第161話 捕虜ノ情報ト道標
ルティーナ達はノキア王から勇者召喚の事実について話を聞かされた。
過去に召喚された勇者はおそらく生きている。
だが、彼らの目的は一切解らないままだった。
ルティーナ達は解散後、自分達の救出に協力してくれたアンハルト達にお礼を言うため『碧き閃光』の拠点へ移動していた。
「ルナ、アンハルトさん達のところに、デブラク――蟹の魔物――を預かってもらっているんです」
「あいつは私を誘拐した勇者の一味でしょ? 絶対、何か知ってるわよね?」
「私がぁ過去視で何か情報が得られるといいですねぇ」
「そうね……」
しかしルティーナの顔だけは晴れなかった。
「どうしたですかルナ? 浮かない顔をして」
「ううん、ミヤ……どうしちゃったのかなってさ」
その頃、サーミャは王宮に残りハーレイに声をかける。
「なぁ、親父……」
「なんだサーミャちゃん? やっと魔導師団に入る気になったか?」
「話を逸らすなよっ」
「あのさ――闇魔法の使い方教えろよ!」
ハーレイは少し目を細めながら答える。
「教えてできるものなら、皆、闇魔法使いになっちまう」
「なっ! あたいは魔法の才があるっつたのはお前だろ?」
「なんとかなんねぇのかよっ!」
「あ、それな……希望はあったぞ」
サーミャは顔をしかめる。
「なっ……希望はあった、だと?」
「サーミャちゃんが二十歳になったら、使えるように儀式をするつもりだったんだが……」
「行方不明になっちまっただろ? 心配したんだぞ……これでもっ」
「(二十歳? その時って……あたいがヴァイスを失って失望していた時期じゃねぇっか)」
「(こいつ……心配してくれたんだ……)」
「いや、まて! ――儀式? ってなんだ」
サーミャは、自分が闇魔法を使えたかもしれないという話を聞き、期待感に目を丸くした。
「お前の左肩にあざがあるだろ?」
サーミャは首をかしげながら、片袖をまくり上げる。
「これだろ? そういうやぁ十歳の誕生日の朝だっけか?」
「激痛で目が覚めたら――ってなんで知ってんだよ!!」
ハーレイは頭を掻きながら目を逸らす。
「あれは俺だ」
「お前がいびきをかいて寝てる間に、俺の細胞を埋め込んどいた」
サーミャの顔は赤く染まりながら、ハーレイを殴りかかる。
「はぁ? いびきなんてかかねぇし!」
「それはどうでもいいっ!」
「勝手に、娘の体を傷ものにしてんじゃねぇ~っ!!!!!」
暴れるサーミャを横目に、ハーレイは黒魔法の遺伝子をもつサーミャが使えるようにするために、十年かかる儀式の前準備だったと語る。
そこへヘイガルが話に割り込む。
「サーミャ、地上での勝負の後……お前に黙れたフリをして近衛兵を地上にとどめてやったんだ」
「礼をしてもらうぞ」
「あ……あれ、気づいてたのかよっ」
「お前が消えた魔法の秘密はなんだ?」
「うぐっ」
「そうだ! サーミャちゃん、お父さんを助けに来てくれたよねぇ」
「がっ、てめぇ! 治療でチャラっつっただろう!」
「仕方ない、それと交換で、黒魔法を使えるようにしてやるといったらどうする?」
「(ナイスだヘイガル……私の探究心がうずくぞ)」
サーミャは言葉を詰まらせた。
「(ルナ……いいよな、こいつらなら言っても……)」
「ん、ん……クソ親父を治療しちまったから、今はできねぇんだが」
サーミャは『ヒーリング・ストーン』を懐から出し、『ディメンジョン・テレポート――転移――』が使えるようになった経緯を話した。
「な、イスガ……王国っておとぎ話でしか聞いたことねぇぜ」
「サーミャちゃんは、そこへ行った……だから俺の知らない魔法を使っていたのか」
「――だから、俺の治療に使ったその石で疑似的な光魔法を生み出し、サーミャちゃんの全攻撃魔法と混ざることで転移魔法が使えたってことか?」
「まぁな、毎回都合よく使えないのが欠点なんだけどさ」
ハーレイは興味津々で『ヒーリング・ストーン』を見つめる。
「なぁサーミャちゃん……それを使えば、俺にも使える条件が揃うよな?」
「絶対、貸さねぇ! やらねぇ! これはルナからもらった大事な石だ!」
「二つあるじゃん」
