第153話 暗殺部隊
時は、ルティーナが拘束から脱出する少し前。
救出を急ぐサーミャ達は地下四階に降りる階段の手前まで近づいていた。
「すまないサーミャちゃん、急いでるのに」
「うるせぇ、階段を踏み外すんじゃねぇぞ」
「(仲が良いんだか、悪いんだか)」
「(うるせぇぞ、エルっ)」
ハーレイは改めてエリアルが言っていたことをサーミャに確認する。
「ところで、俺達を襲った奴らがサーミャちゃんの言ってた誘拐犯なのか?」
サーミャはハーレイに、王宮には暗殺部隊という組織があることを聞いたことがないか確認した。
ハーレイはヘイガルとそれらしい噂を耳にしたことはあったが、ノキア王には全否定されていた。
「やはり、ノキア王は隠していたのか」
ドーンッ! ドーンッ! ――――。
「し、下から爆発音が? ルナの悲鳴も聞こえた気が……」
「まさか、戦闘が始まってる? 急がねぇとっ」
サーミャ達が階段に近づこうとした瞬間――。
目の前に突然、爆弾が飛んでくる。
偶然、ルナの声に反応していたおかげで、それに気付いたエリアルは、大剣を盾にして爆発を最小限にとどめた。
「なっ、爆弾が飛んできた? どこから!」
フェンガは姿を消しながらも、地下を顧みる。
「(くそっ、なんでこんな時に爆発音が……それが無ければ)」
咄嗟にハーレイは状況を分析する。
「俺達を襲った奴か?」
「もし『ダーク・バニッシュ――透明化――』を使ってるなら、爆弾を持っている間は見えない」
「つまり?」
「手元を離れた瞬間見える! 警戒しろっ」
ハーレイはわざとフェンガに聞こえるように指示を出した後、小声で指示を出す。
「(飛んできた方に居るはずだっ、ここは一本道だエリアルちゃんは適当に攻撃をぶちかませっ!)」
「(サーミャちゃんは、その攻撃の隙間を攻撃するんだ――)」
「? わ、わかった」
「わかりました」
エリアルは大剣を盾にし防御したまま、小剣を炎で纏わせ、炎を前方に放つ。
その隙間を狙うように、サーミャは無詠唱で『ライトニングニードル――雷針――』をまんべんなく時間差で放つ。
「(炎の遠撃だと!)」
フェンガはたまらず炎を避けるため、横へ飛ぶ。
しかし、待ち構えていたサーミャの雷針をまともに喰らってしまう。
「ぐわっ」
「そこに居るなっ、あたいの雷針が刺さってるぜ」
「魔法の痕跡は接触しても消えねぇみたいだな」
フェンガは居場所が割れた以上、無駄な魔力消費を止め、姿を露わにした。
「(ハーレイの入れ知恵か)」
「姿を見られた以上は、お前達には死んでもらう」
サーミャは両手を広げながら首を振って呆れる。
「見なくても殺そうとしたくせに、よく言えたもんだな」
フェンガは爆弾を構え、距離をとる。
「さすがのハーレイも、目が見えなければ、ただの足手まといだな」
ハーレイも呆れた顔で、呟く。
「言うじゃねぇか」
「てめぇの顔が拝めないのが残念だぜ、なぁサーミャちゃん」
「くらぇ! 死にぞこな――!」
「無駄な会話、役にたったかい?」
サーミャは笑う。
「親父、あたいの考えがわかってんじゃねか?」
「もう詠唱はとっくに終わってるぜ、くらえっ『フィルス・フリーズ・ランス――氷の三叉槍――』っ」
「(『フリーズ・ランス――氷槍――』じゃない……だと? サーミャお前、一体)」
ハーレイはサーミャの詠唱の時間稼ぎの会話をしていた。
不意を突かれたフェンガであったが、機敏な動きで氷の槍を交わした。
しかし、槍の過剰な冷気を足が浴びてしまい凍り付き地面に転倒させられてしまった。
「か、かわしたはずなのに!」
「そこらの『フリーズ・ランス』と一緒にすんなよ!」
「油断したな、これでちょこまか動けねぇだろ?」
フェンガは考えた。
このままでは拘束され、後でシャルレシカに調べることを懸念し、暗殺部隊の掟――自決の道を考えた。
「(しかし、今、ダブリスは魔法が使えない状況で戦っている……)」
「(俺を信じて……)」
「こうなったら……」
