第145話 謀反上等
サーミャ達が捜索をシャルレシカの予知夢に賭け、『碧き閃光』の拠点に戻る中――。
ルティーナを誘拐したフェンガはダブリスと合流していた。
「ダブリス! ご無事で」
「あぁ、日が明ける前に戻るぞ」
シャルレシカを使った索敵がいつまで行われているかわからない。
だが、結果的に悪意をわざとまき散らすダブリスが追跡され、ルティーナを連れ去るフェンガの逃走は追跡されなかった。
「このままなら索敵も欺ける……」
だが、平常心を保ったまま堂々と移動すれば、シャルレシカの索敵には引っ掛かりにくい。
しかし、眠らせたルティーナを連れて街道を歩けば、人目を引くのは避けられない。
そのため二人は、時間がかかっても夜の闇に紛れながらノモナーガ城へ向かうしかなかった。
その頃、眠らされているルティーナの中にいる馬琴は――。
(こいつら、シャルの索敵から逃げ切りやがったのか……)
馬琴は、ルティーナ越しに聞こえる二人の会話から敵の正体を探っていた。
(リーナを誘拐したやつらが、人質交換に使う気かと思っていたが……)
(まさか、ノキア王の直属の部下だったなんて)
ロザリナから勇者の血統について聞かされていない馬琴は、サーミャ達とは逆の結論にたどり着いていた。
(ノキア王は何故リーナをさらい、生贄に……?)
(だが、それならスレイナ達もノキア王の部下だったということになる……?)
馬琴は首を振る。
(情報が少ないから確信はできないが、リーナを狙ってたやつらは少なくともノキア王とは違う……)
(2つの組織が共闘しているとも思えない……偶然なのか?)
ダブリス達が何を目論んでいるのか。
少ない会話から情報を集め、ルティーナが目を覚ました時に伝えるため、内容を整理することしかできなかった。
(もう少し情報を――)
一方、サーミャ達は『碧き閃光』に到着し、シャルレシカの眼が覚めるのを待つことになった。
その間、サーミャは合流したグルバス達へ状況を説明していた。
「お前ら、何かとんでもねぇことに巻き込まれてるな?」
「うるせぇよグルバス、あたいらを腫れものみたいに言うなよ」
「あはは……で、ヘレンは小さくなったロザリナにメロメロってか?」
「いいじゃねぇか、やっと会えた姉妹なんだ」
「そっとしておいてやれよ」
「こんなふざけた誘拐……とっとと片づけて、二人を祝ってやんねぇとな」
「そうね」
シェシカは頬に手を当てる。
「でも、ロザリナが伝説の勇者の血統だったなんてね」
「道理で素質が高いのと魔力量が半端ないことが納得できたわ」
――そんな中、ソファで横になっていたシャルレシカが突然飛び起きる。
「ミヤぁ! み、見えましたぁ!」
「「「「「「!」」」」」」
全員の視線はシャルレシカに向く。
シャルレシカが見た予知夢の内容は、あくまでも未来の夢。
今すぐ起こるのか?
