第14話 無能扱イ
老人――オリハーデは、シャルレシカの資質を一目で見抜いていた。
後に知ることになるが、この男、オリハーデ=メルトラッハはギルド専属の鑑定士。
冒険者の適性判定のみならず、持ち込まれた品の価値や呪いの有無まで見抜く存在。
大陸でも数えるほどしかいない――希少な人材である。
知識があるものならば、すべてを見抜く。
そんな異能を持つ老人だった。
「さて……次はルナリカ=リターナちゃんじゃな」
「(『ちゃん』って……やっぱり舐められてる)」
(まぁいいじゃん。ちょっと楽しみじゃない?)
(当然よ。むしろ――)
(この水晶、爆発でもしたらウケるよね)
(やめろっ! トラブルな未来しか見えん)
ルティーナは軽く肩を回し、両手を水晶へと添えた。
――数秒。
左の水晶が、じわりと緑に染まる。
(お、来た……?)
だが。
その色は、すぐに薄れていった。
――それ以上、濃くなることもなく。
そして右の水晶は――
無反応。
「…………」
(……え?)
室内に、静寂が落ちた。
オリハーデは一瞬だけ目を細め、言葉を選ぶ。
そして。
「……正直に言おう」
ゆっくりと、告げた。
「君には資質がない……」
「――は?」
「その緑色はな、かろうじて『剣』への適性の兆しじゃが……」
「あまりにも薄い。実戦で通用するレベルではない」
「さらに魔力は……一切、感じられん」
淡々とした宣告。
「これでは、『職業登録』は難しいのう――」
「……はっ?」
一拍。
そして――
「はぁぁぁぁぁぁっ!?」
爆発した。
「ちょっと待てぇぇぇぇ!! くそじじぃ!!」
「ヤブか!? ヤブ鑑定士なのか!?」
「私の実力も知らないで、何言ってんのよぉ!!」
「……く、くそじじぃとはまた……」
(あーぁ、言っちゃった)
馬琴は天井を仰いだ。
「ルナぁ~落ち着いてくださいぃ~!」
「おじいさん、本当に何もないんですかぁ~? ルナは凄く強いんですよぉ~!」
「じゃがな、ワシの鑑定に誤りはない」
オリハーデはきっぱりと言い切る。
「何が凄いのか……ワシには、まったく分からんよ」
「うるさい! うるさいっ! もう一回だ!」
「今度は爆発させてやるから!」
バン、と机を叩く音が響いた。
「しつこいっ!! 爆発なんて物騒な!」
「今の状況で何度やっても、結果は同じじゃ!」
「これ以上騒ぐなら、『冒険者』の登録そのものを取り消すぞ!」
「……っ」
その一言で、ルティーナは凍りついた。
(……落ち着け、ルナ)
馬琴の声は、やけに冷静だった。
(俺の『力』って、単純に『鑑定できない』だけなんじゃないか?)
「(……え?)」
(そもそも、この世界には存在しないんだろ? こんな『力』)
(だから判断できない。それだけの話だ)
「(た……確かに)」
「(魔法でもないし、説明もつかないし……)」
(それに)
(あの爺さん、『冒険者になれない』とは言ってないんだぞ)
「(……あ)」
(『職業登録ができない』と言っているんだ)
「(つまり――)」
(冒険者には、なれる)
ルティーナははっと顔を上げた。
そして、深く頭を下げる。
「本当に……ごめんなさい」
「話を理解せず、失礼なこと言いました」
先ほどまでとは別人のような態度だった。
オリハーデは一瞬驚いたあと、ふっと目を細めた。
「……よいよい。気持ちは分かるさね」
書類を手に取り、手続きを始める。
「ただし、覚えておきなさい」
「職業が無いということは――依頼の選考で不利になる」
「依頼主は『分かりやすい強さ』を好むからの」
「……はい」
「まぁ、困ったことがあれば、いつでも来なさい」
その目は、まるで孫を見るように優しかった。
こうして鑑定は終わり、二人は部屋を後にする。
その背中を見送りながら、オリハーデはぽつりと呟いた。
「……あの若さで、なぜ冒険者に……」
――数時間後。
レミーナから、『十九歳』だと聞かされた彼は、軽く寿命を縮めることになる。
受付へ戻ると、書類を確認した受付嬢が固まった。
「(え……職業、なし……?)」
「(あの怪力少女が?――オリハーデさんに確認しなきゃ……)」
「……あの、お姉さん……どうかしました?」
「え? 何でもないないですよぉ~」
「『職業なし』ってとか思ってたでしょ?」
「え、いや、その……」
「(この子、鋭い……)」
「す、すぐ証明書を発行するから、少し待ってね!」
「(これで私も冒険者かぁ~)」
(よかったな)
「(……でさ~登録終わったら、さっきの『肉団子』をもう一度シメない?)」
(『肉の塊』でしょ? さっきのオリハーデさんの件もあるけど……)
(お嬢様は、まずは人として成長しましょうか?)
「(うっ……そこでお嬢様と言わないで)」」
ギルドにおける冒険者には、明確な階級がある。
最下位は白――新人。
そこから銅、銀へと昇格していく。
銀ともなれば一人前。
さらに上が金。
単独で任務をこなす実力者であり、王国に引き抜かれることもある
――バルストがいた領域だ。
そして、その上。
白金。
大陸にわずか七人しか存在しない、別格の存在である。
依頼の受注には条件がついている。
「銀以上が一人以上」「魔法使いは必須」など。
単独で満たせれば受注できる。
満たしていなくてもパーティを組み、誰かが満たしていれば受注できる。
「……」
「どぉしたんですかぁ~? ルナぁ~」
隣でシャルが首をかしげる。
「……シャルはいいわよね」
ルティーナは自分の証を睨む。
「いきなり『銀の冒険者』様なんだから」
ルティーナは、自分の冒険者証を睨みつけた。
「私は白よ、白! 純白っ!」
「しかも職業……『なし』っ!」
(まぁまぁ……)
だが、その苛立ちは簡単には収まらない。
そんな中。
(なぁルナ、ちょっといいか?)
馬琴が切り出した。
(この『力』――ちゃんと攻撃に使える『武器』を用意しないか?)
「(武器?)」
それは――
馬琴が前回のデフルウ戦をふまえ、考えた戦い方。
ルティーナの為の『切り札』だった。




