第131話 「ルティーナ」ノ猛追
ルティーナとサーミャは、戦闘の最中に割り込むように現れた。
その瞬間、戦場の空気が一瞬だけ凍りつく。
「なんだ! これは! ルナリカ達が空間から現れた――だと!?」
「まさか伝説の……転移魔法なのか!?」
ルティーナ達は一瞬だけ思考を止めた。
しかし、目の前の異形を見てすぐに理解する。
「喋るデグルーイ!? まさか……魔物化した敵っ!?」
ルティーナは冷静にサーミャに指示を出す。
「とにかく、転移のことが知られる前に、あいつを捕まえるわよっ」
「あぁ、分かってる」
「なら出し惜しみはなしだな……『フィルス・フリーズ・ランス――氷の三叉槍――』っ」
サーミャの放った三本の氷槍は、通過した空気すら凍らせながらスレイナへ襲い掛かる。
スレイナは反射的に回避するため飛翔しようとする。
――しかし完全には避けきれず、エリアルに足首を切断された左足が瞬時に凍結する。
「っ……! かすっただけで」
慌てて距離を取るように急上昇するスレイナ。
「(氷系なのに、雷みたいな速さと範囲……だと)」
スレイナの脳裏に警戒が走る。
サーミャの見知らぬ魔法、エリアルの魔法剣の二刀流――。
全てが想定外……しかも、負傷した左足。
このまま、一対三では分が悪いのは明白だった。
「(逃げるべきか……いや、ここで引けば情報は持ち帰れない)」
「(ナガアキ様に『転移魔法』の事だけは報告する必要がある……)」
一方、馬琴も同じ答えに辿り着いていた。
――このままでは逃げられると。
(一対一に引きこめばいい)
「(?)」
そして、戦場の均衡を崩すための判断が下される。
「さぁ鷹女っ! 私が相手よっ」
ルティーナが高々と声を上げる。
「ミヤとエルは、お父さんの救援に行って!」
「シャルが、お父さんも危ないって言ってたから何か胸騒ぎがするの」
エリアルは、空中戦が苦手なルティーナに勝機があると思えなかった。
「いや、ここは僕が――」
しかしサーミャはエリアルの肩をつかみ、バルストの居る場所へ案内させる。
「大丈夫だよ。策はあるから」
「ってエル、おまえ露出狂だったのか? 魔物は色気じゃ勝てねぇぞ?」
「もう! そこを突っ込まないでくれるかな?」
「それより、どうしてこの危機がわかったんだい? ……まさかシャル?」
「あぁ、後でゆっくり話してやるが、とんでもねぇ女になっちまったぞ」
「!?」
スレイナは、サーミャとエリアルがその場を離れ、バルストのもとへ向かったのを見て笑みを浮かべた。
一対一の構図。
しかも空中戦を不得手とするルティーナが、あえて残っている。
「(……罠か? はったりか?)」
だが同時に、逃走という選択肢は消えていた。
「自分から残るだなんて……馬鹿なのか、お前!」
「はぁ? なによあんた! 薬でしか強くなれない三下の分際で!」
ブチッ!
スレイナは切れた。
(なぁルナ、あいつ……こめかみに例の痣があるぞ)
「まさかお前! 例の組織の女か!」
「なんだい、知っているなら話は早いねぇ!」
(ルナ、見せてやれっ!)
ルティーナはエリアルの危機を前提に戦闘を見越して準備を整えていた。
転移前から新兵器『デストラクション・シューター』の左右に【電】を刻み、背には【翼】を描いていたのだ。
「鷹女っ! 覚悟しなさいっ!」
「なんだ? そのおもちゃは!」
スレイナはあざ笑いながら空から毒羽を放ち、牽制に出る。
しかしルティーナは短剣でそれを的確に叩き落とし、致命的な隙を作らない。
「おらおらっ、空中からの攻撃の味はどうだぁっ!」
スレイナの攻撃が加速する。
(そろそろ……反撃の頃合いだ)
(先端を基準に構えればいい)
ルティーナは【煙】を刻んだ手裏剣を上空へ、あえて手で投擲する。
そして最高点に達したところで、馬琴は起動する。
一瞬で煙が広がり、スレイナの視界からルティーナの姿が消える。
「ちっ……!」
(ルナ、【爆】の手裏剣をお見舞いしてやれっ!)
