第152話 二転三転
ダブリス達は、一刻も早くロザリナの足を止めなければならない。
しかし、彼女が発動している『シャイン・キャンセラー――魔法遮断――』の為、うかつに仕掛けられなかった。
「くそ、どんな条件を設定しているんだ?」
「隊長っ、まずいです!」
「三階の階段からサーミャ達の声が……」
ダブリスは顔をしかめる。
ノキア王の状況も分からない中で決断する。
「フェンガっ! おそらく、広範囲では展開していないはずだ」
「『シャイン・キャンセラー』の圏外に出て――やつらの足止め……」
「いや、もう非常事態だ! 始末しろっ」
「ダブリス……いいんですか?」
「構わんっ、行けっ!」
「俺は、このままノキアのところへ行く!」
そんな中、ロザリナはルティーナの捕まっている牢屋らしき場所にたどり着く。
「? ルナの声が聞こえた気がする……」
ロザリナは耳を澄ますと、ルティーナらしき声と男の声の会話が聞こえた。
声のする牢へ駆けつけると、ちょうどダブリスを探そうと牢から出てきたノキア王と鉢合わせた。
「……ロ、ロザリナ……(バレたっ)」
ノキア王の額から汗が零れ落ちる。
「の、ノキア王っ! やはりあなたがっ!」
「ルナはそこに――そこに居るのねっ!」
「な、何を言っているのかな?」
ノキア王のあまりにも不自然な表情。
ロザリナの怒りがふつふつと湧き上がり、声のトーンが変わる。
「……抵抗するなら王様だろうと――」
朝時は後悔した。
――勇者召喚されたはずなのに、闇魔法しか使ったことがない。
ノキア王の体を操っても『洗脳』しかまともに使う機会がなかったことに焦りを感じていた。
おそらく、正しい召喚がされていれば、違う『能力』が目覚めていたのかもしれない。
「(ロザリナを洗脳するにも……弱みを握らなければ効果がない……)」
「わ、私をどうするつもりかね?」
「グダグダと……シラを切ってんじゃねぇ!」
「落ち着いて話をしようではないか? (言葉遣いがおかしいぞ……こいつ)」
すると、牢屋の中のルティーナがロザリナの啖呵に気付く。
「――リーナ? リーナなのっ!」
ロザリナの怒りは一瞬だけ消え、心配をする優しい顔になる。
「ルナっ! 待っててね!」
さすがにノキア王も隠しきれなくなり、支離滅裂となる。
「いや、これは……誤解だ――」
「そ、そう。この奥で賊が少女を人質に……」
「余は彼女を助けようと、ごまかして――」
ロザリナはノキア王の白々しい態度に、ついにブチ切れた。
「ガタガタ、うるせぇぞ!」
「ネタは上がってんだ! このロリコン野郎がぁ~っ」
「……ろ、ロリコン――!?」
ロザリナの変貌っぷりに朝時は恐怖する。
「(目つきも口調も変わった……あの大会で見ていた礼儀正しい娘じゃねぇ――まるで赤い悪魔じゃないか!)」
ノキア王がロザリナを制止する間もなく、ロザリナは懐まで踏み込んでいた。
そして鉄拳はノキアの腹部を完璧にとらえる。
「ブハッ……ゲホッゲホッ……」
ノキア王は壁にめり込むように崩れ落ちた。
「……」
「ルナっ! もう少し待ってて下さい!」
ノキア王はしばらくうずくまり、呼吸すらままならなかった。
体を乗っ取っている朝時であったが、意識であるため痛みはなかった。
「き、きさまぁ……ワシを殺……すつもりかぁ」
「まだ、喋れるんですか?」
「制裁が足りないみたいですね――」
朝時は痛みより恐怖を感じた。
「ひいっ (こ、こいつ王でも殺す気だ……姿を消して逃げるしか……)」
「――大丈夫ですよ」
「!?」
「死にそうになったら、もう一度、治療して制裁してあげるわっ」
「(このままでは、この体が……)」
朝時は咄嗟に、あの黒魔法を詠唱した。
「だ、『ダーク・バニッシュ――透明化――』っ――」
その慌てる姿を見たロザリナの口元が緩む。
「あらあら? 残~念っ」
ノキア王は自分の両手を眼前で確認する。
「!」
「……無駄よ」
「魔法は使えねえんだよっ」
「な、何故、姿が消えてないっ!」
「『ダーク・バニッシュ』っ」
「『ダーク・バニッシュ』っ……」
「くそっ」
「――くそ~ぉっ」
ロザリナは冷酷な目でノキア王を見つめながら、再び拳を構える。
「まさか……王様が闇魔法使いだったとはね――」
「死なない程度で――死ねっ」
その一瞬、空気を裂く音。
そして――。
グザッ!
