第142話 聖女救出
エリアルとアンハルトが交戦中、ルティーナは一人ロザリナ救出に飛翔する。
ロザリナを乗せた船が出発しようとしていた。
「マコト早く! 船が動き出す前に攻撃しましょ」
(駄目だ!)
(当たり所が悪いとリーナの身も危険になる……)
ルティーナは船内へ踏み込んだ瞬間から、血の臭いと張り詰めた空気に違和感を覚える。
中型船だけに構造は単純。
迷うことなく奥へ駆け抜けた。
そして――後尾の一室。
「リーナっ!」
「うぅ……ル……ナ……」
そこにいたのは、血を抜かれながら男に羽交い締めにされたロザリナだった。
うつろな瞳が、助けを求めるようにルティーナを捉える。
「あの野郎、なにが俺が足止めするだよ……」
男はルティーナを睨みつける。
「おまぇ……っ! リーナに何をしたっ!」
ルティーナはロザリナの姿を目の当たりにし、怒りは頂点に達した。
しかし、男は冷静に対処する。
「これ以上近づくなよ」
「こいつの命がどうなってもいいなら……別だがな」
男の脅しは、実のところハッタリだった。
ロザリナを殺すことだけは避けなければならない。
『生きたまま連れてこい』――それがナガアキの命令だったからだ。
「おっと、そのまま動くなよ」
男はロザリナの首元にナイフを突き付け、視線を落としながら冷ややかに笑う。
ルティーナの足が止まる。
「この船から素直に降りりゃあ、無駄な血は流れねぇ」
「さぁどうする?」
「私が……船から降りたら助かるの?」
「ははっ、まさか?」
男は腹を抱えて笑った。
「だが今すぐ死ぬよりはマシだろ?」
「必要なもんを全部搾り取ったら、用済みだ」
「その後、生きてられる保証はねぇがな」
ルティーナはどうしようもない衝動で手が出そうになる。
(待つんだ! ルナっ)
「(何よ! こいつ、絶対許さないんだから!)」
(俺もだよ!)
「(だったら……)」
(あいつらに殺す気はない!)
(血を抜いてるのは、きっと『理由』がある)
「(……つまり、リーナは『生かされてる』ってこと?)」
ルティーナは怒りを押し殺し、従うふりを選ぶ。
「わ……分かったわ。外に出ればいいのね」
そして、ルティーナは船を降り、川沿いの平地まで羽ばたく。
それを見た男は、船を出発させた。
「マコト、どうすんのよ?」
(リーナが居る場所は分かった……船尾だ)
(今やつは船首の操舵室に居るはず! だから、船の中央を狙うんだ!)
「(そっか、コレなら……空中戦にしか使えないと思ってた)」
ルティーナは、男が自分を確認しなくなった瞬間を狙い『デストラクション・シューター』を構える。
右手には十メートルほどの大きさの【斬】を描いた手裏剣を準備する。
そして放つ!
バシューン!
手裏剣は空を裂き船の側面に突き刺さる。
(起動っ!)
――縦一閃。
船体を一直線に光が走った。
次の瞬間――
船は真っ二つに割れ、転覆する。
川の水が船内に一気に流れ込む。
すぐさま、ルティーナは空を滑るように最短でロザリナが居た側の船の残骸に飛び乗る。
男は動揺しながら、操舵室から飛び出す。
「なっ……!? 船がぁ~っ!」
ルティーナは男を見下ろしながら笑みを浮かべる。
「悪いけど、大人しくしててね」
沈み始める船の中、ルティーナはロザリナのいた室内へ走る。
そして倒れているロザリナへ手を触れる。
【癒】を描くと、淡い光がロザリナを包み込んだ。
「治療はできないけど、これで痛みはごまかせるはずよ」
苦痛が和らいだのを確認すると、ルティーナは急いで採血器具を引き抜き、鎖を断ち切った。
「もう少しだけ我慢してね」
「……ル、ナ……ありがと」
その瞬間――背後の男の気配が変質した。
「……舐めてんじゃねぇぞ! ガキが」
すると、男は首元に注射を撃ち込む。
背中が膨張し皮膚の下で何かが蠢き、八本の触手のような異形が肉体を突き破って出現した。
「げっ、今度は何?」
「ぶは……はははははっ!」
(タコ……?)
