第134話 「ロザリナ」ノ行方
ジェイスト村へ戻ったルティーナ達は、ノキア王の悪事を暴くためノモナーガ王国で留守番をしているロザリナの元へ飛ぶことにした。
しかし――転移魔法が発動しない。
「……え? 詠唱は間違ってねぇぞ」
「リーナの顔忘れたとか?」
「んな訳ねぇ!」
「あいつ、留守番ばっかで拗ねちまったか?」
その異常事態に、馬琴は即座に状況を整理する。
(可能性は三つある)
ルティーナは馬琴の考えを皆に説明する。
それを聞いたサーミャは目を見開く。
「三つもあんのかよっ」
ルティーナは冷静に続けた。
「一つ」
「ヒーリング・ストーンが壊れている」
「充電しすぎて限界がきちまったのか?」
サーミャが即答する。
エリアルは冷静に考える。
「待って、それは確認できるよね?」
「他の人を対象にすれば……」
「……じゃあ残り二つは?」
空気が少し重くなる。
「二つ目――ロザリナが『死んでいる』可能性」
「縁起の悪い事を言うんじゃねぇよ!」
サーミャが反射的に声を上げる。
「落ち着いて、あくまでも可能性だから……」
「もしそうだとしても、ミヤがヴァイスさんの遺体のある墓へ飛んだ時と同じ理屈になるはずなのよ」
「……確かに」
「だから、少なくともねぇってことだな……よかった」
空気がわずかに緩む。
「最後の一つ」
ルティーナは続ける。
「ロザリナの周囲が魔法遮断されている――」
それを聞いた、サーミャの顔が歪む。
「『マジックシール・ストーン』か……」
サーミャの声が低くなる。
それは過去に彼女自身が苦しめられた力だった。
「私がぁ索敵できなかった時もぉ、その石が原因でしたもんねぇ」
――沈黙。
違和感だけが残る。
「……分からない。マコトは情報が足りなすぎるって言ってるわ」
ヘルセラはシャルレシカの肩を叩く。
「シャルレシカや修行の成果を試してみな」
「ふふぅ……やってみますぅ~」
彼女は水晶を握り、『ヒーリング・ストーン』に触れた。
「そうか、ロザリナが充電した時の魔力の痕跡をたどるんだな?」
だがその瞬間――
空気が変質する。
「……っ」
水晶の表面が淡く発光し、空気をなぞるように魔力が伸びていく。
まるで一本の糸のように、どこかへ『導かれている』かのように。
「これが……シャルの本当の力?」
「今までが使い方を知らなさすぎただけじゃわい」
ヘルセラは目を細めた。
「魔力の大半はだだ垂れだったからの」
「それじゃすぐ眠くなるわけさね……」
(あはは……そりゃ疲れるよぉ……)
シャルレシカの意識が一瞬揺らぐ。
だが水晶は反応を始めた。
――映った。
揺れる灯火。
暗がりの中に鎖に繋がれた人影。
ゆっくりと、輪郭が浮かび上がる。
「り……リーナっ!」
エリアルは叫ぶ。
「どういうことだ? さらわれたのか?」
(リーナが、宿で一人って知られていた……)
(まさか、スレイナの仕業か)
空気が凍る。
「ってことは、あの場所の周りに石があるってこと!?」
ルティーナは小さく息を吐いた。
「……おかしいわ」
「それなら、水晶にも映らないはずよね?」
馬琴は考える。
『マジックシール・ストーン』は、大きさによって効果範囲が変わることを思い出す。
水晶に映る光景。
ロザリナのそばに『杖』と、ロザリナの持ち物が映っていた。
(アレは……アンナさんの杖?)
シャルレシカが辿っていたのは、ロザリナだけではなかった。
そこに残る『別の魔力の痕跡』にも、反応していた
『ヒーリング・ストーン』に最後まで触れていたアンナの魔力である。
(ルナっ、分かった!)