煙が晴れた瞬間、スレイナは『デストラクション・シューター』を構えたルティーナの姿を捉えた。
(なっ……何のつもりだ!)
次の瞬間――。
シュパッ――――!
乾いた音とともに放たれた高速の手裏剣は、スレイナの目ではまったく捉えることができなかった。
「なんだっ! 何かを……放った!?」
その判断の間も与えないまま――。
(今だ、起動っ)
狙いは外れていたが、スレイナの真横で手裏剣が爆発する。
「ぐっわっ!」
羽が焼け、視界が揺らぐ。
「(今のは……何が起こった! 空中で爆発だと!?)」
「(マコト、はずれちゃったじゃない!)」
(いやいや! 高速で飛んでる手裏剣の位置なんて分かるかっ!)
「(それでも……効いてるわね)」
混乱するスレイナに、追撃が重なる。
次々と爆発が空中で連鎖し、羽と体勢を削っていく。
「(くそっ……見えない! でも何か飛んでる!)」
夜の闇が災いし、デグルーイ特有の鷹の目はほとんど役に立たなかった。
「(あの腕の道具か……!?)」
思考を乱されるスレイナに対し、ルティーナは攻勢の手を緩めない。
「(こいつ……最初から私との空中戦を想定していたのか……?)」
スレイナは即座に判断を切り替える。
爆発の煙の影へ潜り込み、立ち上る煙に紛れて急上昇する。
――逃走。
「逃がすかっ!」
(【翼】、起動っ!)
ルティーナの背中から光の翼が広がる。
そして即座に追撃へ移行する。
翼を傷つけられたスレイナは、もはや先ほどまでの速度を出せない。
そして――
その背後には、翼を広げたルティーナの姿。
「逃がさない……!」
夜空を裂くように、少女の猛追が始まった。
必死に逃げるスレイナ。
(背中を向けている今なら、かわしようがない!)
「(ってことは、このまま真っすぐ撃てば?)」
ルティーナは『デストラクション・シューター』をスレイナの背中に向けて、【凍】を描いた手裏剣を放つ。
シュパッ――――!
「ぐわーーーーーーーーーっ!」
放たれた手裏剣は、逃げるスレイナの背中へ正確に突き刺さった。
その瞬間、馬琴は手裏剣に描いた【凍】を起動する。
スレイナの翼は一瞬で凍りついた。
飛翔能力を失った彼女の身体は、そのまま夜の森へと落下していく。
「くっそぉガキがぁぁ――ぁ!」
制御を失ったスレイナは、そのまま森へと墜落した。
枝が次々と折れ、
地面へと叩きつけられる。
「ぐがっ……!」
肺の空気が一気に絞り出された。
「(まだ……死ねない……)」
「(ここから……どう逃げる……?)」
そして異変。
「……っ」
スレイナの手足が元に戻っていく。
「(く、薬が……切れる……!)」
――魔物化が解除され人間体へ戻ってしまう。
デグルーイだった時はアドレナリンが出ていた為、痛みは軽減されていた。
しかし、その痛みは一気にスレイナを襲った。
「ぎゃーーーーっ!」
スレイナは瀕死の状態となり、ほとんど動けなくなっていた。
そこへ、ルティーナが舞い降りる。
「(人間の姿に戻ってるわよ? どうして……?)」
(薬の効果が切れたのか?……それとも――)
(――油断するなよ、ルナ)
月明かりに照らされた女の素顔を見て、ルティーナは目を見開いた。
「あなたが……刺客の正体だったのね」
「さぁ、もう逃げられないわよ。全部話してもらうから」
ルティーナは『デストラクション・シューター』を構えたまま、スレイナに迫る。
「(……シャルを連れてくればよかったわね)」
(しょうがないさ、今回は戦闘中に転移する可能性もあったわけだし)
(それに……せっかく会えた肉親とゆっくりさせてやりたいだろ?)
「(そうね)」
(あとは、この女が素直に白状してくれるといいんだが……)
「(さっさと片づけて、私も甘えさせてもらうわ)」
「さぁ、聞かせてもらうわよ!」
「黒幕の事!」




