第116話 「アンナ」ノ記憶 ~後編~
最初はアンナの記憶から「水晶」の正体を暴こうとしていた。
しかし偶然、バルストから前日の出来事を聞いた時、馬琴はノキア王への疑いが形になりつつあった。
「(そういえば、ドグルスがお父さんを殺そうとしたのは、ノキア王の指示の可能性があるのよね?)」
(あぁ、話しからすると……バルストさんは爆破事件の目撃者の一人……何か関連があるのかも?)
ルティーナの頭の中にヘギンズの言葉がよみがえる。
「あの実力は俺が一番知ってる」
「だが、あんな森の護衛で死ぬなんて……今でも納得できねぇ」
ルティーナは小さく息を呑む。
(武闘大会の後の食事会……ノキア王はルナの事にかなり食い付いてたしな?)
「(うん、不自然だったよね)」
馬琴は一つの仮説にたどり着く。
(ノキア王は重体だったって話……もしかしたら、『水晶の破片』に触った可能性があるかも?)
「(私と同じ?)」
馬琴は答えた。
ルティーナの中には自分がいる。
そして、エリアルの魔剣には誉美が宿っている可能性が高い。
そう考えると、自分たち以外にも同じ現象が起きていても不思議ではない。
「(つまり?)」
ルティーナは息をのむ。
(俺たち以外にも、この世界へ呼ばれた人間がいる――そいつは……ノキア王の中にいる)
そう考えると辻褄は合う。
「(王様の中にいる人も、私の中に誰かいるって気付いたってこと?)」
(俺がエルの剣を見た時みたいに、『能力』を見れば気付いてもおかしくない)
だが――。
ルティーナには引っ掛かるものがあった。
ノキア王から感じたものは、単なる興味や好奇心ではない。
もっと異質な何か。
言葉では説明できない違和感だった。
「――ルナ?」
アンナの声に、ルティーナは我に返る。
「ルナったら、大丈夫?」
「急に黙り込んで、口を空けちゃって……疲れて眠くなっちゃったの?」
「(しまった……)」
サーミャが心配する
「(ルナ、またマコマコと……なんかあったのか?)」
「(んん、ごめん)」
「もう一つ聞きたいことがあるんだけど……」
ルティーナは慌てて顔を上げる。
「お母さん、『ヒーリング・ストーン』ってどこで手に入れたの?」
「えっ?」
アンナは目を丸くした。
「もしかして無くしちゃったの!?」
「違う違う! ほら、持ってるから」
慌てて否定するルティーナ。
「ミヤの転移魔法には光魔法の補助が必要なの」
アンナはルティーナが何を言っているのか分からなかった。
「て、転移魔法?」
「何よそれ……聞いたことがないわよ」
アンナは驚きを隠せない。
ルティーナは簡単に用途を説明した。
「そうだったのね、あの石って回復以外にも使い道があったなんて」
するとバルストが懐かしそうに口を開いた。
「あれはな、昔ガレイド王国の『フォルブレア火山』で任務をしていた時に、俺が拾った石なんだ」
「ただの綺麗な石だと思っていたんだが、後でオリハーデに鑑定してもらったら『ヒーリング・ストーン』って判明してな」
「(じぃじも知り合いだったんだね)」
「その話が広まった途端、冒険者どもがこぞって火山へ向かったんだが……」
そこでバルストは苦笑する。
「その日を境に運悪く大噴火が起きたんだ」
「地形まで変わっちまってな。街道は封鎖されたままだ」
その話を聞いたルティーナは状況を察した。
「もう十年近く近付けんし、まだ石があるかもしれないがマグマの下だろうな」
「えぇ~……」
シャルレシカが露骨に肩を落とす。
「それじゃあ、もう手に入らないんですかぁ~?」
しかし、アンナは思い出したように言う。
「そうでもないわよ」
「もう一つあるにはあるんだけど――」
「けど!?」
ルティーナが勢いよく身を乗り出す。
「問題があるのよ」
アンナは少し困ったような表情を浮かべた。
「事件が起きる前まで住んでた、フォレスト高原の家よ」
「私の部屋の宝石箱にもう1つあるわ」
しかし、ルティーナの視線は曇る。
「お父さんが暗殺されかけた……なら」
バルストも頷いた。
「あの家に近付くのは危険かもしれないな」
