第158話 移魂攻防 ~後編~
全員が油断している一瞬の隙をついた朝時。
フェンガは水晶の破片に触れ、その人格が朝時に変わってしまう。
「ぶははははっ! こいつの体はもらったぞっ!」
「そんな馬鹿な! 乗っ取れるはずがない!」
「私とマコトみたいに意識の中に入れるだけのはずよ!」
だがハーレイは気づく。
「いや、違う! フェンガはタイヘイに洗脳されたんだっ!」
「それでルナリカちゃんから水晶を奪って……」
朝時は、以前フェンガが取り返しのつかない失態を犯した際、その弱みにつけ込み『ダーク・マニピュレート――洗脳――』を仕込んでいた。
この魔法は、かけられた本人にはその自覚がなく、フェンガは普段どおりの任務をしていた。
(やはりそうだ! 触れれば、乗り移れるじゃないか!)
(ふひひひっ……これで誉美がエリアルにいる可能性が濃厚に――)
しかし朝時にも想定外な事が起こっていた。
(どういうことだ? 俺の自由にならない……だと?)
(これが里見がガキの体を乗っ取れない理由だったのか)
(自由は利かないが……洗脳し続ければ体を乗っ取ったのと同じだ)
ルティーナ達はフェンガとにらみ合いになり、その場は一瞬膠着した。
(本来は、ダブリスを消し自害させるために仕込んだの洗脳が……こんなところで役に立つとはな)
「まぁ予定が変わっちまったが、これで貴様らとはお別れだ」
「俺は、一度退散させてもらうぜ」
「「「「!」」」」
「『ダーク・バニッシュ――透明化――』っ!」
フェンガは姿を消し逃走を図る。
「き、消えた! 逃げられるっ」
「サーミャちゃんっ!」
「あぁ!」
サーミャとハーレイは息を合わせたかのように、お互い反対方向に『フリーズ・ゲージ――冷凍――』を放ち、通路の前後を瞬時に凍らせて逃げ道を封鎖するのであった。
(くそっ! 逃げ道が……しかし、こっちは姿が見えないんだっ)
(こうなったら、選択肢は1つ――)
ハーレイは冷静にノキア王を背に周りを全員で取り囲み守るように指示をした。
その時、ハーレイは迎撃は任せるとルティーナ達に伝え、小声でダブリスとロザリナにある作戦を語りかけていた。
一方、ルティーナ達は。
「なぁルナっどうする」
「フェンガの持っている武器は、拘束した時に全部捨ててやった」
「だから、体術しか使えないと思うんだが?」
「そうだね」
「この中で武器を持っているのは僕だけ……奪われないようにしないと――」
だが武器はあった。
朝時はダブリスがロザリナを強襲した時に投げていたナイフを拾い上げた。
「あ! 今、あそこにあったナイフが消えたぞ!」
「――そうだ、あの魔法は本人の衣服と同様、持っているものは消えるんです!」
エリアルはすかさず、ナイフが落ちていた場所に小剣で雷を飛ばすが、手応えはない。
(里見は狙わねぇ……お前には屈辱を与えてやるっ)」
(さぁてサーミャとロザリナどっちから殺るか? ……当然、こっちだな)
そしてフェンガは消えたままロザリナの背中にナイフを突き立てようとしていた。
(死ねーっ!)
カキーンッ!
「なっ」
「――この場面で、狙うなら治療できるリーナだよねっ」
エリアルは機転を利かせ、ナイフが空気を切り裂く微かな風切り音を聞き分け、ロザリナの前に小剣をかざし攻撃を防いだ
「そこかっ『ライトニング・ニードル』っ!」
「くそっ!」
(この雷針、消せねぇだとっ! 欲を出さずに里見を最初に始末すべきだったか――)
「ありがとうエルっ」
ロザリナは三人に声をかける。
「(お願いがあるんだけど、十五秒だけ私を守ってくれる?)」
「「「(余裕っ!)」」」
ルティーナは両手のひらに、【硬】と【輝】を描き、王の体に転写して起動する。
すると、王は硬化した状態で輝き始めた。
全員はノキア王を背に向け、朝時だけ正面を直視していたため、足が止まる。
その隙にサーミャは、朝時に刺さっている雷針を目印に『フリーズ・ランス――氷の槍――』を乱射した。
そしてエリアルは防御に徹することにした。
「(次から次にぃ! 里見ってめぇだけは、絶対に許さねぇ!)」
朝時はフェンガを操りながら、不慣れながらも体術で氷の槍の攻撃をしのいでいた。
そしてロザリナは叫ぶ。
「出し惜しみせず行くわよ! 『シャイン・キャンセラー――魔法遮断――』っ!」
ロザリナは、残り全魔力で放てる条件で、その場に存在する魔法効果を強制的に消し去った。
「お、俺は一体!」
姿を現すとともにフェンガは洗脳から解放され自我を取り戻した。
しかし立ち止まった瞬間に、サーミャの氷の槍が肩につき刺さり転倒する。
「ふぇ、フェンガっ!」
そしてフェンガは仰向けのまま、状況を理解する。
「くっ私は……そうか――」
「こいつが洗脳を……た、助かりました」
(何~っ! 何故だ! 何故ロザリナにこの魔法を使う魔力が残っている!)