それとも数日、いや数年後先なのか……それは断言できない。
だが、今はその内容しかルティーナを追える情報がない――。
「水晶に写しますのでぇ、見てください」
そこには、場所はわからないものの、周囲に牢が並ぶ一室が映っていた。
目隠しをされ拘束されたルティーナへ、ノキア王が水晶を手に迫っている――そんな光景だった。
「これはノキア王じゃねぇか!」
グルバスは机を叩き、椅子から立ち上がる。
「サーミャぁ! ロザリナを誘拐した勇者の組織じゃなかったのか?」
サーミャは息をのむ。
「シャルの予知夢は間違いねぇ……」
「つまりリーナ誘拐に紛れ、ルナを誘拐したってことじゃねぇか!」
もともとルティーナ達は、ノキア王が八年前の王都爆破事件の関係者を暗殺しようとしているのではないかと疑っていた。
その事をサーミャは説明した。
「それじゃ、ルナリカを暗殺しようって事になったってことか!?」
しかしサーミャは首を振る。
「いや、それなら既に殺されている……」
それを聞いたアンハルト達であったが、ノキア王がなぜルティーナを誘拐させたのか理由を理解出来ずにいた。
「とにかく今は、ノキア王の所在を確認すべきだな」
サーミャはシャルレシカに『エクソシズム・ケーン』を使わせ、ノモナーガ城にノキア王が存在しているかを索敵し、ノキア王は城に居ることは確認できた。
ロザリナも真剣な面持ちになる。
「でもミヤ、さすがにシャルに24時間監視してと言っても魔力がもたなくないですか?」
「いつ起こる出来事かも……わからないんでしょ?」
アンハルトは推理する。
「でも誘拐して放置はしないだろ? あの場所からならそうと遠くない」
「シャルレシカを攪乱していた手口はあったが、今日明日には――」
そこへヘレンが立ち上がる。
「なら、私の出番ですね」
ヘレンはネズミを操り、王を監視すると提案する。
「今からネズミとノモナーガ城に潜入させ、屋根裏からノキア王に変な動きがあれば反応させられます」
「すまなねぇ、助かる……」
――早速、ノキア王の監視を始める。
だがノキア王は自室で王の業務をこなす程度で、何もなく一日を終えるのであった。
しかし不自然な挙動もあった。
その様子をヘレンから説明される。
「何か、小鳥と話していました……」
「おそらく誘拐犯から連絡を受けていたのではないでしょうか?」
「会話は聞こえないのかい?」
「すみません、もう少し近くであれば聴覚共有で会話が聞けたのですが……」
その頃、移動方法が制限されていた都合、その日のうちにノモナーガ城まで到着できなかったダブリス達であった。
その日の深夜――。
ダブリス達はノモナーガ城に到着し、秘密の入口から地下へ向かって移動する。
そうして牢屋にルティーナを連れ込んだ。
「こいつの手には触れるなとノキアは言ってましたよね?」
「あぁ眠らされていれば問題ないだろう? もう少し睡眠薬を嗅がせておけ」
彼女は手のひらをどこにも触れられないよう、手の甲同士を合わせて手首を縛られた。
さらに椅子へ座らされ、鎖で固定される。
その様子から、馬琴は現状を察する。
(くそ、また睡眠薬を……それに手のひらの事も)
(視覚情報がないから何とも言えないが、ここは地下の牢屋みたいだな)
「とりあえず私はノキア王に報告してくる。あとは任せたぞフェンガ」
「わかりました」
(報告? 固定された状況も踏まえれば、ここが終点ってことだよな……)
そして馬琴は一つの賭けに出る。
(みんなにこの状況を連絡する方法――そうだっ!)
その瞬間――。
ヘレンが騒ぎ出し皆が部屋に集まる。
「ノキア王に動きがあったのか!?」
「いえ、違うんです!」
そこには、一緒に就寝していたロザリナの姿が元に戻っていたのであった。
ロザリナの姿が元に戻るということは、ルティーナが死亡するか、自ら解除するしかないのだ。
「どうしましょうミヤ、ルナの身に……」
アンハルトは冷静に捕獲したデブラクは元に戻っていないことを確認した。
「つまり――」
サーミャは、馬琴からの何らかの合図だと確信する。
「これはシャルの予知夢の状況になったって知らせじゃねぇか?」
「!」
そしてサーミャは奮い立つ。
「これで大義名分、殴りこみしてルナを助けるぞ!」
「――待て!」
しかし、意気が上がるサーミャ達を、アンハルトは静止するのであった。
それは王だけでなく、国そのものに喧嘩を売る行為だった。
更には、城を守る最強の近衛師団と魔導師団を相手にしなければならない。
「サーミャ、わかってるのか?」
「確保されるだけでは済まないぞ」
それだけではない。
アンハルトが気になっていたのは、ルティーナを誘拐した連中が、その両師団にも属さない相当な手練れだったことだ。
「ありがとよ、せっかくここまで助けてもらったのに悪りぃな」
「――こっから先は、あたいらの問題だ」
「まったく……お前は昔っから言い出したら聞かないからな」
「しかし、魔導師団には――」
「あ~それは今はいい」
「とにかくノキア王の正体さえ暴いちまえば、謀反なんて関係ねぇぜ」
「そうですね。最悪、国と戦争になってでも、僕達で悪事を暴いて無実を証明してやりましょう」
「ルナぁ! 私も戦いますよぉ」
「今度は私がルナを助ける番ね」
「待ってろよ! ルナ!」




