第124話 「エリアル」ノ継承
時は少し遡る――。
ルティーナ達が実家の調査を始める中、エリアルはアジャンレ村でバルストから剣の特訓を受けていた。
「腰が震えてるぞ! もっと膝を踏ん張れっ!」
「は、はいっ! し、師匠……」
エリアルは剣の素振りをひたすらさせられていた。
バルストはエリアルの基本的な資質を見極めようとしていた。
「(剣の基礎は教えられていると聞いていたが……)」
「(こいつに剣を教えたスウェンって奴も独学だったんだろうな)」
バルストはそう見ていたが、孤児院育ちという話を聞いて、それ以上は踏み込まなかった。
ただ一つだけ、確かに分かっていた。
――魔剣に頼りすぎている。
それだけではない。
「(王国際で去年の優勝者か……)」
「(大会前に何度か見かけたが……現場で組んでいれば見抜けたかもしれんな)」
バルストは残念そうに想う。
「(試合形式では無敵なんだろうが……集団戦や複数相手だと苦手そうだ……)」
バルストは木剣を肩に乗せたまま言う。
「よぉ~し、大体わかった」
「――ところで、お前の強みってなんだ?」
エリアルは肩で息をしながら、答える。
「この剣の特性を生かした戦い方を……」
バルストは呆れた顔をする。
「お前は剣士じゃない! 魔法使いでもねぇ!」
「……」
エリアルは何も言い返せなかった。
「……中途半端ということですか」
エリアルは小さく息を吐いた。
「いや……それが好都合」
バルストは少しだけ口角を上げる。
「お前は剣士にも魔法使いにもなれる」
「一人で両方をやれる」
「それが強みさ」
バルストは別に一度に剣士と魔法使いの戦い方を強制しているわけでない。
まずは剣士として戦い方を身につけろと言っている。
――剣士としての土台さえできれば、魔法は自然とついてくる。
「で……それと利き手でない方で剣を素振りする特訓に何の関係が?」
即座に返すエリアル。
バルストは笑った。
「それは合格したら教えてやる」
エリアルは笑みを浮かべる。
「……なら、やるしかありませんね」
――その後、汗を流していたエリアルが風呂場で、サーミャ達の転移魔法の餌食になってしまう。
そして翌日。
バルストは自慢の愛剣を手にして高揚していた。
「よぉし! ルナが届けてくれたこの剣があれば、もっといい指導ができるぞ」
エリアルの表情が引き締まる。
「お、お願いします」
そして二人は模擬戦を始める。
バルストが踏み込んだ。
次の瞬間――
重いはずの大剣が、一瞬で間合いを潰す。
エリアルは反射的に受けた。
だが――すぐさま弾かれる。
「ぐっ……!」
「遅いぞっ」
喉元に剣先。
完全に制される。
「お前、せっかくの盾を使えてねぇじゃねぇか」
攻撃こそ最大の防御。
それが身についてしまっていた。
「(師匠こそ……あの大剣、片手だと防御が薄い)」
エリアルは視線を落とす。
「……師匠」
「なんじゃ」
「その大剣――」
「剣の中央に、何故、持ち手があるのですか?」
バルストはニヤリと笑った。
「気づいたか」
軽く持ち上げる。
「こいつは俺の特注でな、ここを持てば、剣であり盾にもなる」
一拍置いて続ける。
「昔はこれ一本で剣と盾をやってた」
「それに、もう一本の剣を合わせりゃ――」
「二刀流になる」
エリアルは目を細めた。
(だから……あの剣幅なんだ)
納得が一つ繋がる。
「唯一無二の戦い方を持つ者は強いんじゃ」
バルストは続ける。
「お前さんも剣と魔法がある」
「それ自体は十分じゃ」
「じゃが魔剣に寄りすぎて、全部が鈍っている」
エリアルは黙る。
否定はできない。
「じゃ、この剣をお前が使ってみろ」
「え?」
言い終わるより早く、大剣が指し出される。
ずしり――。
「(お、重い……!)」
持つだけで精一杯。
振るどころではない。
「それが、次の試練じゃ」
「利き手でいいから、そいつを片手で使えるようになるまで振り回してみな」