(それよりフェンガっ、俺に協力しろっ! 悪いようにはしねぇ)
「(残念でしたね……それはありません)」
(ぐっ!)
「奴は、私の意識の中で身動きが取れなくなっています」
「リーナ! やるじゃない!」
「でも、保っても三分しか効果がないわ……作戦を考えてマコマコっ」
フェンガは頭を押さえながら中に居る朝時に言い放つ。
「こんな奴が王を支配して、俺達を使い捨ての駒のように……」
「残念だったな、お前ができることはもう何もないっ!」
(……くそったれがぁ)
「(マコト、フェンガさんからタイヘイを……)」
しかし馬琴に策はなかった。
床に粉々で散らばっている水晶をルティーナ越しに見つめながら言葉に詰まっていた。
「(ちょっと……黙ってないで)」
「(いつものように、ぱっぱと作戦を考えなさいよ!)」
(あぁ、あの破片の中で一番大きめの物を拾ってくれ――)
「(でも、それでも魂が抜けるの?)」
(やってみないとわからない……)
ルティーナ達が迷う中、フェンガは既に覚悟を決めていた。
そしてノキア王に深々と頭を下げながら口を開く。
「……ノキア王、私は今までの罪を償うために、これから先、この国のために尽くしたかった――」
「フェンガっ、まさか――」
「――ダブリスあとは、頼みます……」
(馬鹿っやめろっ、考え直せっフェンガ)
朝時にはフェンガの意識を共有していたがために分かってしまった。
彼は暗殺部隊に所属していた者として、任務が失敗した時――。
「(私はもう覚悟が出来ていますよ……あなたにはありますか?)」
(やめろぉぉぉぉーっ!)
「みなさん、最後まで私を信じてくれてありがとう――」
すかさずフェンガは躊躇なく奥歯に仕込んである毒をかみしめ、血を吹き出しながら自決した。
こうして、朝時の魂の憑依劇はあっさりと幕を降ろすのであった。
「ふぇ、フェンガ……さん」
その場にいた全員が、彼の行動に唖然とし言葉を失った。
ルティーナはまだ希望があったにもかかわらず自決してしまったフェンガを見て呆然とする。
ロザリナは魔力が残っていれば、彼を助けることが出来たことを悔やみ泣き崩れた。
エリアルは何もできない自分がやるせなかった。
しかしサーミは納得できずに吠える。
「ちょっと待てよ! さっきリーナは魔力がない状態で、あの魔法が使えたよな?」
「なんでだよ! 応用できんだろ!」
ハーレイはそんなサーミャの肩にそっと手を添え、首を横に振る。
「すまない、もう譲渡できる魔力がどこにもないんだ」
「!」
「何言ってんだ親父――魔力なら……ここ――あたいの中に、腐るほどあるだろがぁーーーっ!」
ハーレイはロザリナが魔法を使う直前、ダブリスへ自身が研究で編み出した闇魔法『ダーク・コンバート――魔力転換――』の詠唱方法を伝えていた。
それにより彼の残魔力のすべてをロザリナに譲渡し、短時間で短距離の範囲で放てる『シャイン・キャンセラー』の魔力を補完していたのだ。
「……くそっ~ったれ!」
サーミャは通路の天井を見つめながら叫ぶ。
「やっぱ、てめぇはクソ親父だぁ~っ! あたいは役立たずじゃねぇかよっ!」
「(闇魔法が使えていたら、あたいもリーナに……)」
サーミャの叫び声は虚しく地下通路に響き渡るだけだった。




