第157話 移魂攻防 ~中編~
馬琴は、ダブリスの話から、ルティーナの父親バルスト暗殺へと繋がる真相の一端にたどり着いた。
ルティーナは怒りで気がどうにかなりそうであったが、馬琴が制止する。
(待てルナ、こいつにはそんなつもりはなかったんだ!)
「(……そう……よね)」
(しかし、太平の野郎っ――何故、そんな決断を!)
ルティーナは震える声で話の続きを聞く。
「――だから、リーナの魔力回復の提案をしたときに『真実が知りたい』って言ってたのね」
「あぁ」
「俺は、本来であれば爆破事件の真相を探る任務が指示されると思っていた」
「だが違った……」
「それ以来、ノキアとは本音で話すことがなくなり、事故の隠ぺいに力を注いでいた理由を何も答えてくれなかったんだ」
ハーレイは必死に話の内容を理解しようとしたが、頭の整理が追いつかない。
「つ、つまりはなんだぁ」
「ノキア王は、そのタイヘイってやつに乗っ取られて、暗殺部隊に爆破事件の真実を隠蔽しようとしてたってことなのか?」
「なら、そいつに理由を聞くしか……」
サーミャも半ばハーレイと同じ考えだった。
「シャルに頼んで過去視させればって思ったけど、それに直接触れたらヤバいんだろ?」
「どうするよ――ルナ」
しかしロザリナは、今回の件の繋がりに納得できなかった。
「だけど、それとルナの誘拐は関係ないでしょ!」
そこへ、しばらくダブリスの話を聞いていたノキア王が会話に割り込む。
「そ……その続きは余が話そう」
「ノキア王、無理せず寝ていてください」
「いやいや、そういう流れではなさそうだ」
「不本意とは言え、ロザリナ君に殴り殺されると覚悟を決めていたからな……このくらい」
ロザリナの顔色が真っ青になる。
「きゃ~ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ――って」
「あれ? タイヘイに完全に乗っ取られていたのでは?」
ノキア王は、完全に体の自由も意識も朝時に奪われ、一切干渉することはできなかったのだ。
しかし――。
「時折、奴の意識が流れ込んで来たんだ」
「!」
「ダブリス、世が不甲斐ないばかりに……今まで苦労をかけた」
「ほ、本当にノキアなんだよな」
ダブリスの目に涙が浮かぶ。
「あぁ、今は清々しい気分だよ」
ノキア王は自分が得た記憶から言葉を選んで語り始める。
「タイヘイの国政のお陰で国の経済、他国との国交や交流により国を豊かに変えてくれたことは感謝していたんだ」
「――だが、本当の目的は」
「ただトモミという女性を自分のものにするため」
「それが我々に誘拐させた理由だったのですね……」
(そういうことだったのか! 太平……お前)
その様子を話の輪の外でフェンガも拘束されながら見つめていた。
「(そうか……あの時、ダブリスが任務に失敗してもいいような口ぶりだった理由はこれだったのか)」
フェンガにも、いくら偽りの王の命令だったとはいえ、多くの人間を無意味に手にかけてきた後悔が押し寄せていた。
そのフェンガの悲しそうな顔に気付いたノキア王はルティーナに相談する。
「のおルナリカ、すまのがフェンガの拘束もといてやってくれぬか?」
「こやつもダブリスと同じなんだ」
「……わかりました」
「ミヤお願いできる?」
そしてサーミャは、フェンガの体と口を拘束している紐をほどく。
解放されたフェンガはしばらく俯いていた。
やがて意を決したように全員へ頭を下げた。
改めてノキア王はルティーナに問う。
「のおルナリカや……余も質問したいのだがいいかな?」
「はい……」
ルティーナは息をのむ。
「お主の中にはトモミという女性でない誰かが居るといういうことなのかな?」
ハーレイは慌てて話に割り込む。
「ちょっと待ってくれ! さっきから皆の会話についていけてねぇんだ!」
「俺だけ取り残されてねぇか?」
「そうですね、ハーレイ様には説明しておいていただいたほうがいいですね」
「一体、ノキア王を乗っ取っていたタイヘイってやつのことを、ルナリカちゃんは知っているのかい?」
そしてルティーナは、ハーレイに自分が誘拐された経緯を説明した。
「じゃあルナリカちゃんは、ずっとその男と話してたってことなのか?」
「そうなんだ、ハーレイよ」
「これもすべて八年前の王都爆破事件により隠蔽された勇者召喚の行為から始まっているのだ」
「勇者召喚なんて、おとぎ話で聞いたぐらいですよ」
「まさか、その召喚された男がその水晶に……」
ルティーナは馬琴に言葉を選んでもらいながら語る。
「ノキア王、実は私の中には――八年前に勇者召喚されたマコトが存在しているんです」
ノキア王の顔が一瞬こわばったが、自分も勇者召喚した朝時が体を乗っ取られていた体験者であったため理解はできていた。
「やはり……だが、余は全てを乗っ取られたにもかかわらず、ルナリカは自分の意思で行動できるんだ?」
「私は、マコトが入った水晶に触れただけでした」
「彼は意識だけの存在で、今まで、彼の助言でみんなは助けてもらったんです」
「余の場合は、タイヘイが入った水晶が体内に刺さった……それが原因なのか?」
「おそらく」
「では、トモミは何処に……」
「それは――」
(ルナ、待て!)
