第122話 「サーミャ」ノ悪夢
ロザリナは杖を握りしめながら、試してみたい魔法があると提案した。
「何を?」
「『シャイン・プリズン――光の檻――』です」
「ルナ、岩を壊してもらっていいですか?」
「わかったわ」
ルティーナは岩壁に手を触れ【砕】を程よい大きさで描き、その場を離れる。
続いて、ロザリナが詠唱をはじめる。
「『シャイン・プリズン』っ!」
無数の光が網目のように走り、岩壁に光の檻が生成される。
そして轟音と共に岩が砕け、水が勢いよく噴き出した。
その激流に乗って飛び出したデリエジ達は、次々と光の檻に引っかかり身動きが取れなくなった。
「やった! 平常心でも魔法が使えました!」
ロザリナの顔がぱっと明るくなる。
続けて、ルティーナは手裏剣に【凍】を描き、水源めがけて投げ込み凍らせた。
すると噴出が止まり、安全に採掘できる状況になった。
「これで大丈夫ですね」
「(液体は間接的にしか凍らせられないのはめんどくさいわね)」
(しかたないさ、砕く前に凍らせると採掘もできないしな)
「(水源を確実に見つけて、そこだけ塞ぐしかないのね)」
サーミャも二人の段取りを見てやる気が出る。
「なぁルナ、別の鉱脈を探してくれよ」
「見つけたら、そっちはあたい達でやるぜ」
ルティーナは原石回収をロザリナに任せ、サーミャ用の鉱脈を探しに向かった。
「よぉ~し!」
サーミャは詠唱を唱える。
「『ロック・バスター――岩砕螺旋撃――』!」
轟音と共に岩壁が砕ける。
次の瞬間。
大量の海水と無数のデリエジが噴き出される。
「わぁ、出たぁぁぁっ!」
サーミャは悲鳴を上げながらも反応は早い。
「『フリーズ・ゲージ――冷凍――』!」
吹き出した水流を一瞬で凍り付かせる。
「『ストーム・スラッシャー――風刃――』!」
無数の風刃が飛び交い、既に飛び出していたデリエジを細かく切り刻んだ。
「はぁはぁはぁ」
いつにないサーミャの連続魔法。
どれだけ不快な魔物なのかがひしひしと伝わった。
「さ、さすがぁ~ミヤですぅ」
「ほらシャル、石を集めるぞ!」
二手に分かれたことで、採掘の速度は大きく上がっていた。
そんな中――。
「「ぎゃぁぁぁぁーーーーーっ!」」
洞窟に、女性の声とは思えない酷い悲鳴が響き渡る。
「!?」
サーミャとシャルレシカの全身にはデリエジがべったりと張り付き、粘液で服まで身体に貼りついて肌があらわになっていた。
おまけに、痺れて動けないらしい。
慌ててルティーナとロザリナが駆けつける。
「あわわわっ」
「な、なんて格好してるのよっ!」
「(それより、マコト喜ぶなぁぁぁっ!)」
(ルナが見ちゃったんだから、しかたない)
「だ……だずげで……」
サーミャが涙目で助けを求める。
どうやら予想以上に湧き出したデリエジに押し切られたらしい。
ロザリナは治療しようとするが、懸念事項があった。
「とにかく二人からあいつらを引きはがさないと……」
「デリエジも回復させてしまうわ」
すると、ルティーナは地面に手を付く。
二人とデリエジを全て包み込む文字を広げる。
【渇】
(――起動)
すると。
デリエジ達の身体から急速に水分が失われて枯れていく。
ぶよぶよだった身体がみるみる萎み、完全に干からびて動かなくなった。
すぐさま、ロザリナは治療魔法を二人に施した。
「た、助かった……」
サーミャは床に崩れ落ちる。
髪はぐしゃぐしゃ。
服もデリエジの体液が乾燥してパリパリくっ付いている。
まだ数時間も経っていないのに、顔には疲労感がにじみでていた。
「最悪だ……」
「えっくえっく……お、嫁にぃいけませ~ん」
「マコマコにぃ~また恥ずかしい姿をぉ~」
(あははは……)
さすがにシャルレシカはトラウマになってしまい、戦意喪失してしまった。
それを見ていた馬琴は、根本から先に叩かないと1日で終わらせるのは難しいと判断した。
「ん? ルナどうした?」
「あ、そうかそうか、シャルで興奮しちまったマコマコを説教してんのか?」
(俺って一体……)
「ふふ、してないわよ」
