第154話 幻夢崩壊
サーミャ達は拘束したフェンガを一旦そのままにし、先に進むことにする。
しかしハーレイは先に受けていた怪我と全魔力を使い切り、足元がフラフラになっていた。
そんな姿をみたサーミャはため息をつく。
「(ちったぁ尊敬してやったのによ……)」
「こっちはちんたらしてられねぇんだ!」
「やっぱこいつ……捨てていく――」
さすがに焦るハーレイは必死になる。
「あとで、あの技の詠唱を伝授してやるからさ~」
「あのなぁ~、あたいは闇魔法は使えねぇっつうの!」
そんな二人のやり取りに呆れたエリアルは、仲裁に入る。
「まぁまぁミヤ、証人は必要ですから……」
「僕も手を貸すので急ぎましょう」
そんな中、ルティーナとダブリスの戦闘が始まろうとしていた。
「ルナっ私の新魔法で、まだ二十分ぐらいはこいつの魔法を封印しているから思いっきりやっちゃえ!」
「(そうか、その時間を逃げ切れば……)」
ダブリスはロザリナの魔法で、すべての魔法が封じられている。
得意の姿を消す戦法も、自慢の高速移動も、この狭い地下通路では活かせない。
「さすがリーナっ! 三分で片付けるわっ」
その言葉にダブリスのプライドに火が付く。
「小娘っ! 3分だとぉ~っ!」
「武器もないお前など、魔法が使えなくとも――」
「(こいつの手の動きに注意すれば……)」
しかしルティーナの口元がうっすら開く。
「時間がないから、さっさと始めるわよ」
ジャラッ――。
ルティーナは、自分を拘束していた鎖を持ち出していた。
その鎖には既に細かく輪ごとに無数の漢字が描かれていた。
「武器はあるのか……」
それを見たダブリスにはその模様がなんらかの効果が発動することは理解していた。
そして、腰元の短剣を抜き構える。
その二人を厳しい目で見つめる朝時。
ロザリナには体であるノキア王を抑えられ、手助けすらできない。
「ダブリスっ! 油断するなっ!」
「おそらく、その鎖は伸びて鞭のようになるっ」
「鎖の先にも注意しろっ! 爆発するぞ――」
朝時は鎖に描いてある漢字が読める。
その効果を見抜きダブリスに叫び伝えるのであった。
「ノキアーっ! てめぇは黙ってろ!」
ロザリナは、このままではルティーナが不利になると悟る。
ノキア王の腹部に再び拳をぶち込み気絶させた。
だが、ルティーナは漢字の効果がバレていることも気にせずに、鎖に描いてある【伸】【撓】を起動し鞭のように変化させ、振りかざし始める。
ダブリスは朝時の言葉を理解し構える。
「要は、当たらないようにすればいいんだろ?」
「そうね……目を離さないでね」
鎖を振りかざすルティーナ。
思うように間合いを取れない状況でも、ダブリスは鎖の攻撃など難なく避けてしまう。
「貧弱な攻撃だな」
ダブリスは鼻で笑い、そのまま一気に間合いを詰めた。
(ルナ、一瞬目を閉じろ!)
突然、鎖が輝きだした。
「しまっ――!」
ダブリスは爆発を警戒するあまり、鎖の先端ばかりを注視していた。
その刹那、閃光が視界を焼いた。
(ルナ、そのまま投げろ!)
ルティーナは、一瞬たじろいだダブリスへ鎖を投げつける。
眼前まで迫っていたダブリスは反応できず、鎖は容易く直撃した。
(起動っ!)
鎖に描かれていた【爆】の効果でダブリスが爆発に巻き込まれ、その場に倒れこむ。
「ぶはっ!」
そしてルティーナは仁王立ちでダブリスを上から見下ろす。
「なまじ知識ができたのが仇になったわね!」
馬琴は、朝時が漢字を読み取ることを見越し、鎖の先に【輝】を描いていた。
そして、その上から【爆】を重ねて描くことで、【輝】を隠していたのだ。
それにより、朝時の目に映ったのは【爆】――。
結果的に、ダブリスへ閃光への警戒は伝わらなかった。
(ルナっ、急いであいつに触れるんだ!)
