第123話 「馬琴《まこと》」ノ痕跡
ルティーナ達は、ウェンの森を目指していた。
そこにあるかもしれない、ルティーナと馬琴が一つになったきっかけが――。
シャルレシカは索敵を注意深く行い、自分達を尾行する影はないかを確認していた。
「特にぃ~、怪しい気配はしませんねぇ~」
「ありがとう」
「この丘を越えれば、ウェンの森よ」
丘を越えると、色鮮やかな花々と風に揺れる草原が広がっていた。
「こんな場所があったんだ……」
サーミャが思わず呟く。
そして――。
「……崖」
ルティーナが呟いた。
「あそこから、私は転落してしまったのね」
ルティーナは崖の下を見渡す。
「シャルは、この辺りの過去視をしてくれない?」
「対象物が広いんでぇ、かなり時間がかかるかもしれませぇん」
「うん。無理しないでね」
シャルレシカは集中を始める。
「ミヤは、私と一緒に崖から下におりるから、一緒に何かないか探してくれる?」
「あぁ」
そして、ルティーナは自分が発見されたと思われる場所へ、ゆっくりと飛翔しながら降下した。
「この辺りかしら?」
仮に水晶の破片に触れて転落したとして、付近に一緒に落ちている可能性もある。
だが――。
「どうしたの? マコト」
だが、八年という歳月が景色を変えてしまっていた。
(いや、もしかしたらどこかに埋もれているかもしれない……)
「(鉱石と同じように探すには、水晶の見本が必要よね?)」
それから三十分ほど、サーミャと二人で辺りを捜索した。
額の汗を拭ったサーミャが口を開く。
「なぁルナ……もしかしてさ、もう誰に回収されたんじゃねぇか?」
「うん、マコトも……そう思うって」
ルティーナは肩を落とす。
「私の家を物色していた連中……かしら」
(そう考えるのが自然か……)
もし奴らの目的が水晶の破片なら、全ての辻褄が合う。
だが、まだ確証はない。
――その時だった。
「ルナぁっ!」
崖の上にいるシャルレシカが叫びだす。
「見えましたぁ!」
「「!」」
ルティーナはサーミャを残し崖の上へ舞い上がる。
「これを見てくださぁい~」
シャルレシカの水晶に映し出された光景――。
そこには見覚えのある男が居た。
「ど、ドグルスっ!」
「はいぃ~……ルナの家を荒らしていた連中も一緒ですぅ」
ルティーナが顔をしかめる。
男達は崖の周辺を必死に探していたが、何も見つけられなかったようだ。
「あいつら、こんなところで……」
(やはり、水晶を探していたんだ)
(バルストさんが狙われたのも、王都爆発の時に飛び散ったとされる何かを見たから?)
「(つまり、飛び散ったのは水晶?)」
しばらくシャルレシカの水晶を覗いていると、彼らは崖の下に降り始める。
ルティーナはシャルレシカを抱いたままサーミャの居る場所へ、その状態で降り立つ。
「ルナ、何があったんだ?」
サーミャも水晶を覗き込む。
崖の下へ降りた男達は、ルティーナが転落したと思われる場所を必死に探していた。
だが――何かを見つけた様子はない。
最後には諦めたように立ち去っていった。
「やっぱり」
ルティーナが呟く。
「お父さんが襲われた理由……やっぱりこれだったのかもしれない」
「ただの偶然じゃなさそうだな」
サーミャも頷く。
シャルレシカはアンナの記憶でルティーナが倒れていた場所を特定し、周辺の過去視を始めた。
「やはり八年前だとぉ……時間がかかりますぅ」
(ドグルス達が調査していたのは、俺達が襲撃された後は間違いない)
「(つまり?)」
(過去視にかかる時間は、半年前で約三十分以上はかかってる)
「(げっ、それじゃ十六時間以上はかかるってことぉ?)」
これ以上ここにとどまり時間を潰すリスクを考えると、断念することを選択せざるを得なかった。
結局、馬琴が封印されていたであろう水晶の破片は誰も見つけることができなかった。
(一応、アジャンレ村に帰ったら、バルストさんに水晶を所持していたのか聞いてみよう)
「(うん)」
「今日は、もう日が暮れるから帰りましょう」
ルティーナが頭を上げる。
「リーナも待ってるし」
