第125話 「ジェイスト村」ノ老婆
アジャンレ村でエリアルが特訓している傍ら、ノスガルドに居るルティーナ達は新しい武器が完成し、大盛り上がりのまま四人はカルラの宿へ向かっていた。
――その様子を監視しているスレイナが居た。
彼女は、ルティーナ達がフォレスト高原へ向かっている間、追跡はしなかった。
ただ邪魔なシャルレシカの事を部下に調べさせていた。
「そうか、あいつはアジェンレ村出身か」
スレイナの口元が緩む。
「何か弱みをつかみに行くか……そうすれば『ダーク・マニピュレート――洗脳――』で落とせる」
「シャルレシカを洗脳して手駒にすれば……」
部下は、調べている中で別の情報を入手していた。
「それと――ヘルアドの妹がジェイスト村にいるようです」
「なにかしらシャルレシカと繋がりがあるようですが、それ以上は調べられませんでした」
「なるほどな――あいつの索敵の異端さ……大占い師ヘルアドがらみなら、納得もいく」
「あと妹の件は、テレイザに情報を提供してやるか……」
そしてスレイナは部下に次の指示を出す。
「お前は、あいつらの宿の隣室を確保しな!」
「それだけでいいんですか?」
「あぁ、今までどおり、あの女を見守ってやればいいさ」
「あと、二人ぐらい仲間を付けてやる」
スレイナは部下と別れ、行動に移す。
「さぁて……数日後が楽しみだ」
そんな事も知らないルティーナ達はカルラの宿で一泊する。
そして翌日の昼、ロザリナを宿に残し、三人は約束していたエリアルのもとへ転移魔法で飛ぶ。
――『エクソシズム・ケーン』をヴァイスに手渡した老婆に逢うために。
その頃――アジャンレ村。
エリアルは、特訓疲れとバルストに認められた安心感から、部屋でうとうとしていた。
そこへサーミャの転移空間が開く。
「よぉエル。お待たせ」
「まさか、まっ昼間から寝てたのか?」
「あはは」
エリアルは早速、バルストとの修行と大剣を譲り受けた経緯を説明した。
その話を聞いた馬琴がルティーナに提案する。
「エル? その剣、少し形を変えない?」
「え? 何故?」
馬琴は、大剣は『剣豪バルスト』の象徴であり、目立ちすぎるという。
「確かに……」
「『剣豪バルストに憧れて真似した』って言えば誤魔化せるか」
早速、馬琴の文字で剣の形を微妙に変える。
そして、剣の重量も軽くしたのだ。
ビュンッビュンッ
「うーん、重い剣で特訓していたから……感覚が違うなぁ」
「重さは戻す?」
「いいや、軽い方が実戦向きだ」
「このままでいいよ」
「しばらく見ない内に、筋肉付いてない?」
ルティーナは首を傾げる。
「え〜、そうかな? やっぱり」
サーミャもけしかける。
「そっちの修行より、嫁入り修行もしとけよ」
エリアルは眉間にしわを寄せる。
「ミヤ〜? 二刀流の初の餌食になりたいですか?」
「「「あははは」」」
「それは冗談ですが」
エリアルは改造した大剣になれる為、ジェイスト村への同行は見送りたいという。
「それとマコトさん、一つ相談に乗ってほしいんだ」
エリアルの目つきが真剣になる。
「どうしたの? 私に話しかけてくれたら、代わり答えるわ」
「うん」
エリアルはバルストとの修行の際、偶然、大剣に魔剣と同じ効果が発現したと説明する。
「どういうこと?」
馬琴は疑問に想う。
以前の仮説では、スウェンが水晶に剣で触れたことで剣に誉美が乗り移り、その恩恵で剣に力が宿っているはず――。
(話を聞く限り……誉美がエルの中へ移ったとしか思えない)
「やっぱり、そうなるよね?」
エリアルは自分の想像と一致したことに半ば納得した。
「ちなみに、木剣でも試してみたんだ」
「どうだったの?」
「駄目だった……でも」
エリアルは、部屋に飾られていた斧へ視線を向けた。
「これでも試してみたんだ」
そう言って斧を手に取る。
「『ソード・オブ・ヴォルケーノ』っ」
ボウッ――。
斧の刃が赤く染まり、炎を纏う。
「え?」
(エリアルの中の誉美が操っている可能性は高い)
(もしかしたら剣の中に居たせいで、刃物にしか力を伝えられないのかもしれない)
「じゃあ、私みたいにトモミさんと話せるの?」
エリアルは残念そうに首を振る。
「僕もそう思って意識の中に声はかけてるんだけど……反応はないんだ」
「そっか」
するとシャルレシカがエリアルの頭に手をかざす。
「な、何をするんだい? シャル」
しばらく目を閉じるシャルレシカ。
「でもぉ私がぁ、ルナと会った時と同じように別の力を感じますよぉ」
もともとシャルレシカは、ルティーナにはなにかしらの別の意識があることは察していた。
それと同じ感覚が今のエリアルからは感じとれるという。
(剣の中……無機物の中にいた影響で話せなくなったのか?)