「そもそも家が残ってるかすら怪しい」
サーミャは腕を組みながら想像する。
「それより、一家全員死んだって噂になってるわけだし」
「誰かが勝手に住み着いてるかもよ」
「私の家かぁ……」
ルティーナはぽつりと呟いた。
ほとんど昏睡だった。
実際、実感したのは半年間。
長いようで短い時間だった。
(ミヤの言ったことはあり得るかもしれないが、監視はもうされて無いと思う)
馬琴が言う。
(向こうは暗殺に成功したと思ってるはずだからな)
「(そっか……見張る意味がないのね)」
「(じゃぁ、家の中が荒らされてるかもね)」
(いや、それは絶対ない)
馬琴は断言する。
それではバルストを討伐事故にみせかけた暗殺にはならない。
家が物色された痕跡がでれば事件として見られてしまうからだ。
ルティーナは静かに頷いた。
「それでも行く価値はあると思う」
「ヒーリング・ストーンが残っているかもしれないし」
「もし誰かが住んでいたとしても、まずは確かめたい」
「あそこは私の家だから」
『ヒーリング・ストーン』が二つになるだけで、大きく違う。
サーミャの転移魔法の価値を考えれば尚更だ。
片道切符でなく、往復できる。
そうすればロザリナの立場も同伴義務から起終点に変わる。
「だから、行ってくる」
その決意に迷いは無かった。
「そうか」
バルストはルティーナの表情を見て、それ以上止めようとはしなかった。
「なら、ついでに頼みがある」
「ん?」
「俺の部屋に討伐で使っていた大剣が置いてある」
「持ってきてくれないか?」
「あの剣? そっか、ドリネさんの護衛の時は持って行かなくて後悔してたもんね」
バルストは苦笑した。
「難しい任務じゃないと思って置いていくんじゃなかった」
「愛剣だからな……」
「なるほどね」
ルティーナも納得する。
「ルティーナなら小さくできるだろ?」
「簡単に運べるだろ」
「さすがお父さん、もう、私の力の事に慣れたのね」
ルティーナは笑った。
そして思い出したように続ける。
「でも、私もお父さんにお願いがあるの」
バルストは首を傾げる。
「ん? なんだ」
「お前の言う事ならなんでも聞くぞ」
「ミヤ」
ルティーナはサーミャへ顔を向けた。
「明日、合流予定だったよね?」
「リーナ達と合流したら、エルだけ連れて来てくれない?」
「エルを?」
「うん」
ルティーナは頷く。
「お父さんに剣を見てもらいたいのよ」
「エルはね、師匠はいるみたいだけど、ほとんど独学なのよ」
「剣の『能力』に頼る部分も大きいし、戦術とか教えてもらえたらもっと強くなると思うんだ」
バルストは思わず苦笑した。
本当なら、自分が剣を教えたかったのは目の前の娘だったからだ。
だが、ルティーナの頼みを断れるはずもない。
「わかった!」
「任せろ」
「ありがとう! お父さん」
ルティーナは嬉しそうに抱きついた。
その後、馬琴が考えた今後の行動方針を全員へ説明する。
今日はアジャンレ村で宿泊。
明日、サーミャはロザリナ達と合流し、エリアルを連れてくる。
その日はエリアルだけをアジャンレ村へ残し、三人は再びロザリナ達と合流。
その後はギルドでフォレスト高原があるトレンシリア王国周辺で依頼を探し、それを装いルティーナの実家と事故現場を調査する。
そして任務終了後、ジェイストへ向かい、杖の秘密を握る老婆を探す。
全員が計画を共有し終えた頃には、すっかり夜も更けていた。
「それじゃ、シャルちゃんとサーミャさん、風呂をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「(ミヤと一緒ですかぁ?)」
「(しっ、シャル! 今日はルナの家族団らんの日だろ? 気を使えよ)」
サーミャとシャルレシカは客間を後にする。
残されたルティーナは、久しぶりに両親と過ごす穏やかな時間を満喫していた。
冒険者としてではなく。
一人の娘として。
その夜だけは、思う存分甘えることにした。
そして――夜は静かに更けていくのであった。




