第149話 一撃必殺
ノモナーガ城地下二階。
エリアルとハーレイの一騎打ちが始まった頃――。
地上でもまた、サーミャは一人の強敵と向き合っていた。
サーミャはヘイガルを打ち負かすため、究極攻撃魔法『フィフス・エクスプロージョン』の呪文を唱える。
「おいおいおい、サーミャ! それって?」
彼女の前には、怪しく禍々しい魔球が生成されていく。
その様子を見ながら、ヘイガルは薄ら笑いをしていた。
「待たせたな、おっちゃん!」
「聞いてねぇぞ! ハーレイの技……いや全然違げぇ」
「(……殺気しかしねぇぞ?)」
「まだ間に合うぜ」
「『許して、サーミャ様っ』って言ったら、やめてやるよ」
「ば、バカ言ってんじゃねぇっ!」
「さぁ~そんな技、雷系の速度は出ねぇろ?」
「俺の光速なら簡単に交わせ――」
サーミャは、最初からそれを待っていた。
魔球に気を取らせている隙に、無詠唱で『ロック・ウォール――岩壁――』を発生させ、ヘイガルの両脇を完全に封じた。
「て、てめぇ、卑怯だぞ!」
「あたいの技っつたよな? 間違いねぇぜ」
「くらいなっ! 『フィフス・エクスプロージョン』っ」
「!」
「死んでも文句言うなよっ(つか死なれたら困るけど……)」
異様な魔球は、あらゆる属性の片鱗を撒き散らしながら進んでいく。
雷魔法ほどの速度ではない。
それでも、常人には避けることなど不可能な速度だった。
ヘイガルは後方を確認するが、城壁までサーミャの岩壁が伸び、逃げ道はない。
「くそ、飛び越えらねぇか……」
「壁を壊している時間もない――なら」
彼は襲ってくる魔球の勢いを殺そうと、躊躇なく盾を投げ込む。
しかし一瞬でぐちゃぐちゃになり魔球に飲み込まれた。
「くそっ」
さらに威力は衰える気配すらなかった。
その様子を見てさすがに危険を感じ、一か八か魔球に向かい高速の剣撃を繰り出した。
――しかし、平然と剣は歪み使い物にならなくなる。
「俺の剣と盾の強度……なんておかまいなしか……」
「まったくハーレイよ……お前んとこの娘、とんでもねぇぞっ」
ヘイガルは失望感の中にも、少し笑みがこぼれていた。
そして魔球がヘイガルに接触する瞬間、突然、魔球がその場で大爆発を起こす。
その爆発は爆風もともないヘイガルは巻き込まれ遠くにはじき飛ばされたが、強固な鎧により致命傷にはならずに済むのであった。
「! な、何が起こった?」
サーミャは『フィフス・エクスプロージョン』の二発目を無詠唱で準備していた。
一発目を放つ無駄話の間に――。
「……サ、サーミャっ、おめぇ~助けてくれたのか?」
「ったく、死なれたら夜も寝れねぇぜ……あたいは二発撃ったんだよ」
一発目を放ったあと、すぐに二発目を放っていた。
だが、二発目は死角でヘイガルには見えてなかった。
「そうか、おれが反撃したことで一発目の魔球の速度が弱まって……二発目が追い付いた?」
「そうだよ」
「凄げぇ技だったぜ……あいつ以上じゃねぇのか?」
「そんな事どうでもいい! で? どうなんだよ」
「はっはは! あぁ負けだ負っ! 参った!」
サーミャはこれで地下で行動するロザリナ達を邪魔する駒を防いだと確信した。
それも束の間――。
一人の兵士の声が響き渡る。
「ヘイガル様っ! おっぱ――いえ、シャルレシカちゃ――んんんっ、拘束しました!」
サーミャの顔が一変する。
「おい! おっちゃん! これは、どういう――」
「勘違いするなよ、俺は負けを認めるとは言ったが、『見逃す』とは一言も言ってねぇぜ」
「そういう肝心なとこ見えてないのは相変わらずだな」
「!」
「これは防衛戦なんだぜ?」
ヘイガルは負けを認めたが、シャルレシカは近衛兵達に拘束されていた。
シャルレシカは、二十人もの兵士に囲まれながらも、魔法の乱発で押し返す。
しかし、奮闘虚しく魔力が尽き、ついには眠り込んでしまう。
「むにゅむにゅ……ミヤ~ごめぇん」
サーミャはヘイガルを信じた。
だが、彼のいう事も理解しようと思えばできたことを後悔する。
「さぁて尋問の続きだ」
「おっちゃんの騎士道を、あたいは最後まで信じるぜ――」
「?」
「(……シャル、そのまま寝てろよ)」
