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見知らぬ世界で、少女のお目付け役になりました ~異世界召喚失敗!? 少女の中に宿った勇者の冒険譚~  作者: うにかいな
第漆章 ~無明長夜《むみょうちょうや》~

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第141話 手加減無

周りが進展する中、エリアルはデダイパスと対峙していた。


デダイパスはヘレンを人質に取ったまま、部屋中に糸を張り巡らせている。


「『ソード・オブ・スラッシュ』」

(【(ざん)】)


エリアルは小剣で自分の付近の糸を切り、足場を確保していく。


「ほぉ、この糸を難なく切断するとはな……」

「だが、うかつに近寄れまい?」


ヘレンは体中を糸を繭のように巻かれ天井に吊るされている。

エリアルはヘレンが気になって次の一歩が踏み出せない。


「(あいつを油断させることができれば……)」


「エリアル、私の事はいいから! ロザリナを!」


ヘレンは必死にもがき、糸の捕縛から脱出しようとする。


「やめとけやめとけ、糸はそんなひ弱なお前には斬れねぇよ」


デダイパスは、一本の手を伸ばしながら、爪の先から何か液体を滲ませる。

そのままヘレンの首元まで伸ばす。


「エリアル、一歩でも動けば、毒爪でこの女を刺すぜ」


エリアルはデダイパスを睨みつける。


「さぁ、その剣……二本とも捨ててもらおうか?」


「……っ」


エリアルは一瞬だけヘレンを見る。

わずかに首を振る彼女の視線。


「わ、わかったよ」


「エリアル、やめて!」


エリアルはヘレンの制止も聞かずに、剣をデダイパスの前に投げ捨てる。


――カラーン。


二本の剣は地面に転がる。


その瞬間だった。

デダイパスの糸が走る。


「素直じゃねぇか?」


糸に絡み取られた剣は、そのまま天井へと吊り上げられた。


「はははっ、これでお前は鎧を着ただけのただの女だな」


ヘレンに向けていた手を元に戻す。


「変な動きするなよ? 俺の複眼は死角がねぇんだ」


そしてデダイパスは糸を噴射し、エリアルを繭のように包み込む。

エリアルは身動きが取れないまま地面へ倒れ込んだ。


「動けない状態で、何をされるか恐怖におののきながら殺されるんだぜぇ~」

「たまんねぇだろぉ?」


じりじりと無防備になったエリアルにデダイパスは六本の手を伸ばしながら近づく。


エリアルは繭の中で迫ってくるデダイパスに恐怖はしていなかった。



――なぁエリアル。剣士が剣をなくしたらどう戦う? ――



「(……今が、その時ですね師匠)」

「(試してみます)」

「君……余裕そうだね?」


エリアルの声は静かだった。


「はぁ? 剣がなけりゃ何もできねぇだろ?」

「くっくっくぅ~さぁて串刺しにしてやろうかなぁ~まぁ一撃では殺さねぇけどなぁ」


「油断……したね」


その一言に、デダイパスの笑みがわずかに歪む。


「あーーーーっ、うだうだうるせぇぞ!」

「強がってんじゃねぇ! 死ねーーーっ!」


次の瞬間――

天井に吊るされている大剣が跳ねる。


「なっ……!?」


大剣はまるで意志を持ったかのように空中で軌道を変え、巻かれた糸を断ち切る。

そして、エリアルの背中の鞘へ向かって一直線に戻る。


「剣が……戻って――」


エリアルは身体を低く沈め、わずかに立ち位置をずらした。

――鞘と大剣の間にデダイパスが来るように。


ザバーッ!


大剣はデダイパスの左手三本を切断し、鞘へ収まる。


「ギャー―ッ!」

「て、てめぇ何をしやがった!」


「『アース・マグネ――磁石――』」


「じ、磁石だと……まさか?」


デダイパスが目を見開く。


エリアルの鞘には、大剣を対象に設定した『アース・マグネ』が施されていた。

十メートル以内なら、大剣は主のもとへ帰ってくる。


その瞬間、空気が変わった。


「……さて」


エリアルの瞳から迷いが消えた。


「ここからは、僕の時間だよ」


静かに息を吐き、エリアルは一歩踏み出す。

大剣を再び抜く。


「『ソード・オブ・ボルケーノ』」

(【(ほのお)】)