「(タコの魔物? ってことは、デスパトクオ?)」
ルティーナは一瞬だけ目を細める。
(外――水場はこいつには有利か……なら)
「うけけっけ! お前は絶対――始末する」
ルティーナは、再びロザリナに触れ【硬】で包みこみ硬化させた。
(これでリーナは安全だ!)
「(うん!)」
「さぁ、さっきまでのうっぷん晴らせてもらうわよ!」
デスパトクオは腕を振り上げ、鞭のようにしならせルティーナを威圧する。
「どうしたどうしたどうしたぁ? 触れれば骨ぐらい砕けるぜ」
ルティーナは攻撃をかわしながら、外に向かって後退する。
「きゃっ! 何よ、この攻撃!」
「反撃しないと――」
(これでいい!)
(長引かせるな。リーナが待っている!)
「(そうだね)」
だが、ただ後退しているわけではない――床や壁へ触れながら様々な『文字』を刻んでいた。
それは攻撃ではない。
あえて『見せて』いるのだ。
「なんだそれ……」
「(さっきから、変な模様がそこら中に……これがスレイナ様が言ってた魔法もどきか?)」
デスパトクオの視線が揺れる。
「いろんな、模様があるな……それぞれ違う魔法がかかってるってことか?」
「要は触れなきゃいいんだろ?」
(やっぱり、ネタはばれているようだな)
「(くすっ)」
「(都合いいじゃない? カンジの意味はわからないんだから)」
デスパトクオは漢字を避けながら、蛇のように身体をくねらせルティーナに迫る。
そのうちにルティーナはそのまま外へ飛び出す。
それを見たデスパトクオはあざ笑う。
「おや? このままここから出ちまってもいいのかい? 俺のステージに?」
しかしルティーナは余裕を見せながら挑発する。
「奇遇ね?」
「ここは……私達のステージだけど?」
「くそっ生意気なガキがぁ!」
「(外に出た瞬間、八本の触手で羽交い絞めにして瞬殺してくれるわ)」
(そうだ、お前はそのまま一直線に進んで来りゃいいんだよ)
馬琴は、一見でたらめに漢字を描いているように見せていた。
逃走中に描いていた漢字は、画数が少なくすぐ描ける漢字――【火】【水】【力】を選んで描いていた。
(いくぞ! ルナ、構えてろ!)
「(うんっ!)」
(起動っ)
一番最後に描いた漢字の【煙】を使い、出口付近の視界を完全に奪う。
「なっ、煙?」
「残念だったな、模様があった場所は覚えてるぜっ」
「――このまま外に出れば、俺に敵はねぇっ」
一方、ルティーナは外で『デストラクション・シューター』を構えていた。
「ねぇ、マコト……」
「爆発するやつじゃなくて、あのトゲトゲしたやつにしてくれない?」
(……そうだな、わかった)
ルティーナは手裏剣に四メートル程の【棘】を描いた。
「リーナがどれだけ苦しかったか……その身で思い知りなさい」
そして――
煙の中からデスパトクオが顔を出す。
「ガキっ! どこだぁ!」
「くらえっ『デストラクション・シューター』っ」
高速回転した手裏剣は、デスパトクオの体に突き刺さる。
「がっ……は!?」
だが終わらない。
むしろ――そこからが本命。
(起動っ)
棘が内部で一斉に伸長し、肉を内側から破壊する。
「ぐばっ……ぁ……っ!」
デスパトクオは、自慢の力を振るう暇もなく沈黙した。
そして静寂――。
「(さすがマコト! 楽勝ねっ)」
(あぁ)
そして、ルティーナはロザリナを迎えに船に戻る。
「とりあえずリーナ、みんなのところへ戻ろう!」
「うん……」
ルティーナはロザリナの硬化を解除した。
「これが、元凶ね」
『マジックシール・ストーン』の首飾りを外し遠くへ投げ捨てる。
その後、ロザリナを小さく軽くして懐に入れ船から脱出する。
「こいつ結局、殺しちゃったわね……」
(シャルで正体を暴くことはできないか……)
「それより、アンハルトさん無事かな?」
(あの人が『サシなら』って言ってたんだ。かなり強いと思うぜ)
(大丈夫さ)
そしてアンハルトの元へむかうのであった。