「信じる? 一体何を――」
サーミャは迷いなく『ディメンジョン・テレポート――転移――』の無詠唱を始める。
そして大声で叫ぶ――。
「『ダーク・インビジブル――透明化――』っ」
「おまえ、闇魔法なんて使えねぇだろ?」
サーミャはエリアルの元へ転移し、その場から消失する。
「(いや、闇魔法じゃねぇ……)」
「(あの魔球もそうだ。こいつは相手の思い込みを利用しやがる……)」
「(まったく、この親子は世話がかかるっ)」
ハーレイは混乱しながらも、シャルレシカに群がる兵士達に指示を出す。
「おまえら! なんで顔が緩んでる! 気合入れろっ!」
「サーミャがどこかに姿を消して潜んでる! 出入口を全て塞げ!」
兵士達は残念そうに持ち場へ急ぐ。
「やつが攻撃しようとしたら、必ず魔法のひずみが見えるはずだ! 見逃すなっ」
「(サーミャ、たまにはゆっくり会話してこい)」
地上でサーミャとヘイガルが決着を迎えようとしていた頃――。
地下二階でも、エリアルとハーレイの戦いは終盤を迎えていた。
「俺の最大奥義を出すしかねぇのか」
「(最大奥義?)」
ハーレイは満面の笑みになる。
「これで最後だ、俺を満足させろよエリアルちゃんっ!」
「(ここは、風と水と雷の魔法の合成だな)」
「(『ストーム・スプラッシュ・サンダー・コンバインっ』)」
ハーレイの前に巨大な魔球が生まれた。
その光景に一瞬たじろむエリアル。
「(あれは、まさか)」
以前、自分の窮地を救ってくれたサーミャの大技。
その光景が脳裏をよぎり、エリアルは同種の魔法だと直感する。
シーゲルは、ハーレイの必殺技を危惧し魔法師団を後退させる。
「受けてみなっ! 『トリプル・エクスプ――』」
エリアルは、サーミャから魔法の秘密を聞いていた。
「(彼の技はミヤより威力は格段上……問題は何を混ぜているかだ?)」
同じ系統の魔法をぶつければ相殺できる。――だが、組み合わせを見誤れば命取りになる。
「(ここは地下通路……少なくとも爆撃系は絶対ありえないっ)」
その魔球から発生する冷気と周りを巻き込む風圧から、少なくとも水と風魔法を想定し勝負にでる。
早速、大剣を床に突き刺し氷の壁を作る。
そして小剣には風を纏わせ迎撃態勢をとる。
「『――ロージョン』っ」
そしてエリアルは、放たれた魔球に対して風の刃を数発放つ。
すると接近する勢いを多少弱め、風の刃は魔球に呑み込まれる。
「これならっ!」
その様子を見て、瞬時に小剣を大きく振り回し竜巻を起こし魔球にぶつける。
「どうだっ!」
魔球が失速し、エリアルに考える余裕が少しできた。
その隙に、エリアルは凍った大剣を盾にしたまま、後方に下がる。
「あと、いくつ混ざってる!?」
大剣に魔球が当たった瞬間――雷がほとばしる。
「それだっ! 『ソード・オブ・プラズマ』っ」
小剣に稲妻を走らせ、大剣を雷撃する。
――そして、ハーレイの『トリプル・エクスプロージョン』は消滅した。
「なんで、この技の特性を初見で知ってんだ?」
「結構本気だったんだが――あ~言い訳はしねぇわ」
エリアルは大きく深呼吸をし、再び剣を構える。
「(……まさか、サーミャも使えるのか? いや、俺のオリジナルだぞ!)」
「まさか、相殺する方法を知ってやがったとはな……さすが魔法剣士だな」
魔法師団はざわめき、交戦態勢に入る。
「待て、お前ら」
「「「「!」」」」
「俺が約束を破ったら、身も蓋もねぇだろ?」
「ハーレイ様、何を言っているかわかっているんですか?」
シーゲルは納得できずにハーレイに突っかかる。
「団長は俺だ! 俺に従えっ!」
ロザリナは少し見直したように声が漏れる。
「ハーレイさん……約束を?」
「あぁロザリナちゃん、心配すんな」
「「「ハーレイ様っ」」」
「うるせぇ、約束は約束っつってんだろ!」
「俺はこいつらを信じて地下に行く!」
シーゲルはどうすればいいかわからなくなる。
「お前らはそこで待機っ!」
「あとはよろしくっ!」
「「(軽っ)」」
だがハーレイがエリアル達と共に進もうとした瞬間、二人の両脇の天井が、轟音とともに爆ぜた。




