第143話 青天霹靂《せいてんのへきれき》
――少し時間は遡る。
サーミャはシャルレシカを連れ、ルティーナ達が調査している洞窟前で待機していたヘギンズの元へ転移した。
ヘギンズはサーミャの転移空間の出現に息をのんでいた。
「ぎ……こ、これがルティーナが言ってた転移魔法ってやつか?」
「よぉ、ギンさん! 腰抜かしてねぇか?」
そして、ヘギンズから状況を確認し、サーミャ達も突入をすることにした。
「ミヤぁ~索敵をしてみたのですがぁ……」
「この先、エルとヘレンは動きが止まってぇ、一キロ先でぇ、アンハルトさんが戦闘中みたいですぅ」
「その近くでルナも悪意と……」
「エル達は戦闘していないようだな……あたいも加勢するか?」
「シャルはギンさんと留守番しといてくれっ」
「えぇ~?」
「……ん?」
「(また、近くに変な気配がぁ……気のせいかなぁ?)」
その様子を、ダブリス達に見られていたことをサーミャ達は気づけていなかった。
「フェンガっ魔力を集中しろっ、気配を完全に消せっ」
「くそっなんで、シャルレシカがこっちに? 反対側の洞窟に行ってたんじゃ――」
「しかし、なんだったんだ? あの黒い空間から現れた……転移魔法が実在するのか?」
「俺達は、先回りするぞ!」
ダブリス達はサーミャ達が構える洞窟側からの侵入を避け、気配を魔法で殺しながら山を登り、海岸側へと移動する。
そこで彼らは、アンハルトが戦闘を終え休息している姿を目撃する。
「シャルレシカのせいで、余計な魔力を使ってしまいましたね……」
「あぁ、戦闘は終わっているようだが、ロザリナは救出したのか?」
「サーミャが合流して来る前に混乱に紛れて――」
するとルティーナが飛翔しながら壊れた船からアンハルトの待機している場所に移動していた。
「……ルナリカ? つ、翼が生えている?」
「希少だが『マジック・ポーション――魔力回復液――』で魔力を回復しておけ」
「……もうこの国にあと三本しかないんですよ? また、ノキアに文句を言われますよ」
「手段は問わないと言っている! 知ったことか」
ダブリスは思考する。
なぜサーミャが転移魔法を自在に扱えるなら――。
直接ルティーナやロザリナの元へ飛ばなかったのか?
距離制限か?
対象制限か?
――それとも魔力制限か?
「分析は後にしましょう!」
「この機を逃すわけには――」
アンハルトと合流したルティーナは、小さくなったロザリナを見せ、無事救出したことを伝えた。
「――そうか、良かった」
「アンハルトさん? どうしたんですか?」
「いや、ちょっと無理してな……しばらく視力が戻らない」
「俺は放置して、先に帰ってくれ」
「そんな……」
「(さすがに男性を小さくして懐に入れるのは……ちょっと)」
(そうだな、仕方ないね)
「――おーい! お前ら無事か?」
すると、そこへサーミャが合流する。
「ちょうどよかった!」
ダブリス達は焦り始める。
「やばい、サーミャまで合流したら転移されて終わってしまう……」
「どうします?」
「フェンガ、姿を消してあのデブラクの手足をわざと生きているように動かせ!」
「!?」
「それだけでいい! とにかく、違和感で時間稼ぎしろ!」
「俺は、あの船を調べる!」
ダブリスはサーミャが対象のロザリナの元へ転移しなかった理由が気になってしょうがなかった。
つまりは何か船に理由があると――。
「ルナ、リーナは預かる」
「あたいの懐に入れとくよ」
「(さすがに……シャルにゃ負けるけど、緩衝材があった方がマシだからな)」
「? うん? ありがとう……じゃぁ、お願いね」
「さぁて、役に立たないアンハルトをつれて転移で移動すっぞ」
「エルにも途中で会ったが、ヘレンを連れてギンの所へ戻っているころだろうからな」
アンハルトは頭を掻きながら言う。
「相変わらずだなお前は……」
「ルナリカ、デブラクは手足を?いただけで生かしてある」
「助かります。シャルレシカで敵を探れますね」
「おぉ、さすが元頭! ただの盲目のアンハルトになったわけじゃねぇんだな」
「元、って、それに勝手に通り名をつけるな!」
「あはは……小さくして、堅くして持って帰りましょう!」
しかし、姿を消しているフェンガにより、倒したはずのデブラクの腕がまるで生きているかのように移動させられていた。
サーミャはデブラクの腕を指さす。
「なっ! ルナ! あいつまだ動けるぞっ!」
まともに状況が見えないアンハルトは顔をしかめる。
「そんな馬鹿な! やはり、例の薬で強化されているのか?」
「あれは硬度が半端ない! 気をつけろ!」
「なら、溶かしてやります!」
ルティーナは、【溶】を描いた手裏剣を、川辺に散乱するデブラクのハサミと足の全てに投げつける。
(起動っ)
デブラクの手足は全て融解し消えていく。
その頃、ダブリスは船内で推測を裏付ける『物』を見つけていた。
(やはりそうか……)
(転移できないのではない。できなかったんだ!)
