第151話 正体判明
――話はサーミャ達が『零の運命』の拠点で作戦会議をしていた頃まで遡る。
地下室でルティーナと馬琴は、ノキア王の不自然な問いかけに戸惑っていた。
「(――『外に出してやる』? ってどういうこと?)」
(あぁ、やつはルナから俺を抜き出す方法を知っているんだ)
「(じゃぁ、これでやっと、マコトを追い出せる――)」
(ちょっと待てい! そこじゃねぇっ!)
ノキア王は反応しないルティーナにしびれを切らしていた。
「フェンガはまだか! 早く水晶を持ってこないか!」
そこへフェンガが慌てて姿を現す。
「ノキア王――」
「遅いぞ! 何をもたついていた!」
フェンガはサーミャ達が謀反で城に乱入してきた件を説明し、指示を仰いだ。
「何! 結局、極秘にルナリカを誘拐できていないではないかっ!」
「も、申し訳ありません」
「この役立たず共がっ!」
「もうよい! とにかく30分時間を稼げ、足止めを死んでもやれ!」
「始末しなくて――」
ノキア王はフェンガの言おうとしていたことが分かっていた。
「とにかく師団に捕縛させろ! そうしないと話がめんどくさくなるだろうが!」
「はっ、浅はかでした……では、対処に向かいます」
そして、フェンガはノキア王に頼まれた水晶を置き、姿を消すのであった。
「さて、邪魔者は居なくなった」
ノキア王は水晶を手に取り、再び顔がにやける。
「この小娘の中に封印されているのか?」
「ドグルスの情報通りなら、この集めた水晶の欠片のどれかが抜け殻のはずなんだ……」
(抜け殻? 水晶の欠片?)
「(ドグルスって、やっぱり水晶を探してたのね!)」
(くそ、せめて視覚情報がほしいな……)
ノキア王は十数個ほどある水晶の破片を一つずつ手に取り、ルティーナの額にあてる。
あまりにも予想外の出来事に、ルティーナはつい声を出してしまう。
「きゃっ、冷たいっ」
その声に、いやらしい笑みを浮かべるノキア王。
「くくくく、やっぱり起きていたんだねぇ」
「それなら話が早いっ、君は誉美なのかい?」
「それとも――」
しかしルティーナは、わざと何もわからない素振りを振りまく。
「な、あんた誰よっ!」
「と、トモミってなによっ! 私はルナリカよっ!」
「わかったわかった、照れなくてもいい」
「今すぐ、出してやるから……」
そして、水晶の破片を抵抗するルティーナの額に当て続ける。
しばらく様子を見ていたが何も起こらないと判断するやいなや、次々と破片を額へ当てては様子を見る――それを繰り返していた。
「くそっ、これも違うのか!」
(! ど、どういうことだっ)
「(もしかして、あの時、私が触れたマコトが入っていた水晶があれば、抜き出せるってこと?)」
(まずいぞっ、その話が本当ならルナが触った水晶を額に当てられてしまったら……)
「(……あ、間違いなくトモミさんじゃないから殺されるわね)」
「くそっ、八年もかけて集めた粉々になってしまった『サモナー・ストーン』を集めたというのに……もう、五個しかない」
ルティーナは状況の悪化に気付き、必死に水晶の破片に触れないようにしていたが、身動きがとれない以上、無駄な抵抗であった。
――すべての破片を額に当て終えたが、想定していたことは起こらなかった。
「な、何も起こらないじゃないかっ!」
「ドグルスのやつ……偽情報かっ」
ノキア王は使い切った水晶の破片を集め、球体にパズルのように組み合わせる。
「俺の胸の水晶を除けば、あと1つか2つ足りない……それなのか?」
(た、助かった……)
「(トモミさんの水晶ってイスガの砂漠に埋もれてるし……私が触れた石は、結局発見されていないってこと?)」
(そのようだな)
ルティーナはサーミャ達が来るまで耐えればいい――そう思い、胸をなで下ろした。
しかし、ノキア王は簡単にあきらめなかった。
「そうか! 俺と同じ体内にあるのか?」
ノキア王は、ルティーナを拘束している鎖を緩めた。
そして服に手をかけ、脱がそうとする。
「きゃ~何をすんのよっ変態っ!」
ノキア王はすでに冷静ではない。