馬琴はダブリスに自害させないように、【硬】を描き全身を包み込んで硬化させるのだった。
「――ルナっ! 右腕を出して!」
勝利を確信したロザリナはルティーナに駆け寄り、『シャイン・レストレーション――再生――』の魔法で怪我を治療するのであった。
「全く、何をどうしたらこうなるのよ」
「こんなことしなくても、私が助けたかったのにぃ」
「ごめんごめん、私だってこんな姿にさせられて怒ってたんだから」
ルティーナはロザリナに脱出した経緯を説明した。
拘束された時、両手の甲を合わせるよう縛られ、自由に動かせるのは指先だけだった。
ルティーナは牢屋の中から、ロザリナがダブリスに強襲されたことに気付き焦る。
だが、ノキア王はルティーナの服内を調べるため、一時的に拘束の鎖を緩めていた。
そのわずかな隙が残されていたことで、指先だけは鎖へ届くことに気付く。
馬琴は咄嗟に右手の指先に、わずか二センチ程の【爆】を浮かび上がらせる。
それを理解したルティーナは、指先が届く範囲の鎖や椅子へ転写し、破壊したのであった。
「お~ぃ! ルナぁ~っ! 無事……か」
すべてが終わったところへ、サーミャ達も合流する。
「ミヤっ来てくれたのねっ」
「あぁ、証人も連れて来たぜ…」
ルティーナは首を傾げる。
「誰?」
「(なんか、かっこいいおじさん……?)」
サーミャは頭を掻きながら応える。
「ま、今は目が見えないから、クソ役にも立たねぇけどな」
「サーミャちゃん、さっきよりは見えてるさ」
サーミャが紹介する気配を見せないため、見かねたエリアルが代わりに説明する。
ルティーナはサーミャの父親が魔法師団長であったことに言葉を失う。
「ミヤのお、お父さん?」
(しかし、なんだあの雑な扱い……)
「初めましてかな?」
「本当に拘束されていたのか……なんてこった」
ハーレイの様子を見てサーミャは呆れる。
「おぃ親父、それリーナだから……さっき一緒に居たんだろっ!」
「やっぱ、見えてねぇじゃねぇかっ」
その様子にロザリナは心配そうな顔になる。
「目は大丈夫なんですか? 私が――」
「――そのうち治るさ」
「これだよこれ、サーミャちゃん! やさしさ」
「うるせぇ」
ルティーナはロザリナ声をかける。
「リーナ、簡単でいいからノキア王を治療して起こして」
ルティーナは気絶しているノキア王を鎖で拘束し、ロザリナに治療させる。
数分後――。
「――なっ!」
「やっと起きたわね」
朝時の目の前は、シャルレシカを除く『零の運命』とハーレイ。
そして、硬化されたダブリスと、先に拘束されたフェンガが床に転がっていた。
「さぁノキア王…いいえタイヘイだっけ? 説明してもらうわよ」
「タイヘイってなんだ……ノキア王じゃないのか? ルナリカちゃん?」
ルティーナは、その場に居る全員にノキア王の正体を朝時が操っている事を説明する。
「ハーレイっ……騙されるでないっ!」
「すべてはそいつらが仕組んだ謀反だぁ! 私を信じ――」
しかしハーレイは聞く耳を持たない。
「――もういいぜ偽物の王様よぉ」
「俺は男のいいわけは信じないんだわ」
「(闇魔法以外で、直接本人を乗っ取る方法があるとは……)」
朝時はその場で打つ手は全て無くなっていた。
「(くそ、あの馬鹿どもめ……役立たずがっ)」
ルティーナはノキア王の服に手をかける。
「さぁ、あなたの野望は潰えたわ」
「そういえば……人の体を好き勝手調べようとしてくれたわよね?」
「今度は私の番よ」
それを見たハーレイに変な想像が頭をよぎる。
「はぁ? る、ルナリカちゃん? なななな」
サーミャはハーレイの後頭部を殴る。
「馬鹿かお前っ」
「痛っ! 頭怪我してんだぞっ殴るな」
ルティーナは、ノキア王の上着をはぎ取り左胸の下にある大きな傷跡をさらけ出した。
「これね……王都爆破事件の日に負った大怪我っていうのは……」
全員は息をのむ。
「この傷の中に、あいつがいるのよ!」
「「「「!」」」」
サーミャは、以前ヘレンの体に埋め込まれた『カース・ストーン――呪縛の石――』を取り出したことを思い出す。
「まさか、あの時のやつを王様にもやるってのかぁ?」