「(? あ、そっかタイヘイに聞かれたらまずいもんね)」
「わ、私達も探しているんですよ」
「そうなのか……」
しかし朝時はただ黙ってマントに巻かれて沈黙しているだけではなかった。
『(聞こえたぞ……あの台詞、隠したな?)』
『(つまり、この中に居るんだな……)』
朝時は、乗り移る条件とこの会話で理解してしまう。
『(エリアルだ! エリアルの中にトモミが居る!)』
『(そうかそうだったのか! 武闘大会の祝賀会の時に……くそっ、確かに魔剣の能力に疑問を持つべきだった)』
『(里見~っ、すべての辻褄が合ったぞ!)』
そして朝時は、大博打に出る。
「ところでルナリカ、その水晶の扱いはどうすんだ?」
問われたルティーナだったが、馬琴は答えがすぐに出せなかった。
(今回の件で分かった)
(自分の水晶の欠片さえ見つけられれば、外へ出られる可能性はある――だが)
「(……大丈夫よ)」
(!)
「(マコトをちゃんと召喚する方法を探し出してみせるから!)」
(ルナ……ありがと)
「(ううん、マコトが居てくれたおかげで、お父さんが殺されかけた真相にたどり着けた)」
「(感謝するのは私の方……本当にありがとう)」
「――リカ……ルナリカ?」
「あ、す、すみません」
「とにかく、誰にも触れられない場所があればいいのですが……」
しかしノキア王も今すぐに都合のいい案が見当たらなかった。
「まずは城内の混乱を解決してから、考えぬか?」
「今でも、地上では大騒ぎしているのであろう?」
ノキア王はルティーナに、まずは城内の混乱を沈静化する協力をするのであった。
「そうですね、ノキア王も一緒なら話は早そうですね」
しかし、ノキア王は突然、足がゆらぎ倒れそうになる。
「ノキア、大丈夫か?」
ダブリスはノキア王を支え、肩をかした。
「はは、さすがに、まだ歩くのは無理そうだな」
「私は一緒に行くわけにはいきませんので、どなたかお願いできませんか?」
「確かに……ダブリスさんは表には出ないほうがよさそうですね」
「すぐ上に居る魔法師団の方を呼んできた方がいいかもしれませんね」
――全員は地上へ向かう事しか頭になかった。
その時、朝時が一手を打つ。
『(くくく、里見ぃ……奴を自由にしたのは失敗だったな)』
すると突然、フェンガの目の色が変わり、ルティーナから水晶を奪い取った。
「えっ! フェンガさん?」
フェンガは一瞬だけ水晶を見つめた。
「おい! 何をしているフェンガ!」
フェンガは水晶を包んでいるマントをはぎ取り、素手で触れる。
――すると、水晶が光りだした。
「……く、くくくく! 里見ぃ残念だったなぁ! 乗り移れたぞっ」
そして水晶を床に叩きつけ粉々に粉砕するのであった。
「(あれじゃぁ、もうフェンガさんから抜けなくなっちゃうんじゃ)」
(太平っ)
「おいルナ、触れるだけならマコマコみたいに意識だけなんじゃいのか?」
「あれはどう見ても乗っ取ってるぞ!」




