第120話 「ルティーナ」ノ実家
ルティーナ達は、トレンシリア王国の案件内容を聞き終えていた。
「おい、お前ら……顔色が悪いぞ?」
タリスが苦笑する。
デリエジという魔物の説明を聞き、三人の表情は完全に引きつっていた。
だが、この機会を逃すわけにはいかない。
「その案件、やらしてください!」
ルティーナは案件の詳細を聞くことにした。
タリスは語る。
イルフェ鉱山でここ半年前から異変が起き始めた。
採掘を進めると突然海水が噴き出し、その中から大量のデリエジが現れるのだという。
作業員は毒と電撃による被害で次々と倒れ、命を落とした者までいた。
――原因は不明。
だが鉱山の裏にあるヘレンズ海と地下水脈が繋がったのではないかと考えられていた。
ルティーナは頬に手をあてながら言葉を漏らす。
「トレンシリアなら、『バリア・ストーン』がありますよね?」
するとサーミャがあきれた顔で答える。
「あいつらの魔力が弱すぎて、『バリア・ストーン』には引っかからねぇんだ」
そんな話の中、馬琴が青ざめる。
「(ん? どうかしたのマコト)」
(……)
(うーん……半年前って)
馬琴は心当たりがあった。
――初めて漢字の実験をした日。
漢字の止め方がわからず巨大な池を作り、後日、その水を地中へ流したことを思い出す。
「(まさか……)」
(あの水が地下を通って、鉱山と海を繋げたとしたら……)
「(嘘っ!)」
「(じゃぁ、私達が原因なの?)」
(偶然にしては出来過ぎだが……)
馬琴は頭を抱えた。
だが、それ以外に思い当たる節がない。
自分達が原因かもしれない。
そのことを今は話せなかった。
そして、ルティーナは顔を上げた。
「話は分かりました」
タリスは腕を組む。
「それでも受けるのか?」
「受けます」
「(罪悪感しかないけど……)」
即答だった。
タリスは感心したように笑う。
だが次の言葉は現実的だった。
「お前らならなんとかできるかもしれないが……」
「?」
「ただな……そうとうな量の『オブシディアン・ストーン』を持って帰ってこれるかだ」
「そこは気にしないでください」
ルティーナは全く意にしてない。
「おい、百キロだぞ……四人でも厳しいと思うぞ」
依頼そのものは三か月前から出されていた。
当初は四百キロの採掘依頼。
常連冒険者たちが挑戦したが、断念する者が続出。
今まで、集められたのは三百キロ。
残りは百キロ。
しかも、一度に持ち帰れた量は五十キロが限界だった。
「ところで……」
ルティーナが尋ねる。
「その『オブシディアン・ストーン』って何なんですか?」
「ん?」
タリスは少し嬉しそうな顔になった。
鍛冶師として語れる話題だからだ。
「原石のままだと火に弱い」
「だが加工すると別物になる」
タリスは胸を張る。
「俺ら鍛冶屋の技術があれば、高強度で火にも雷にも強くできる」
「防具にも武器にも最高級品だ」
「へぇ~」
(……使えるな)
馬琴はその話を聞いた瞬間にひらめく。
(何が?)
