第128話 「バルスト」ノ覚悟
八十年前――世界を滅ぼそうとした厄災は、イスガ王国から始まった。
その事実に、ルティーナ達は息を呑む。
「その厄災は一夜にして国を滅ぼしたのさ」
「多くの民が死んだが……その混乱の中で、ある研究者の一家が国外へ逃れていた……」
「生存者がいたのかよ?」
「(ミレイユさん達だけじゃなかったんだ)」
「そうじゃ……そやつらは『イスガが砂漠にされた』と言っておった」
ルティーナは首を傾げる。
「(……砂漠にされた? あれはイスガ王が封印したのよね?)」
(亡命して真実を知らないのか……)
(なら、シャルが見つけた巨大な悪意は……厄災だったのか?)
「って、婆さん? 『そやつら』って……会ったのかよ?」
「あぁ、そうじゃ」
「そして、その家族が持ち出したものこそ――」
ヘルセラがサーミャとシャルレシカを見る。
「救世主様の魔道具『エクソシズム・ケーン』」
「そして、サハリンが使っていた……今はシャルレシカの魔道具『水晶玉』じゃ」
「「!」」
二人は同時に目を見開いた。
「結果的に、厄災は勇者と相打ちになり……世界は救われたそうじゃ」
そしてヘルセラは目をつぶった。
「それぐらいしか知らんがな……」
「しかし、復活する予言がある以上、倒しきれてなかったのかもしれぬな」
馬琴は違和感を感じる。
(相打ち……?)
(封印されていたなら、誰が厄災の死を確認したんだ……?)
「(人づての話は、どこか話しが変わっちゃうしね)」
ヘルセラは話を続ける。
「姉上は幼い頃から予知に優れておった」
「その予知で、その家族と出会ったのじゃ」
ヘルセラが小さく微笑む。
(俺達とシャルの出会いみたいだな……)
「それが……運命の出会いじゃった」
「運命?」
サーミャは首を傾げる。
「研究者の息子と姉上は恋に落ちたのさ」
「そして夫婦となり、二人の子を授かった」
(その子供が、サハリンさんとサハリドさん……)
ヘルセラは静かに目を閉じた。
「姉上は、ずっと恐れておった」
「いつか再び厄災が現れることを」
「――だからこそ、次の世代へ全てを託した」
杖も。
水晶も。
そして……未来も。
サーミャが口を開く。
「今度の厄災は……」
ヘルセラが頷く。
「九十年前の戦いの続き。」
「今度は……救世主様の時代なのじゃ」
沈黙が落ちた。
誰も言葉を発せない。
そして――。
馬琴はルティーナに自分の事を説明することを決断する。
ルティーナは自分で言わず、サーミャに任せることにした。
「なぁ婆さん」
「ヘルアドさん達が召喚した勇者がいるって言ったらどうする?」
ヘルセラは目をいっぱいに広げ、言葉を失う。
「まさか、銀髪の中にいる、もう一つの意識……」
「それが、サハリドさんが召喚しようとした勇者の一人なんだよ」
ヘルセラは言葉を失った。
やがて――。
「……それは、本当の話なのですか?」
「だから、銀……失礼、ルナ様! それが違和感の原因だったのですね」
「(銀って……あれ? る、ルナ様ぁぁぁ?)」
ヘルセラは考え込む。
「ルナ様もシャルレシカと同じく、姉上の未来視の読み違い……だったようじゃの」
「つまり……救世主様が言っていた『光をくれた』という話は本当のようだね」
ヘルセラは呆れたような顔になる。
「結局、未来視に振り回されておったのは、ワシじゃったということか……」
そう言って、ヘルセラは深く頭を垂れた。
「すまなかったな」
しかし、現実に戻った四人――。
サーミャが頭を掻きながら外を見回す。
「しかしよぉ、どうするこれ?」
「うん、さすがに家は焦げてる程度だけど、辺りは焼け野原だもんね……」
(村のはずれだったから、気づいている人もいなさそうで、騒ぎにはなってないか……)
ルティーナは口を開く。
「家の周りを整地します」
「そうすれば襲撃の痕跡も消せます」
「更地じゃと? まさか……勇者の力か」
「はい」
ルティーナは地面に手をつく。
【平】の文字が広がり、荒れた土地が淡い光につつまれ平地になっていく。
ヘルセラはただ、その光景を見つめていた。
一方、サーミャは業火で二人の遺体を完全に焼き尽くすことにした。
「――色々と、ありがとよ」
「今日はもう遅い、泊まっていけ」
