第126話 「シャルレシカ」ノ出生
ルティーナはヘルセラから聞かされた、王都襲撃事件と姉――ヘルアドとの関係。
しかし、その事を聞き出せる雰囲気ではなかった。
ヘルセラは吐き捨てるように言う。
「未だに信じられないっ、あなた様のようなお方が……」
「このような輩と一緒に行動されているなんて――」
サーミャは必死に抗議する。
「ちょっと待ってくれよ婆さん」
「だから、この二人は災いをまき散らしてねぇぞ」
「ワシも好きで言っておりません」
「姉ほどではありませんが、多少なりとも未来視が使えます」
「その事件の後、姉の代わりに『エクソシズム・ケーン』を託すにふさわしい者を占い、それにかかわっている男に出会えると予言したのです」
サーミャは目を細める。
「(あたいにかかわっている男――つまり、ヴァイスってか?)」
「せっかく、救世主様がお会いにきてくださったのに……」
ヘルセラはルティーナ達に冷たい視線を向ける。
サーミャはその行為が許せなかった。
「婆さんさぁ、なんで初対面のこいつらを邪険にする!」
「こいつらは……廃人になりかけた――あたいの人生を救ってくれた」
「あたいだけじゃねぇ! リーナもエルも……他にもたくさんの人たちが、底から這い上がれたんだ!」
「――あいつらの光がなかったら、今のあたい達はここにいねぇんだぞ!」
ヘルセラは柔らかい言葉でありながらも反論する。
「お言葉ですが、救世主様」
「こやつらは災いをもたらすのですぞ! 光を照らすなんて……そんな馬鹿な話っ」
「姉の予言は――絶対のはずっ!」
そしてヘルセラは、ルティーナを指さす。
「そもそも、そこの碧い瞳のガキからは、二つの思念を感じるぞっ」
「(ガキガキ言うなっ!)」
(まぁまぁ落ち着けルナ~)
(でも凄げぇなこの婆さん……俺の存在も解るのか? シャルと同じか)
ヘルセラはサーミャの言葉を信じたかった。
だが、一族の未来視は一度も外れたことがない。
――認めるわけにはいかなかった。
シャルレシカが首を傾げながら言う。
「わたしもぉ、たまに予知夢を見るんですよぉ――」
「ええい! 黙れ!」
「一番、貴様が気に入らんっ!」
それまでまともにシャルレシカを見ようとしなかったヘルセラは、あるものを持っていることに気付く。
「な、なぜ――」
「お主がその水晶をもっておるっ!」
ヘルセラはシャルレシカの水晶が目に入り、取り乱し始める。
その水晶は、十五年前に亡くなったヘルアドの娘のサハナの所有物だと主張する。
「あやつ……昔、紛失したと言っておたのに」
「――ま、まさか貴様が盗んでおったのかっ!」
突然、シャルレシカに飛び掛かるヘルセラ。
ルティーナとサーミャは必死に止めに入る。
「ちょちょ! 落ち着けよ婆さんっ」
「これは十八年前に、シャルがアジャンレ村の孤児院に捨てられた時に、一緒に身に着けさせられてたもんなんだ!」
ヘルセラは、その言葉に固まる。
「ま、まさか……十八年前にアジャンレじゃと!」
「流産したはず……いや」
「我が子、可愛さに生かしておったのかぁ~大馬鹿者っ」
ヘルセラはシャルレシカから手を放し、頭を抱える。
「もし娘が生まれたら……始末しろと姉上に言われておったはず」
馬琴は理解する。
(つまりシャルとヘルセラさんは……)
「その話が本当なら、シャルはあなたの又姪じゃないですか!!」
ヘルセラは驚きを隠せない。
――少し落ち着いた頃、ヘルアドの未来視の内容を話し始める。
「サハナに息子が生まれたなら――占い師を継承させよ」
「もし娘なら――災いを呼ぶ元凶……葬るように言われていたのさ」
(だから……相手の事情には干渉しない掟があるアジャンレ村に)
「(そんな!)」
(あぁ、未来視が絶対の一族……その弊害かもな)
シャルレシカの目からは涙がどんどん溢れ出る。
「わ、私はぁ……」
「要らなくて捨てられたんじゃぁなかったんですねぇ……」
「う、うっく…………お母さんが生かしてくれたぁ」
そして、心の堰が切れる。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ」
ルティーナはシャルレシカを抱きしめる。
「シャル~良かったね」
「お母さんの出来る最大の愛情だったんだよ」
