第155話 国王覚醒
ルティーナ達はついにノキア王――朝時を追い詰めた。
残る問題は、胸に潜む水晶をどう取り出すかだった。
そんな中、ロザリナが声をかける。
「ごめんねルナ、一度仕切り直さない?」
「?」
「その場所って心臓あたりよね?」
「私の今の残り魔力だと、最悪を考えると本当に助けられないかも……」
ロザリナは今すぐではなく、一度地上へ戻り、準備を整えてから行おうと提案した。
その言葉にサーミャも賛成する。
「ルナ、いや、マコマコなのか? とりあえずお前は救出できたんだ」
「こいつは拘束したんだ……連れ帰ろうぜ」
「それに、シャルもいないとどこに水晶があるか正確な位置がわからねぇしさ」
確かに二人の言うことは正しい判断であった。
しかし馬琴は、この事実を外へ漏らすべきではないと思った。
ノキア王自身は悪者ではない――ただ操られていた被害者。
「そっか! さすがに王を拘束したまま地上に出れば、それこそ一大事ですね」
「わかってるじゃない、エル」
「ノキア王の中に悪人が潜んでいることを、公けにしたくないのよ」
「ノキア王の威信が失われてしまうか……ルナリカちゃんの言うことには一理あるねぇ」
「いくら俺が証人だといえ、王家どころか、国家が揺るぎかねねぇ」
そんな中、ダブリスが話に割り込む。
「……ルナリカ、殺そうとした奴が恥を忍んで頼みたいことがある」
「! なによ、ダブリスだっけ? こいつの命乞い?」
「俺も真実が知りたいんだ……」
「君たちの話を聞いて理解した――やはり、こいつは俺の知っているノキアではなかった」
「ダブリスぅ! 貴様ぁ裏切るつもりか!」
――ダブリスはノキア王の叫びを意に介さず、話を続けた。
「ノキアは八年前まではこんな性格じゃなかった……」
「王都爆発事件以来、別人のように鬼畜な命令が多くなり、違和感は感じていたんだ」
「「「「「……」」」」」
「原因がその傷にあるんだな……」
「なら、ロザリナの魔力を回復させればいい」
ダブリスは自分の懐にある『マジック・ポーション――魔力回復薬――』を使うことを提案した。
「お前、あんな希少なもんを持ってるのか?」
しかしハーレイは、拘束されたままのダブリスを見て眉をひそめる。
「だが、その格好じゃな……」
そんな中、馬琴は予想外の行動に出る。
(停止っ)
「(え、いいの?)」
(たぶん、こいつは自害も悪さもしないと思う……)
(――こいつもタイヘイに踊らされた被害者の一人さ)
ダブリスを縛っていた【硬】の力が解け、サーミャ達はその行為に驚きを隠せなかった。
「ルナっ、いいのかよ! こんな奴の言うことを信じて!」
「きっと、大丈夫よ」
「か、体が動く……殺そうとしたのに、信じてくれるのか?」
ロザリナは少し複雑そうな表情を浮かべた。
だが、最後はルティーナを信じることにした。
「まだ、魔法遮断の効果も五分ぐらい残ってるからね」
「嘘だったら、私の鉄拳制裁が待ってるわよ」
「――ありがとう」
ダブリスは胸元から小瓶を取り出す。
その液体を見た瞬間、ハーレイの表情が変わる。
「……もう無くなったって聞いてたが、まだあったなんてな」
「ロザリナちゃんが直接飲むのは危険だ! 俺が一口飲んで試してや――」
バシッ!