シャルレシカは、一晩中ヘルセラにいままで見せた事のない笑顔で甘えるのであった。
そして翌日――。
「救世主様」
「って、婆さん……その言われ方、背中がかゆくなるからさ……せめて、サーミャって呼んでくれよ」
ヘルセラは言葉に詰まる。
「うむ、サーミャ様……」
「だから、『様』も要らねぇって!」
ヘルセラと三人の距離は縮まっていく。
「で、どうかしたのかい?」
ヘルセラはシャルレシカの尻を叩く。
「あんっ」
「こやつの件なんだが、二日ほど預からせてもらえんかの?」
「ば、ばぁ様?」
「昨夜、こやつの話を聞いて確信した」
「『夢で見たから、やってみたら使えた』とか滅茶苦茶じゃ」
(……)
ヘルセラは指を立てる。
「こいつを再教育する!」
「「「はぁ?」」」
「お主ら、よく考えてみろ?」
「こやつ、すぐに魔力切れになって爆睡するんじゃろ?」
「「あっ……」」
「うぅ……」
そもそも間違った魔力の使い方で力を解放しているシャルレシカは、膨大な魔力を無駄遣いしているのだと言う。
「シャルもせっかく家族に会えたんだしな」
「特に急ぐこともないしね」
「いいんじゃない?」
こうしてルティーナ達は、焼けてしまった家の修繕も兼ねて、二日ほどジェイスト村に滞在することになった。
――アジャンレ村に迫る不穏な空気に気付くこともなく。
ルティーナ達がジェイスト村に行ってから三日目。
エリアルは改修された大剣で、バルストと特訓をしていた。
「ほらほら、いつまでやってるの! 夕食できてるわよ」
そんな中、アンナが二人に声をかけてきた。
「ああ、わかったわかった」
「またガキ共が腹減ったって騒いでるんだろ?」
「今日ここまでだエリアル」
「あの……お風呂、先にいただいても?」
「もちろんよ。準備できてるわ」
「ありがとうございます」
「早く上がってこいよ」
「ガキ共に飯を全部食わちまっても知らねぇぞ」
「あなた、少しは気をつかいなさい!」
「エリアルだって女の子なんだから身支度があるわよねぇ」
「あはは」
エリアルは浴場へと向かい、バルストとアンナは子供たちと食事を始める。
そんな和やかな雰囲気の中――バルストの表情が険しくなる。
(……妙だな)
村の入り口に、わずかな違和感を覚えたのだ。
バルストは異変をアンナに告げると、エリアルに貸していた大剣を掴み、そのまま外へ駆け出した。
「バルストおじちゃん? どうかしたの?」
「ちょっと用事を思い出したんですって」
「私もエリアルに用が出来たから、みんなはちゃんと食事しててね」
「「「うん、わかった」」」
アンナは子供たちを残し、エリアルの居る風呂場にあわてて駆け込む。
「あ、アンナさん?」
「エリアルっ! 大変よ!」
エリアルの顔が厳しくなる。
「村の入口に異変が!」
「バルストがあなたの剣を持って出ていったわ!」
「――っ、わかりました!」
(風呂に呪われてるのか僕は……いや、迷ってる暇はない)
エリアルは、髪も乾かすことも装備を付ける時間すらなく、自分の剣を持ち飛び出す。
その頃バルストは――。
村の入口の惨状を目の当たりにし、言葉を失っていた。
そこには――数人の村人の遺体。
その周囲を囲むように、デーアベ達がうごめいていた。
そして中心に立つ女――スレイナ。
「はぁ?」
「剣士がこの村にいるなんて聞いてないわよっ」
スレイナは吐き捨てるように言う。
「どいつに聞いても、シャルレシカなんて知らないって言い張りやがる」
「知らねぇわけがねぇだろ? 頭、膿んでるのか?」
「(こいつら……村の掟を守って死んだのか)」
バルストの瞳が鋭くなる。
「……お前ら、許さんっ!」
バルストは大剣を構え、迫るデーアベ達を迎え撃つ。
長年の鈍りを感じさせぬ太刀筋――そこには、かつて『剣豪』と呼ばれた男の面影が色濃く残っていた。
「……その剣……まさか!」
女の声色が変わる。
「ば、バルスト!? 剣豪バルスト……」
「なんで生きてやがる! ドグルスに消されたはずだろっ!」
バルストは一瞬、固まる。
「お前ら……」
「まさか、あの時の連中か!」
スレイナは悪魔じみた笑顔になり大笑いする。
「シャルレシカを調べてただけなのに、とんだ大物が引っかかったもんだ」