「うんっ……お母さぁ~ん……わ~ん…………」
「(……姉上の言葉が、絶対ではなかった……のか……)」
ヘルセラはどうしたらいいかわからなかった。
災いの元凶と聞かされていた娘。
それが自分の又姪で、人知れず十八年間も生きていたのだから。
サーミャはヘルセラの肩を叩く。
「な、婆さんっ」
「頼むから、こいつらを悪の元凶みたいに言わないでくれねぇか――」
「あぁ……そう、さの」
「許せ……シャルレシカよ」
その一言は、ヘルセラなりの精一杯の謝罪であった。
それは同時に、自分の『絶対』を初めて手放した瞬間。
ヘルセラは顔を背けたまま続ける。
「……まだ、完全に信じたわけではない」
「だが……少なくとも、お主を『災い』と呼ぶことは、やめよう」
ルティーナは笑顔で手を差し伸べる。
「よかったですね、ヘルセラさ――」
パシンッ。
ヘルセラはルティーナの手を払いのける。
「え……」
「……それとこれとは、別の話じゃ」
「貴様の事はまだ信用しておらんっ! 気安く触るでないっ!」
しかしその時だった、シャルレシカは泣きながらも、突然騒ぎ出す。
「あ、凄い悪意がぁ近づいてぇ……消えたぁ?」
「どうしたのシャル!?」
「一瞬だけぇ、悪意が近くにぃ……」
「(こやつ……自動索敵ができるのか?)」
「まさか、銀髪っ! 貴様、災いを呼びよったな!」
「ぎ、銀髪? 私ぃ?」
(そのツッコミは後だ!)
ルティーナ達を睨みながらも、
ヘルセラは漠然とした危機感を覚えていた。
「一瞬だけ反応がぁ、この家の周りでぇ……」
「一瞬だけ?」
(悪意を殺しながら近づいて来たってことか?)
「闇魔法なら、数分程度なら気配を消せるぜ!」
するとサーミャの鼻が反応する。
「……んっ、なんか焦げ臭くねぇか?」
外にいる不審者は、ヘルセラの家の周りに火を放っていたのであった。
(放火?)
「(え、組織のやつらが私達を?)」
「(そもそも、何でここに居るってバレたのよ)」
(未来視の通りなら俺達が本当に災いを運んできたのか?)
(いや、違う……狙われたのはヘルセラさんだ)
「ルナっ、どうする? このままじゃ――」
小屋の周りが炎に包まれ始める――。
だが、あえて脱出はしなかった。
不用意に外に出れば、襲撃者の奇襲に遭うと。
「シャルっ、敵の気配消しは解除している可能性があるわ!」
ルティーナはシャルレシカに襲撃者の位置を探るように指示する。
そしてサーミャはヘルセラに、とにかく黙って見守るように説得した。
「わかりましたぁ~あっちですぅ」
ルティーナは、シャルレシカが示した方向と距離を確認しながら床に手を当てる。
敵に向かって百メートル程の【凍】の文字を描き、素早く展開させる。
「「ぎゃー!」」
外から二つの男の声らしい奇声が聞こえる。
「ミヤ、たぶんあいつらを拘束したはず! 任せたわよ!」
「私は、消火作業するから!」
「あいよっ」
しばらくして鎮火がおさまった頃、サーミャが戻ってくる。
「ルナぁ~っ、あいつら死んでたぞっ!」
「お前やりすぎたんじゃねぇのか?」
「なっ、なわけ……」
現場に集まりながら四人は確認する。
どうやら二人の不審者は氷に拘束された瞬間に、自害していたのであった。
(まさか、正体を知られないために……そこまでするか?)
「なぁルナ、こいつらはあたい達を狙った組織のやつらか?」
「マコトが言うには狙いはヘルセラさんじゃないかって」
ルティーナはヘルセラを見つめる。
「ヘルセラさん? 命を狙われる理由はありませんか?」
「ふ、ふざけるなっ、この悪魔がっ!」
「ワシの家をボロボロにしよってからにっ!」
「ああぁ……これはですねぇ、あいつらが放火してきたからやむを得なく……」
ヘルセラはルティーナに食ってかかる。
「うるさいわっ! 貴様がすべての元凶――」
サーミャは、ついにヘルセラの態度にキレる。
「いい加減にしろよ婆さんっ、なんでわからねぇんだ! 自分が狙われたって!」
「気づいてるんだろ?」
「う……」
そんな中、シャルレシカは自殺した男に触れ記憶を読み取ろうとしていた。
「読み取るとはどういうことじゃ!」
「(こやつ、我らとは逆の『過去を見る力』があるというのか?)」
「(これが姉上の見誤った力――それゆえに、娘なら始末しろと……)」




