第121話 「ロザリナ」ノ提案
ルティーナはシャルレシカに、家で起こった出来事を過去視してもらっていた。
その間、サーミャにある相談をすることにした。
「ルナ、あと一時間もしたらご飯ができますから、待っててくださいね~」
ロザリナは意気揚々と夕食を作る。
「じゃあ、ちょっと出かけてきていい?」
「?」
ルティーナは、預かっていたバルストの愛剣を届けることにした。
――エリアルの修行にも、きっと役に立つ。
「じゃ、ひとっ飛びすっか」
「バルストさんだと驚くだろうから、エルのとこだな」
そして――二人は転移を始めた。
が……。
ザッパァァァンッ!
「はぁ? お湯?」
「き、きゃあああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
「「へっ?」」
「マコト、見ちゃだめっ!」
(なら、お前が見るなっ!)
転移した先で待っていたのは、風呂の真っ最中だったエリアルだった。
湯気の向こうで、体を隠しながら顔を真っ赤にして固まっている。
「あ、あのさぁ~……」
ぴくぴくと頬を引きつらせながら、
「最初に言ったよねぇ……」
ずぶ濡れになりながら二人は息をのむ。
「むやみに『ディメンジョン・テレポート』を使うなって……」
「「ご、ごめんなさい」」
さすがのルティーナとサーミャも素直に謝るしかなかった。
「どうしたんじゃエリア――」
状況を知らないバルストが駆け付けてきたが、ルティーナは全力で阻止する。
「お父さん、入っちゃだめぇぇぇっ!」
「えっ!? ルティーナ?」
――しばらくして。
エリアルが着替えを済ませるまでの間に、ルティーナは小さくして運んでいた大剣を取り出してバルストへ渡した。
「はい、お父さん」
「おぉぉっ! これだ、これっ」
大剣を受け取った瞬間。
バルストの顔が少年のように輝く。
片腕を失ったとは思えないほど自然な動きで、大剣を軽々と持ち上げる。
そして静かに構えた。
その姿には歴戦の戦士だけが持つ重みがあった。
そこへ風呂上がりのエリアルが姿を見せる。
そして目を奪われた。
自然と足が止まる。
「し、師匠っ……」
尊敬と憧れが混じった声が漏れる。
「かっこいい……」
(なんだろうな、この構図)
「(あははは)」
先ほどまでの気まずい空気など吹き飛んでいた。
濡れた服を乾かしながら、ルティーナは実家で起きた出来事を話した。
「そうか、そのままあるんだな」
「また家族で笑って暮らせる日が来るといいな……」
ルティーナは少し心が締め付けられた。
まだ話したそうにしているバルストを残し、再びロザリナの元へ戻ることにしたのであった。
「リーナぁ~お腹すきましたぁ~」
「シャル、食べ過ぎは禁止ですよ?」
「うぅぅ~」
そんな二人の間に、転移空間が開かれる。
「――あら? ちょうどご飯が出来たところよ」
「やっぱり転移って、相手の状況を考えないと危険だな……」
「?」
ロザリナは首を傾げた。
そして四人は夕食を囲みながら、シャルレシカの報告を聞く。
「それがぁ……」
「見た事ない人たち数人がぁ、部屋の中を物色してましたぁ」
ルティーナは不安そうな顔になる。
「やっぱり、そうなのね」
「でも一体、何を探していたんでしょう?」
「特になくなってそうなものはないのよ……」
謎は深まるばかりだった。
ひとまず、明日以降の予定を話し合うことにした。
馬琴が提案する。
可能ならデリエジの問題も解決し、一日で依頼を片づけたいと。
――そうすれば残った一日で『ウェンの森』の調査ができると。
「しかしよぉ、一日で百キロも採掘なんでできんのかよ?」
「そこは安心して……そういう類の実績はあるから」
ルティーナはそう言って胸を張った。
タリスから貸し出してもらった『オブシディアン・ストーン』の欠片を机の上に置く。
「そっかぁ、薬草探しの時と同じですねぇ~」
だが別の問題もあった。
「しかしよぉ、予定の倍の二百キロも採るとして……どれくらいの重さになるんだ?」
「リーナが四人分くらい? じゃない?」
ロザリナの頬が膨らむ。
「わ、私を基準にしないでください!」
「それに、そんなに重くありませんっ!」
ロザリナは必死に抗議する。