そこで、土魔法で壁をつくり時間を稼ぎつつ火魔法で少しでも凍った足を動かせるようにしようと目論む。
しかしハーレイは一手先を読む。
「(……闇魔法使いは基本的に火と土魔法が得意……なら、考えることは――)」
「『ロック・ウォ――』」
「遅せぇよてめぇ『フリーズ・ゲージ――冷凍――』っ! やろうとしてることはバレバレだっ」
ハーレイの卓越した魔法は通常の魔法より発動時間と速度が群を抜いている。
フェンガが岩の壁を作る前に地面に氷を走らせ凍結をさらに強めた。
「だんだん目が見えてきたぜ――攻撃の方向は合ってるよな?」
「(すげぇ……親父)」
「(黒魔法使いの特性が解ってやがる……ヘレンもその魔法が得意なのはそういうことか)」
フェンガは逆に岩と氷で完全に首から下の身動きが取れなくなった。
「(これでは……やはり自害を――)」
「(いや……足止めを)」
「親父、こいつらは任務に失敗したら自害するやつらだ」
「このまま放置でいい――」
三人はフェンガをそのままにしてルティーナの救出を優先しようとした。
フェンガはその様子を悟り、突然、言葉牽制する。
「俺は他の奴らとは違う!」
「同胞を無駄に散らせた、ノキアがどうなろうが知ったことではない!」
「勝手に行けばいい、早くいかないと私の隊長がルナリカを――」
「「「(?)」」」
フェンガは、ハーレイ達に違和感だけを残した。
「てめぇから情報を引き出してる時間はねぇんだ、勝手に死んでろ!」
サーミャは文句を言いながらも、ハーレイから小声で指示を受けていた。
「(サーミャちゃんっ、あいつの側を通りすぎる直前にやつの位置を教えろっ!)」
「(俺は詠唱を始める……やっぱ、あいつの言葉はなんか信用ならねぇ)」
「(?)」
フェンガは、詠唱した火魔法を放てなくとも懐にある爆弾に起爆させ、自分もろとも巻き込んで死ぬつもりであった。
そして、ハーレイ達がそばを通過する瞬間を狙って『フレイム・ボム――爆破――』の詠唱を終えていた。
「(なぁ親父……何の詠唱だ? もうすぐヤツの横を通りすぎるぜ……)」
「(こいつ、さっき使った爆弾をまだ何個か持っているはずだ)」
「(自害するくらいなら、俺達を道ずれにって考えても不思議じゃねぇだろ?)」
そしてフェンガは、この瞬間を待っていたかのように顔が緩んだ瞬間――。
「させねぇよっ!」
ハーレイは倒れこみながらフェンガに接触し準備していた魔法を発動させる。
「『ダーク・コフィン――拘束――』っ」
すると、フェンガの周りを薄暗い霧が包み込み、魔法で爆弾を起爆する以前に金縛りのように動きを止められたのであった。
「これが、闇魔法ですか」
エリアルは息をのむ。
「二人ともボケっとすんな、あと二十秒ぐらいしかねぇ」
その間に手際よくサーミャとエリアルは、フェンガを封じている氷を破壊し、武器を没収する。
さらに自決できないようにして口に布を詰め、両手両足を拘束するのであった。
「うぐぐぐぐ……」
そしてフェンガにかかっていた暗い霧が消え、動きが解放される。
「ななな、なんだ? 親父、この魔法は……」
「あぁ~闇系と攻撃系の六属性持ちが使える、俺の編み出した拘束魔法さ」
「(あたいも、闇魔法が使えたら……)」
ハーレイが言うには三つのデメリットがあるという。
詠唱時間がやたらと長い。
対象相手に接触しなければならない。
全魔力を消失する。
「まぁ、俺が全快でも三十秒がいいとこだろうな」
「すげ――って! おめぇ! それじゃ今、ガス欠じゃねかっ!」
「おぉ、さすがサーミャちゃん」
「(なんなんだこの親子……息ぴったりじゃないですか)」
「すごいですねハーレイさん。それを使われていたら僕を簡単に捕まえられたんじゃ?」
「エリアルちゃんは勘がいいから、接近なんてさせてもらえそうになかったしな」
「それに俺は、レディにはそういうことはしないさ」
「ぷっ」
「っか親父、やっぱりエルに負けたのかよっ」
「う、うるせぇっ」




