第137話 洞窟探索
ルティーナ班とは反対側の峠へ向かっていたサーミャ班は、一足早く洞窟の入口へ到着した。
そして、馬車を降りたシャルレシカはすぐに洞窟内の索敵を始める。
「どうだ? シャル」
「うーん、一人だけぇ……洞窟の奥に居ますねぇ」
「悪意がないのがぁ気になりますがぁ……」
サーミャは考える。
「『マジックシール・ストーン』を使って潜んでいる可能性は十分にあるぜ……」
グルバスは頭を掻きながら続ける。
「だけどよぉ、一人だけって?」
「そもそも誘拐犯は三人だろ?」
「罠、ですかね?」
シェシカは状況をルティーナ班に、小鳥の使い魔を使い通信をする。
「ヘレン、聞こえますか?」
『――はい、聞こえます』
「こっちは――」
シェシカは現在の状況と、洞窟内に一人しか反応がないことを伝えた。
「――わかったわ」
「洗脳されている可能性も示唆しながら行動するわ。ありがと」
そして、サーミャ班の行動が決まる。
ルティーナ班が現地に到着するまで、三十分。
先行して突入し、状況次第で合流する――そう決まった。
サーミャ達はシャルレシカの索敵を頼りに、洞窟の奥へと進んでいく。
「……罠とかねぇよな」
「シャルちゃんて、罠は見えないんだっけ?」
「そうなんですぅ……」
「もう落とし穴とかはぁ……勘弁ですぅ……」
サーミャは目を逸らす。
「いやな思い出を……」
ブライアンは無言のまま剣を構え、先頭に立つことにした。
刃先で地面と壁を軽く叩きながら、慎重に進んでいく。
洞窟の中は静かすぎるほど静かだった。
――そして数分後。
「ん? シャルレシカさん? この道で合ってますよね?」
そこは岩壁で行き止まりになっていた。
「はいぃ~……数十メートルほど先にぃ居るんですぅ」
サーミャは一瞬で判断した。
「これは、土魔法……『ロック・ウォール――岩壁――』か」
「下がれ!」
仲間を後ろへ退かせると、サーミャは一歩踏み出す。
「『ロック・バスター――岩砕螺旋撃――』っ!」
炸裂音とともに、岩壁に風穴が空く。
崩れ落ちた先には、隠されていた通路が続いていた。
その瞬間だった。
暗がりの奥で、何かが動いた。
逃げるように奥へ消える人影。
「追うぞ! ロザリナの手がかりを吐かせてやる!」
一気に緊張が跳ね上がる。
その時――。
サーミャ達の最後尾で、異変が起きていた。
シェシカの肩に止まっていた小鳥が、ふっと力を失い落ちた。
「……え? 小鳥が」
地面へ落ちた小鳥は、さっきまでの命令など忘れたように、辺りをうろうろし始めた。
「どうしたシェシカ!」
「……っまさか! 魔法封じ!?」
サーミャは反射的に詠唱を始める。
「ちっ、『ライトニング・ニードル――雷針――』!」
サーミャの魔法陣は一瞬だけ浮かび、そのまま霧散した。
「くそっ罠だ! 引き返せ――」
だが、その判断は遅かった。
ゴゴゴゴ……ッ
前後の通路が同時に崩れ始める。
「しまっ――」
「シャルっ!」
「姉さんっ危ない!」
後方を歩いていたグルバスとシェシカは巻き込まれずに済んだ。
しかし、シャルレシカはサーミャに咄嗟に突き飛ばされ、足だけが崩落に巻き込まれてしまう。
「シャルちゃんっ! グルバスっ早く岩を退けて!」
「わかった」
一方、先頭を進んでいたブライアンとサーミャは、完全に岩で道を塞がれてしまう。
「サーミャっ! 大丈夫か!?」
すると、サーミャの叫びが洞窟に響く。
「ブライアンッ!! しっかりしろ!」
落石の直撃。
ブライアンはサーミャを庇った形で倒れていた。
「おい……ブライアン! 死ぬな!」
「くそっ! シェシカは向こう……治療ができねぇ」
サーミャが居る側は魔法が封印されているエリアだった。
そのため魔法での脱出は不可能な状態だった。
「ね、姉さんが……無事なら……」
「黙ってろ! そうだ! 『ヒーリング・ストーン』があるじゃねぇか!」