「――せ、背中に……」
ダブリスが投げた短剣は、ロザリナの背中を射抜く。
「! だ、ダブリスっ~!」
ノキア王は歓喜に近い声で指示を出す。
ロザリナは、ノキア王への怒りで高ぶった魔力により、いつものように無意識の防衛状態へ入っていた。
その結果、背中に刺さった短剣はすぐに抜け落ち、傷口では自動治癒が始まった。
その様子を見たダブリスは、一瞬、目を細める。
「(こいつ……動けなくするつもりだったのに)」
「化け物が……」
ロザリナは苦痛に顔を歪めることなく、真っすぐにダブリスの目を見る。
「それ、褒め言葉として受け取っとくわ」
「(危な~い、私……怒ってなかったら死んでたじゃない?)」
「私の自動魔法を知らないの? こんなの、致命傷にすらならないわ!」
ノキア王は咄嗟に、状況打破に動く。
「ダブリス! こいつを始末しろっ」
「賊としてワシが襲われた正当防衛ってことにする」
「はっ」
ロザリナはスッキリした顔に戻る。
「やっと、本性をあらわしたわね!」
「さぁて魔法が使えない中、私の格闘術と戦えるのかしら?」
「ぐっ」
その時、牢屋の中に異変が起こる。
ドーンッ! ドーンッ! ドーンッ!
「痛っ」
ドーンッ! ドーンッ!
ノキア王は、嫌な予感に苛まれながら牢屋を見つめる。
「いや、そんなはずは……拘束して手の平も――」
――ガチャッ。
煙と共に牢屋から出てくる影。
「ル――」
ロザリナから笑みがこぼれる。
「お待たせ、私も混ぜてよ!」
すると中から拘束されていたはずのルティーナが、右腕から血を流しながら外に出てくるのであった。
「ルナっ! その腕……」
そしてロザリナはノキア王を睨み返す。
「てめぇ! なんてことしやがった!」
「あ、あの怪我は俺じゃない……」
「お、『俺』ぇ? 『余』じゃなかったのかよ? 王様ぁ」
「し、しまっ……」
そこへルティーナが説明する。
「リーナ、ノキア王は別の人格に乗っ取られてるだけなのよ」
「だから、殺しちゃだめ!」
「……どういう事?」
「とりあえず、逃げない程度に動きは封じておいてっ!」
ノキア王は呆然とする。
「(誉美が何故、拘束していたのにどうやって?)」
その時だった。
上の階からも爆破音が響き渡る。
「サーミャ達も戦っているようね……」
ルティーナはダブリスを睨み返す。
「リーナ、ごめん……」
「こいつには世話になったから、私にやらせてくれない?」
「ルナ……腕の怪我の治療を」
「だ、大丈夫よ、片手があれば十分」
怪我をしている腕にはすでに【癒】の文字が書かれていた。
「痛みはごまかしてるし、リーナなら五分以内なら治せるでしょ?」
「ルナを治療したら、ぼこぼこにした王様は保証できないですよ」
「その時はその時よ!」
ノキア王は意味が分からなくなっていた。
「ダブリスっ、誉美を殺すな! 怪我すら許さんっ!」
ダブリスも困惑する。
「しかし、それでは……」
馬琴は状況を理解する。
「あ、そっか。小芝居まだ続いてるんだっけ?」
「こ、小芝居……だと?」
ルティーナはしたり顔でノキア王いや――朝時に放つ。
「あ~あれは全部嘘よ嘘っ! 馬っ鹿じゃないの?」
「芝居でもしなきゃ、裸にされてたしね」
「なっ」
「残念ながら、私の中にトモミさんはいないわよ!」
ノキア王はその言葉の意味を悟る。
「どういうことだ……じゃぁ、お前の中に居るのは――」
ルティーナは馬鹿笑いする。
「知りたい?」
「あなたの大嫌いな、マコト! サ・ト・ミ マ・コ・トよっ!」
朝時は鈍器で頭を殴られた気分になった。
ノキア王の体がロザリナの鉄拳で受けたダメージなど足元にも及ばないぐらいのダメージを。
「マコト……里見だとぉ~~っ!」
表情を歪ませながら天井を仰ぐノキア王。
「そ、そんなぁっぁ~! 嘘だっ、嘘だと言ってくれぇ!」




