか?」
「「「「あっ!」」」」
ルティーナ達は、アンハルトに後日招待すると言い残しその場を去り、建築を依頼した棟梁の元へ駆け足で向かうことにした。
「それじゃ、みんなっ帰るわよ! 私たちの家に!」
『碧き閃光』の拠点からルティーナ達が外に出ると、ちょうどサーミャも城から合流しようとしていたのであった。
「よお、話は終わったのか――」
「って何を慌ててるんだよ? 蟹野郎から何か――」
ルティーナはそれどころではないと、サーミャには移動中に事情を説明しながら、大工の棟梁の家に向かうのであった。
そして、無事に完成した拠点の鍵をもらい、新しい家へ駆け出す。
拠点にたどり着くと、五人はここ数日の疲れや眠気は吹き飛び、鼻息をあらくして大興奮していた。
「だ、だれが開ける?」
「そりや頭のルナだろ?」
「リーナが考えてくれたんだから、色んな配慮がされているんだろうね」
「僕もノスガルドへ来るたびに、馬小屋がある宿にしか泊まれなかったし、これからはウェルも一緒に暮らせる」
「自分の設計がどこまで反映されているか、とても楽しみ」
「私は最後でいいですので、みんな早く入って入って」
「それじゃ、開けるよっ」
「「「「「……」」」」」
扉を開けた先に広がる光景は、自分たちが今までカルラの宿で暮らしていた生活を忘れさせるぐらいの、求めていた空間に歓声を上げた。
拠点の一階には共用スペース、そして簡単な会議室。
その奥には台所やお風呂場などの生活設備が充実していた。
二階には八部屋あり、五人がそれぞれの部屋と客間が用意されていた。
「……す、凄いっ! これが私たちの拠点」
「みんなの部屋、扉にちゃんと名前書いてあるねぇ~かわいい」
「とにかくぅ寝室が見たいですぅ~っ、私の部屋ぁ~」
「それじゃ、僕は……お風呂場を見てこようかな」
「私は、調理場で早速、昼ご飯を~」
「まったく、おまえら変わらず自由だなぁ」
(みんな自由だな)
それから数分後に会議室に集合することにし、各自、拠点を堪能するのであった。
「――さて、みんな気がすんだ?」
「済んだ済んだ! 最高だぜリーナっ」
「ありがとうございます」
「……って、そう言えばシャルが戻ってきませんねぇ?」
「「「あ~まさかねぇ」」」
予想通りシャルレシカはぐっすり自分の部屋で爆睡していた。
「まぁ、ご飯の匂いでもしたら、勝手に起きてくるでしょ?」
「「「あはは、そりゃそうだ」」」
そしてロザリナの調理をはじめ、待っている間、三人は今後のことを話を始めた。
「そうね当面は、冒険者として仕事をするとして……」
「問題はリーナを狙う勇者の一味が、また狙ってくるかもしれねぇぞ?」
「そうだね、今回の失敗したこともあるし」
「しばらくはおとなしくしてると思うけど……」
(リーナは1人で行動させないにこしたことはないぞ)
するとエリアルが笑いながら答える。
「なら、僕が専属騎士になろうかな? お姫様――なんて」
「「あはは(洒落にならないぐらい似合ってる……)」」
そんな中、ルティーナは調理中のロザリナにも聞こえるように話しかけた。
「ねぇ、私、お父さんたちにノキア王が操られていた件……この後、話に行っていいかな?」
「そうですね、師匠がもう命を狙われる危険もなくなったわけだし」
しかし、その提案を聞いたサーミャは少し悩む顔を浮かべた。