その一方で――
ルティーナ達は、フェンガが作った僅かな違和感に気を取られていた。
「これで、もう大丈夫よ!」
「まったく、この蟹野郎、悪あがきしやがって!」
「とっととリーナの治療に戻ろうぜ」
ルティーナはデブラクを小型化し、アンハルトが保持することとなった。
そしてサーミャは二人へ指示する。
「しっかり捕まれよ。転移するぞ」
「アンハルト。変なとこ触るなよ」
「な、何を言っている……!」
アンハルトはわずかに戸惑いながらもサーミャの肩へ手を添える。
そして、サーミャは詠唱を開始した。
――その瞬間、ダブリスが動く。
「……ここからならギリギリ届く」
ダブリスは『マジックシール・ストーン』のネックレス部分へ紐を結びつける。
自身も魔法が使えなくならないよう、魔力無効の範囲から距離を取りながら、頭上で縄投げのように回転させた。
そのまま透明化すると、船を降りて死角へ回り込む。
サーミャの転移発動の刹那――
彼は勢いよくルティーナへ向かって投げ放った。
そしてルティーナに『マジックシール・ストーン』が命中した瞬間、彼女の周囲だけ魔力が消失した。
転移魔法の対象から外れたルティーナは、術式に弾かれるように吹き飛ばされる。
「きゃぁ!」
そしてヘギンズの元へ転移したサーミャ達であったが、すぐに異変に気付く。
「なっ……ルナがいない!?」
「――まさか、置き去り?」
しかしシャルレシカはすぐさま索敵を始めるが、複雑な顔になる。
「ルナの反応はあるのに……途中で消えましたぁ……?」
「悪意が一瞬だけ発生してぇ……そのまま反応も消えちゃいましたぁ……」
「反応が消えた……?」
「何がどうなってんだ!」
混乱する状況の中、サーミャは判断する。
「エル、シャル! 一緒に川辺に行くぞ!」
その頃、海岸に取り残されたルティーナは、姿を消していたフェンガに羽交い締めにされ、睡眠薬を嗅がされて気を失ってしまう。
意識の中で馬琴は必死にルティーナに呼び掛ける。
(っルナ――起きろっ)
(……)
(駄目か……)
ダブリスはフェンガへ短く指示を飛ばす。
「動けば足跡が残る」
「シャルレシカが追えない今は、息を潜める方が安全だ」
フェンガは眠るルティーナの首に『マジックシール・ストーン』の首飾りを掛けると、ダブリスと二人で彼女を担ぎ、山へ登って身を隠した。
――そして三十分後。
サーミャ達が海岸へ戻った時、そこにルティーナの姿はなかった。
「くそっ、ルナぁ!」
「どこだ……! シャルっ」
「はぁ……はぁ……私は脚が遅いんですからぁ……」
「それにぃ、索敵も走りながらできないですよぉ……」
息を切らすシャルレシカへ縋りつくように頼む。
「すまない!」
「頼む、シャル……お前だけが頼りなんだ」
「もう一度だ……ルナを探してくれ!」
シャルレシカは『エクソシズム・ケーン』で十キロ先まで索敵を伸ばすが、結果は同じだった。
「ルナは見つかりませぇん……」
サーミャは歯噛みする。
「リーナと同じなのか? あの石か!」
「それなら、攫った奴も悪意までは消せねぇだろ?」
「誰しも多少の悪意を持っていますぅ……」
「だからぁ、距離を広げるとぉ反応が多すぎて絞り込めないんですぅ……」
「くそっ」
焦りの中、再び捜索は続いていくのだった。