刹那――炎が爆ぜた。


斬撃ではない。

抜刀と同時に広がる、空間ごとの火炎制圧。


「ちぃっ……!」


糸が焼き尽くされ、洞窟内の支配構造そのものが一気に崩れ去る。

そして、ヘレンの拘束も解け天井から転落する。


「きゃぁ!」


「おっと!」


エリアルは落下したヘレンを抱き留めると同時に後方へ跳ぶ。


「ありがとうエリアル」


その間、デダイパスは最後の手を打っていた。


エリアル達に気付かれないように。

左腕の痛みをこらえながら息を殺して。

自分の周りに毒で満たした糸を張り巡らせ広げる。


「ゆ、油断したのは貴様だ!」

「この糸、ただ燃やされるだけだと思うなよ」


広げた糸は床、壁に侵食されて空間が毒で支配され始める。


「最後にまとめて殺してやるよォ!」


その瞬間だった。

ヘレンは自分の落とした『エクソシズム・ケーン』が毒の浸食に飲み込まれる前に拾い上げる。


「一撃で終わらせますっ」

「『フレイム・インボルブ――火炎包囲――』っ!」


紅蓮の炎が部屋を呑み込む。

毒も糸もデダイパスも、悲鳴を上げる暇すら与えず焼き尽くした。


そして――残ったのは、焼け焦げた空間だけだった。


「あ……五倍の威力って忘れてました」


「いや、助かったよ」


エリアルは静かに剣を収める。


「ご、ごめんなさいっ……証人を――」


「しかたないよ。ヘレンさんが無事でよかった」


するとヘレンは緊張から解放されたように崩れ落ちる。


「大丈夫かい?」


「ごめん……さっき杖を拾った時に足をひねったみたい……」

「歩けそうだけど、走るのは無理かな……」

「それに糸で締め付けられてたせいで、体に力が……」


「そうか……」

「その状態で君を一人にするわけにはいかない」


エリアルは未練を押し殺すように洞窟の奥へ視線を向ける。


「ルナ達にならきっと大丈夫さ」





一方その頃、浜辺では――

アンハルトの剣とデブラクのハサミの鍔迫り合いが続いていた。


「おらおら、そんな剣筋じゃぁ、ハサミに挟まれた瞬間終わりだぜ」

「次は手足もさよならさせてやるよ」


「くそっ」


「何が『サシなら独壇場』だとぉ?」

「雑魚がっ!」


重厚な甲殻と、異常な切断力を持つハサミ。

そして六本の脚を使った高速移動。


――油断すれば一撃でも致命傷になりうる。


「へへへ……どうしたぁ? もうボロボロじゃねぇか」


さらに、消化液を口から噴射する。


アンハルトは咄嗟に盾で受ける――が。


「ぐっ……!」


盾は泡で消化されるように溶け落ち、ボロボロになる。


「(まずいな……これを浴びたら鎧も……)」


だが次の瞬間――。

アンハルトはデブラクと距離を取り、動きを止める。


「はぁ? 観念したか?」

「なら! 真っ二つにしてやんよっ!」


アンハルトは剣を構えたまま、一歩だけ身体をずらし攻撃を受け流す。


「なっ! 貴様」


いや、正確にはアンハルトには動きが『見えていた』のだ。


その姿をみたデブラクは目を疑う。


「な、なんだ? お前のその瞳――」


瞳の色が美しい碧に変わり、一筋の光を宿す。


次の瞬間――

剣閃だけが残った。


「そこだ!」


剣が閃いたかと思うと、デブラクの右腕のハサミが地面に落ちていた。


「ギャーーーーーす!」

「てめぇ、俺の――俺様の無敵の装甲をぉぉぉ!」


アンハルトはハサミの付け根……つまり『支点』だけを剣で正確に突いていたのだ。


「なっ!?」

「そんな毎回毎回できる芸当じゃ……」


「違うな」

「『芸』じゃない――『実力』だ」


アンハルトは静かに構える。


「お前の鈍い動きが、見えているだけさ」



――俺は魔力を外へ放てない特異者。

その魔力を瞳へ集中すれば世界そのものが遅く見える。

だが、その代償は大きい。



次の瞬間。

デブラクは六本の足で地面を掻き荒らし、砂煙で身を隠そうとする。


「見えるもんなら、見切ってみろよ!」


砂煙に紛れ、四方八方へ消化液を撒き散らす。


しかし、アンハルトは何事もなかったかのように、そのすべてを躱していた。


「見えてると言っただろ?」

「終わりだ」


一閃。

砂煙の中にも関わらず、アンハルトの高速剣は手足のすべての関節を貫いた。


そして、四肢を失い胴体だけになったデブラクは地面に崩れ落ちる。


「ぐげぇ……」


「君がサヨナラするのは、手足の方だったみたいだね」


しかし、アンハルトも力が抜けた様に膝をついてしまう。

碧く輝いていた瞳は、ゆっくりと色を失っていった――。


「くっ……またしばらく、この目は使えないな」

「ルナリカ……頼んだぜ」


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