少なくとも、誉美がエリアルの中にいることだけは確かなようだった。
「――あ、もうこんな時間」
「今日はここに泊まって、ジェイスト村は明日の朝にしましょう!」
しかし翌朝、ルティーナはジェイスト村がある方向を見つめる。
「ねぇ、凄く空が暗くない?」
「ありゃ、かなりのでかい豪雨がくるぞ……ルティーナ」
不気味に広がる雨雲。
ぽつりぽつり……と、アジャンレ村にも雨粒が降り始める。
「この雨じゃ、街道は危ないぞ……明日にしたらどうだ?」
バルストのこの地での生活感に、ルティーナも頷くしかなかった。
(何だろ? この胸騒ぎは――)
まるで昨夜の重さが嘘のように――
翌日は、雲ひとつない青空が一面に広がる。
エリアルに別れを告げた三人は、あらためてジェイスト村を目指すことにする。
途中休憩を挟みながら、シャルレシカの案内でようやくジェイスト村へたどり着く。
その村は農作物の田んぼ、夕焼けに映える稲穂が美しいのどかな場所だった。
ロザリナの似顔絵を村人に見せ情報を得る。
証言はすぐに揃い、目的の家も判明する。
村のはずれにある小さな一軒家。
そこに一人で住む老婆――ヘルセラ=ベルメン。
「やっぱ、ちっさい村だとすぐだな」
「あの家じゃないですかねぇ……」
コンコン――。
「夜分すみませ~ん、ヘルセラさんいらっしゃますか?」
「なんだい、うるさいねぇ」
頭はぼさぼさで、けだるそうな顔をした老婆が扉を開く。
――ルティーナ達を見た瞬間、顔色を変えた。
「な、なぜここに!」
「碧い瞳の少女……災いを呼び寄せる者!」
「はい?」
「緑の風――災いの眠りを乱す者!」
「えぇぇ~私の事ですぁか~」
罵声を飛ばす老婆に、たじろむ二人。
そこへサーミャが割って入る。
「なっ、なんだよ婆さんっ!」
「失礼だろっ、いきなり!」
しかし老婆の態度は一変した。
「……その杖」
「『エクソシズム・ケーン』……まさか……黄金の光っ!」
「そなた! 救世主様っ」
「「「きゅ、救世主ぅ?」」」
老婆はサーミャには好意的だった。
しかし、ルティーナ――特にシャルレシカには露骨な敵意を向けていた。
とりあえず家へ通されるが、お茶はサーミャの分だけだった。
そして部屋中には重苦しい空気が流れる。
「(ルナ、ここはあたいが切り出すわ)」
サーミャが重い腰を上げようとした、その時だった。
ヘルセラの方から口を開く。
「やはり、ワシが見込んだどおりじゃった」
「青年に渡した杖は、あなた様に届いたようですね」
「それだよ! あたいが聞きたいのはっ」
「なんでヴァイスに杖を渡したんだ!」
ヘルセラは引き出しをあさり、自分宛ての姉からの手紙を見せるのだった。
そこには。
――蒼き瞳の少女来たりて、二つ魂が災いを呼ぶ
緑色の風、眠りを乱し
黄金の光、それを撃つ――
サーミャは一体何を言いたいのかさっぱり理解できなかった。
馬琴に助けてほしくルティーナに近寄ろうとしたが、ヘルセラに止められてしまった。
「ワシの姉上――ヘルアドは、大陸屈指の大占い師と呼ばれておったのさ」
「我ら一族は、起こる何らかの災いや出来事のある程度の時期までは見通せる未来視の力を持っておるのじゃ」
ヘルセラは少し悲しい目になる。
「十年前、自分は数年以内に死ぬと予言し、この手紙と『エクソシズム・ケーン』をワシに託したのさ」
「その二年後にノモナーガの王都に出向いた際に、不運にも爆破事件に巻き込まれ命を落としてしまった」
(! つまり八年前……爆破事件って王都の事件にヘルアドさんも――)
ルティーナは話に食い付いた。
「なぜ、ヘルアドさんは王都に……」
「貴様には何も話すことはないっ」
ヘルセラの視線には、明確な敵意が宿っていた。
(困ったなぁ……)
ルティーナは返す言葉もなく、小さく苦笑した。