それからエリアルは、両手持ちから始め、片手で扱えるようになるまで必死に大剣を振り続けた。
――翌日。
腕が上がらない。
筋肉が悲鳴を上げている。
(……無理だ)
そう思った瞬間。
「休みは無いぞっ」
「早くしねぇとルティーナ達が戻ってくるぞ」
バルストの怒声。
即座に現実へ引き戻される。
(くそ……)
(風があれば――)
その瞬間だった。
(【嵐】)
空気が揺れた。
大剣に風が纏わりつく。
「なっ……!」
「(なんで師匠の剣に――風が……!?)」
今までの重さが消える。
簡単に振れる。
それを見ていたバルストが唖然とする。
「俺の剣が……?」
「いや待て! お前の魔剣はそこに置いてある奴だろ?」
「……!」
エリアル自身も混乱していた。
だが一つだけ確信がある。
これは魔剣ではない――。
バルストは目を細める。
「試してみろ」
エリアルは小さくうなずき、魔剣を使っている時と同じ感覚で叫ぶ。
「ソード・オブ・ヴォルケーノ」
(【炎】)
炎を纏う――大剣。
「……なるほどな」
バルストは笑った。
「あはっは、お前、ルティーナと同じじゃねぇか!」
最近、違和感は感じていた。
自分とスウェン以外の誰も魔剣を使いこなせなかった。
エリアルは仮説を立てる。
自分は、魔剣を譲り受けてからというもの他の剣は使わなくなった。
最初は剣に誉美が宿っていたが、長年使ううちにそれが自分に馴染んだだけかもしれない。
つまり、今の剣はただの剣……だから今では誰が使っても反応しない。
そうでなければ、自分がルティーナと同じ状況という現象の説明がつかなかった。
「(ルナと合流したら、マコトさんに相談するか)」
「なぁ」
バルストが楽しそうに言う。
「おれは、お前に二刀流を仕込むつもりだった」
「?」
バルストは豪快に笑う。
「だから、利き手じゃねぇ方で散々素振りさせてたんだよ」
「だが考えが変わった!」
「お前は剣を『魔剣』にできるんだ! つまり」
「『魔剣』の二刀流だ!」
エリアルは今までの悩みが吹き飛ぶ。
「……やります」
即答だった。
その後も剣を扱う特訓は続く。
「(やっぱり筋はいいな……)」
「(普通なら数か月かかる――だがこいつは……わずか三日で)」
そして、ルティーナ達との合流予定日がやってくる。
「よし、最後の試験じゃ」
「俺は木剣だが、お前は魔剣……っつてもただの剣か……それと俺の剣で戦え」
二人は剣を構える。
「ただし、魔法は禁止」
「俺に剣技だけで、一撃入れてみろ」
「はい」
空気が張り詰める。
踏み込む。
重さが消えている。
体が自然に動く。
「(見える)」
バルストの剣筋。
一瞬の隙。
そこへ――
踏み込み。
回り込む。
右側の死角。
エリアルは大剣で突く。
「……降参じゃ」
バルストは笑った。
「なんだ、ワシの右腕がない動きの死角をねらったのか」
「すみません、卑怯でしたね」
エリアルは少し不安な顔になる。
「いいや、弱点は責めるもの! いい判断だったぞ」
「――合格だ、エリアル」
その名を呼ばれた瞬間――。
エリアルの時間が止まった。
「(……え?)」
「(……今、名前で……)」
胸の奥が熱くなる。
そしてバルストは笑顔で、大剣を差し出す。
「合格祝いだ……これをくれてやる!」
「もってけ」
突然の申し出に慌てるエリアル。
「え……でも、これは」
バルストは恥ずかしそうに言う。
「『剣豪バルスト』は、もういねぇんだよ」
そして真剣な目つきになる。
「……だから託す」
「俺の剣も……俺の生き方も、お前に託す」
真っ直ぐな言葉。
エリアルはバルストに誓う。
「この剣に恥じない剣士になります!」
「そして……僕がルナを守ります!」
バルストは満足そうに頷く。
「頼もしいな」
バルストは、穏やかな笑みを浮かべた。
「(これでいい)」
「(ルナには、もう俺がいなくても守ってくれる奴がいる……)」




