第144話 暗中模索《あんちゅうもさく》
必死にルティーナの痕跡を探すサーミャ達。
戦闘した跡すら残されていない。
あのルティーナが無抵抗で連れ去られたという事実だけが、現実として突き付けられていた。
その様子を崖の上から息を殺しながらダブリス達がうかがう。
「ルナリカは魔法が遮断されて探せないようだな」
「フェンガ、この娘を頼む」
「夜明けに例の場所で合流だ」
「ダブリスはどうするんですか?」
「俺は、遠くに移動してから、さりげなく悪意を全開にしやつらの意識を裂く」
ダブリスはサーミャ達の索敵をあざ笑うかのように、木々をかき分け、崖も斜面も構わず山中を反対方向へ一直線に駆け抜ける。
一方、サーミャ達も血眼でルティーナの捜索を続ける。
「エル、すまねぇがあの船を調べてくれねぇか?」
「わかりました」
「私はぁ、もう少し悪意の違和感を探しますぅ」
「頼む」
「あたいは、反対側にルナの痕跡が無いか調べてみる」
しばらく、不毛な捜索が続く。
そして、サーミャは川の中であるものを発見する。
「これは『デストラクション・シューター』……それにルティーナの鎧」
川の中には、破壊されたルティーナの持ち物が沈んでいた。
そしてその付近にあった崖を見上げる。
「ここからルナを担いで登るなんて無理か……」
すると、シャルレシカも何か情報をつかんだような顔をして駆け寄る。
「ミヤぁ~、異質の悪意がアウリッヒ王国の方に向かって信じられない速さで移動していますぅ」
「何っ!」
するとエリアルも合流する。
「ミヤ、どうかしましたか? 船にはリーナを拘束していた物が散乱しているだけで何も……」
サーミャは決断する。
「シャル、そいつ今どこに居る?」
「約五キロメートル先でぇどんどん離れていますぅ」
「そのまま魔力切れしない程度で観察してくれ」
「僕達はこれから、どうします?」
サーミャは一瞬、シャルに破片を過去視させることも考えた。
しかし今は追跡を優先した。
「もちろん、そいつを追う!」
サーミャが追跡を決断した理由には訳があった。
ルティーナ自身には魔力がない。
シャルレシカの残留魔力を辿る方法も、決定打にならない可能性が高かった。
それでもサーミャは、わずかな可能性に賭けるように、『デストラクション・シューター』の一部を拾った。
「ギンさんの所に戻るぞ!」
一方その頃、フェンガはその様子を覗っていた。
「まんまとかかりましたね」
「サーミャが崖の上を見上げたときは、一瞬焦りましたが……」
「さすがダブリス――」
フェンガは魔力が遮断されながらもルティーナを担ぎ、出来る限り悪意を殺しながらノモナーガ近くの合流地点まで移動を始めた。
そして三十分後、サーミャ達はヘギンズと合流し馬車を飛ばし、シャルレシカの見つけた悪意を追跡する。
「分かった! アウリッヒの方だな!」
「はいぃ、もうすぐ索敵範囲外に出てしまいますぅ」
しかしエリアルは一つの疑惑にたどり着く。
「あの時は焦っていたので、冷静になれませんでしたが」
サーミャが真剣な面持ちで首を傾げる。
「どうしたエル?」
「あの石をつけたルナをどうやって運んでいるんでしょう?」
「!」
サーミャは気づく。
「今、逃げてる奴は囮ってことか?」
「シャルっ! 反対側に怪しい悪意はねぇか?」
「えぇ、えぇっ」
「っちょっと待ってくださいぃ……」
困惑するシャルレシカは反対側へも集中を始める。
しかし反応は芳しくない。
「くそっ! 完全にしてやられた!」
サーミャはシャルレシカに索敵を中断し、拾っていた『デストラクション・シューター』の部品で索敵を依頼する。
「リーナを探した時のように、できねぇか?」
「うーん、難しいかもしれませぇん」
「あの時は、アンナさんの杖があったから偶然ですしねぇ」
「あれもダメ、これもダメ……くそっ」
そんな中、シャルレシカの膝から力が抜ける。
シャルレシカはヘルアドから、無駄な魔力消費を抑える術を教わっていたが、無理な移動と索敵の連続で魔力が底をつき始めていたのであった。
「シャルっ! しっかりしてください!」
