第13話 斡旋屋《ギルド》へ
<前章の振り返り>
七年の昏睡から目覚めた少女ルティーナは、記憶の中に“異質の存在”――マコトを宿していた。
剣豪の父バルスト、回復師の母アンナと共に日常へ戻る中、彼女はその異質な力の片鱗を見せ始める。
やがて一家は護衛任務で隣国へ赴き、薬草採取の任務のため“バルデランの森”へ。そこで出会った占い師シャルレシカを加え、順調に進むはずだった旅は一変する。
突如発生した魔物の大群――それは偶然ではなく、バルストを狙った暗殺計画だった。
父が瀕死に追い込まれたその時、ルティーナの力が完全に覚醒。圧倒的な能力で魔物を殲滅する。
だが真相を知ったルティーナは、一家ごと『死んだこと』にして逃亡を選ぶ。
彼女の運命は、今、大きく動き出そうとしていた――。
バルスト暗殺未遂から一ヶ月――。
ルティーナ(と馬琴)、そしてシャルレシカは、アジャンレ村で身を潜めながらも、新たな目的を定めていた。
目指すは、ノモナーガ王国・首都ノスガルド。
大陸の中心に位置するその街のギルドで、冒険者としての一歩を踏み出すためである。
――その道中。
森の中で、デーアベに襲われていた少女を助けることになった。
少女の名はカルラ。
ノスガルドで宿を営む家の娘だという。
怪我をしていたこともあり、ルティーナは彼女を街まで送り届けることにした。
――もっとも。
「(……宿屋の娘さんだったなんて。私達、ツイてるわね)」
内心では、しっかりと別の思惑を巡らせながら。
「あれがノスガルドなのね~。初めて来たよ~」
街を見上げながら、ルティーナは軽く背伸びをする。
「でもカルラちゃん、あなたの家がノスガルドで助かったわ。さすがにあのまま放っておくわけにもいかなかったしね」
「本当にすみません……ルナお姉ちゃん……」
申し訳なさそうに頭を下げるカルラ。
「せっかく節約して近道してたのに……結局、すぐそこなのに馬車まで使わせちゃって……」
「あ~いいのいいの~気にしないでぇ~」
ひらひらと手を振るルティーナ。
「目的地が一緒だったし。これも何かのご縁よねぇ~……あはは」
(あれだけ金がどうこう言ってたくせに、通りすがりの馬車を必死に探してた理由……完全に宿狙いだろ)
「(うるさいわね)」
街へ入ったルティーナには、一番に確認しなければならないことがある。
あの件――。
わざとらしく周囲の人々に声をかけ始める。
「すみません、この街のギルドに剣豪バルストさんって方がいると聞いて来たのですが……」
「ああ……知らないのかい」
通行人は、少し沈んだ顔で答えた。
「一ヶ月前になぁ、魔物の大群に襲われて亡くなっちまったんだよ……」
「いい人だったんだがなぁ……」
同じようなやり取りを何人かと繰り返す。
誰もがバルストの死を惜しんでいた。
(……ちゃんと広まってるね。ドリネさんグッジョブ)
胸の奥にわずかな痛みを覚えながらも、ルティーナは内心で安堵する。
やがてカルラの宿へ到着した。
しかし両親は不在だったため、従業員に事情を説明して彼女を預ける。
「ありがと~ルナお姉ちゃんっ!」
元気よく手を振るカルラ。
「今夜は絶対うちの宿に泊まりに来てね! お父さんに言っとくから!」
「登録終わったら行くわね~。ちゃんとお医者さんにも行くのよ?」
「はーいっ!」
元気に手を振るカルラを背に、二人は歩き出す。
――ギルド。
仕事や任務を斡旋する機関であり、ノモナーガ・アウリッヒ・トレンシアの三国が共同で設立した組織。
その中枢の一つが、このノスガルドに存在していた。
「ここがギルド……ね」
「そうですねぇ~」
扉の前で立ち止まる二人。
「いい? シャル。もう一度確認よ」
「私の名前は『ルナリカ=リターナ』。うっかり本名を言わないでね」
「大丈夫ですぅ~。ルナはルナですからぁ~」
(だから、いちいち抱きつくなってば……!)
抱きついてくるシャルを引きはがしながら、ルティーナは微笑む。
「シャルはそのまま登録でいいわ。名前は知られていないから」
「はぁ~い」
「――それじゃ、行くわよ!」
扉を開くと、そこには冒険者たちの雑多な空間が広がっていた。
依頼書を眺める者。
談笑する者。
受付で説明を受ける者。
初めて見る光景に、ルティーナの胸は高鳴る。
「あれが受付かな――」
「――おいおいおい」
低い声が割り込んだ。
「お嬢ちゃんたち、ここがどこだかわかって入ってきたのか?」
筋骨隆々の巨漢が立ちはだかる。
「迷子なら帰んな。ここは遊び場じゃねぇぞ」
(はい、お約束来ました!)
(コイツなによ? ウザっ……台詞考えてよマコト)
「大丈夫ですよ~おじさん」
「私たち、これから最強の冒険者になるので」
「邪魔しないでもらえます?」
にっこりと笑うルティーナ。
「どなたかこの肉の塊、どけてもらっていいですかぁ~?」
(おいっ! 『肉の塊』って言ってないぞ俺は!)
「……はぁ~っ?」
周りからは失笑。
男のこめかみに青筋が浮かぶ。
「ガキがぁ……なめてんじゃねぇぞッ!!」
振り上げられる拳。
――だが。
パシッ。
ルティーナは、いとも簡単に片手で受け止めた。
次の瞬間。
ドンッ!!
掌底一閃。
巨漢の身体が扉を突き破り、外へ吹き飛ぶ。
そのまま地面に叩きつけられ、動かなくなった。
静寂。
ざわ……ざわ……
ギルド内が一斉にどよめく。
(いかがでしたか? お嬢様)
「(満足よ)」
馬琴は、男に襲われる前に両手のひらに――。
【堅】
【弾】
漢字を展開していたのだ。
「あの……すみません」
何事もなかったかのように、ルティーナは受付へ向き直る。
「お騒がせしました。冒険者登録をしたいんですが、どうすればいいですか?」
「……え、あ、は、はいっ!」
受付嬢は明らかに動揺しながらも、書類を差し出す。
「こちらにお名前を……」
「その後、奥の部屋で適性確認を――」
そして小声で――
「(あいつ、いつもあぁなんです……正直スッキリしました)」
「えへへ」
(感謝されたな)
(追い出されるかと思ったぞ……)
「よーし、シャル行くよ~」
勢いよく部屋へ入る。
中には、一人の老人が座っていた。
「ほう……可愛らしいお嬢さん達だ」
「本当に冒険者になるつもりかね?」
「(あ~これ絶対、期待してない目だこれ)」
(口に出てるぞ)
まずはシャルレシカ。
がが椅子に座らされ、二つの水晶にそれぞれの手を置く。
すると――
左は濃い紫に染まる。
右は神々しく白く輝く。
「ほう……占い師、それも高位の資質だな」
「(じじぃ! 凄いじゃん!)」
(『じじい』はやめてあげて)
そして――ルティーナの番。
自信満々に椅子へ腰を下ろす。
想定外の結果になることも知らずに――。