「一つは、ルナから借りてるんだ! 返さなきゃなんねぇの!」
ヘイガルは呆れる。
「お前ら、親子が末恐ろしくなってきたぜ」
「それだったらよぉ、ウェンディなら、その詠唱ができれば自由に転移できるってことか?」
ハーレイとサーミャは言葉に詰まる。
「う、ウェンディちゃんね……最初っから必要な六属性の魔法を持ってるからねぇ」
「そ、そうだよな……あの、おばちゃんなら」
「おばちゃんって、サーミャちゃんと一回りも違わんだろ?」
「それにウェンディちゃんは、まだまだ若いぞ」
「知らねぇよ、もう十五年近く会ってねぇし!」
するとそこへ、近衛兵がヘイガルを呼びに現れる。
「ヘイガル様、こちらに……至急、お戻りください」
「あぁ? なんだよ、これから面白くなりそうなのに……しゃあねぇ! またな」
そしてヘイガルは二人を残し、去っていく。
ヘイガルの背中を見送ると、サーミャは改めてハーレイへ向き直った。
「さぁ、クソ親父! 約束だぜ! 黒魔法を使えるようにしてもらおうか?」
「あぁそれか」
「それじゃ今日はとにかく体を休めて体力を万全にして、明日、改めて俺を訪ねてこいっ!」
「ただし、二週間帰さねぇから覚悟しとけよぉ」
「に、二週間も?……わかったよ」
そんなサーミャ達のやり取りも知らずに、ルティーナ達は『碧き閃光』の拠点へ到着する。
「――お前ら、よく無事に帰ってきたな!」
「皆さん、私が捕まったことやリーナが誘拐された件、大変ご迷惑おかけしました」
「本当にありがとうございます。後日、改めてお礼をさせていただきます」
「気にするな……そういえば、サーミャは?」
「お父さんに用事があるみたいで……」
「(そうか、仲直りしたのかな?)」
ルティーナはアンハルト達に、八年前の王都爆破事件の真実、そしてノキア王の体が朝時という男に乗っ取られた経緯を説明した。
「そ、そんな事が……一体、どうして」
「それは勇者召喚を行っていたからなんです」
「「「「!」」」」
ルティーナは、勇者召喚の話と自分とエリアルに勇者の魂が取り憑いていることを説明した。
そして朝時が誉美を狙い、自身を誤って誘拐したことも。
アンハルト達は、何から聞いていいのかわからなくなっていた。
「……話がぶっ飛びすぎて混乱しているのだが、つまり偽の王様が惚れたトモミという勇者がルナリカの中に取り憑いていると勘違いしてたってことか?」
「そうですね」
「結果的に、最後は私達に追い詰められ失脚した感じです」
「ノキア王がもとに戻れて良かった……」
「しかし……ルナリカとエリアルの不思議な力は、その勇者が入っていた水晶のおかげってことなんだな?」
グルバスは話を聞けば聞くほど目が点になる。
「っつうことは、お前ら、勇者の恩恵を受けるものが三人、シャルレシカも大占い師の孫だったんだし、サーミャは魔法師団長の娘……」
「すげぇメンバー揃が揃っちまったもんだ」
アンハルトはグルバスに釘をさす。
「しかし、数年後に迫る厄災の封印が解き放たれるのは大問題だ」
「だが、ノキア王の判断なしで噂を流したら大変なことになる」
「ここは、来る時まで指示を待つしかなさそうだな……」
ルティーナは改めて話を始める。
「捕獲したデブラク、どこにありますか?」
「やつなら、そこの籠に入れたままにしているが……」
「水もやらず放置したままだったから、干上がってなければいいが」
「(干上がるって……たしかに時間が経っちゃったね)」
「(とりあえず、カンジを解除して起こしてみたら?)」
(まぁ、元の姿に戻ってたら手足が無いからショック死するかもしれないけど)
「(そういえば、この甲羅にあの痣なんてあったかしら?)」
(あ、本当だ……あの痣だ……こいつもやはり――)
馬琴は、デブラクに描いている【眠】を解除し彼を目覚めさせる。
「う……ここは……ま、まさか!」
アンハルトに両手両足を切断されたあげく、ルティーナに小さくされたデブラク。
身動きが取れないまま、シャルレシカに触れられる。
「ルナぁ、なんでも質問してくだぃ」
「浮かんだ記憶を過去視しますからぁ」
「や、やめろ!」
「さぁて、いろいろ覗かせてもらうわよ!」