倒れかかるシャルレシカを抱きしめるエリアル。
「いいえぇ~……ルナのために、頑張りま――」
サーミャは手段を失うことに焦燥感に苛まれていた。
「ミヤぁ……あきらめちゃだめですぅ」
「!?」
シャルレシカは意識が落ちる直前まで必死に伝えようとする。
「私だってぇ、いつもみたいにぃ……ただ寝るだけじゃありませんよぉ」
「エルを助けた時の……予知夢をやってみますぅ」
「そうか! 例のやつか!」
「はいぃ~……」
「でも確実じゃないんでぇ……あんまり期待しな――――むにゅ」
「頼んだぜシャル……お前に賭ける」
シャルレシカが再び目を覚ますまでには時間がかかる。
もはや追跡は不可能だった。
サーミャ達は追跡を断念し、もう一方の洞窟で待機しているグルバスの班と連絡を取り、『碧き閃光』の拠点で合流することにした。
移動中の馬車の中、ロザリナの意識が回復する。
「――こ、ここは?」
『マジックシール・ストーン』から解放されていたため、眠っている間に自己回復魔法が傷を癒やしていた。
「サーミャさん、ロザリナが目を覚ましましたよ!」
「良かった」
ロザリナは自分がルティーナに助けられたところまでは記憶にあるが、何が起こったか理解できていなかった。
「何よそれ! それじゃ私を助けるためにルナが……」
サーミャは不安そうなロザリナに気を遣わせまいと振舞う。
「リーナのせいじゃない」
「だが、あいつらの狙いが全くわからねぇんだ」
「でも、私が小さいままってことは?」
エリアルは少し目線を落としながら返答する。
「そうですね、ルナの能力が解除されていないということは――」
「無事だと祈りたいですね……」
ロザリナは小さく息を整える。
そして重要な話を始める。
「ねぇミヤ、私が誘拐された理由がわかったの……」
しかし、サーミャも自分がつかんだ情報で察する。
「リーナ、あんた勇者の娘だったって理由じゃねぇのか?」
「!」
「うん、私を今度の満月の夜に生贄にしようとしてたの」
ロザリナは洞口で採血されている最中に、自分に問いかけてきた怪しい老人の声の話をする。
――自分は勇者の孫ではないかという疑問。
サーミャの脳裏にも、ガベルから聞かされた話がよみがえる。
勇者の娘との間に生まれた子――それがロザリナ。
「自分の孫を――なんの為に生贄に……」
ロザリナはサーミャがそのことを知った理由を問い詰める。
サーミャは、重い口ぶりであの話を伝える。
「なぁ、ヘレン……お前のお母さんの名前、カレンって言うんだろ?」
「え、サーミャさん――母をご存じなんですか?」
「いや……あの男がそう言ってた」
サーミャは、もう一方の洞窟で罠を張っていた男、ガベルが二人の父親であり異母姉妹である事実を伝える。
「そ、そんな……私が探していたお姉さんが――ロザリナ?」
「私に妹? それがヘレン? そして私のほんとの名前はエレン……」
「お母さんの名前はチズル……」
二人は生き別れた理由を理解した。
それでも、突然明かされた姉妹という事実に、戸惑いと複雑な感情が胸の中で入り混じる。
「で、私を捨てたお父さんは……」
「多分、その勇者に始末されたよ……スレイナと同じように」
ロザリナとヘレンは、自分たちを捨てた父親という共通の憎しみに心をえぐられながらも、殺された現実になぜか涙が止まらなかった。
「それじゃ、私を誘拐したのは……」
「あぁ、奴に洗脳されたガベルさんさ」
ロザリナは口元を押さえながら涙を流し始める。
「そ、そんな……」
ヘレンは悲壮な顔をする小さいロザリナを抱きしめながら、彼女を慰めた。
そんな二人を見ながらサーミャは想う。
「くそ、そのクソ勇者! 例の八十年前、厄災を討伐した後、生きてやがったんだな」
「そして、あたいの大事な仲間を苦しめやがって!」
「今度はルナまで!」
エリアルと二人、目を合わせながら唇をかむ。
「「絶対許さない!」」
気づけば、辺りは朝陽に照らされ始めていた。
サーミャ達を乗せた馬車はノモナーガへ到着し、『碧き閃光』の拠点へと急ぐのだった。