「なぁタリスさん」
「ん?」
サーミャは提案する。
「もしさ、百キロ以上採取して持って帰って来たらどうなるんだ?」
「報酬は同じなのかい?」
タリスは吹き出した。
「百キロ以上だぁ?」
「あははは、それ相応の倍の料金を払ってやるさ」
「ほ、本当ですか?」
ロザリナの目が輝く。
「ああ」
タリスはもちろん冗談半分だった。
後で、後悔することも知らずに――。
商談は成立し、ルティーナはサーミャたちを先に帰らせた。
――そして一人だけ店に残る。
「どうした?」
「武器を作ってほしいんです」
「武器? また何か新しいものか?」
ルティーナは紙を用意してもらい、馬琴がイメージするあるものを描いた。
「なんだこりゃ?」
「(それは私の台詞よ)」
絵を見たタリスは眉をひそめた。
それは、見たことのない構造だった。
「こ、こんな感じでお願いします」
「これって……武器なのか?」
「……たぶん」
タリスは頭を抱えた。
それでも説明を聞くうちに少しずつ理解する。
細い金属線を撒きつけた特殊な構造。
そして内部にはオブシディアン・ストーンで作られた板。
「……」
「できます?」
「誰だと思ってんだ?」
職人としての意地だった。
「四日くれ……案件の取引の日でどうだ?」
「ありがとうございます!」
その後ルティーナは宿に戻る前に、ギルドへ案件受注の説明へ向かうのであった。
――そして翌朝。
まだ空が明るくなる前に、ルティーナ達は四人で移動を開始した。
シャルレシカに索敵を任せながら、飛翔で空を飛びながら移動する。
しかし、目的地はイルフェ鉱山ではなかった。
「そろそろフォレスト高原の辺りね」
「ルナぁ~」
「二キロ圏内にはぁ誰もいませんよぉ」
「ありがと、そろそろ着陸するわ」
それでも警戒は解かない。
今回の目的は依頼だけではない。
本命は実家だった。
そして――。
ようやく見えてきた。
懐かしい家。
半年ぶりの我が家。
胸の奥が少しだけ熱くなる。
「……」
シャルレシカの索敵によれば、家の中には誰も居ないという。
それを聞いたルティーナは三人を警戒の為、外で待機してもらうことにした。
――扉を開く。
目に飛び込んでくる感動。
家族で囲んだ食卓も。
家具も。
自分の部屋も。
すべてが、あの日のままだった。
だからこそ余計に胸が締め付けられる。
けれど今は立ち止まっている場合ではない。
「……そのままでよかった」
(いや、まだ分からん)
馬琴は慎重だった。
(……監視が目的なら家を荒らす必要はない)
「確かに……」
ルティーナはしばらく家中を見回す。
違和感はない。
はずだった――。
ある場所を見た瞬間、ルティーナの足が止まった。
「……あれ?」
(どうした?)
「服」
(服?)
「順番が違うの」
馬琴も思い出す。
ルティーナはいつもお気に入り順に服を並べていた。
――その順番が違う。
「つまり――」
(誰かが侵入している)
部屋は荒らされていない。
だが確かに誰かが触れている。
しかも、元に戻そうとしていた。
その事実が逆に不気味だった。
ルティーナの背筋に冷たいものが走る。
「何を探してたの?」
(あるいは――もう見つけた後か)
答えは分からない。
だが一つだけ確かなことがある。
荒らしたなら元に戻す必要はない。
つまり目的は盗みではない。
(――バルスト一家を事故死に見せかけるためか)
もし狙いがバルスト一家なら――。
真っ先に狙われるのは父の愛剣と『ヒーリング・ストーン』だ。
ルティーナは慌てて確認する。
……どちらも無事だった。
「……よかったぁ」
(目的はそれではないということか……)
(とりあえず、シャルを呼ぼう)
馬琴は即座に判断した。
(家の中を過去視してもらうんだ!)
ルティーナは外で待機していた三人へ合図を送り、実家で合流することにした。
「お待たせ~。遅くなっちゃってごめんね」
「あぁ、外は問題なさそうだぜ」
「本当にここは人里はなれた一軒家なんだな」
「ルナが重体で、大自然の中で療養させようとしたバルストさんのやさしさが解る気がしますね」
外の安全を確認したルティーナは、皆を招き入れシャルレシカに部屋をあらかた見てもらうことにした。
「シャル、何かみつけたら教えてね」
「はぁーい」
馬琴は少し不自然さを感じながらも、ひとまず数日間はここを拠点にすることを提案する。
「それじゃ、この『ヒーリング・ストーン』はミヤが使って」
「これで、石が二つか」
その後、ロザリナは野営用に買い込んでいた食材を取り出し、夕食の準備を始める。
久しぶりに設備の整った台所を使えることもあり、どこか楽しそうだった。
ルティーナ達はまだ知らない。
この家に残された違和感の正体を――。