目的は果たせなかった。
水晶の破片には価値があり、それをドグルス達も追っている。
それこそが、今回の収穫だった。
その後、三人はサーミャの転移でロザリナの元へ戻るのであった。
「おかえり!」
そこでは笑顔のロザリナが迎えてくれた。
「どうだったの?」
「その話はあとでするわ」
「先にタリスさんのところへ行きましょ」
ルティーナ達は四人で任務完了の報告にタリスの店へ足を運ぶ。
「タリスさん、いらっしゃいますかぁ?」
奥から顔を出したタリスが目を丸くする。
「おぉ、ルナリカ達じゃねぇか」
「予定は明日だろ?」
タリスは残念そうな顔をする。
「そうか……お前らなら、やってくれると思ってたんだが――」
「やりましたよ!」
「これを見てくださいっ」
『オブシディアン・ストーン』の原石を詰めた袋を差し出す。
タリスは口があいたまま硬直する。
「全部で、二百キロですよ」
「え、えぇーーーーっ!」
タリスは頬をつねりながら、現物を目の前に置かれても現実に戻れなかった。
「それと……デリエジの発生源も処理しましたので」
「……は?」
想定の範囲を完全に超えていた。
「おいおい……話が違うだろ?」
「駄目でした?」
「いや……言い方が悪かった――お前らやっぱり凄いな」
予定を遥かに上回る鉱石に加え、採掘場を脅かしていた元凶まで消してくれた事に、タリスは苦笑した。
「じゃぁ、おっちゃん! 約束通り、報酬は倍で頼むぜ」
サーミャがしたり顔になる。
だが、タリスは支払う額はどうでもよくなっていた。
――これからは安全に採掘が出来る。
もう、費用を積んで冒険者を雇う必要がなくなるのだ。
倍額を支払っても、十分すぎるほど元が取れる。
「ルナリカ……今回はさすがに、追加報酬を払わせてくれ」
するとルティーナはその提案を断った。
その代わりに今作ってもらっている武器の今後の調整費込みで面倒を見て欲しいと交換条件を出す。
「そんなことでいいのか?」
タリスはルティーナの心遣いに応じるよう、例の話を持ち出す。
「ルナリカ、試作品はもう出来てるぜ!」
「本当ですか? タリスさん!」
「せっかくだから、試してみるかい?」
「イメージと違うなら、明日までには修正してやるからよ」
ルティーナ達は期待を胸に裏庭へ向かった。
そこへ、タリスは奇妙な武器を持ってくる。
「え、アレって武器なのか? ルナ」
サーミャは頭をひねる。
「た、たぶん……」
ルティーナも疑心暗鬼だった。
その武器は剣でも斧でも槍でもない異形――。
タリスが持ってきたそれは、馬琴が思い描いていた形そのものだった。
二枚の『オブシディアン・ストーン』で作った板の間に雷を走らせる。
その力で手裏剣を撃ち出す。
それが、馬琴の発想だった。
いわば――魔法世界版のレールガンである。
問題は、本物なら莫大な電力が必要なことだ。
だが、それは漢字の【電】を使うことで無限に電気を発生させられる。
「あ~マコト……何を言っているのかさっぱりわからないよぉ~」
(論より証拠! 試すぞ!)
早速、ルティーナは裏庭を貸してもらい試射をすることになった。
ただ、馬琴の言う通りに、右手首に装着し操作を始めた。
(あとは、俺の想定通りに機能してくれるか……起動っ)
すると二枚の板の隙間に激しい放電が荒れ狂い始める。
(よし! そのまま腕を空に向けて、肘側にある隙間に手裏剣を入れてくれ)
「おいっ! 俺の作った武器って、そんな危ねぇ代物だったか?」
完全に、腰がひけているタリス。
「た、たぶん……」
それしか返事ができなかったルティーナ。
馬琴の言う通りに操作したその瞬間――。
バシューンッ!
吸い込まれた手裏剣は、凄まじい勢いで空高く射出された。
「しゅ、手裏剣が空に……消えていった?」
「こ、これなら……デグルーイなんて怖くない!」
(まさか本当に成功するとは……)
「(えぇぇっ!? 今の実験だったのぉ!?)」
「(あー……もうどうでもいいやっ)」
サーミャ達は口を開けたまま、手裏剣が消えていった空を見上げて呆然としていた。