「うるさいっ、ガキの体には興味ないっ」
「俺は、誉美に用があるんだっ」
必死に反抗するルティーナ。
「なんで、それと私を脱がすのが関係あるのよっ!」
――しかし大人の腕力には逆らえず、服を破かれてしまう。
「やめてよぉ~! やだぁ」
「お前も、体のどこかに水晶の破片がささってるんだろ?」
「それだけ確認したら用はないっ」
(お前も? どういうことだっ)
(そう言えばバルストさんが、以前、王は召喚の最中に大爆発に巻き込まれて重症を負ったと言っていたが……まさか、ノキア王の体にその時――)
馬琴はルティーナの身を守るため、とっさに芝居をうたせた。
「待って、私よトモミよ!」
「お願いだから変なコトしないで!」
ノキア王の手が止まる――。
「と、誉美~、やっぱり居たんだねぇ」
「水晶はどこに――」
「見せたくないところにあるの! 見ないで!」
ノキア王は、その瞬間――冷静になる。
「(嫌われては元もこもない……やりすぎるところだった)」
(ナイスだルナ……名演技)
「(私がやるしかないんでしょ、さすがにこれ以上は触られたくないわよ)」
「と、ところで? あなたは誰なの? ノキア王じゃないわよね?」
(身の危険を感じて、直球を投げたな……ルナ)
ルティーナの機転とも知らずに、服を脱がすのをやめ、必死に謝罪した。
「……俺だよ、太平だよ――太平 朝時だよ」
(げっ! 太平だと?……こいつがノキア王を乗っ取っていただと!?)
「(知り合いなの?)」
(あぁ……俺が先生をしてたって言ってたよな)
(こいつも政治経済っていう分野の先生なんだ)
「(政治って、国を良くするためにいろんなことをするやつ?)」
(まぁそんなもんか)
(とりあえず、トモミになりきって演技するんだ)
「た、タイヘイ……あなたもこの世界に来ていたのね」
「そ、それ以外の、自分の居た世界の記憶があまりないの……」
(でも、棒読み……)
「そうかそうか、俺が居るから安心しろ~」
「俺は八年前から君がこの世界のどこかにいることを知っていて探してたんだよ」
(八年前から知っていただと?)
「この世界には、里見は居ない!」
(ちょっとまて! 太平っ)
(俺は居ないって? 何か確信があるのか?)
「俺達――この国の王と王妃になろうではないか!」
その時、数階上の方から爆発音が響き渡る。
ドゴ~ンッ!
「な、なんだ! 今の音は……ば、爆発音か?」
「(殺すなと言っておるだろうが! バカ者がっ!)」
「(マコト、今のは?)」
(きっと、サーミャ達が近くで、さっきの奴らと戦っているんだ!)
ノキア王はルティーナが誉美だと確信した喜びも束の間、想定外の事態に動揺していた。
ダブリス達をこの場から退かせていたことにより、結果、状況判断が一歩遅れてしまう。
「この上で何が起こっているのだ!」
「まさか、こいつの仲間がそこ来ているのか!?」
ノキア王は声を張り上げる。
「ダブリスっ! フェンガっ! 近くに居ないのかっ!」
(ダブリス? 俺達を誘拐した奴等を呼び戻す気か……)
その頃、ロザリナは地下四階の階段を降りていた。
そしてルティーナの確保されている牢屋まで、襲撃に警戒しながら慎重に足を進めていた。
その様子を、秘密通路から地下四階へ先回りしたダブリス達が覗う。
だが――。
「な、フェンガっ! まだ『ダーク・バニッシュ――透明か――』を解除するんじゃないっ」
「ダブリス……あなたこそ、見えてますよ?」
二人は焦る……。
「! まさかロザリナの奴……『シャイン・キャンセラー――魔法遮断――』を!」
「しかし、あれはそんな長く――」
「やつは『シャイン・レストレーション――再生――』を乱発する程の尋常でない魔力量を持っているんだ」
「その推測に期待するな!」
「……しかし、シャルレシカが居ないとはいえ、このままでは、見つかってしまいます」
「くそっ」
「このままだと、上にいるハーレイ達も向かってくる……」
そして地下四階には、救出へ向かう者、阻もうとする者――それぞれの思惑を抱えた者達が集まり始めていた。