サーミャはハーレイの後頭部を再び殴る。
「く、クソ親父っ……間接キスなんて狙ってんじゃねぇよ」
「ひ、酷いサーミャちゃん……お父さんを何だと思ってるのぉ」
ハーレイは後頭部をさすりながら文句を漏らすが、観念して両手で皿を作った。
そこへダブリスが少量のマジック・ポーションを注ぎ、ハーレイは恐る恐る口へ運んだ。
「おおっ、こ、これが秘薬!」
「本物だ! ほんの一口飲んだだけで、魔力がちょっとだけ回復したのがわかるぜ!」
それを見たロザリナは、飲むことを決意する。
ゴク、ゴクリ……。
「わぁ、凄いっ! 魔力が――!」
「は、半分くらいまで戻ってます!」
「「(え…………秘薬なのに全快しない? どれだけの器が)」」
ロザリナが再生魔法を使えるほど魔力が回復したことで、馬琴は作戦に移す。
「(ねぇマコト……それしかないの?)」
前にヘレンがドグルスによって体に埋め込まれた『カース・ストーン』を取り出した時は、シャルレシカに場所を探らせた上で、ピンポイントで【抉】を描き肉片ごと取り除いた。
そしてシェシカが再生魔法で命を救った経緯があった。
ロザリナはその事を聞き少し不安になる。
「ヘレンにそんなことがあったのね……」
「でも、シャルがいないと厳しくない?」
しかしルティーナは、ノキア王の胸元の傷を指さす。
「なるほどな、場所ははっきりしているから、シャルが居なくても大丈夫ってことか?」
そして馬琴は、ルティーナを介して皆に作戦を伝える。
まずノキア王に【眠】と【癒】を描き眠らせ痛みを感じさせないようにする。
「んじゃ、眠ってなさい」
「や、やめ――スゥー」
ノキア王をその場で仰向けに寝かせ、上半身の衣服を脱がせた。
「『ソード・オブ・スラッシュ』」
(【斬】)
エリアルはルティーナの指示で、小剣の切れ味を上げ、ノキア王の傷口の上に添って軽く斬りつける。
その切り口は鮮やかで血が噴き出すことがなかった。
(ルナっ! 急げっ!)
「(うげっ……)」
そこへルティーナは躊躇なく、傷口に小さな手を突っ込み水晶の破片らしきものを探す。
「(なんか生暖かい……というか気持ち悪い……)」
「――あ、あった!」
そして、硬い感触を見つけ掴む。
(文句言ってないで、早く引き抜けっ)
「リーナ行くよっ!」
ノキア王の中から血しぶきとともに、水晶の破片が取り出された。
――だが、ノキア王に異変が起こる。
体内で八年近く細胞と同化していたため、ショックに耐えきれず呼吸が止まりかけていた。
「絶対、死なせないよっ!」
その瞬間、ロザリナは全魔力を使い『シャイン・レストレーション――再生――』を放った。
ノキア王の体は神々しい光に包まれ、血は止まり傷口が徐々に塞がり始めていた。
「「「「「……」」」」」
ロザリナの治療が終わる頃。
馬琴は無理に意識を戻せば、ノキア王の容態が急変しても対応できないと考えた。
そこで【眠】だけを解除し、自然に目覚めるのを待つことにする。
サーミャは半信半疑の表情で、水晶をのぞき込む。
「ところでマコマコっ、その水晶にタイヘイって奴が入っているのか?」
「血まみれでグロいけど……」
ルティーナは、手に【水】を描き起動し、水晶についている血を洗い流す。
すると、その中には、礼服姿の太平が必死に中から出してほしそうにあがく姿があった。
(俺の結婚式に参加してた太平の姿のままじゃねぇか……)
「(ってことは、マコトもあの草原でこんな感じで転がってたってことよね?)」
(全く記憶がない……召喚された時に気を失ってたのかもな)
「これが王様の体と意識を乗っ取っていた男……タイヘイ アサトキ」
ダブリスは水晶の中身を睨みつけるようにつぶやく。
「ということは、今まで我々、暗殺部隊に指示を出していたのは――」
その声にノキア王本人がついに覚醒する。
「げほっがほっ……」
「そ、そうだ、ダブリスよ……ワシではない……げほっ」
「「「「「! ノ、ノキア王っ 意識が戻った」」」」」
「(ご本人だよね?)」
(そうだな、太平の呪縛から解き放たれたんだ)
朝時は、無理やり水晶を摘出すればこうなることを知っていた。
だからこそ『危険』だと理由をつけ、治療を拒み続けていたのだ。
「げほっ、ごほっ」
「まだ、喋っちゃダメですっ! 出血が酷かったんです」
「もう少し安静にしててください――」
「す、すまない……ごほっ……」
その時、ルティーナは朝時が必死に水晶を自分の額に当てていた奇行を思い出す。
「(そういえばマコト、私、この水晶に触れてて大丈夫なの?)」
「(まさか、こいつも私の中に入ってこないわよね?)」
(! しまった……ノキア王を助けることを優先して、失念していたが――)