「じゃ、シャル三人分? いや、二人――」
「ぶーーぅ!」
「リーナの時よりぃ、扱い酷くないですかぁ~っ」
「「「あははは」」」
全員を小さくしても重量は残り、そこへ採掘した石まで加われば運搬はかなり大変になる。
漢字で軽くすることは可能だったが、重ね書きは三回が限界だということが分かっていた。
いつも皆を運ぶときは、【微】で対象を小さくし、さらに重さが十分の一になる【軽】を二回重ねている。
つまり、重さを百分の一にできる。
「あと、みんなも運ぶことを考えたら――全部で、約四キロか」
【微】を使わなければ、もっと軽くすることはできる。
だが、それでは全員を抱えて飛べない。
「もぐもぐ……ルナぁ頑張ってくださいぃ~」
「「「(鉱石の次に重いのは……シャルだよ)」」」
「もぐ?」
「いや待て! あたいの転移で運べばいいんじゃねぇか?」
「そもそも、四人ともこっちにいるのよ……」
「私が飛翔して持って帰るって言った意味、わかってる?」
「なら、アンハルトの所に――」
「ミヤぁ~、エルの転移で大失敗したでしょ?」
「うっ……」
確かにその通りだった。
転移は便利だが、相手の状況を把握していなければ危険でもある。
するとロザリナが提案する。
「採掘が終わったら、ルナが私とミヤを連れてノスガルドへ飛翔して帰るってどうです?」
サーミャが手を叩く。
「そっか! そうすりゃ、リーナをノスガルド側の目印にできるってわけだ」
「はい」
「そしてシャルがルナの家で留守番していれば、ルナとミヤは戻って来れます」
「そうすれば、二日目は三人で森を調査できるな」
(その前に、鉱石を持ってリーナの元へ転移すれるのが理想だな)
「それなら全て解決ね」
全員が納得したところで、その日の作戦会議は終了した。
久しぶりの実家。
けれど、ゆっくりと懐かしむ余裕はまだない。
明日から始まる採掘任務に備え、四人はそれぞれ休息を取るのであった。
――そして翌朝。
陽が昇るより早く『イルフェ鉱山』へ向かっていた。
まだ朝靄の残る山道を進む中、サーミャがふとロザリナがいつもと違う事に気付く。
「そういやリーナ、お前、杖なんか使ったっけ?」
「あ、これですか?」
「アンナさんが使っていた杖らしいんですけど、ルナが使ってみたらどうかって勧めてくれたんです」
以前、ロザリナはシェシカから魔力制御の甘さを指摘されていた。
それは格闘戦で気持ちを高揚させたり、緊張感がないと光魔法が操れない。
だが魔道具の杖があれば、その点は緩和できると。
格闘術を主体とするロザリナにとって、杖は邪魔でしかなく、その必要性をあまり感じていなかった。
だが今回は採掘作業だ。
本格的に戦うつもりもない。
「だから、試してみようと思ってね」
そんな会話をしながら鉱山の洞窟に入っていく。
だが――。
近付けば近付くほど、シャルレシカの表情が曇っていった。
そしてサーミャも同じように顔をしかめる。
「げっ……」
その先に見たくないものを見た瞬間だった。
「あ~……あれだよあれっ」
水溜まりの中で、数匹のデリエジがうごめいていた。
「うげぇ……」
やがて四人は鉱山の奥へ進み、採掘予定地点へ到着した。
早速ルティーナは、『オブシディアン・ストーン』の破片を片手に持った。
そして反対の手のひらに【索】を描き、岩壁に手を這わせながら歩く。
「そんなので分かるのか?」
ルティーナは一分もしないうちに、採掘場所を探し当てる。
「見つけたわ」
「早っ!」
同時にシャルレシカへ視線を向ける。
「そこ……いますぅ~うじゃうじゃぁ」
その言葉にサーミャの顔が引きつる。
「で、採掘方法なんだけど――」
ルティーナの説明にサーミャが割り込む。
「あいつらは、焼き払う!」
即答だった。
「え?」
「塵に変えてやるっ!」
だが、杖を構えるサーミャを見て馬琴はタリスの言葉を思い出す。
『オブシディアン・ストーン』は原石状態だと火に弱い。
(ヤバいっ! ルナ、止めろ)
「(あ、うん)」
サーミャは露骨に嫌そうな顔をしたが、冷静に受け止める。
「じゃあどうすんだよ……」
その時だった。
ロザリナが勢いよく手を挙げる。
「私、試してみたい魔法があるんです!」