そしてルティーナは可能性――いや、ほぼ正解であろう結論を伝える。
「おそらく……」
「石は周囲に置かれているんじゃない」
「リーナ自身に持たされている」
「「「!」」」
「だから、この映像は、お母さんの杖に残る魔力を通して、辿れた断片的な風景……」
「場所は分からないの?」
シャルレシカは、もう少し深く探そうとする。
「う~ん……峠のような場所が頭に浮かんでぇ……、洞窟をさまよった感覚があったんですぅ……」
「これ以上は、追跡できませんでしたぁ……」
「それじゃ宿に戻れれば、誘拐された時の過去視ができるんじゃない?」
「だけどよぉ、ロザリナのそばに所持品も映ってたよな?」
「うん……」
「宿に手掛かりを残さないためね……」
「シャルの力まで把握されているってことよ」
その頃、ロザリナが誘拐されている洞窟。
水滴の音。
冷えた鎖のきしみ。
暗闇の中に漂う冷気。
――何かの『気配』があった。
「(ここは……どこ……?)」
ロザリナは目を覚ます。
その時。
足音。
ゆっくりと、近づいてくる。
「(誰か……来る……!)」
耳元で、低い声がした。
「――長かったぞ」
「やっとだ。お前を探していた」
「(誰?)」
「――我が孫よ」
「勇者の血縁は続いていた」
――沈黙。
「(孫……? 私が……勇者の血縁?)」
そして、狂ったように笑いだす。
「ばはははっ! 満月まで、あと五日……」
「ようやくだ……ようやくこの時が来た――」
ルティーナ達は、一刻も早くロザリナを救出するため、ノスガルドへの帰還手段を模索していた。
ジェイストからでは距離があり、ルティーナの飛翔を使っても最速でも三日近くかかる。
「それなら……転移魔法のことを知ってるアンハルトの所へ飛ぼうぜ」
(あそこなら、カルラちゃんの宿の近くか……)
「今はそれしかないわね」
エリアルは懸念する。
「アンハルトさん達が『碧き閃光』の拠点に居てくれたらいいけど」
(街中とかに飛び出したら大騒ぎか……)
「その時はその時よ! ミヤ!」
サーミャは頷き、『ディメンジョン・テレポート』を発動した。
――次の瞬間。
「「「「っ――!」」」」
そこは『碧き閃光』の会議室。
机をアンハルト達が囲んでいたその中に転移したのだ。
散らばる紙の山。
唖然とする面々。
「「「「なっ!?」」」」
「なっ、サーミャっ!」
机の上に突然現れた四人は、そのまま転がるように尻もちをついた。
「……っ、ここは?」
「ここは――じゃねぇ!!」
グルバスは叫ぶ。
「サーミャ! 転移がちゃんと使えるようになったのか?」
「まぁ……な。だが今は説明してる暇ねぇ」
アンハルトも同じように話に割り込む。
「ルナリカ――それより緊急事態だ!」
「それはこっちのセリフ――はぁ? 緊急事態?」
アンハルトが机を叩く。
その顔には焦りがあった。
「朝、宿は荒らされていた。ロザリナは消えていた」
「抵抗の跡はあるが、誰も気づかなかったようだ」
「……っ」
空気が一瞬で変わる。
ルティーナは短く息を吐き、すべてを説明した。
ロザリナがいなくなったことを。
「つまり……ロザリナが誘拐されたってことか?」
「はい」
アンハルトが続ける。
彼らは会議を始める前に、ルティーナ達の泊っていた宿を調べた。
「もぬけの殻だった……なにも残ってなかったんだ」
「争った形跡もなかった」
サーミャは食い付く。
「そんな、宿の誰かが気づくだろ?」
アンハルトは視線を落とす。
「偶然、隣の部屋の宿泊客が、夜中、宴会をしていたらしい」
ルティーナは目を細める。
「そいつらが犯人?」
「分からない」
「でも、五十くらいの男三人組だそうだ」
「翌朝早く、馬車で出ていったらしい」
「……それ、怪しすぎだろ」
だが『証拠』はない。
空気が重くなる。
だが馬琴が静かに口を開いた。
(とにかく、カルラちゃんの宿に行こう)
「(そっか、そいつらの居た部屋になにか痕跡があるかもしれないわね)」
そして、ルティーナはカルラの宿に行くことを提案する。
サーミャも頷く。
「すまなかったな、アンハルト」
アンハルトは拳を握る。
「俺も付き合うぜ」
「アンハルトさん」
ヘレンはいつになくやる気があった。
「待ってください! 私も手伝わせてください」
「今度は、私が借りを返すばんなんで」
シェシカとグルバスもため息をつく。
「おいおい、俺達も忘れるなよ。弟子なんだぜ」
「ブライアンも行くよな?」
「はい!」
ルティーナはアンハルト達に深々と礼をする。
「(リーナ……待ってて)」
「(絶対に助けるから)」
それは『捜索』ではなく――。
『救出作戦』へと変わった瞬間だった。
(第陸章 「『アジャンレ村』の危機」編 完)