「海からここへ繋がる水路を潰してしまえばいいんじゃないかなってさ」
馬琴の考えは、デリエジは鉱山全体に居るわけでなく、水路に沿って流入しているに過ぎないと。
つまり――。
海から繋がる共通の水路を断ち切る。
鉱山に残るデリエジを乾燥で殲滅する。
それによる事実上の封鎖である。
だが、そのためにはシャルレシカに魔物の気配を細かく探ってもらう必要があった。
「でも問題は、シャルのやる気次第なのよねぇ~」
「なぁ元気だせよぉ~シャル様ぁ?」
「……」
「(駄目そう……)」
「私もシャルみたいになっちゃうの怖いけど……デリエジに触りながら探すしか――」
するとシャルレシカが目の色を変え、立ち上がる。
「! 駄目ですぅ!」
「ルナを穢す奴らはぁ許せませんっ! 私がなんとかしますぅ~!」
「「(あはは……シャルはやっぱり、ルナの事が大好きなんだな)」」
シャルレシカは奮い立ち魔物の気配を細かく調べ、その内容をロザリナに伝えた。
ロザリナはその情報を的確に、地面に地図のように描く。
その様子を腕を掻きながらサーミャが呟く。
「なるほどな、これで大体どこかで繋がってる共通の水路があるってことか?」
数分後、ロザリナの描いた水路の地図を元に水路の源を発見する。
「ミヤ、『ロック・バスター』の詠唱して、放つ前で止めてくれない?」
サーミャは『ロック・バスター』の詠唱をはじめ、周りの岩が頭上に集まりドリルになる。
ルティーナはそのドリル状の岩に手を触れ、【凍】を転写し十メートルほどの大きさに広げた。
「ミヤ、あの方向にぶち込んで!」
「あいよっ!」
海に繋がる水路めがけて『ロック・バスター』が炸裂する。
数秒後――。
遠くの水路から水とデリエジが勢いよく噴き出した。
馬琴はその瞬間――。
(起動っ!)
その場でドリル状の岩に描かれていた文字が広範囲で、まわりの岩を巻き込み凍結し始める。
「なるほどな、あたいの魔法で凍らせたらいつか溶けちまうが、ルナの力なら解除しなきゃそのままか!」
「ルナぁ、デリエジの流入が止まりましたぁ~」
それを確認したルティーナは岩壁に両手を触れ、【渇】を転写する。
文字はみるみる巨大化し、一キロメートル級にまで膨れ上がり、鉱山全体を包み込んだ。
(起動っ!)
鉱山内の水分が蒸発し、取り残されていたデリエジ達はどんどん消滅していく。
そして、馬琴の作戦は見事に成功し、デリエジを完全に死滅させることができたのであった。
「やったのか? これで……」
「シャル~ありがとね! あなたが頑張ってくれたおかげよ!」
「えへへへぇ」
デリエジの脅威が消えたことで、採掘は驚くほど順調に進んだ。
日が暮れる前には、目標量の原石を採掘し終えていた。
預かっていた荷袋は、一杯にすると一袋で五十キロほどになる。
気が付けば、四袋が原石でいっぱいになっていた。
ルティーナはそれぞれに【軽】を三重掛けし、一袋を五十グラムにまで軽量化する。
四人で一袋ずつ持ち、足早にルティーナの実家に戻ることにしたのであった。
その後、ロザリナは夕食を作り、ルティーナはお風呂の準備をしていた。
「ミヤとシャルは風呂で穢れをゆっくり洗い流してきて!」
「やったぁー! お風呂ぉ~お風呂ぉ~」
「待てよ、お前が先に入ったら湯が無くなるだろっ!」
そして食後、予定通りシャルレシカは荷物と一緒に留守番してもらう。
そのまま三人はルティーナの飛翔で深夜のうちにノスガルドに向かった。
早朝――。
無事にノモナーガ王国の国境を越え、何もなかったようにノスガルドの街までたどり着く。
カルラの宿でロザリナを待機させると、ルティーナとサーミャは転移でシャルレシカと合流する。
その後、サーミャが荷袋を持って宿へ戻り、鉱石を置いて再び二人の元へ帰還した。
「よし! めんどくさかったけど、これでウェンの森を調べられるわね」
「シャル、昨日の夜、何か異変はあった?」
「全然、静かでしたよぉ」
監視の気配がが無いと判断したルティーナ達は、その足でアンナの記憶にあった事故現場へ調査へ出発していくのだった。