「『キュア・ヒール』っ……!」
だが、魔法は発動しなかった。
「くそっ……!」
「駄目ですよ、それは転移魔法に……必要な石……」
「俺のことは……気にしなくて……」
「気にしねぇわけねぇだろ……!」
必死に止血するも、ブライアンの意識は薄れていく。
「――サーミャ!」
そのとき、岩の向こうから大声が響く。
「グルバスか!?」
「とにかく岩をぶち破れ! ブライアンがやべぇ!」
外からの応答に、ようやく希望が繋がる。
わずかな穴が開き、互いの声が届くようになった。
「状況は!」
「ブライアンが重傷だ!」
「そっちは?」
「シャルは軽傷だが! シェシカが後方で治療してる!」
「待ってろ、俺が通れるぐらいの岩ぐらい除去してやる」
そして岩を砕く音が響き始める。
一方シェシカは小鳥を捕まえ、魔力がつながるところまで退避していた。
「ヘレン! 聞こえますか!」
『シェシカさん! どうしたんですか!?』
簡単に現状を説明する。
落盤の罠。
分断。
負傷。
魔法封じ。
その報告を受けたヘレンは、即座にルティーナへ説明する。
そしてルティーナが指示を伝達する。
「――グルバス!」
「何だ!」
「ルナちゃんから伝言!」
「来たか!」
岩越しに叫ぶ。
「サーミャ!」
「ルナからだ!」
「なるほど……分かったぜ」
サーミャは短く息を吐いた。
「(ルナ……ありがとよ)」
そしてブライアンに視線を落とす。
「もう少しだけ耐えてくれ」
サーミャはルティーナの指示に従い、閉じ込められている範囲の距離を測り始めた。
崩落地点と崩落地点の間。
歩幅で一歩ずつ。
(中央に仕掛けられている可能性が高い)
断片的な情報が、頭の中で繋がっていく。
「三十メートル……」
「小鳥の様子がおかしくなったのは、十メートルぐらい後方……」
「最小でも半径二十メートル級の効果範囲か……」
「効果範囲を大きくするには、あの石もある程度の大きさが必要だ」
「――なら、隠せねぇよな……」
かつてのドグルスの罠にはまった時を思い出す。
サーミャは視線を落とし、地面を睨む。
「つまり、地面に埋められる程度の大きさ」
「(ここだ……どこかに『歪み』があるはずだ)」
「剣を借りるぜ」
ブライアンの呼吸は、目に見えて弱まっていく。
一刻の猶予もない。
サーミャは地面をえぐりながら、一歩ずつ前へ進んだ。
一方ルティーナ達は、サーミャ達が罠にはまったという知らせを受けた頃、反対側の洞窟へ到着していた。
「まさか、ただでさえ希少な『マジックシール・ストーン』を使っているだと?」
「私達を誘う前提なら、準備があるのは当然でしょうね」
「じゃあ、ここは外れか……?」
サーミャ達が罠にはまった以上、本命はこちらではないのかもしれない。
そんな空気が、一行に流れていた。
(いや……何かがおかしい)
「とりあえず、私はねずみちゃんを使って捜索をしますね」
「そうね」
「もしこの洞窟でも石が使われてたら、ねずみちゃんが操作できなくなるからわかりますよ」
そして、ヘレンは迷いなく杖を構えた。
「『ダーク・マニピュレート――洗脳――』……!」
空気がざわつく。
次の瞬間、影の中からわらわらと小さな気配が現れた。
「……出てきたわね」
ネズミの群れだ。
「この杖、すごいですね……こんなにたくさん……」
「(いつみてもえぐいわね……)」
ルティーナの内心が一瞬だけ引く。
「もうルナリカ、顔が引きつってるわよ」
「そ、そんなことないよぉ~」
「この子達は洞窟は得意だし、狭い場所も暗闇も関係ないから適任なんですって」
ヘレンは淡々と説明しながら、ネズミ達に命令を飛ばす。
小さな影は、一斉に闇の奥へ消えていく。
洞窟の静寂だけが残った。
「でも、結果が出るまで少し時間がかかるわ」
「集中させてね」
「了解」
「頼りにしてるわよ、ヘレン」




